LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/8/19  新宿 PIT-INN

   〜夏の夜の逢瀬〜
出演:南博Quartet Reunion
 (南博:p、菊地成孔:ts,ss、水谷浩章:b、芳垣安洋:ds
  ゲスト:竹野昌邦:ts,ss)


 新ピでの南博3days初日。90年代前半頃に活動していたという、南博カルテットの復活セッションだ。
 ゲストとして南博のカルテット"Go there"のリード奏者、竹野正邦が招かれた。

 菊地成孔は「"Go There"におれがゲストじゃないの?」と尋ねたら、あっさり南に「そうかも」と頷かれ、苦笑していた。

<セットリスト>
1.  ?("Go There"の曲)
2.クリス・クロス(セロニアス・モンク)
3.カロリーヌ・シャンプティエ(菊地成孔)
4.The Pit Inn(南博)
(休憩)
5.インソムニア(南博)
6.  ?
7.アフロ・ルパン(南博)
8.シンドローム(ポール・ブレイ)
(アンコール)
9.アントワネット・ラガシィ(菊地成孔)

 カッコ内が作曲者。1曲目は曲名を聴き取れず。6曲目はMCで紹介されませんでした。これも"Go There"の曲かなぁ。
 ほとんどが今年末か来年早々にリリース予定な"Go There"の新譜に収録予定だそう。

 ちなみにこのアルバムで菊地が3曲をプロデュース。音源をプロ・トゥールスに流し込み編集したおす構想だと紹介した。
 南はプロ・トゥールスがぴんとこず、菊地がDVDに例えた珍妙な説明をする。バンドのメンバーも大ウケしてたが、どこまでマジに話しているのやら・・・。

 さて、ライブは20時を廻った頃にスタート。
 南以外の3人がステージに上がり、菊池が無伴奏でテナーのソロをはじめる。
 それを聴きながらおもむろに、くわえタバコの南が登場するという、妙に絵になる始まり方だった。

 菊地のソロへ南のピアノが加わり、しばし二人で演奏。
 すっとベースとドラムが加わった瞬間、ぞくっとするグルーヴが産まれた。
 芳垣安洋の細かなスティックさばきへ、すぐさま水谷浩章が反応する。

 2曲目からゲストの竹野昌邦が登場。モンクのカバーをクールに2管できめた。
 ここで対照的なソロが聴ける。
 太い音でメロディアスなソロの菊地に、無骨にシンプルなフレーズを多用する竹野、と。
 南のソロをはさんで、ドラムのソロへ。
 アップテンポなリズムをそのまま持ち込み、芳垣は猛烈なビートを繰り出す。
 ダブル・ストロークかな?連打を効果的に使ったソロだった。

 第一部では曲の間に全部MCが入る。
 南がリーダーのセッションを聴くのは初めて。もっと寡黙かと思ってたが、けっこう饒舌に喋ってた。
 もっともしきりに喋りを菊地に任せようとし、南のぼやきに菊地が突っ込むMC多数。
 客席のみならず、バンドメンバーまでドッカンドッカン爆笑していた。

 続く菊地の曲がすばらしく素敵だ。
 こういうロマンティックなメロディを生かした、彼のジャズはCD化されてないはず。
 今年の末に菊地がアコースティック・ジャズの盤を出す企画もあった。実現して欲しいな・・・。

 スローなテンポで、美しいメロディが漂う。ブレイクを巧みに使ったリズムがたまらない。
 芳垣はブラシへ持ちかえた。ブレイクのタイミングで、シンバルをブラシで押さえつけミュートする。
 そのざらっとした響きが、サウンドにぴったりはまっていた。

 前半最後は南いわく「Pit Innに捧げた曲」。
 もっとも菊地が「アルバム発売までには、おれがタイトルを何とかする!」と笑いながらしきりに言っていた。

 ハード・バップ調の勇ましいテーマで、パワフルに展開。
 菊地、竹野とソロが続く。跳ねるリズムにのって、二人の頼もしいソロを堪能した。
 南のソロもハイテンション。鍵盤の上を激しく指が踊る。
 そのバックで、芳垣が叩くリズムも面白い。ちょっとアクセントをずらし、スネアを連打するパターンが印象的だった。

 ここまでで約75分のステージ。
 休憩を挟んだ2部は時間が押しぎみか、MCが控えめで残念。
 南と菊地のやり取りが面白かったのに。菊地は喋るの抑えてるみたい。

 後半はまず2曲メドレーで演奏された。
 一曲目はかなりフリーな構成。南のバンドでもこういう曲やるんだ。
 芳垣がマレットやスティックをスネアやシンバルへ、さまざまにこすりつける。スティック同士をこすり、ギロ風に使ったりも。

 ノーリズムの中、ピアノとベースが静かに奏でる。そこへ朗々と菊地がテナーで切り込んだ。
 全般的にインプロっぽい感じ。

 拍手の中、MCなしですぐ次の曲へ。南がイントロのフレーズを弾き始める。
 こんどはきれいなスローのリズム。
 ただし、各人がてんでに違うリズムを取りつつ演奏する、ポリリズミックなアレンジだった。
 だが、不思議と違和感はない。ぎりぎりグルーヴが繋がっている。
 菊地のサックスがクールに鳴った。

 さて、3曲目はちょっと異色。
 以前に南がアレンジをやったことがあるという、ルパン3世の曲をモティーフに作られた。
 ミンガスの「Goodbye pork pie hat」にコード進行を似せたとか。
 メロディは「どっかで聴き覚えあるかな?」って程度だった。

 そして今夜のクライマックス。
 「シンドローム」は澄んだ響きのコードを多用したテーマ。
 ソロになると、とたんに雰囲気がジャジーに変化する。

 アップテンポで突っ込み、ソロが吼える。ブルーな色合いながら、テンションはあくまで明るい。多彩な表情を内包した名演だ。
 エンディング間際の、2管による多重ソロがすばらしくかっこよかった。

 アンコールの拍手にはすぐ応える。
 再び、菊地のペンによるスローなジャズ「アントワネット・ラガシィ」。
 メロディがなんともセクシーだ。
 この曲でも、ユニゾンで音を溜めるフレーズが効果的だったな。

 サックスからピアノへソロが展開し、しっとりと終わる。
 アンコールが終わったのは22時45分頃。しめてニ時間半ほどの充実したステージだった。

 芳垣の繊細なシンバルワークと、グルーヴを握って離さない水谷の奥深いベース。
 そしてどちらのサックスからも、鋭さと暖かさを兼ね備えたソロが溢れ出す。

 これら個性ある音を南のダンディなピアノがふわっと包み込み、膨らませて絶妙の音像を作る。
 静かにのめり込める、大人のジャズを堪能できた。 

 余談ですが。菊地は最近、DCPRGやスパンク・ハッピーなど派手な活動が中心だが、こういうジャズをもっとやってほしい。
 ONJQでのテナーは鋭さが前面に出て、ロマンティックさはひかえめだし。
 心底ジャズをやってるときの彼のテナーは、とびっきりだと思うけど。

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