LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
04/8/8 西荻窪 音や金時
〜88の夜・・・ウラ的ややっ的対話〜
出演:太田+Mama Kin
(太田恵資:vln,etc、Mama Kin:俳句)
共演相手は音や金時のママ。どういうステージか想像しづらい。
でもたぶん、音を出すのは太田恵資だけだろう。ソロを聴ける貴重な機会だ、と大風邪を押してふらふら出かけた。
結論は、充実さで張り詰めたステージだった。
太田はこの店で月に1回「ややっの夜」と銘打ち、ゲストを招いてトークも織り交ぜたライブをやっている。
副題からいって、今夜もくつろいだ「音金と太田恵資」みたいな対談になると思ってた。
ところが・・・。
店内へ入ると、椅子の並びがこれまでと違う。
しばらく音金にご無沙汰してたので、今夜のために変更したのかよくわからない。
ステージの後ろへ模造紙を貼り付け、客席右手の壁にもずらっと白い紙で覆われる。
ここにママが文字を書きながら、太田が演奏するって格好か。
幕が開いたのは20時をまわった頃。
静寂。太田とママが舞台へ。丸テーブルを挟み、椅子に腰掛ける。
黙りこくったまま。
テーブルの上には、二つのグラスワイン。
手にした小さなラジカセを、太田がいじる。
ハムノイズに混じって、歌謡曲が聴こえてきた。カセットで準備してたのかも。
ハムノイズでときおり音が揺れる歌謡曲(ごめん、曲名不明です)を、ワン・コーラスまるまる流す。
太田もママも一言も口をきかない。ステージは薄暗いまま。
ふっと、ステージ背後へスライドが投射された。
街角の風景。素人の手による絵。飲み屋の入り口。新宿のゴールデン街っぽい雰囲気で「ドグラマグラ」と書かれた行灯が写った。
曲が終わったあたりで、太田がラジカセをステージ隅へ置く。ハムノイズは出したまま。
おもむろにアコースティック・バイオリンを構えた。
ゆったりとしたクラシック風のメロディが紡がれる。
かぼそいハムノイズが、バイオリンへ寂しさを足した。
ママは立ち上がり、客席右の壁へ向かった。
太田はたぶん即興で、穏やかに旋律を奏でる。
筆を手にしたママは壁に貼られた紙へ、墨痕黒々「八月」と書いた。
壁一面の模造紙を、時に右に左に、行き来しながら文字を刻んでいく。
ふわっと墨の香りが漂った。
「墨の香りは心が洗われますね」
ぼそっとつぶやく太田。
バイオリンを奏でながらステージを降りる。ほんのり抽象的なフレーズを弾き連れて。
全部で4〜5種類、書かれた幻想的な俳句を眺めながら演奏をやめない。
すでにハムノイズは止められていたはず。
つとステージへ戻り、バイオリンを置いた。今度持ち出したのは、リード付の木笛。こないだin-Fで吹いてたやつだ。
メロディよりもドローンっぽいフレーズを多用。
サイケなロングトーンをじわりと搾り出した。
またもや太田は楽器を変えた。こんどはハンド・バーカッション。
客席の後ろへ立って連ねられた俳句を眺め、ひとつひとつ音で表現していく。
大きな文字で「炎帝」と書かれた俳句。
まず両手で激しく連打。
本当はこの俳句群をメモってくるべきだったかも。かなりヘロヘロでそこまで元気ありませんでした。すみません。
歩を進めた太田はハンドパーカッションを使い、さまざまな音楽を提示した。
あるときはハンドパーカッションに向かって、ロングトーンのホーメイ。アラブ風に歌う。
時には壁へへばりつき、声を小さく絞り出す。
つと立ち止まり、歯笛で息をかすかに鳴らす。
さながら太田による「展覧会の絵」。
ひととおり鑑賞が終わったところで、二人はステージへ無言のまま戻る。椅子へ腰掛けた。
「聴こえますか?」
ママへ尋ねる太田。ママは応えない。
「聴こえますか・・・?まだ、聴こえますか?」
繰り返し、繰り返し。太田が尋ねる。無表情のママが、ふと反応。
・・・それが幕を下ろす合図だった。
一礼して休憩へ。わずか30分程度。緊迫したパフォーマンスだった。
直後に流れたBGMもクラシック風。ライブの余韻を残す好選曲だ。
後半は一転してエレクトリック・セッションへ。
70年代ポップス(だよなあ?曲名思い出せず。有名な曲なのに)が大きい音で流れた。
音金ママは日傘を持って、床を這いずる。
太田はビニール袋へ厳重に包まれた、エレクトリック・バイオリンを取り出すパフォーマンス。
かなり苦労してるが、破り捨てない。丁寧に結び目を解き、ヒモをほどいてゆく。
背後の壁にはまた各種スライドが断続的に映される。猫の写真、絵を映した写真。
さらに太田がラッパ・バイオリンを夜の中で弾く姿や、タバコを吸ってくつろぐ数枚の写真が挿入された。時にカットアップする。
ビニール袋を解き終わった頃合で、ママはステージ袖へ下がる。
シールドを繋いだ太田はディストーションをたんまり、エレクトリックバイオリンでぶちまけた。
でかい音で。
さながらエレキギター。一声、太田が雄たけびを上げる。
背後のスライドには中学生くらいの少年が映された。あれ、太田の子供時代の写真かな?
サイケに炸裂したバイオリンは、ゆっくりとメロディを提示した。
"Star Spangled
Banner"。ジミヘンへのオマージュか。
太田がこの曲やるなんて。すごく新鮮で、背中がぞくっときた。
音は歪みまくってるが、およそ暴力的なところはない。
ステージ隅に立ち、エレクトリック・バイオリンを弾く太田は、足でエフェクターを切り落とした。
たしかここでリズムボックスを挿入したはず。
明確なエイト・ビートが重ねられ、奔放にバイオリンがメロディを乗っける。
音金のママは、ときおり立ち上がる。ステージ背後の紙へ、文字を載せる。
まだまだ太田のソロは終わらない。
リズムボックスを極小のボリュームにし、今度はクラシカルにエレクトリック・バイオリンで一人多重アンサンブルを提示した。
美しく短いフレーズがループされ、みるみる積みあがる。
これが素晴らしかった。ぼくの好みだと、今夜のベストはこの瞬間。
次に太田が提示したリズムはタブラの音がアクセントの、アラブ・ビート。
最初はエレクトリックで弾いて・・・アコースティックに持ち替えたのはここでだっけ?
いまひとつ記憶が定かじゃない。
ステージ後ろへ青空や室内の写真が映される。
下部に墨で書かれた文字が連なり、上部は写真。仮想の絵葉書を見てるよう。
いずれにせよ。後半セットで太田は再びアコースティック・バイオリンを手に取った。
前半のように俳句を一つ一つ鑑賞せず、ひとまとめに太田は音楽で包み込む。
アラブ風ハナモゲラでの、歌もたっぷり披露。
バイオリンのフレーズとユニゾンで歌ってた姿も覚えてる。
いつしかフレーズは、再びクラシックっぽい風景へ。
わずかにミニマルな要素を残しつつ、太田はふくよかな旋律と戯れた。
そして、幕。アンコールはなし。
前半は30分、後半は40分と、かなり短めのステージ。
しかし喋りを全て排除し、演奏に集中したため物足りなさはない。
いや、そりゃね。もっと聴きたいよ。ずっと聴いていたかった。
太田のソロの音世界は、こうなるんだ。
すさまじくカラフルで、とびっきりシンプル。暖かく客席を包み込み、淡々と音が繋がる。
相反した要素がごく自然に混ざり合う演奏だった。
たまたま今夜は演奏途中に客が入ってこない。
だから空気がまったく弛緩しない。なんだか秘密の会合を覗き見た気分。
太田は自分の多彩な引き出しを片端から開けてみせる。
あからさまに前面へ出さなかったのは、ストレートなジャズくらいか。
もっと長丁場で聴いてみたい。たとえば灰野敬二みたいに、三時間半ぶっ通しとか。
こんどは体調を整えて聴こうっと。
もっとも太田はめったにソロをやらないから、果たして「次」はいつになるやら。