LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
02/9/6 吉祥寺 MANDALA-2
〜至上の愛#8〜
出演:菊地成孔+南博
(菊地成孔:ss,ts,bs、南博:p)
アスファルトのそこかしこに深い水たまりができた、滝のような雨の夜。
仕事の都合で開場時間をだいぶ押して、マン2へ入った。
混むだろうなあ、と覚悟はしてたよ。しかし大雨にもかかわらず、立ち見がびっしりならぶ大盛況にはびっくり。70〜80人くらい入ったのかな。
菊地成孔が「立って聴く音楽じゃないでしょ。今度はもっと広いとこでやりましょ」とすまながっていた。
さて、菊地と南博は開演時間どおりにステージへ登場。
青白いライティングのなか、ふたりとも咥えタバコで登場する絵柄がきまっている。
「大雨のなか歩いたら、足が冷たくて気持ち悪い」と菊地がボヤきつつ一曲目の演奏が始まった。
<セットリスト>
1.Over the rainbow
2."Fのブルーズ"#1
3.You must beleive in september
4.Rush Life
(休憩)
5.Wives and lovers
6.Blue in green
7.Sophisticated Lady
8.When Sunny Gets Blue
9."Fのブルーズ"#2
(アンコール)
10.Misty
基本はジャズのスタンダードばかり。
(1)以外はその場で譜面をひっくり返しつつ、次にやる曲を決めていた。
(1)は「オズの魔法使い」のテーマ、(3)はミッシェル・ルグランの曲。
(4)と(7)がエリントンで、(6)がビル・エヴァンス、(10)はエロール・ガーナー。
(1)や(3)に、(6)や(10)もそうか。菊地のジャズ系ライブでは馴染みの選曲だ。
日記ではブライアン・ウィルスンの曲を示唆してたが、演奏する気配はかけらもなし。楽しみだったのになぁ。
(5)はバカラックが書いたカーペンターズの曲。MCで「この曲のタイトル知ってる人いる?」と観客へ問いかけたが、答えられる人がいない。
だから翌日に菊地の日記で曲名を発表されていた。
"Fのブルーズ"はジャムなのか、キーがFの曲なのかは不明。前後半それぞれ、違う雰囲気で演奏された。
冒頭の"Over the rainbow"は去年「カルテット・イン・ブルー」名義のライブと同じアレンジを採用。
ただし、いくぶんあっさりめだ。
菊地がテナーを振るのがきっかけで、一音ロングトーン。フェルマータ。
一呼吸おいて、再び一音をロングトーン。・・・フェルマータ。
一音一音で空白を任意に設定し、じわりじわりとメロディをなぞってゆく。
昨年聴いたときより焦らしは少なめ。ふわりと離陸してソロへ進む。
菊地のテナーがきれいに歌った。
今夜はほぼ最後まで、ノイジーなプレイはない。まるでメロディを愛撫するかのよう。
南のピアノも菊地のジャズにぴたりとはまる。ピアノからきれいな音が零れてゆく。
単なるバッキングではなく独自のフレーズ使いで、常に菊地とからみながら弾いていた。
比較的、菊地を立て気味だったかな。
二曲目の裏テーマは菊地いわく、「ヒッキーの結婚」。
ステージを通して「宇多田ヒカルの結婚がショックだ」、とひっきりなしに嘆いてた。ネタだと思ってたが、日記にもさんざん書いてたなあ。
前半はなんだか重たいプレイが続く。流麗な演奏ながら、耳に音が残らない。
音にのめりこんで行ったのは3曲目くらいからか。
ここで菊地はソプラノに持ち替え。
さらにサウンドの重心がかろやかになった。
菊地も南もフレーズに小節感はあるものの、ノリが奔放に揺れる。
ロマンティックにひらひらアドリブが躍った。
前半最後の"Rush Life"では再びテナーを握る。
こんどは太い音でダンディに決めてみせた。
あくまでクールにスタイリッシュに。それでいてグルーヴィに。
耳へ素直に入るきれいなジャズながら、けっしてミュージシャンの存在感が消えないのはさすが。
中盤で菊地が無伴奏のソロを取り、すっと南が滑り込む。
さりげないアレンジがかっこよかった。
前半セットは約1時間。20分ほど休憩を取る。
二人は客席をぶらついたり、ステージでタバコを吸いながら譜面をいじったりしてた。
すっと客電が落ちて第2部の始まり。
後半セットこそ今夜の聴きもの。尻上りに演奏のレベルが上がった。
演奏に反比例するように菊地はみるみるリラックスし、タラタラ進行したのが大笑いだけど。
冒頭2曲はソプラノ・サックスを吹く。
音はどんどんツヤを増し、演奏にひきつけられた。
"Wives and lovers"では、軽やかな鍵盤も印象に残ってる。
ソロの比率は、いくぶん菊地の方が多かったかな。
菊地のMCは暴走しっぱなし。
幕間にプレゼントされたというチョコを食べ始め止まらなくなったり、写真集を持ち出して南とあれこれ寸評したり。
譜面を床にぶちまけ、のんびり選曲したりと奔放っぷりが加速した。
前半はギャグがすべり気味だが、南との掛け合いMCに切り替え調子が出てくる。
ただ、南はオフマイクだったので聴き取りづらかった。
面白かった話題は「チュニジアの夜」ネタ。
菊地が「"チュニジアの夜"やりません?」と提案すると、南は頭をぶんぶんふって抵抗する。
すごく嫌いな曲らしい。ピアノでちょろりとテーマを弾きつつ、ぼろくそにけなしてたっけ。
このあと演奏された"Sophisticated Lady"では、バリトン・サックスの登場。
予想以上に滑らかな音色で、見事なソロを聴かせた。無骨な迫力があった。
今夜はずっと菊地は椅子に座ってプレイ。
ソロの合間では楽器を膝に乗せ、タバコをくゆらす。
南のアドリブを聴きながら、楽しそうに笑う。
一方の南は終始クール。あまり表情も姿勢も変えず、淡々と弾いていた。
"When Sunny Gets Blue"以降では、ずっとテナーを持つ。
写真集を譜面に置き、それを眺めながらアドリブを取っていたのがこの曲。
"Fのブルーズ"#2でやっとテンポが上がった。
南が小節の頭でコードを連打し、テナーがソロを吹きまくる。
極上のジャズを堪能できた。
アンコールは"Misty"を選ぶ。
冒頭で菊地はさんざんキイキイ音を軋ませ、錆びつくようなメロディを搾り出した。こういう解釈も面白い。
そしてソロでは普通の音色に戻し、とびきりのアドリブを披露。
後半はアンコールも入れて1時間半の長丁場。MCに時間を割いてたとはいえ、おなか一杯のボリュームだ。
菊地はジャズが好きなんだな、としみじみ感じたライブだった。
音が冴えるほどに菊地の表情がリラックスしてたもの。