LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/12/25   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、片山広明:ts、guest/田村夏樹:tp、北陽一郎:tp、井野信義:b、外山明:ds)

 緑化計画の月例ライブ、2003年最後はクリスマスに行われた。観客で椅子がほぼすべて埋まる盛況。
 「なのに今夜はメンバーが二人だけ。軒を貸して母屋を取られないようにしないと」
 と翠川敬基が笑いながら、冒頭に挨拶する。

 リズム隊の二人が欠席した今夜、ゲスト多数を迎え普段より複雑な編成。
 いつものとおり20時を10分ほど回ってライブが始まった。

 まずはチェロとベースの静かなデュオから。
 外山明はスティック押しつけたシンバルを回転させ、引っかきノイズを出した。
 ホーン隊が揃って、テーマを分厚く提示し驚いた。さすがに3管いると和音の響きが迫力あるなあ。

 ちなみにホーン隊はいつもどおり、すべて生音だった。
 ペットの二人はミュートを効果的に使いわけ、たまにベルの前で動かしつつ吹いて音を震わせていた。

 1曲目は聴き覚えなく、太いホーンの響きがよけい新鮮に聴こえた。
 テンポは速め。流麗な管たちが耳をわしづかみにする。
 普段よりきっちり構成されてるみたい。

 井野信義はベースを弾きながらつまみをいじる。ちょっと音色を変調させてたかも。
 ベースは音が埋もれ気味で聴こえづらい。だけど先月よりはバランスが向上してた。

 ベースのエフェクタは軽くリバーブをかけたくらい。もっと派手にフリーにやってほしかった。
 弓と指を使い分け、きちんとリズム確保役が多かった。
 なぜかというと、外山が思い切りフリーに叩いてたせいもある。"E-hen"でのリズムなんて、コンビネーションが面白かったな。
 
 チェロは先月よりも、ぐっと聴こえやすくて嬉しい。
 アンサンブルに埋もれず、ふくよかな太い音がくっきり鳴っていた。
 さすがにホーン隊が全開になると分かりにくいが・・・。
 ピチカートをあまり使用せず、ほとんどがアルコ。
 今夜もメロディアスなフレーズと、指板を激しく上下するフリーな演奏のバランスが抜群だ。

<セットリスト>*
1.Mother Vol
2.West Gate
3.アグリの風
 (休憩)
4.E-hen
5.Hyn2("ヒンデミットの「チェロ・ソナタ2楽章」より")
6.Seul-B
  *Fullerenさんにご教示頂きました。ありがとうございます。

 素直な話、最初は聴いてて戸惑った。あきらかに普段の緑化計画と違う。 そのうえゲストが北を除いて遠慮ぎみなため、セッションとも違う。
 なんとも冒頭はもどかしかった。

 たとえば一曲目。ドラムはほとんどプレイヤーをあおらない。静かにシンバルでランダムなリズムを刻む部分が多かった気がする。
 冒頭で片山広明のソロが始まっても、予想ほどグルーヴ大会にならなかった。
 一曲目といえば、テナー・ソロのオブリで北陽一郎が絡んでるとき。田村夏樹が吹かずに、じっと聴き入ってた姿が印象に残ってる。

 "West Gate"も、もどかしさは変わらなかった気がする。あまり細かい部分を覚えてない。
 ところが。"アグリの風"で、がぜん面白くなった。今夜1曲、選ぶならこれ。

 「クリスマスだし「アグリ」をやろう」
 「・・・全然関係ないじゃん」
 翠川と片山の、そんなやり取りがあったはず。
 この曲で外山の魅力が全開になった。
 レギュラーのトシも比較的パーカッシブな演奏。
 だが外山はさらにトリッキーなリズムが得意なため、こういう曲だと個性がもろに出る。

 "アグリの風"はテーマで3連打がリフだが、外山はあわす気がかけらもなさそう。独自のビートを絡ませた。
 イントロは翠川の独奏。片山の合図一発、ホーンが加わる。

 ソロ回しもばっちり。北から片山へ。じっくりソロを繋ぐ。ビートを刻むのはベースだった。
 ドラムがひっかかるリズムであおる。
 このあと、田村の力強いトランペット・ソロがすばらしい。まっすぐにフレーズが伸びた。

 ドラムとベースのコンビネーションもパワフル。
 井野は指板の上部分を親指ではじいたり、手のひらでひっぱたいたり。がぜんサウンドがワイルドに鳴る。
 乱打合戦から、最後はテーマの3連打で終わったんじゃなかったかな。ラストは外山もリフを合わせたはず。たしか。

 「カウントから行きます」
 後半は翠川の合図で"E-hen"が始まった。
 片山のソロでベースとドラムのトリオ態勢になったが、あまり外山が突っ込まない。残念。

 "E-hen"は4ビートの曲だが、外山が叩くとひねったビートになる。そこが楽しくてつい、にんまり。
 立ちあがってのドラミングもここで登場した。

 スティックを叩き落すような奏法だが、出音は優しい。
 手首を強烈にひねってシンバルを叩く。硬質で軽いシンバルの鳴りがきれいだった。
 リズムはベースがきっちり支え、小節の頭を明確にする。

 とにかくリズム隊が不思議なコンビネーションだった。
 互いがフリーに弾いてるはずだが、ときおりビシっとはまる瞬間あり。
 たしか後半の2曲目か3曲目。
 いきなりキメがぴたりと合い、おもわず片山が振り向いて微笑んでいた。
 
 ソロ回しが中心の"E-hen"に対し、"Hyn2"はアンサンブルを主眼に置いたプレイとなった。
 「緑化計画の基本は自分の曲ですが、ここでヒンデミットの曲を演奏します」
 翠川のきちんとした曲紹介がありがたい。
 メンバーへ譜面を配る。1ページの簡単なもので、ほとんどはフリーだったようす。

 後半になってゲストもぐいぐい前へ出てきた。
 北や田村も片山のソロに積極的に合わせ、同時並行ソロが頻繁に登場、刺激的な空間が広がった。
 複数の管が並存する混沌は、大勢の編成じゃなきゃできない。

 同時平行ソロでも、耳ざわりなところは皆無。
 全員フリーのはずだが、不思議と通低したうねりを感じた。
 2曲目はけっこう長く演奏してたと思う。
 
 そして"Seul-B"へ。拍手が鳴るなか、すぐさま翠川がメンバーへ振り返り、曲を指示する。
 あまり選曲に悩む様子を見せなかった。リハできっちり曲順決めたのかな。
 
 "Seul-B"ではチェロとベースの美しいデュオがイントロ。ふたりともアルコでそっとメロディを奏でる。
 ホーン隊が加わっても、しばらく外山は叩かない。腕組みしてじっと音を聴いていた。

 3管がてんでに吹き鳴らすアドリブでいっぱい盛り上がったあと、片山の一音で変化した。
 すっと3人のロングトーンへ。チェロによってテーマが奏でられる。

 軽く北を制する片山。
 テナーひとりだけが、テーマのメロディを吹いた。
 外山の断続的なスネア・ロールがかっこいい。

 すんなり終わらずチェロの無伴奏ソロへ変化、おもむろにエンディングを迎えたと思う。
 後半のほうが大勢のゲストを生かした、多彩なアンサンブルの場面が多かった。

 今夜の演奏はレギュラー4人の緑化計画とは、明らかに違うジャズだった。
 「アレンジ」を意識した場面が多い。
 いや、実際はどこまでアレンジされてたか知らないよ。
 だけど演奏の節々で、きっちり構成された音像が新鮮だった。この人数なら、ある程度メリハリが必要なのかな。
 
 逆に演奏のどれもが完全フリーなら、恐るべき構成力だ。
 いずれにせよ緑化計画の別働隊として、たまにはこういう編成を増やしたメンバーでも演奏して欲しい。

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