LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
03/7/21 大泉学園 inF
出演:山田+太田+吉見
(山田穣:as、太田惠資:vln、吉見征樹:tabla)
「太田さん、お名前はなんとお読みするんでしょうか?」
あれはライブがはじまる前。
ステージにスタンバイした山田穣が、inFのライブスケジュール表を眺めて尋ねる。
太田惠資にからかわれつつ、泥縄で確認してた。同じように吉見征樹にも聞いたあと。
「以上のメンバーで演奏します」
なんともとぼけたメンバー紹介だった。
20時を15分ほど回ったころライブは始まる。三連休の最終日とあってか、ほどほどの入りだ。
冒頭は山田の無伴奏アルト・ソロ。よっぽど硬いリードを使ってるのか、ブレス・ノイズがかなり聞こえた。
しかしこの店、リバーブがすごくいい。
たぶんノーマイクだったが、すごく優しくサックスの余韻が店内に響いた。
太田用のマイクがサックスも拾ってるのかな?
メロディアスな即興を吹くサックスへ、太田が静かにアコースティック・バイオリンで加わる。
さらに吉見も。タブラを軽快に鳴らした。
前半はMCなし。約70分の演奏のほとんどが即興だったみたい。
ところがノイジーさはほとんどない。太田も山田もきれいな旋律をふんだんに披露した。聴きやすくて心地よい。
今夜のライブは山田が中心のようだ。中央に立ち、サウンドを引っ張る。
ひとしきりアドリブで吹き、おもむろに太田へソロを渡した。
アコースティック・バイオリンをマイクで拾い、これまたリバーブを効かせる。ヨーロッパっぽい音使いでソロが紡がれた。
タブラをバックに太田は弾く。
そして弓を鋭く引きおろす。音を止めた。
あとに残った吉見がソロを開始。
DCPRGのシャツを来た吉見は、無伴奏でリズムを展開した。
オーソドックスなタブラの奏法を基調に、ビートは軽やか。
左手首の付け根でぐいっと打面をこすって音程を変える、タブラ独特の奏法がとてもキュートだった。
滑り止めかパウダーを撒き、打面が白く色づいてたっけ。
ひととおりソロまわしがすむと、また山田のソロへ。
吹きながらくるりと背を向け、ピアノに載せた譜面を取って太田の譜面台へ載せた。
ここからは曲を演奏したようだ。
無伴奏のアルト・ソロを取りつつ、吉見へリズムをうながす。
提示されたリズムに首をかしげる山田。
「リズムがイメージに合わない?」と吉見は苦笑した。
エレクトリック・バイオリンに変えた太田は、朗々とアドリブを広げる。
続く吉見は「ディンナ、ディンディンナ」と歌いつつソロで叩いた。
早口でまくし立てるパターンに、タブラのビートもピタリと合う。
口と指の高速ユニゾンから、一人アンサンブルへ変化した。かっこよかったなぁ。
ソロが終わる瞬間「タブラ、吉見!」と、絶妙のタイミングで自己紹介。すかさず観客から拍手がとんだ。
コーダを迎えたとき、だいたい45分くらい立っていた。
山田は目を閉じ、静かに立つ。太田と吉見が目配せしあった。
けれども山田が再びマウスピースをくわえる。
また滑らかなメロディをアルトで描いた。
エレクトリックとアコースティック、どちらで弾くか。ちょっと太田が迷う。けっきょくエレクトリックを選んだ。
エレクトリック・バイオリンは低音中心のフレーズで伴奏する。
太田のソロが聴きもの。エフェクターを使わぬ正攻法のアドリブで、メロディの確かさに耳がひきつけられた。
そういえば前半、太田は特に技を使わない。オーソドックスなバイオリンだけで勝負した。
吉見もほとんどタブラのみ。横にパーカッションをいくつかぶら下げてたが、ごくたまにアクセントで使ったくらい。
太田のあとはタブラへ、きちんとソロ回し。
3人アンサンブルで盛り上げ、コーダはタブラのみで締めた。
休憩時間もけっこう長く、第二セットが始まったのは22時頃。
「前半はフリーが多かったので、後半は曲をやります」
と、山田が紹介した。
各人がそれぞれ多彩な演奏で、ぐっとバラエティに富んだセットだった。
まずは「あまり有名でない」というボサノバ(?)のスタンダード。曲名は失念しました。
ほぼソロは山田が取る。
太田はエレクトリック・バイオリンをウクレレ風に構え、爪弾いた。
アドリブもそのままのスタイル。ほんわかした旋律がリバーブに包まれ響く。
サックス、バイオリン、タブラって編成でボサノバか・・・と思ったら。意外なことにさほど違和感ない。
タブラは普通に叩いてるのに。ピッチを変える奏法も、不思議と軽やかで音像にはまってた。
で。さらにユニークな選曲がパーカーの「ドナ・リー」。マスターのリクエストかな?
太田は「この編成でどうやってやるんじゃ」と、ぽろっと漏らした。
やはりソロのメインはアルト・サックス。
おもむろに太田はアコースティック・バイオリンを構えた。
タブラをバックにめまぐるしい音使いで、サックスのアドリブがみるみる展開する。
したがってテーマのテンポも凄く早い。
サックスとバイオリンがユニゾンで、超高速フレーズで弾きまくった。
ジャズらしくリズム楽器がブレイクを入れ、山田と太田の8小節ソロ回しも。ドラム代わりがタブラって、音像が面白いや。
終演後、しきりに照れる太田。出来に満足行かなかったようす。
店にあった楽譜首っ引きだったが、太田はなんと初見らしい。す、すごいな・・・。
「ほんとに初見ですか?」と山田も感嘆してた。
かなり速いテンポだったが、タブラからみると中途半端だったらしい。
「ドナ・リー」が終わったあとのMCで「このくらいがやりやすいんだよ」と軽くに指先で、さらに速いテンポを叩いてみせた。
さて、後半三曲目は山田のオリジナル。
タイトルは「6番」。いくつかタイトルつけたが、気に入らずに番号で落ち着いてるらしい。
「速い曲のあとは、ゆったりしたテンポにしましょう」
と、山田が前置きする。
テーマは美しい音使いだったが、ソロではムードが一転。
ハイトーンでサックスを軋ませ、フリーキーに吹き鳴らした。
太田はエレクトリック・バイオリンでバックアップする。
エフェクターをときおり踏み、フレーズ・サンプリングで一人アンサンブルを作った。
先日、同店で灰野敬二とデュオした時に使った技だ。あのときより旋律要素は希薄で、ロングトーンを重ねてた。
太田のソロではロングトーンを響かせたまま、アラブ風ボーカルで歌う。「ウィ〜ウィ〜」と独特の響きを効かせた。
タブラはこの曲のみ、ドラム風のアプローチを選ぶ。
シンバル・ロールのごとく、指先でそっと叩いた。
横にぶら下げたパーカッション群を、積極的に鳴らしたのもこの曲だけだった。
第二部最後は「吉見さんのリクエストにこたえて速い曲」と、山田が言う。
たぶんジャズのスタンダード。聴き覚えあるけど、曲名思い出せない・・・。
今夜は快演ぞろいだけど、この曲がベストかな。全員のソロが痛快だった。
エレクトリック・バイオリンでトラッド風旋律をテンション高く弾ききり、太田が拍手を受けたのも確かこの曲で。
バイオリン・ソロの時に山田は座り込み、マラカスで太田を伴奏する。リズムの頭が、ちょっとずれてたような・・・。
サックスも猛烈なソロをばら撒いた。
ともすれば熱くなるパターンだが、タブラのみのリズムだとちと感覚が違う。どこか重心が軽い。
ホットなソロを夢中で聴きつつ、吉見のビートにふわっと癒される。これ、新鮮な体験だ。
「遅くまでありがとうございます」
太田の挨拶で、今日のライブは終了。23時を回ってた。
ノイジーな演奏はほぼ皆無で、ひたすらメロディに浸れる。
全体を通しリラックスした風景が漂う、心休まるライブだった。