LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
04/1/12 西荻窪 アケタの店
出演:板橋文夫ソロ
(板橋文夫:p、ピアニカ、per)
すげえ。
ひさびさに圧倒されたライブだった。
つかつかつかっとステージへ向かい、ピアノの前へどさっと座る。
「あけまえしておめでとう!アケタの夜っ!」
言い放って、いきなり演奏が始まった。観客は満員。補助席も出たはず。
板橋文夫のピアノは2002年末の新ピで聴いた。あれはオールナイトライブにて。そういやあの時も、圧倒されたっけ。
タイミングが合わなくて、なかなか彼のライブへ行けなかった。
そして今夜、ピアノ・ソロ。連休連荘ライブの締めくくり、と楽しみにしてた。実際は、風邪で半分朦朧としてたんだが・・・。
最初の曲はどうやらインプロらしい。
左手で鍵盤を殴り弾き。右手はスティックでカンカンってピアノのボディを叩く。
金属の太鼓みたいなのをピアノの上へ置き、合間に叩いてた。
ひとしきりピアノを弾くと、今度はピアニカへ指を伸ばす。
力強くピアニカを鳴らし、またピアノへ。とにかくパワフル。
ピアニカの吹き口をくわえたまま、鍵盤を弾きまくった。
力あまって、ピアノがぎしぎし揺れてるよ。
おまけに足踏みも。床が鳴るほど力いっぱい蹴り落とす。
演奏はとにかくグルーヴィ。1曲目ではペダルをほとんど使わず、連打で音を膨らませる。
アフリカっぽいリズムでフリーに音がはじけた。
この調子でいきなり20分間ぶっ続け。すでに額に汗がにじんでる。
2曲め以降は、たぶん曲をやっていた。MCマイクがあったのに、まったく使わない。
無言で次々演奏を続ける。なんちゅうか・・・すごい迫力だ。
ビートの裏がすさまじい2曲目は、モンクっぽいメロディ。なんとなく聴き覚えある。。
ぐいぐい煽るリズムが気持ちいい。
一転、ヨーロッパ風の優しい旋律の曲へ。だけど途中で、興がのるとフリーへ一気に傾く。
横にあった小さなシンバルを、グランドピアノの中へ放り投げた。
鍵盤と同期して、シンバルは鳴る。当然だ。
だけど猛烈な勢いでピアノを弾くもんだから、シンバルは常にがしゃがしゃ鳴った。
まるでリズム隊が別にいるみたい。二重奏状態で面白かった。
激しいボディアクションで、めがねが今にもずり落ちそう。
最初こそ合間に押し上げてたが、とうとうほおり投げたのはこの辺だったかな。
そう、音だけじゃない。動きもすごい。
不意に立ち上がり、鍵盤を叩きながら状態をぐいんぐいん揺らす。
ピアノを覗き込むように上体がのめりこんだ。
いくぶん短め(といっても、それぞれ10分以上弾いている)の曲が続いた後で、1stセット最後の曲。
これがすごいんだ。25分くらい弾きまくってたんじゃないか。
コーダのそぶりを見せて、なかなか終わらない。ワイルドに曲が展開した。
だけど乱暴なだけじゃない。合間にはペダルを使って、暖かい旋律が顔を出す。多面性の魅力に満ちたピアノだった。
ソロだから自在に曲を展開できるんだろう。小節ごとのテンポはさほど変わらない。
むしろ場面転換っぽい。がらっとスローに、一転してアップにって感じ。
前半最後の曲はクラスターが飛び出すが、情熱的なメロディも共存する。ともすれば相反する要素が、平然と同居した。
冒頭にピアニカも吹いてたっけ。この曲もグルーヴがばつぐんだった。
奔放なピアノがすばらしい。
シンバルこそ途中で取り出したが、肘打ちも登場してピアノ演奏はますます激しくなる。
鈍く唸りながら、しゃにむに音と対峙した。
張り詰めた空気だが、聴いてる空気はどこかリラックス。音が親しみやすいんだ。
ラストは力任せのグリサンド2連発で駆け抜けた。
「ちょっと休憩します」
息も絶え絶えにステージを降りる。一時間があっというまだった。
2ndステージは21時45分頃かな。
「初雪を記念して・・・"Snow
day"という曲をやりますっ」
一言、挨拶。
最初こそ静かで、隙間の多い旋律だった。ピアニカとユニゾンでメロディを弾いたりも。
もっともいざアドリブでは、一気に音数多く激しくなる。
2曲目は「うそは罪」ってタイトルだそう。後半セットは合間にMCを挟んでた。
こっちはメロディがきれいな小品。テーマのとき、口笛で小さく旋律をなぞる。
最初の2曲も楽しめたが、本当の盛り上がりはここから。
まずうつむき加減で、イラク戦争反対の発言をひとくさり。
そして「悲しき権利(だっけな?)」とヴィクトル・ハラのカバー「平和に生きる権利」が演奏された。
前者はピアニカを織り交ぜた、きれいな曲だった。
ラストではピアニッシモに抑え、美しくフレーズを紡ぐ。
ドラマティックで心地よい構成だった。
そして「平和に生きる権利」。
スケール大きくテーマが繰り返され、テーマとアドリブが交錯する。
ホットにアドリブがかまされ、テーマが登場。だがそれもつかのま、さらに激烈なソロへ。
これが何度も繰りかえされた。
冒頭にも言ったとおり、どうも風邪気味で頭がぼおっとしてる。
ところがそれを吹き飛ばすほどの、圧巻が次の曲。
「渡良瀬」だった。
この曲を30分ぶっ続け。テンションは天井知らずに上がった。
足は床も割れよと踏み続け、クラスターが幾度も炸裂する。
そんな激しいアドリブも、テーマとまったく違和感なし。
たびたび登場するテーマのメロディは着地点を確認となり、またソロが舞い上がる。
ソロが続くにつれ、ピアノの響きに異音が混じった。
あまりに鍵盤を力任せに演奏しすぎ、ピアノ線が何本か切れてるんじゃないか。
ハードな奏法にピアノが軋み、グルーヴがはじけた。
ラストはグリサンドの嵐。いや、どこがラストか分かったもんじゃない。 連打で音世界が混沌とし、テーマの復帰で終わるかと思いきや。すぐさま次のアドリブへ風景が変わる。
シアトリカルなピアノは聴き応えたっぷりだった。
「渡良瀬」まで汗だくになって弾いてたのに、さらに熱っぽさが増したよう。
そしてエンディング。小さいグリサンドがいくつか繰り返された。
「終わりです」
拍手が鳴る中、ふたたびピアノの椅子へ腰を下ろす。
すぐさま弾き始めた。アンコールってことか。
アンコールは2曲くらい。最後にやった曲は、片山広明の「キャトル」で聴いたことある。
とびっきりロマンティックな旋律だ。
それでいて、力強さも同居する。ほんとすごい。
やはり後半も汗だく。ふらふらとステージを去った。
時間は23時をまわろうって頃。
合計で2時間半くらい演奏してたことになる。
濃密なフレーズとリズムに吹き飛ばされた、痛快な音楽だ。ぜひまた聴きたい。