Review of Merzdiscs  36/50

Cloud Cock 00 Grand

Composed & Mixed by MA
MA plays tapes,Noise electronics,metals,distorted DBX,turntable,loops,bowed instruments,metal harp,short wave
Raiko A plays bowed instruments on 4
Recorded at ZSF Produkt during Oct 89 - Jan 90
Mixed at ZSF Produkt studio 17 April 90

 本作がmerzbowのキャリアにおいて転換点だ、と秋田昌美はブックレットで述懐する。
 レコーディングにDATを初めて使用し、音を作り出す機材も一新。
 この機材が、現在のエレクトロ・ノイズ化へ移行するきっかけとなったそうだ。

 なお、本盤と同じ機材を、89年9月にヨーロッパツアーをした際にも使った。(そのツアー時の音源が、本盤の4曲目に収録されている)

 基調はハーシュノイズながら、試行錯誤する中での各種アイディアをかたっぱしから詰め込んだ、断片の集成みたいな印象の作品。
 長時間かけて演奏(?)される曲すらも、どこか小品に聴こえる。

 本作は90年にZSFより500枚限定のCDとしてリリースされた。

<曲目紹介>

1.Brain Forest for Metal Acoustic Concret (23:37)


 メロディアスなノイズがパルス状にばら撒かれる。
 オーケストラかなにかのテープを、ごく短時間だけサンプリングしてぶちまけた感じもするなぁ。
 ぶすぶす音が突き刺さるが、決まったリズムはあえてはずしている。

 冒頭ではじんわりと奥底で低音を響かせ、賑やかにウワモノがはしゃぎつづける。
 躁のままで駆け抜けたハーシュノイズ。
 メルツバウにありがちな切迫感は控えめだ。

 6分ちょいで一度ブレイク。組曲を意識したのかな。
 電子ノイズのカットインは継続させつつ、さらに焦燥感が増している。
 メタル・パーカッションによって、幾分リズムが強調された。
 ダンスビートとは対極だが、メルツバウなりのノリが伝わる。

 9分経過。音像がまたかわった。
 テープ・コラージュっぽさを強調したみたい。
 音はくるくる早廻し。すでに意味を剥ぎ取られ、ひたすら「鳴って」いるだけ。

 左右のスピーカーを使って、ノイズ鳥がさえずり対話する。
 高速で鳴るノイズは、笛みたいにも聞こえた。
 そしてドローンが全てを塗りつぶし、場面転換。ここで14分ほどたっている。

 ハムノイズがぢりぢり唸った。何本かのノイズが多層的に身体を伸ばす。
 メルツバウお得意の、複数ノイズを混ぜ込むミックス技が冴えた。
 震える。震える。せわしなく脈動する電子音。
 いつのまにか太く一本にノイズが縒り合わされた。
 
 その大木を切り倒そうと、電動ノコが吼える。
 どっしり足を踏みしめた大木は、そう簡単に倒れやしない。
 一本だけでなく、何本も。電動ノコはさまざまな方向から削り始めた。
 
 削る音が周りに共鳴したか、ひっきりなしの地鳴り。
 木肌に刃が食い込み始めたか。音が拮抗してきた。
 腹に響く高音。もはや抵抗が難しいほど切り崩された。
 ねじり合わされた筋がぷちぷちはじけていく。

 はじける音がひっきりなしに・・・。
 かろやかに電子鳥が一鳴き。
 切り裂く音が次第に大きくなる。
 強く、強く吼えた。ついに突き抜けたか?
 そしてフェイドアウト。

2.Spimmozaamen (24:01)

 電子音を変調・加工させる、今のメルツバウに近い作品。
 だが、過去のコラージュ的な作風も残っている。
 過渡期の習作・・・と決め付けるのは乱暴か。
 そもそもメルツバウに習作も完成作品もありえず、音を出し終わった瞬間に全ての創作が完了だろう。

 音のねじり具合が、ところどころポップに聴こえる。
 前曲同様ダンスミュージックは意識してないはずなのに、5分くらいで聴こえる鼓動は、どこかテクノ的な響きがある。

 さまざまなテンポで吼える電子ノイズは、どこか微笑ましい。
 たとえそれがどんなに暴力的であってもね。
 びりびりスピーカーを震わせ、ノイズが頭の中を満たしてゆく。

 ぶっとく吼えつつも、14分過ぎで急速に収斂しカットアップする。
 あるノイズを継続させることで感じる心地よさもあるが、メルツバウは常に足を止めず、変化してゆく。
 執着しない、投げ捨てっぷりが魅力のひとつだ。

 断続ノイズがぐいぐい攻め立てるさまは、ヒップホップのスクラッチを意識してないかな。
 独特の活動を続けるメルツバウだが、DJとのバトルってのも面白そう。
  
 25分もの時間をかけた作品だが、統一性はさほどない。
 次々に浮かぶアイディアを片端からぶち込んだって感じだ。

 さまざまな要素を盛り込んだ前曲とは異なり、こちらではどこか一貫性がある。もうちょい短めに編集したら、濃さが強調されたのでは。

 ノイズの粘土をこねくり回し、いろんな形になってくところをビデオで撮影しつづけた感じと言いましょうか。
 ・・・音の変化をシンプルに例えてるつもりだけど、よけいわかりにくい説明だな、こりゃ。

3.Autopussy Go No Go (7:40)

 断続的にノイズが呼吸する。咳き込んでるみたい。
 複数の吐息がつんのめって、ポリリズムを作り出す。
 拮抗する歯軋り。ぶくぶくとあふれ、破片がちりばめられる。

 派手に音像が変化してゆくのではなく、変形するさまを舐めるように観察する作品だ。
 エンディング間近の混沌さが刺激的でいい。

4.Modular (15:12)

 エレキギターが豪音で吼える際の、なんともいえぬ快感。
 その美味しいところを、ハーシュノイズで再現したみたい。
 冒頭のサウンドから、ふっと連想した。

 ぶぢぶぢと地を這いながら、おもむろに巨体を持ち上げる。
 いわゆる耳ざわりな音色なのに、なんともウキウキした。
 
 比較的低音中心で、スピーカーに隙を残す。
 耳をすますと実にさまざまなノイズが絡み合って、この音像を作り出してるのがわかる。
 こういう多重録音による超多面系ノイズこそが、メルツバウの魅力だ。

 押しまくらず、時には身を沈めてメリハリがつけられている。
 リズムは特にない。ランダムなグルーヴに身を任せよう。 
 
 この曲のみ、ライブ音源。89年9月にオランダで行われた二箇所のライブをミックスしている。

5.Postfix (8:26)


 前曲から前触れ無しにいきなり雪崩れ込んだ。
 びりびり唸る豪音からスタート。

 しゅわしゅわしたノイズが駆け抜け、期待をあおる。
 金物が弾け飛ぶ。パチンコ球のポップコーン。やはりビートはないんだけど。 こうパーカッション風ノイズが多いと、ついリズムを取りたくなっちゃうな。

 シンセみたいな太い音やオルガンのような低音部など、耳ざわりのよい音色も後ろのほうで時折、小さくミックスされて幾分聴きやすい。
 ノイズの流れを掴み取ろうとスピーカーへ耳を傾けてるうちに、あっというまにエンディングを迎えてしまう。

Let`s go to the Cruel World