Review of Merzdiscs  35/50

SCUM - Steel CUM

Composed & Mixed by MA
MA plays guitar,drums,tapes,electronics,metal bowed instruments,feedback mixer,turntable,
Kiyoshi Mizutani plays drums and guitar on some parts
Recorded by various locations
Mixed at ZSF studio 1989

 ブックレットによれば、本音源は発表に到るまでさまざまな経緯があったようだ。
 元々は秋田がアメリカへ(本人の記憶によればサーストン・ムーアへ)送ったプロモーション用カセットを、発送した2年後勝手にアメリカでリリースされたらしい。

 ただ、そのEPの出来がよかったためメルツバウ公認盤にしたそうだ。
 ちなみに当時の発売元はVertical。レーベルは秋田のコラージュを使い、"Merzbow Steel Cum"と題された。

 本盤は、当時アメリカへ送った音源を元にした完全版。
 99年にZSFからリリースされた時は、たった21個しかカセットが作られなかったそうだ。

 音の触感こそちがうが、生演奏を前面に出したところとカットアップで音が切り替わるあたり、ザッパからの影響を強く感じた。

 ノイズにしては聴きやすい。メルツバウの入門編にいいかもしれないな。

<曲目紹介>

1.Mona (2:51)


 バンドのセッションを切り取ったような録音。
 ボ・ディドリーの同名曲は・・・多分意識してないだろう。

 ドラムが乱打され、ギターがエフェクターで歪んだ音を思い切り響かせる。
 録音そのものにもエフェクター処理がかけられ、幻想的なイメージが負荷されてはいるものの、かなり生々しい感じが残る。

 デスメタル風にがしがしひっぱたかれるドラミングから受ける印象が強いせいか、すこぶるわくわくする作品だ。

2.Great Nude Variation No.3 (5:57)

 そのままメドレー形式で前曲からつづく。
 メタリックな音が、ときおり揺らぎながらも分厚く鳴り続ける。

 ギターのエフェクターかな、これは・・・。
 電動ノコギリか、はたまたモーター音か。ピッチをさまざまに変え、うねうねとノイズが暴れる。
 
 基本は二種類のノイズ。その裏でもう1〜2種類のノイズがミックスされているかな。
 かなりシンプルな構成だ。二種類のノイズが対話をしてるみたい。
 エンディングは唐突なカットアウトだ。

3.Duck Exercise (17:14)

 この曲も、音色をわずかに変調されたドラミングがまず登場。
 カットアウトで叩き落されるまで、盛大に叩いていく。
 バックにはノイズがメインのバンドサウンド。ぐしゃぐしゃに歪んだ音は、隠し録りのブートみたい。

 風景が変わると、テープ・コラージュのような音像。
 エフェクターでめちゃくちゃ変調させているが、生生しいドラムの音がひっきりなしに顔を出す。

 リズムキープがメインのドラミングなのに、挿入されるノイズに幻惑されてえらくフリーな感じだ。

 ドラム演奏はけっこうパワフルだが、サウンド自体はすかすか気味。ちょっと物足りないかな。

 10分を経過したところで、やっとハーシュノイズ全開になる。メタル・パーカッションを擦り上げてるのかな。
 えらく耳ざわりな金属音が中心だ。
 しょっぱなからこのサウンドがぶちかまされてたら、もうちょい前向きにこのノイズを楽しめてたろうに。

 ギターノイズらしき音も、十数分くらいの時におもむろに喚き散らす。
 しかし、こう書いてみるとこの曲って、えらくロックバンドっぽい作品なんだな。

4.Blues in C Minor (24:23)

 ますますメルツバウの作品に似合わない、オーソドックスなタイトル。
 でもまあ、音の質感は期待を裏切らない。

 バズバズとノイズが唸る。複数のノイズが微妙に音程を持ち、コードっぽい響きを聞かせるのが面白い。
 ぼくの音楽知識では、どの和音かまではわかんないけど・・・。

 シンセっぽい電子音も加わり、うずうずもごもごとノイズが震えていく。
 じわじわっとうねるグルーヴで、ブルーズを表してるのかな。

 スペイシーなノイズは、びりびり低音を響かせる。
 音像が次第に激しさを増していき、叫びはじめた。

 唸る音は羽音かエンジン音か。いつしか豪音は消えうせ、水の中に体が沈み込んだ。
 ぶくぶくぶくぶく、何かが右斜め前で破裂している。
 先ほどの豪音は、左のほうへ遠ざかったようだ。

 そして・・・両方の音が次第に自己主張を強めて・・・再び前面へ踊り出た。
 もっとも、先ほどまでに激しくはない。どこか紗がかかっている。

 カットアップでいくつかの風景が切り替わる。
 なにか切羽詰っているようだ。
 
 メルツバウにしては、なぜか遠慮がち。
 ノイズ成分は過激さを秘めてるのに、ミックスがおとなしい。
 スピーカーの前に、分厚いカーテンを引いてしまったようだ。

 豪音が暴れまわっているが、どうやら安全地帯に身を置いているようだ。
 端々から染み出して、次第に侵食されてるようだけど・・・気のせいだよね。

 ハーシュノイズのパワーに耐えかねて、ところどころで目の前のカーテンがほころびを見せる。
 一歩。また一歩。だんだん音像が手を伸ばせば届くところに近づいてきた。

 咆哮が激しくなってきた。
 電子のロープで縛りつけようとしているが、たやすくは捕らえきれない。
 
 いつのまにか新しいカーテンが、さっと目の前に引かれた。
 落着いて、窓の向こうで繰り広げられる捕縛の格闘を楽しみましょう。
 どんなに激しくなっても、ここは安全地帯です。

 バリヤーの磨耗も激しく、補修も間に合いそうにないけれど。
 大丈夫、大丈夫・・・。

 ・・・・たぶん、ね。 

5.Body (6:09)

 前曲からメドレーで、いきなりこの曲へ切り替わる。
 キイキイ軋む音が、ノイズのドローンから浮かんでいく。
 なぜこの部分だけ「BODY」名義で別曲扱いへしたのかは謎。

 どこで初めて、どこで終わるか。ノイズ作品は特に、作り手の意思次第のところがあるからなぁ。

 いちど秋田昌美が一曲一曲聞きつつ、それぞれの曲意図を話すようなインタビューを読んでみたい。
 PCで音像を即興的に変える現在のメルツバウではなく、テープ編集でミキシングをしていたであろうこの頃の作品なら、かなり意識的に作品作りをしてたと思うのだが。

 催眠的に響く電子音の奔流に身を任せていると、うっとりしてくる。
 豪音で聴いて音像に振り回されるもよし、小さい音で夢うつつを味わうもよし。
 アンプの音量をいじるだけで楽しめる、美味しい作品だ。

 4分20秒経過あたりで始まる、音の壁も爽快だ。
 クサビなんか跳ね返して、轟然と胸を張ってノイズは立ち尽くす。

Let`s go to the Cruel World