Review of Merzdiscs 22/50
Sadomasochismo/The Lampinak
Composed&performed by Masami Akita
MA plays various metal percussion,chain,loops,Noise electronics,Synare
3,tapes
Recorded &mixed at ZSF Produkt Studio,Asagaya,1985
1〜3曲目は、85年にカセットでリリースされた「Sadomasochismo」の再発。
「Sadomasochismo」は(17)で紹介した「Agni Hotra」に続けて録音されたそう。
ちなみに「Sadomasochismo」のタイトルは、イタリアの本からとったとか。
86年にアメリカのRRRecordsから二枚組LPでリリースされた、「Batztoutai
with Memorial Gadgets」のアウトテイクとしても位置付けられる。
4〜6曲目は85年に、カセット「The Lampinak」として発表。
もとは当時のコンピレーション用音源だそう。
(85年にドイツでリリースされた、P16.D4とのスプリットLP用かな?)
タイトル「The Lampinak」は、「十字架」の古語から取られた。
ただでさえ個性的な曲が集まった二種類のアルバムを、強引に一枚へ押し込んだことにより、充実したCDになっている。
<曲目紹介>
1.Antimony pt.1
(10:30)
打ち鳴らされる金属音を幾層にも重ねた、多様なリズムの作品。
手触りはワイルド。びりびりつたわってくる。
そのメタル・パーカッションの合間を、電子ノイズがするりするりと這い回る。
一瞬、交差点か踏み切りの音かと錯覚する。
日常に、吸い込まれてしまう。
東京で暮してると、この程度の騒音は常にある。
騒音と音楽の違うところは、まず聴いて楽しいかどうか。
僕にとっては、このメルツバウのノイズは楽しく聴ける。
踏み切りの単調な音のほうが、よっぽど暴力的だ。
たぶんメルツバウは複雑な音成分だし、聴いてて飽きないからだろうけど。
2.Antimony pt.2 (13:05)
こんどはか細い笛の音に乗って、鋲まみれな金属製の蛇が、のた打ち回るかのような音。
ふらふら不安定に甲高い音が軋む。
その音に逆らうかのごとく、咆哮しながら「ノイズ蛇」は暴れる。
耳をつんざく金切り声が、絶え間なく続く曲。
金属ノイズは細い糸となり、次第に絡み合って太いワイヤーロープに変化した。
力任せに自分自身を振り回し始める。
迫力ある騒音は、聴いていると元気が出てくる。
フェイドアウトで終わってしまうのが残念。
すぱっとカットアウトしたら、余韻が残っていかしてるのに。
3.Eyes of Isonokami (11:44)
いくつかの金属音が重なり合っていく。
そこかしこで、爆発が始まった。
激しさや乱暴さは少ない。
遠慮がちに、次々小さな破裂を起こし崩れ落ちていく。
5分ほどその音がフラットにつづき、だんだん表情を変えていった。
沼のそこから吹き出るような、ぼこぼこ音が目立ちだす。
一度フェイドアウトして区切りをつけて見せた。
再び現れたノイズ群は、さらにオブラートがかった感触だ。
ときおり、全てを押しのけるかのように、ノイズがずるずるっと引きずられていく。
もどかしさがつのっていくのに、いつのまにかワクワクしてきた。
ノイズの一つ一つが聞き取れるほど、分離のいいミックスで。
メルツバウが騒音にまみれてダンスを踊っている。
妙にポップに聴こえる。
唐突に盛り上がり、消え去るエンディングがあっけない。
4.The Lampinak-Sarpent Power
(10:29)
しょっぱなから、分厚いノイズが前面に出る。
低音成分が重なり合い、ぶるぶる震えだす。
こんどは妙に不安感がつのってきた。
無秩序に重なり合う爆音が、狂おしく身をよじる。
一瞬たりとも停滞せずに、つぎつぎ噴出すさまは素晴らしくスリリング。
4分前後で、ちょっとブレイクあり。
声とパーカッションでそっけない空間を作り出し、ペースを切りかえる。
次の瞬間、再びノイズがスピーカーの中で荒れ始めた。
そのままエンディングまで突っ走る。
終盤でちょっと鳴る、レーザー・ガンみたいな太目の音色がキュート。
5.Cracass on the floor (4:35)
メタル・パーカッションの多重録音を芯に置き、周囲にノイズをかぶせた作品。
どんつっつっつ、どんつっつっつ、ってわかりやすいリズムなのに。
次第にもやもやした雰囲気になっていくあたりがおもしろい。
構成はそれほど凝っていない。
音の一つ一つを味わいながら聴いてると、ああっというまに終わってしまう一曲。
6.Village of 8 Graves
(4:30)
まずは金属の鳥がさえずり始める。
左右のチャンネルで会話を始めるうしろで、鋼鉄の風がやさしく吹く。
小鳥達の鳴き声は、だんだんにぎやかになっていく。悲鳴をあげ始めた。
ブレイクをはさみ、夢の中のみたいに混沌とした音像へ変化した。
お経のような声がバックで小さく流れ、不安をあおる。
怪談のBGMみたい。
鉄製の小鳥たちは、いつのまにか魂を抜かれたオブジェになり、平べったく溶け合っていく。
エコーがかさなりあい、空虚な風景のままエンディング。