今のおすすめCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

フェダイン/Fedayien Ⅳ(2000:不破大輔商店)

 貴重な瞬間を記録した、とびきりの一枚だ。

 CD時代になってつくづく感じるのは、CD-Rの普及でメジャー・レーベルなみの音質の商品を、個人で容易に発表できることのありがたさ。
 アナログ時代ならミュージシャンが、ゲリラ的に発売するメディアはカセットだろう。
 だけど、カセットは通して聴くならともかく、「気軽に一曲だけ」って用途には向かない。
 アナログレコードだとソノシートですら、百枚くらいつくらないと採算ベースに乗らなかったんじゃないかな。

 ところがいまやCD-Rのおかげで、貴重な音源を数枚単位でリリースできる。
 しかもインターネットを使えば、流通ルートすら手軽になって店舗経費的な負担もすくない。
 いい時代になったもんだ。
 
 そんなCD時代の利点を最大活用していたのは、明田川荘之の「メタ花巻レーベル」くらいだと思っていた。
 出したい音源のマスターテープのみを確保し、注文があったらすぐさまCD-Rに焼いてリリースする、フットワークの軽さが最大の魅力だろう。
 そのいさぎよい発想に、びっくりするともに狂喜した。
 だって、採算ラインをかなり低くできるだろうから、ミュージシャンの趣味を全開にした音源がつぎつぎ出せるはず。
 リスナーにとっては至福のリリース形態だ。

「ほかにもこんな発想のレーベルがないかなあ」と思っていたら、不破大輔が見事にやってくれた。
 どの程度組織だった活動をしているのか、今ひとつ不明だけど。
「月刊不破大輔」と銘打ち、渋さのHPでは今まで5作品をリリースしている。(その内、一作品は2000年9月現在で未発売)
 渋さ知らズのコンサートで今まで二回ほど物販されているのは見たことあるが、そのたびに売り切れていた一枚がこれだ。

 このCDはフェダインが、92年に録音した音源を元にしている。
 もともとは4作目のアルバムとして、リリースされる予定だったそうだ。
 収録時間は全二曲入りで50分。アナログなら片面に各一曲って所かな。

 このCDのパッケージはすごく素朴だ。真っ白な紙を張り合わせてジャケットにしてるだけ。
 演奏者は書いているものの、録音場所や時期はなにもなく、曲目のクレジットすらない。(注)

 二曲目の最後に歓声が入っているから、ライブ音源なのは間違いない。
 ゲストにカズ・中原がギターで参加している。(クレジットでは二曲目のみに参加)
 もっとも一曲目でもかすかにギターストロークが聞こえるから、両方とも同じ日にカズ・中原をゲストに迎えた、ライブ録音なのかもしれない。

 演奏はどちらの曲も、最高にテンションが高い。
 なめらかなメロディを切なく歌い上げる一曲目も、すぐにサックスが軋みを上げ始める。
 リズム隊のソロの間に、サックスをエレクトリック・ヴァイオリンに持ち替えて、高音中心のフレーズで音をかきむしる。
 リズム隊の手数も多い。スピーカーを埋め尽くすように、シンバルが鳴り渡りベースが暴れる。
 一曲目では、せっかくの不破のベースがオフ気味になって、こまかい音使いがぼやけてしまったのが惜しい。
 
 二曲目ではさらに混沌とした演奏を、20分以上にわたって堪能できる。
 演奏の芯をわしづかみにしているのは、不破のベースだ。
 ワイルドにベースの低音がはねる上を、ギターとサックスが傍若無人に騒ぎ立てる。
 騒音ぎりぎりまでフレーズを垂れ流して、破綻してはじけ跳びそうになった瞬間にテーマに戻る構成が、とてつもなくスリリングだ。

 そして、ドラムの大沼を忘れちゃいけない。
 リズムキープの役目を忘れずに、冷静にせわしなく太鼓を叩きつづける。
 だけど無個性なところはかけらもない。他の三人の荒っぽい演奏を一人でがっしり支えて、そのうえ絶妙のタイミングでフィルを入れる。
 最初から最後まで、テンションをたもちつづける演奏力がすばらしい。

 わずか二曲。だけど、すばらしい二曲だ。
 フェダインは一時期、年間に100ステージものライブをこなしていたらしい。
 そのうちどのくらいのライブを録音していたかは知らない。
 だけど、もっともっと音源はないのかな。もっとリリースして欲しいよ。
 こんなに緊張感にあふれた、とてつもなくかっこいいジャズなのに。

 (注)本盤を買ったときに、曲目は発売元からメールで教えてもらったので、ここに紹介しておく。
 1)「パリ空の下セーヌは流れり~ラジオのように」
 2)「DAVADAVADAVA」


Storm in a teacup,Here comes that
rainy day feeling again/
Fortunes(1972/1973:Capitol/BGO)

 購入したのはしばらく前。あまり聴かないCDを整理しようとCDデッキに乗せたら、妙にはまってしまった。
 63年にバーミンガムでデビューした、イギリスの五人組コーラス・グループ、フォーチュンズのリイシュー盤だ。
 キャピトルから71年リリースの「Here comes that rainy day feeling again」と73年に発売された「Storm in a teacup」を2イン1にしている。

 手元の資料によれば、この二枚のアルバムはきっぱり「いまいちの出来」って書かれているのが切ない。
 フォーチュンズは、デビュー当初に所属していたデラム時代にリリースした数曲が聴きどころらしい。このころの職業作曲家コンビのクック=グリーナウエイのペンによるポップスで、数曲の全英ヒットソングを放っている。(注)

 で、アルバムのベストは70年にリリースされた「That same old feeling」
らしい。
 僕のこの2枚はぼろくそに言われていたから、正直がっくりきた。

 他のフォーチュンズの音源を聴いたことがないので、このCDとの出来の比較はわからない。
 でも、けなしたい気もわかる。演奏がやぼったいんだ、これが。
 ドラムがどたばたしていて、かぶせのストリングスもくどい。
 まあ、30年以上前の音源だから、古臭いのは仕方ないかも。

 それに、ヴォーカルもおっさんくさい。
 いちおう甘い歌声だけど、腹のそこからシャウトしないので、もどかしくてしかたない。

 でも、僕がこのアルバムを何度も聴き返してしまうのは、メロディが暖かいからだ。
 野暮ったい中を潜り抜けて、印象的なフックがしみだしてくる。
 ミドルテンポの静かな曲が、僕の耳にしっくりくる。
 
 けっして今の時代に再評価される音じゃない。
 僕が好きな理由も薄弱だから、あまり人には薦められない。
 「理由はわからないけど、なんとなくいい」って程度のいいかげんなものだ。
 最初はなんでひきつけられるのかわからなかった。
 理由が知りたくて、なんどもなんども聴き返してみて、伝わってきたのは単純なこと。
 スリリングなところがなく、予定調和。とはいえ、メロディにくせがあるから甘ったるくならない。
 そんな微妙なバランスが、印象に残ったんだろうな。
 
 20曲の収録曲のうち、10曲が「クック=グリーナウエイ」コンビの曲だ(共作含む)。ジミー・ウエッブが二曲を提供している。
 ちなみに僕は「クック=グリーナウエイ」コンビに、特に思い入れはない。
 彼らのセルフ・グループのホワイト・プレインズもくどくて、いまいち好きになれない。
 とはいえ、処分するほど嫌いになれないのは、このメロディにある微妙なくせに惹かれるからだろうな。
 
 甘ったるい雰囲気だけど、バブルガムみたいにはじけない。
 この一癖あるメロディが、いかにもイギリス風ポップって気がする。

   (注)主なフォーチュンズのヒットを紹介する。
      1965年 「You`ve got your troubles」(全英5位)
      1965年 「This golden ring」(全英15位)
      1965年 「Here it Comes again」(全英4位) <「Here~」はレス・リードとバリー・メイスンの曲>
         (参考:「Soft Rock A To Z」:1996年、音楽之友社)


Taja Sevelle/Taja Sevelle(1987:Paisley Park)

 プリンスが主宰するレーベルのペイズリー・パークから1987年にリリースされた、女性シンガーのファースト・アルバム。
 1987年といえば「サイン・オブ・ザ・タイムズ」をリリースし、「ブラック・アルバム」を録音していた年だ。
 プリンスの創作意欲がありあまって、じゃばじゃばこぼれ落ちていた時期になる。

 当時のプリンスは、溢れる才能を自分のアルバムで披露するだけでは物足らなかったのかな。・・・物足らなかったんだろうな。
 このころはペイズリー・パークが、他のミュージシャンのアルバムを何枚もリリースしていた。いわくマッドハウス、ファミリー、シーラ・E、ジル・ジョーンズ、マザラティなど。
 これらのアルバムは、クレジットこそさまざまなミュージシャンが参加しているかのようになっている。
 ところがアルバムによっては、実際にプリンスがほとんどバック・トラックまで作ってしまい、あとは単純にヴォーカルをダビングするだけ、って例がごろごろあったらしい。
 つまり音楽のアイディアを次々思いつくプリンスが、クレジットは惜しげもなく他人名義にして、自由気ままに次々音楽を作り出していたってわけ。

 そんななかでリリースされた、タジャ・セヴィルのアルバム。
 発表当時には残念ながら、僕は店に華々しくこのアナログが並んでいた印象はない。
 プリンスはこの時から好きだったし、プリンスの12インチやマッドハウスのLPが並んでいたのを覚えているから、もし当時見たのなら多少は記憶にあると思うけど・・・。

 とはいえこのアルバムは、ジャケットが非常にしょぼい。
 ジャケットの左半分に顔写真のアップを貼り付け、右半分はまっしろけ。
 名前を無造作に右上に書いただけの、そっけないものだ。
 見ていたとしても、忘れちゃったのかなあ。
 そんなわけで、僕はこのアルバムを10年位前にCDの再発版で入手した。
 たいして期待もしないで買い込んだんだけど。聴いていくうちにこのアルバムが大好きになった。
 温かみのある、素敵な音がいっぱいつまっていたから。

 プロデューサーをつとめたのはベネット。・・・詳細な経歴は不明。
 何かの本で、西海岸のプロデューサーだ、って読んだうろ覚えの記憶もうっすらある。
 もしかしたら有名な人なのかもしれないけれど。
 ベネットはプロデュースをしながら、このアルバムのほとんどの楽器を演奏し、曲も三曲を自分で作曲している。大活躍といえるだろう。
 レーベルオーナーのプリンスは、アルバムに二曲を提供したのみだ。
 残りはタジャの自作(共作もあるけど)になる。 

 ちなみに上で書いたように、このころにペイズリー・パークからリリースされたアルバムは、クレジットがまったく信用できない。
 ミュージシャン名がしっかりクレジットされていても、実際にはプリンスが演奏しているって可能性が高い。
 そんなわけで僕は、プロデューサーのベネットがプリンスじゃないかって疑っていた。というか、今でも疑っている。

 根拠は何もない。単純に演奏を聴いていて、当時のプリンスっぽく聞こえる音が、山ほどつまっているからだ。
 そう。僕はこのアルバムを聴いていると、プリンスのロマンティックな側面をうまいことすくいとっているなあって思う。
 
 演奏はほぼすべてシンセサイザーだ。打ち込み・・・じゃなく、手弾きじゃないかなあ。
 微妙に揺れる演奏は安っぽい音使いだけど、せいいっぱいふくよかに響いている。
 タジャのヴォーカルだって、演奏に負けてない。
 ちょっぴり鼻にこもった声で、いさぎよく歌い上げる。時に聴かせるファルセットも、効果的に曲の中でまとまっていた。

 プリンスが提供した曲は、10曲のうち(2)と(6)だ。たぶん、演奏はすべてプリンスじゃないかな。サックスはエリック・リーズだろう。
 ちなみに(2)はプリンスがデビュー前に作曲していた曲のようだ。
 ブートで、プリンスの荒っぽいヴァージョンが聴ける。
 一方の(6)では、エフェクトをかけたギター・ソロが聴き所。
 この当時のプリンスらしく奔放に軽やかに跳ね回る。
 もっとも(6)は、あんまりいい曲でもないけれど・・・。 

 それ以外にもプリンスっぽく感じられる曲は多い。
(3)でのシンセの使い方、(4)ではロマンティックな主旋律に。
(5)からはサビでのメロディで聴ける譜割りの引っ張り方が。
(7)には安っぽいアレンジの感触の影にプリンスが透けて見え、(8)に至っては、メロディや歌い方がプリンスのイメージで溢れている。
(9)のギター・ソロの音色と音使いや、(10)の太鼓の音だって、プリンス風だよ・・・。

 もしかしたら単純にプリンスの影響が強すぎて、ベネットやタジャがオリジナリティを出せなかっただけ、って落ちなのかもしれないけれど。
 「実はこのアルバムのほとんどが・・・」って可能性はないのかな。

 僕がこのアルバムで一番好きなのは(8)の「Baby`s Got Lover」になる。
 スローテンポになる寸前でふみとどまった、ミドルテンポのロマンティックなこの曲は、とてもかわいらしい。
 キーボードを何台か重ねているけれど、弾き語りを感じさせるシンプルなアレンジだ。
 メロディは優しくざわめき、タジャは時に多重録音でコーラスをかぶせながら、ファルセットを多用してコケティッシュに歌い上げる。
 3分そこそこのこじんまりとした名曲だ。
 あまり歌の表現力はないタジャが、曲自身の実力に引っ張られて作り上げた傑作だと思う。

 このままタジャはプリンス・ファミリーの一員として音楽キャリアを積むのかな、と思っていた。
 しかしこのアルバム一枚を残しただけで、あっさりと移籍してしまう。
 いや、売れなかったから契約を切られた、と見るのが正しいのかも。

 2ndを発表したのは4年後だ。91年にメジャー・レーベルのリプリーズから、「Fountains Free」というアルバムをリリースしている。
 当時レコードで見つけて、ワクワクしながら買い込んだ記憶がある。
 92年頃だったんじゃないかなあ。
 ところが、ありきたりのAORに聴こえてしまい、がっかりして手放してしまった。
 そんな関係でタジャ・セヴィルは、僕にとっては「プリンスの傘の下で花開いた一発屋」ってイメージが残念ながらある。
 もっともその花が、ささやかながらも魅力的なので、こうして折に触れ聴き返しているんだけどね。

 タジャは97年にもマイナーの550 Musicから「Toys of Vanity」をリリースしている。これが2000年現在で最新アルバムのようだ。
 僕はこのアルバムは聴いちゃいないし、あまり聴きたいとも思わないけど。
 どんな歌を歌ってるのかな。この自分の名前を冠したファースト・ソロアルバムみたいに、キュートな喉で歌ってるといいなあ。

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