Review of Merzdiscs  38/50

Hannover Cloud

Composed & performed by MA
MA plays Noise electronics,metals,tapes
Recorded & mixed at ZSF Produkt in 1990

 本CDは当時メルツバウが発表した作品のアウトテイク集。
 (1)、(2)は90年にドイツのDOMから発売した"Hannover Interruption"セッション(?)時のアウトテイク。
 (3)は"Cloud Cock OO Groud"の時、(4)は"Cloud Cock OO Groud"の別リミックスだという。
 ライナーでは(2)にメルツバウの"Sadomasochismo"(1985)音素材として使ってるそう。

 メルツバウはあくまで瞬間芸術であり、ノイズを出し始めた時から創作が始まり、音を止めた時に作品が完結する・・・とシンプルに考えていたので意外だった。
 アルバムで発表された以外にも、こうした別テイクがいろいろあるんだ。

 たとえば"Hannover Interruption"。本盤を未聴なので、どういう選択基準で秋田昌美がOKテイクを選んだかは判断できない。
 本盤を聴いても、クオリティ的に決して劣ってないし。
 たぶん、彼自身のなかでいくつか合格ラインがあるんだろう。

 じっくり聴くと、表情の違う作品群だとわかるけど。
 ぼおっと流してると、埋め尽くすハーシュノイズに翻弄される、素敵な一枚。

<曲目紹介>

1.Magnetic Void
(20:35)

 しょっぱなからトップギアのハーシュノイズが炸裂した。爽快に電子音が荒れ狂う。
 途中で一息つく気配を見せるも、すぐさま猛スピードの高音が噴出。
 シンプルな編成ながら、こういう緊張感あるノイズは大好きだ。

 大幅な展開はなく、ひとつのノイズが重なり合い変容する。
 複数の音が同時発生で立ち上がり、絡み合い表情を変え、ふと気がつくと違う音色の騒音が自己主張をしてる作品。

 ずたずたに破壊された、電子の万華鏡をのぞいているみたい。
 どの瞬間を切り取っても作品として成立し、始めと終わりを決定するのはメルツバウの意思だけ。
 そういった濃い耳ざわりのノイズを堪能できる。

 たぶんステージで本曲を聴いていたら、音圧に溺れてたろう。
 だけど家のスピーカーで聴くと、不思議とリラックスできる。
 ボリュームを好きに調整できるから。

 以前にも書いたが、ぼくのノイズの聴き方は邪道なはず。
 豪音で音圧を楽しまず、小さめの音で音色の変容を味わうから。
 でも、この楽しみ方はやめられない。

 複雑で魅力的な音の変貌を、スピーカーの前でゆったり聞いていると。
 とても暴力的かつ圧倒的な音なのに、すばらしく微妙な味わいを秘めているのを実感できる。

 終る寸前で唐突に登場する、重低音もかっこいいな。
 エンディングはかなり音数が少なくなり、すぱっとカットアウト。

2.Rocket Bomber (15:17)

 ドラム・ソロにメタル・パーカッションなどを重ねたサウンドから始まった。
 低音を強調するあまり音像がひしゃげ、打音が爆発みたい。
 
 一息ついて登場するのは、男の叫び声。鈍い電子音の海に身体を浸し、わめき散らす。これは秋田昌美の声?違う気もするけど・・・。
 声は変調され電子音と一体化し、分厚い金属製ベールの奥でむなしく声が溶ける。
 おもむろに唸りを上げる風切り音。スリリングなアレンジだな。

 前曲同様、特にクライマックスを作らず、不定形な多層ノイズの変貌を楽しむ作品だ。
 比較的左右のチャンネルにくっきり分離された電子音が、まるで超高速のコール&レスポンスを繰り返してるみたい。

 あえてセンターには定位を避けたのか。
 すぽっと不安な空間が作られ、スピーカーの前にずたずたにささくれだった鉄アレイ風の音像が浮び上がる。

 指を伸ばさなければ、このノイズに興味を持たなければ。なんら傷つかずにこの場を去れるだろう。
 でも、ひとたび興味を持ったらもう逃げられない。
 おそるおそる近づいて、じっくり鋭い切っ先の輝きを楽しみたくなってしまう。

 10分前後経過したところで、いったん音像がオフ気味にミックスされる。
 安全地帯に逃げ切れたのか。
 とはいえ、そこここで切り裂き音が生々しく響くばかり。
 足場がどんどん食いつぶされてゆく。

 数分後には・・・ほら。もう目の前で激しく蠢いてる・・・。

3.Untitled Cock (6:13)

 ゆらゆら震えるドローン。ビニールらしきものが綻む。
 ひしゃげきった音質だけど、微妙に音程感あり。
 ループじゃないな。細かくフレーズが変わってる。

 一瞬、コラージュ的に挿入され、再びドローン。
 しかしまたしても断続的にさまざまな音が顔を出す。
 早回しの映画フィルムを見ているようだ。もっとも、ストーリー性はまったくないけど。
 
 コンセプトを掴もうと、耳を傾けているうちに終ってしまう小品だ。
 6分強の時間じゃ、繰り返しのないサウンドを掴みきれないや。 

4.Autopussy Go No Go 2 (13:22)

 同タイトルの作品を7分から13分強まで引き伸ばした作品。いや、逆かな。これを編集したんだろうか。
 
 にぎやかにどっこんどっこん金属どもが跳ね回る。
 奔放に飛散する音群に、原初的なパワーを感じた。

 乱打ビートを刻む左チャンネルと、全てを塗りつぶそうとする右チャンネル。
 互いに役割が交錯することはあるものの、基調トーンは役割分担があるみたい。
 
 ホーン隊がファンキーにソロを取り合ってるようにも聴こえるな。
 ただし、ノイズに音程なし。音像は騒々しく、ひたすら圧迫感を振りかざし攻めてくるけど。

 当然、ビートはありゃしない。ノーリズムで、てんでに脈動を叩き込む。
 譜割りできない構成がいかしてる。

 たとえばどこかのバンドで、だれかがソロを取っている。
 そのソロパートからメロディや意味を全て剥ぎ取り、高揚するエッセンスだけを抽出した感じ。

 超高速な閃きを聴いてると、余分なムードを削ぎ落とした「音」と対峙してる自分がいる。

 エンディングは唐突そのもの。いきなり「終了」。まだ続きがあるんだろな。聴いてみたい。

Let`s go to the Cruel World