Review of Merzdiscs  32/50

SCUM - Scissors for cutting Merzbow Vol.1

Composed & Mixed by MA
MA plays electronic,tapes,bowed instruments,percussion,metal junks,motor,piano wires,Noise generator,drums,guitar,radio
Recorded & Mixed MAY-December 1988 at ZSF Produkt

 このボックスセットで「SCUM」と名のつけられたCDが、ここから4枚に渡って続く。
 最初の2枚は、当時の2枚組LP「SCUM」を再構成したもの。
 オリジナルLPの「SCUM」は、500枚限定で89年にリリースされた。
 けっきょく「SCUM」がZSFからの最後のアナログ盤になったそうだ。

 初期メルツバウでのパートナー的存在の水谷聖と秋田がスタジオで録音した、さまざまな音源の再編集が「SCUM」のコンセプト。
 ちなみに今回のリイシューにあたり、オリジナル・マスターからリマスターさている。
 本CDでの初発音源は2〜5まで。
 あとの曲が当時のアルバムに収録されていたものになる。

 バラエティ豊かなノイズが楽しめるうえに、聴きやすい作品がつまっている。
 長時間かけてメルツバウに脳みそをすりつぶされる快感を味わうには物足りないが、音響系を好きな人がノイズに足を踏み入れるにはちょうどいい盤かもしれない。

<曲目紹介>

1.Cockchola
(12:54)

 ぶわっとはじける金属音でスタート。
 タイトルは辞書にのっていない。もしかしたらコカ・コーラのもじりかな。
 ビート感は希薄な音像で、電動鋸をエコーたっぷりな環境にほおりこんだみたい。

 さまざまなノイズをミックスし複雑な音世界をつくっているから、聴いてて退屈しない。
 メルツバウの編集センスはあいかわらず見事だ。
 いつのまにかサウンドは変化し、次の音に移っていく。
 ときおり「ぶちっ」と鳴るスクラッチ・ノイズはわざとかな・・・。

 ただ、なぜか聴いてて切迫感が欠けた気がする。
 ぼくがメルツバウのノイズに慣れてしまったせいか。
 騒音ではあるものの、スペイシーなインダストリアル・ノイズの作品として冷静に聴いてしまった。 

 最後ははや回しのオーケストラの録音(たぶん)を、シンセサイザー風に響かせて終わる。

2.Extract 1 (4:21)

 前曲からメドレー形式で続く。
 交響曲の音源をはや回ししているみたいな音だ。
 しかも、複数の音源を重ねている。
 
 逼迫した幻想感をイメージさせたいのだろうか。
 耳に突き刺さる刺激音じゃない分、心静かに聴けるが。
 えんえん聴いてると、どうも焦燥感にかられる。
 足元の床が、じんわり溶け出していくようだ。

3.Extract 2 (5:48)

 切れ目なく2曲目からつながるが、音像は変化する。
 基本的には電子音。いや、テープ操作かな。
 早回しや逆回転を駆使したノイズらしい。

 作品としてはそこそこ面白いが、メルツバウの名前を冠するにはちょっと軽い。
 ときおり現れる混沌としたノイズにドキッとするものの、全体的には聴きやすい音楽だ。

 終盤、4分を過ぎた頃からやっとメルツバウらしくなってくる。
 スピーカー全体から噴出すハーシュノイズ。暴れる金属音。
 でも、コラージュ感がぬぐえない。
 
 さまざまな音源をミックスしたことで、バラエティには富んでいるが秋田の視点を推測しづらくなってしまった。

4.Extract 3 (1:18)

 断続的に噴出す金属音。
 不穏な雰囲気がかっこいい作品だ。
 ところが、こういう期待をもたせる曲があっさり終わってしまう。
 もったいないなぁ。

 さまざまなノイズが縒られて収斂していきそうだったのに。

5.Extract 4 (5:59)

 音圧感には欠ける(小さい音で聴いてるせいもあるが)けれど、ほんのりと緊張感が浮かんでくる。
 ただし展開は期待ほど強烈に盛り上がらない。
 金属製の粘土をゆっくりこねまぜ、形を作り上げていく。

 中盤で噴出す鋼鉄のシャワーといい、カットアップで切り落とす潔さといい。
 とんでもない傑作ノイズになるアイディアを色々秘めている。
 なのに未発表で終わらせたところを見ると、いろいろこねまわすよりもあっさりと作品を作り上げたかったのだろうか。

6.Kinetic Environment (11:46)

 タイトルを直訳すれば「運動の環境」。
 電気ノイズが加速され、走り始める。
 音から浮かぶイメージは、自動車レースの実況音。
 複数の回転音が高まって重なり合い、微妙なグルーヴを作り出す。

 あまりにも高速すぎてダンスミュージックにはならないけど、これを大音響で流すフロアに居合わせたら気持ちいいだろうな。
 
 いつのまにか低音部分が切り捨てられ、ふわりと浮び上がる。
 基調になるのは、ハムノイズ。
 ちょっと視線が上に浮かび、ぱちぱちはじけて転がっていく。

 もちろん軽いままでは終わらない。
 ぐいぐいノイズが収斂し、激しさを増してきた。
 断続的に音のかけらをつなぎ合わせていく。

 ベースになるのは「回転」。さまざまな周期でぐるぐる脈動する素材を、かたっぱしからつなぎ合わせる。
 だからこそ9分過ぎから始まる、ミニマルで静かな音像がいとおしい。
 もちろん、そのあとに始まる豪音込みでの話だ。

 静寂と破裂。異なる要素をきちんと織り込んだ、ドラマティックな作品。

7.Yeah,But That Was Just Dyke Stuff Great Nude Variation No.2 (17:46)

 何かの弦をこする音を素材にしてるのがわかる。
 バックを豪音で埋め尽くしてるものの、そこここで聴こえるパーカッションの音も日常っぽい。

 この盤のなかで、もっとも親しみやすい素材のノイズを集めた作品だ。
 テープのコラージュも折込み、初期メルツバウの集大成作品といえるかもしれない。
 今のメルツバウはPCで豪音を作り出し、こういう元素材がわかるようなノイズはまず使わないし。
 
 中盤でサウンドはスペイシーに変わる。
 終盤に向かうにつれ、ハーシュノイズ風な要素が強まってきた。
 そしてオーラスは、断続的な騒音の咆哮できっちり幕を下ろす。

 さまざまな素材をテープ編集でいきなりつないでいるので、一曲全体の流れで見たら、そうとう脈絡のない変化っぷりだ。
 メルツバウの溢れるアイディアと多様さを、わかりやすく示した作品。

Let`s go to the Cruel World