LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
03/12/12 新所沢 Brockheads
出演:鬼怒無月ギター・ソロ
(鬼怒無月:g)
「今夜は即興なんてものをやってみようと思います。まずは手鳴らしに・・・」
軽く挨拶をして、鬼怒無月はアコギを構える。無造作にA・C・ジョビンの"Stone
flower"を弾き始めた。
Brockheadsは新所沢にあるロック・バー。椅子席で20人くらい入るかな。
初めて行ったが、駅からちょっと歩く。たまたま今日は休暇を取ったからライブへ行けたが、ふだん仕事帰りなら開演に間に合わなそう。
店は入って奥がカウンター。8人くらい座れる。カウンターの奥にはボブ・マーリーの写真が貼ってあった。
来日公演すべてに通ったマスターが、自分で撮ったそう。
このお店のユニークなとこは、ライブが始まるとシャッターを下ろしてしまうとこ。
開演時間に遅刻するときは、店へ電話入れといたほうがよさそう。
常連らしき人は慣れた様子で、奥の入り口から入ってた。
鬼怒は入り口横のスペースに陣取る。テーブル席のすぐそば。
もともとライブを想定した店ではないようで、ステージ用スペースはごくわずか。
だのに過去にはwarehouseのライブをやったことあるそうだ。すごいな。
今夜はアコギとエレキを一本ずつ持ち込み、足元にはエフェクタをいろいろ並べた。
ぼくが座った席から足元は見えず、どういう操作をしてたかはわかんない。
ライブが始まるまで、鬼怒はのんびりタバコを吸ったり雑誌を読んだり。
BGMで流れるイギリスのサイケ・プログレ(?)が気に入ったらしく、マスターへ何のCDか熱心に聴いていた。
ちなみにそれが誰のCDについてか、よくわからず。マスターに伺っとけばよかった。
余談が長すぎ。ライブの感想を書きましょう。まずはセットリストから。
<セットリスト>
1.Stone flower
2.即興
3.Three Views of a
secret
(休憩)
4.There Is A
Mountain("霧のマウンテン")
5.即興~渡良瀬
6.Black
Orfeus("黒のオルフェ")
(アンコール)
7.My Back Pages
手慣らしといいつつ一曲目からじっくり時間かけて弾く。
アルバム「Quiet
Life」で聴ける、テーマを丁寧に生かしつつ即興を膨らますプレイだった。
途中で1弦を思い切りチョーキング。
ネックの上まで弦を引き上げ、鈍い音をたくみに織り交ぜた強いストロークが効果的だった。
今夜はピックを使いつつ、3フィンガーも多用。メロディを弾くときもひっきりなしに飾りを入れた。
10分くらい"Stone
flower"を弾いたあと、次はインプロへ。
いきなりだけど、ぼくにとって今夜のベスト・テイクはこれ。
さまざまに表情を広げ、刺激に満ちた音だった。
最初はアコギから、ミニマムな音を積み重ねる。感情を押さえ、淡々と連なるフレーズ。
いつのまにかエフェクタ操作され、音がサンプリング・ループしてた。
さらにアコギの胴をコツコツ叩く音も重ねる。
店内にループが流れた。おもむろに鬼怒はギターをエレキに持ち替える。
最初はメロディじゃない。アームを多用し、サイケに広がる響きを執拗に重ねた。
ぐいぐい音が膨らむ。サンプリングはいつのまにか別のパターンに変化してた。
ふっとサンプリングの音がやみ、新たなサンプリングが積まれる。
鬼怒はギターのつまみやレバー、足元のエフェクタをせわしなく切り替えた。
さまざまに歪ませた音を、次々繰り出しループさせた。
ひとしきりミニマル・テクノっぽい音像で遊び、すかさず軽くディストーションのかかった音飾で早弾きをひらめかす。
抜群にかっこいい。
この即興は20分くらいか。最後は静かなミニマルに戻り、フェイドアウトさせた。
時計で時間を確かめ、前半最後はジャコの"Three Views of a
secret"。
「普段はアコースティックでやるんだけど・・・」
と前置きしたこの演奏は、美しさと優しさにあふれてた。
そっとメロディが紡がれる。一音一音、確かめるような響きが心地よい。
鬼怒はピックを口にくわえた。
だがしばらくして、ピックを右ひざに置く。あとはずっと、指弾きしてたと思う。
ピックが載った右ひざはギターを載せて動かない。
左足が静かにリズムを取っていた。
前半はここまで。全部で45分ほど。30分ほど休憩を取った後半は、MCがなんとも大笑いだった。
休憩間際、前半直後に子供づれの観客がやってきた。鬼怒は子供が退屈しないようにと気を使ってか、さんざんにいじる。
「君はいくつかな?次にやる曲は、ドノヴァンの曲でね。
昔、サイケデリックって音楽があったんだ。知ってるかい?
きっと15歳くらいになったらよさが分かるよ。まだ聴いたことないかな?
ここのマスターに『聴かせて』って言えば、きっと教えてくれるさ。
よし、今日の演奏は君に捧げよう」
こんな調子。子供は9歳くらいだったようだ。
なのに鬼怒は大真面目に曲の時代背景を説明し、聴いてるほかの観客は大爆笑だった。
で、演奏されたのがドノヴァンの"霧のマウンテン"。
「ここのマスターなら、サンタナのレパートリーだそうですが」と前置きしてた。
今度はエレキギターであまり音量を上げず、サイケに弾いていた。10分くらいの演奏。
次の即興が圧巻だった。
先ほどと同じく観客の子供へ「アヴァンギャルドって知ってるかい?きっと人生に役に立つよ」と好き勝手いじりたおす。
で、弾いたのは・・・語りかけたわりに、情け容赦ないノイズよりの即興だった。
初手からエレキギターのフレーズを次々、サンプリング・ループする。
ずっとループを続けたかと思うと、ディレイのように何回か繰り返して消し去ったり。
パターンが複数、聴こえた。
しばらくはメロディがまったく無し。
かろうじて4/4は意識できるが、いろんなタイムでストロークのサンプリングを積み、重厚なポリリズムで責める。
そこへ単音の歪みを執拗に重ねた。
混沌が広がり、むちゃくちゃ面白い。
鬼怒は音へ没入し、ぐいぐい内面へもぐりこんだ。
ハードロックっぽい早弾きも中盤で登場。多用な表情を見せた即興だった。
エレキギターのループを流したまま、今度はアコギへ持ち替える。
ひとしきりサイケ・プログレなフレーズ展開のあと。
すべてのループが消えた。
静寂の中一音、一音。
さらりとイントロで世界を変え、ゆっくりとアコギでメロディを弾いた。
板橋文夫の"渡良瀬"だ。今までの即興の仕上げか。
メロディはがっちり地面を踏みしめる。一セット目のジャコと肩を並べる、ロマンティックなギター・ソロだった。
2曲目は即興からメドレーで続けて、30分くらい弾いてたと思う。
また時計を確かめる鬼怒。すでに22時くらい。
「そろそろ時間かな。最後はベタですが、"黒いオルフェ"をやります」
アコギで5分くらい。短いがしっとりとしたソロだった。
すかさずアンコールが飛ぶ。
「用意してなかった・・・少し考えます」
ギターを膝に乗せ、頭を抱える。
「しばらくやってない曲ですが・・・ディランの"My
Back Pages "を」
エレキギターを構えなおした。渋い曲をやるなあ。
印象はがっつりハード。
ライブで聴いてるときは、どの曲か思い出せなかったよ。
帰ってディランの"Another
side of Bob Dylan"を聴きかえし「あ、この曲か」と分かった。
鬼怒のアレンジはぐっとロックな肌触りで、てっきりディランがザ・バンドとやってたレパートリーだと思った。
重心が低く、迫力ある演奏。
アドリブの合間に幾度もテーマが登場する構成がきまってた。
大きな拍手の中、一礼する鬼怒。時間はちょっと短めだが、充実したライブだった。
今夜最大の収穫は、鬼怒の多重プレイが聴けたこと。
自分の演奏をエフェクタでループさせ音を積む奏法は、灰野や勝井、太田や内橋らが得意とする。
ところが鬼怒がこの奏法を追求したライブは、あまり記憶になく新鮮だった。
ミニマルできっちりした世界が独特だ。
演奏しててループをたくみに切り替え、場面展開にも使う。
几帳面さが前面に出て面白かった。この手の即興を、ぜひまたやってほしい。