今のおすすめCD(番外編)

ライブ音源を聴いた感想です。的外れな点があったら、ぜひご指摘お願い致します。


2008/11/17   大泉学園 in-"F"

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p,acc,etc.、翠川敬基:vc、太田惠資:vln,voice)

 J.Jazzネットで08/12/24〜09/1/28まで無料配信された音源にて。残念ながら当日のライブは行くこと叶わず、どのような様子でどの箇所をどんな風に音源化かよくわからない。
 サイトでは「クラシック編成が持つ室内楽的な響きと開放的な即興演奏が聴き所(中略)ヘッドフォンやスピーカーにつないでお楽しみ頂くことをオススメします」と紹介。
 「CDでは聴くことができない、このトリオのユーモラスな側面が」とDJは冒頭に付け加える。

 黒田京子トリオのサイトで「作品として成立しているCDとは少々異なる、生演奏ならでは」と黒田は位置づけた。どうやら選曲にもかかわっている様子。録音スタッフ側のみの意向ではなさそう。
 番組は約1時間に編集された。当日は2setだから、半分強が音源化されたということか。あとで聴いたところステージ向かって右手、翠川の側から2本のマイクで録音したそう。

(セットリスト)
1.Link
2.chotto Be-Bop 
3.valencia
4.inharmonicity
5.May 3rd

 黒田と翠川の作品を2曲づつ、さらに富樫の作品を1曲。1stと2nd収録から、バランスよく収めた選曲。

 音源が始まったとたん、DJの背後で(1)の演奏がすでに始まっていた。抽象的な即興がふわふわと漂う。喋りが消えて、音楽のみに。
 バイオリンが鋭く弓を動かし、チェロがゆったり音を広げる。ピアノはリズミカルに響いた。ダイナミックに音が絡む。アンサンブルが雪崩れ、加速した。めまぐるしい鍵盤へバイオリンとチェロが折り重なる。ソロの主体はおかぬ。

 メロディと刻みを入れ替えるバイオリン。すっとテンションが引き、ピアノがふうわりと音像を広げた。音を止めていたチェロが厳かに入ってくる。
 バイオリンが下がり、ピアノとチェロの静かな対話に。
 翠川は弦を軋ませる。太田のピチカートが、さりげなく飾った。
 黒田がテーマへの道を、ゆっくりと漂わせた。チェロは無造作なメロディで雰囲気を溜める。

 太田のバイオリンがテーマを奏で、すっとチェロも加わった。
 涼やかでおごそかな"Link"が。音世界は高らかに拡大する。
 ピアノがさりげなく幾つかの音を増やし、チェロが強いピチカートで応えた。
 
 テーマが崩されてゆき、力強いピアノのソロへ。チェロとバイオリンは小節感覚をぼやかせ、弦を強くこする。
 次のひととき、すっとテンポが下がる。立ち止まらず変貌し続けるさまが、いかにも黒田京子トリオらしい。

 バイオリンのピチカートに誘われ、テーマへもう一度戻った。
 チェロも訥々とピチカートを。幻想的なピアノがふくよかに。
 弓へ持ち替えた3人の奏でるテーマは、とにかく美しい。

 "ちょっとビバップ"はイントロを冒頭から伺わせるバイオリンとピアノ。チェロが救急車みたいに弦を滑らせた。
 テーマをさらり提示し、ファンキーなノリに。いきなり翠川がシャウトし、黒田と太田が吹き出した。

 バイオリンがソロを取りつつ、ユニゾンで唸る。叫びも混ぜて豪快に。弾むピアノが、キュートに支えた。
 C/W調のバイオリン・ソロに応えて、翠川が強いスラッピング・ベースをチェロで表現。さらに絶叫付き。
 いっきにサウンドは混沌へ突入した。

 ひとしきりインプロのあと、すっと音数が減る。空白。
 ハイハットを口で鳴らしたのは太田か。間を探りあう。

「・・・どうぞ」
 翠川が呟いた。
 ピアノが入ったところで、危なっかしい翠川のスキャットが轟く。
 黒田のソロはフリーとオーソドックスのあいだを行き来した。

 なぜかクラシック大会に。チェロがバッハの無伴奏1番、ピアノがブラームス・トリオの1番。バイオリンも弾いたが曲名わからず。
 そこからバイオリンがテーマへスマートに誘った。

 ジングルを挟んだ(3)は1st収録、富樫雅彦の曲を。
 無伴奏のバイオリン・ソロが激しく鳴る。
 テーマとは別世界に音楽が進行し、太田がアラビック・ヴォイスで唸った。

 いったんテンポが落ちて、するすると"ヴァレンシア"の世界に移った。
 溜める。静かに。
 バイオリンがスケール大きく、優しさをこめてテーマを弾く。
 そっとステップが踏まれるように、メロディが浮かびあがった。

 アドリブはバイオリンが柔らかく小さな音で。ピアノは高音部分を中心に、しとやかな音を。背後の音は、外を走るバイクのエンジンだろうか。
 チェロに誘われ、いっきにフリーへ加速した。

 かきむしりと激しい音の交錯。
 呼吸を合わせ、一気に停止した。
 ロマンティックな風景へ。違和感も不自然さもなく身を翻すスマートさがさすが。

 そのあとも場面は速やかに変わり続ける。
 溌剌としたピアノ、変幻なチェロ、メロディ沸き立つバイオリン。
 この音源では個々のソロよりも、アンサンブルの自由度を強調する場面が多く抽出された気がする。
 
 さまざまな色合いをアンサンブルで表現したあと、黒田がテーマの色をそっと描いた。
 テーマからフェイド・アウトのごとく音が消えていった。

 (4)は前置きなし、いきなりテーマから。ピアノのぱらぱらと鳴らす音が、風景をきらめかす。
 鈍く重厚な場面に変わり、翠川の長いフレーズ回しがじっくりと。特殊奏法も混ぜ弦を軋ませながら、チェロはたっぷりとソロを取った。
 ボディ叩きをバイオリンがおそらくコル・レーニョで彩りつける。
 三人は一気に雪崩れた。

 すぱっとピアノが空間を切り裂く。かすかに黒田の歌声が聴こえる気がした。
 太田はテンション高いメロディで滑り込む。
 瞬時にスローな音像に。

「馬が・・・馬が・・・ぱかぱかと・・・」
 翠川が呟く。
「・・・そういうのにすぐ反応しちゃいけないんだ」
 太田がぼやき、一気に笑いに満ちた即興へ。三人がてんでに喋りながら弾く。

 太田がホーメイを出しかけるが、
「昨日、飲みすぎて出ない」
 苦笑してやめてしまう。"お馬の親子"をバイオリンで弾きだした。即興へすぐ身を翻す。
 アップテンポで三人が疾走した。
 でも最期は、ふわりとエンディングへ。

 ジングル挟んだ最期は、翠川の"May 3rd"。ピアノの響きが空気を引き締める。
 テーマはバイオリンとチェロがからむさまもくっきりと。ピアノが後半から加わり高まった。
 ぐしゃぐしゃのインプロ。トリオが密度あげて混ざり合う。てんでに無闇な音を出し合うのでなく、互いの音を縫うように。
 
 いつの間にかバイオリンが前へ出てきた。黒田は音の間隔をあけた打ち鳴らしから、速いフレーズに切り替える。
 二人のダイナミズムがフォルテからピアノへ替わるころ。翠川の音が、そっと浮かび上がった。

 ストイックにバイオリンのソロを。ピアノとチェロは音を減らし、太田を強調した。
 次の場面で、重厚なチェロの長いボウイングとピアノの和音で、じわじわ迫り来る響きの緊張感も良い。

 残念なことに終盤でDJの声がかぶってしまう。この曲こそ、最期のフレーズが肝なのに。
 ともあれ、全体的には味わい深い放送音源。
 
 テンポも展開も自由自在。三人が重心軽く即興を操るさまが堪能できる音源。ユーモア溢れるライブの様子を味わえる点でも貴重だ。
 未放送分もあわせた音盤化を期待したい。いつの日か、きっと。

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