Review of Merzdiscs 40/50
Music For TREU ROMANCE Vol.1
Composed & mixed by MA
MA plays tapes,electronics,disks
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio May 1992-93
「TREU ROMANCE」とは秋田昌美がBARA(のちにメルツバウのメンバーになる)と組んだパフォーマンス・ユニットの名前。
本作はそのパフォーマンス・ビデオ用に作成された作品らしい。
1~4曲目がその作品にあたり、92年に録音された。音源を創っているのは、すべて秋田昌美一人。
5曲目は京都で93年に行われたパフォーマンス「Isis
and Secret Army Hyper Vivisection at Moma」のイベント用の曲。
「Injurrd Emperial Soldiers」とは、第二次世界大戦後の東京がイメージ元とか。
いったいどんなパフォーマンスだったんだろう。音を聴いてもいまいち想像できない。
作品自体は音構造がシンプルだから、とても聴きやすい作品になってる。
もっとも強烈なノイズを期待すると、かなり物足りない。
メルツバウにしては、異色な作品といえる。
<曲目紹介>
1.Treu Romance Theme (3:52)
スネアの重厚なロールによる、オーソドックスなオープニング。サンプリングかな?
いつまでたってもロールが続き、メロディが登場しないところがおかしい。
何も知らずにこの曲聴いたら「レコードの針が飛んでるんじゃ?」って不安になりそう。
3分ほどひたすら続いたロールに、ようやくフィルター・ノイズが滑り込む。
なのに特に盛り上がるでもなく、あっさりと幕。
あまりにもシンプル。なんだかさわやかなアレンジだな。
2.Mystic Cave (2:27)
けたたましく吹き鳴らす笛が数本。ビートは大太鼓がつとめるが、それぞれ微妙にリズムがずれて違和感をかもし出す。
これもサンプリングかな。
別にメロディは展開するでもなく、執拗に繰り返される。
前曲といいこの曲といい、ノイズっぽさがほとんどない。
3.She Floating-Preparation
(15:43)
ようやくメルツバウらしいノイズが登場した。
ふるふる揺れる電子音が数本、絡み合う。
自己主張は少なめで、ほとんど音の変化がない。音像をぺたっと塗りつぶすにとどまった。
この音楽はパフォーマンスと一体になって、初めて成立するんだろうか。
わずかな変化点を探す聴き方になってしまう。
次第にノイズは激しくなり、自己主張を始めた。びりびりと空気を震わせ、降り注ぐ。
3種類のノイズが重なってるかな。左右のチャンネルはくっきり分かれ、対話してるかのようだ。
うねりが起こる。埋め尽くし、覆って行く。
8分になる直前。一気に音像が激しさを増した。
サイレンのように重苦しく吼える。
ノイズの布に身体が包まれ、浮び上がった。
回転数を上げたかのように、ぐうっと収斂する瞬間が快感だ。
なんだか躁状態のガムランを聴いてる気にもなった。
終盤でまた音像が変わり、サンプリングされたフレーズにノイズがかぶさる構図が幾度も繰り返される。
ここから発展しないで終っちゃう。サントラだからしかたないの?
4.She Mutilation-Main Ritual (15:17)
一曲めで提示されたスネアのロールが再び登場。
ただし今回は、いきなり電子音がかぶせられた。
ドラム・ロールよりもノイズ成分が多くなり、ドラマティックに高まっていく。盛り上がりがプログレっぽい。
ノイジーさはあるものの、オーケストラの音像がそこかしこに覗ける。
ある部分ではくっきり提示すらされた。
コラージュ要素を前面に出した曲。しかもかなりポップに。
メルツバウ名義でこの手の演奏するなんて、すごく異様だ。
聴きやすくはあるものの、心に突き刺さるスリルは希薄なのが残念。
5.Injurrd Emperial Soldiers Marching Song
(22:29)
ダブ風にノイズと男性コーラスのミックスから開始。。
歌声はかなり変調されて「響き」だけを強調している。
これまたテクノっぽく、聴きやすい仕上がり。
唐突に演歌に切り替わり、再びノイズの池へ沈めた。
ぐしゃぐしゃに捻じ曲げてるとはいえ、演歌のフレーズがひたすら繰り返される音像は辛い。ぼくが演歌って苦手なせいもある。
日本を強調するのに、この空気感が似合ってると思ったんだろうな。
8分近くなったところで、ようやくノイズが前面に出る。つい、ホッとしちゃった。
しかーし。依然として右チャンネルで演歌がしぶとく生き残る。
ノイズで叩き潰そうとしても、そう簡単には息の根を止められないようだ。
諦めたか場面ががらりと変換。こんどは古い歌謡曲・・・かな?
微妙にリズムを変調させた一部分をループさせる。
ノイズのブレイクをはさみ、テープの早回しを多用したコラージュを聴かせる。
初期メルツバウを髣髴とさせる作品だ。ルーツを再確認したくなったのか。