LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/9/25  新宿 Pit-inn

    〜Tokyo Rotation〜
出演:Zorn+モリ+巻上
 (John Zorn:as、イクエモリ:Laptop、巻上公一:voice,theremin)

 ジョン・ゾーンとビル・ラズウェルが来日、新宿ピットイン5daysの4夜目。おおむね日本のミュージシャンとセッションする趣向だ。
 1セット入れ替えで行われ、1stのみを聴いた。

 さしずめ今夜は日本版Hemophiliacか。
 イクエモリに加え、マイク・パットンの変わりに巻上をブッキングしたイメージ。
 巻上はジョン・ゾーンと親交深く、コラボレーションに不安はないだろう。

 客席はきれいに埋まり、立ち見が出る盛況。ビル・ラズウェルの姿も見えた。もっとも5daysの中では、今日の動員は少なめとか。
 逆にぼくは顔ぶれから予想される完全即興のメニューで、満席に持ち込む知名度に感嘆した。

 舞台は簡素なもの。巻上の立ち位置である中央にテルミンが置かれ、マイクスタンドが一本。飾りっけ何も無し。
 横の机にいくつかエフェクターを載せ、足元のペダルで操作する。どうやらテルミンの音加工に使ってた様子。

 巻上のボーカルは加工してないと思うが・・・。
 前の席に座りPAの音は聴こえず、よくわからない。生音とモニターでライブを体験してたから。

 上手にイクエモリ。パワーマックの横にスイッチらしき物を繋ぐ。
 ジョン・ゾーンは、向かって左手。アルト・サックス用のマイク一本だけあった。

 開演時間をちょっと押し、3人が舞台へ。
 ゾーンを生で見たのは、98年か99年のMasadaぶり。長髪にルーズな格好で太った体型を強調し、ガックリきたっけ。
 今回は短髪ですこしは引き締まった印象。お腹はやっぱり時の流れを感じさせたが。

 いったんマイクの前へ立った後、ゾーンは横のピアノ用椅子をずるずる引っ張り出した。自分の隣に置く。
 おもむろに左足をでんっと載せる。ほぼ全曲、この状態で演奏してた。
 
 ライブはすべて即興。どれも5〜10分程度。長丁場バトルしないのが、日本と大きく違う。
 ここらへんはゾーンのバランス感覚か。

(1)まずは3人で即興へ突入。
  
 合図やアイ・コンタクトなし。ひたすら自分の世界へ没入した。
 しかし互いの音は聴いてるようす。
 ゾーンと巻上が見事に波長を合わせ、高速インプロから突如ペースダウンする瞬間がかっこよかった。

 イクエモリは腰掛けて、無表情にラップトップへ向かう。
 足や身体でリズムを取る姿がライブの途中でたまに見られた。でも基本は微動だにせず画面を眺める。
 音量やバランスもパワーマックで操作した。

 スペイシーな電子音からハーシュ・ノイズまで多彩に音をばら撒くが、どう操作してたのか。
 リアルタイムでラップトップの画面を、しみじみ見てみたかった。プロジェクターで背後の壁に映し出して欲しいな。

 左手のスイッチやキーボード操作で音をアサインし、タッチパッドで波形編集かな?
 音を聴きながら彼女の手元を眺めても、いまひとつ演奏方法を推測できずじまい。

 ゾーンは椅子に乗せた左足へサックスのベルを押し付ける、ミュート奏法からスタート。
 循環呼吸も積極的に取り入れ、断続的なフラジオをばらまく。
 後述するが、特殊奏法満載の演奏だった。

 前半2曲で音を引っ張ったのは巻上だろう。
 (1)で巻上はヴォイスだけで二人と渡り合った。
 照明が薄暗く表情が見えづらいものの、演劇的に表情を変え多彩な声色でノイズっぽく叩き込む。
 ほかの二人のランダムな演奏を逆手に取り、次々にヴォイスで場面を切り替えた。

(2)3人で演奏。

 MCは特に無し。拍手が鳴る中、ぽちっと巻上がテルミンへ火を入れた。 
 基本構造は(1)と同じ。ただしカンフー風アクションを巻上が加え、絵面はさらに見応え膨らむ。
 右手後方にテルミンを配置。巻上が右腕を裏拳っぽい動きで、鋭く幾度も後ろへ振った。
 
 やはりノービート。ジョン・ゾーンがメロディをほとんど吹かないため、巻上の構築性が聴いてて嬉しい。
 この時点では、ゾーンのコーディネイターぶりは評価できるものの、プレイヤーとしていいとこを見つけられず。
 CDでよく聴ける、高速フラジオの垂れ流しに見えてさ。

 ただしゾーンの変則的な吹き方は、見てて面白かった。
 マウスピースの咥え方がまず独特。下唇を歯の上に乗せない。しゃぶるようにサックスを吹く。
 高速タンギングは舌を目に見えるほど突き出し、激しくリードへ叩きつけていた。
 
 マウスピースを浅咥えしてのタンギングも披露。
 CDでは想像付かなかった奏法を、目の前で見られたのは収穫だった。

 だけど正直、巻上のソロかイクエのデュオで見たいなあ、とわがままなことを考えてた。この時点では。
 しかし(7)でゾーンの怪物ぶりに、打ちのめされることになる。 

(3)音楽的に充実した即興。

 最初のクライマックス。音が絡みつつも不安定さを残す3人は、このあたりから音が収斂してきた。
 冒頭のきっかけは覚えていない。イクエモリのソロからだっけ?

 とにかくゾーンの循環呼吸に圧倒された。
 4拍子をかすかに感じさせるフレーズを、延々と繰り返す。
 フラジオをとりまぜ、ミニマルに吹きまくる。

 顔色をまったく変えず、平然と5分くらい循環呼吸を続ける体力にぶっ飛んだ。
 曲が終わったあとアルトを傾けてたが、唾がこぼれる様子もない。どういう唇をしてるんだ。かなり吹き方がコントロールされてるのか。
 ゾーンのサックスって、予想以上に上手かった。 

 巻上はお経っぽい声で、低く強く畳み込む。
 イクエはどういう音を出してたか、あまり覚えていない。
 サックスのオスティナートが下地を作り、巻上の声が呪術性を増す。すばらしく迫力ある、暗黒サウンドだった。

 執拗に同じ音像が提示された。
 黙々と画面を睨むイクエモリ。ゾーンは淡々と音塊を繰り返す。
 巻上はテルミンに片手を乗せ、低く声を絞り続ける。

 ひらり、ひらり。
 巻上のシャツのすそが、風ではためいた。
 
 クーラーの風でも、あたってたのか。
 偶然の光景が音にぴたりとはまり、強く印象に残ってる。

 後半でさすがにゾーンはフレーズっぽい音も出した。
 ソロというほどじゃない。連なりを閃かす程度。

 今夜のライブは音だけ聴いても、魅力が伝わりづらいと思う。
 しかし(3)の即興は、充分に音楽的にも楽しめる瞬間だった。

(4)よく覚えてない。三人で即興。

 イクエモリがソロでイントロを取ったのは、この曲だったかも。すみません、記憶があやふやです。
 スペイシーな即興をラップトップで行うあいだ、ふたりはステージ下手に座り、静か聴いていた。

 途中から二人も演奏に参加。巻上はテルミンも使用する。
 どうやら偶数曲で、テルミンも組み合わせる構成みたい。
 ここじゃなかったかもしれないが。巻上が腕をくるくる激しく廻し、テルミンを弾く奏法も面白かったな。

(5)巻上ソロ

 ゾーンがイクエに手で合図し、二人は休む。
 ゾーンはヘンテコな胡坐をかいて、リードを交換してた。
 ワン・ステージ半分でリードがへたるんかい。あれだけ激しくタンギングしてたら無理ないのかも。

 巻上は口琴でソロを取った。牧歌性は皆無。
 だんだんスピードが速くなり、即興っぽさが増す。
 頬を押さえミュートみたいな奏法も、取り入れてるように見えた。

 口琴と同時に声を出し始める。
 ゾーンは入念にリードを装着していたが、この瞬間に顔を上げた。
 にやりと笑い、巻上の演奏を眺めていた。

 ヴォイスと口琴が絡まる荒業に引き込まる。
 わずか5分程度だったが、もっと聴きたかった。

(6)イクエとゾーンのデュオ。

 ゾーンがイクエを指し、二人だけで演奏する。
 たしか強烈なフラジオをゾーンが聴かせた。

 ハイトーンで吹き鳴らしつつ、同時に低音を一音づつ搾り出す。
 低音は音階をゆっくりなぞる。何で二つの音を、同時に出せるんだ。驚き。
 低く登る音は、ひしゃげてかなりピッチが怪しい。
 ・・・だからこそ、凄みがあった。

(7)ゾーンの特殊奏法が炸裂。

 ここでゾーンがさまざまな奏法を、片端から披露した。
 
 しょっぱなはマウスピースを取り、ネックに唇を押し付け、アルトをぶーぶー吹く。
 さすがに音程まで取りづらいが、迫力ある息吹にたまげた。
 たしかここでも循環呼吸してなかったっけ?

 いままでライブで、いろんなサックス奏者の循環呼吸を見た。
 しかしゾーンほど平然と長時間、循環を続ける光景は見たことない。よっぽど肺活量あるのか。
 
 マウスピースのみの演奏も。それだけでフラジオ風にハイピッチを引き出すさまに驚嘆した。
 唇でコントロールしてるってことだよなあ。サックスの特殊奏法って、そんな奥が深かったんだ。

 圧巻は水の入ったコップへマウスピースを突っ込み、ソロを取る。
 音程がどのくらいあったか覚えてない。
 だけど聴こえる音はとびっきり刺激的で惹かれた。

 プロのサックス奏者から見たら、別の感想があるだろう。
 けれど短時間にさまざまな技をまとめて見て、圧倒されてしまった。

 この曲だけは巻上もイクエも残念ながら印象ない。
 とにかくゾーンの多彩な技を、ずっと見つめてた。

(8)最後は「短く」、三人で。

 ゾーンの唇の動き見てたら、日本語で二人に伝えてるようす。
 かなりハイテンションだったはず。
 巻上もじっくりテルミンを操作してた気がする。

 またもやゾーンは左足にサックスのベルを押し付けるミュート奏法も使用。
 メロディは無く、断片的に吹いていた。

 セットを締めるにふさわしい、集中した演奏だった。
 
(9)アンコール。

 盛大な拍手が飛ぶ。一呼吸置いて、アンコールへ応えてくれた。
 この演奏が、メインセットとまったく違う音楽性だ。
 さしずめBar Kokhbaか。

 うってかわってゾーンが、メロディの断片を積極的に吹く。
 クレツマー風の旋律が現れては消える。ほんのりマサダっぽい。
 巻上やイクエを制し、ゾーンが音世界を作ってた。

 (3)と同様、あとで音だけ聴いても楽しめる音楽だった。
 こういうアプローチあるなら、もっと前面に出して欲しかったぞ。
 もしかしたら2ndセットは、本アプローチで押したんだろうか。

 アンコールを含め、約1時間のステージ。
 混沌なNY風即興って先入観から、さほどズレないライブだった。だからこそアンコールでのアプローチに期待が残る。
 2ndセットは1stの順列組み合わせと思って、聴かなかったけど・・・。

 いずれにせよ今夜はパフォーマンスが主体。音だけでなく演奏を見てこそ、魅力が伝わるライブだった。
 ただし相乗効果のセッションって観点では、ちと物足りない。
 
 とにかくHemophiliacのCDをじっくり聴きたくなったよ。
 ゾーンの即興ぶりをまじまじと見ることで、いろいろ知識が吸収できた夜だった。

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