Review of Merzdiscs  11/50

Expanded Music

Composed&performed by Masami Akita
MA plays TV test sygnal,feedback mixer,famaged tape recorder,Dr Rhythm,tapes,percussion
Recorded at Lowest Music&Arts,1982

except track 9
MA plays synthsizer,TV test sygnal,tapes,percussion,Dr Rhythm

 本作のコンセプトは、merzbookでの秋田本人のコメントによると、オーディオミキサーでフィードバックしたノイズを操作すること、だそう。Stan Brakhageの作品にインスパイアされたものらしい。
 
 (1)〜(8)までは1982年にLMAからカセットでリリースされている。
 いっぽう(9)は83年にLMAからの発表作品だが、同年にオーストラリアのProduktionレーベルからもリリースされている。
 そのときの作品名は「Music for Simulation World」だった。

 轟音の電子音がメインになっているけれど、微妙にポップなメロディを、そこかしこで聴きとったらしめたもの。
 いっきにこのアルバムが、親しみやすい物に変化する。

 長短の曲で各種のノイズ音を使い分け、さまざまな音世界を提示した、アイディアたっぷりの作品。

<曲目紹介>

1.Manipulation 1 (17:37)

 しょっぱなからコミカルな電子ノイズが現れてくる。
 ほとんど変化を見せずに、わずかに・・・わずかに揺らぎを見せる程度。
 呪術的なほどに、単調なパルスの繰り返しが続く。

 ところが7分前後で表情ががらりと変わる。
 音は洗濯機の中で脱水され、よぶんな贅肉がどんどんむしられてしまった。
 ふくらみのあった音色は、つぎつぎに先鋭化してスピーカーから飛び出し、突き刺さってくる。

 17分強と言う短い時間で、ちょっとしたテクノ版「天国と地獄」を感じさせる作品。
 まあ、冒頭部分のノイズを「天国」と感じられる人にとって、だけど・・・(苦笑)
 
 耳にノイズがさくっと飛び込んでくる瞬間が、なかなか快感だ。
 かなり人間みのないノイズを多用してるけど、今の耳で聞くとめちゃくちゃポップ。

2.Manipulation 2 (5:28)

 フェイドインして、前曲と同様のとがったノイズが登場。 
 まずは穏やかめにぶるぶる震えて、しだいに過激な盛り上がりを見せる。
 繭を突き破って、なにかの動物が現れてくるさまを、音で描写したみたいだ。

3.Manipulation 3 (6:36)

 どこかの教室での会話を収録したような、ノイズが唐突に流される。
 なにやら雑談をしているようだが、何重にも重ねられていて、何の会話をしているのかはわからない。
 この他愛のないおしゃべりこそが、真のノイズかもしれない。

 30秒ほどすると、実にさりげなくホワイトノイズが滑り込んでくる。
 ホワイトノイズは次第に存在を主張していき、会話というありふれた日常のノイズを飲み込んでいく。
 曲の後半ではテープの早回しの音を、まるで会話しているかのようにつなぎ合わせ、「日常会話によるノイズ」から「ノイズによる日常会話」への変化をあからさまに提示する。

 僕がこの曲で一番好きなのは、日常会話の後ろで、さらりとノイズが走り回っている、2分目あたりの瞬間。
 会話とノイズが溶け合って、さらなる「ノイズ」が出来上がっている。
 この雰囲気が、なんとも・・・おかしげだ。

4.Manipulation 4
(3:53)

 (3)から間をおかずに切り替わる。
 この曲では、ドローン的にホワイトノイズを一本、柱に立てて芯とする。
 その周りをさまざまなパルスのノイズが絡みつくイメージだ。
 からみつくノイズの太さはまちまち。
 ぶっといものもあれば、触れた瞬間に折れてしまいそうなものまで。
 あるときはそおっと、あるときはぐしゃっと、電子音がしがみついてくる。

5.Manipulation 5 (2:51)

 お次はけたたましい電子ノイズ。小さな檻の中で小動物が暴れてる感じかな。
 檻にかかったカギをはじけ飛ばしそうな勢いで、「ノイズ」はどったんばったん跳ね回ってみせる。
 しだいに動きは激しくなり、高まって・・・。

6.Manipulation 6 (2:15)

 いきなりテンションをピークに持っていったホワイトノイズの後ろで、鐘のような音がのどかにぽこん、ぽこんと鳴る。
 前面の激しいノイズに引っ張られて、時にせわしなく鳴るふりをしたりするけれど・・・やはりマイペース。ほのぼのと鳴る。
 カラン・・・カララン・・・。

7.Manipulation 7 (1:57)

 テープの早回しを使った音かな。
 猛スピードで回転しながら、掘り進もうとしている。
 数本のテープ・ノイズをミックスして、せわしなさをアピールしている。

8.Manipulation 8 (5:45)

 地を這う低音ノイズで、有終の美を飾る。
 (オリジナル・カセットの発表時は、本作が最後の曲)
 低音はドローンとして、上のほうでさまざまな電子ノイズが絡み合う。
 極端な音像の変化を見せないところは、ゆったりと余裕を感じてしまった。
 
9.M.F.S.W 1 (18:58)

 当初発表されたときのタイトルは「Music for Simulation World」。
 秋田はこの作品に、どんな意味を持たせたかったのだろう。
 電気パルス音をいくつも準備し、細切れに変化する音を何重にもミックスさせた音像は、そこにいろいろな意味を投影したくなる。

 まず耳を捉えるのが、ぶううんっと唸る低音。
 そこに、ぶるぶる震える電子音が舞い降りては、駆け上がっていく。
 アレンジの骨子は前曲と似ているが、本曲の方がずっと肉感的だ。
 
 ときたまふっとすべてのパルスがとまり、わずかにブレイクする瞬間がある。
 そのタイミングが、ぞくっとして悩ましい。
 メルツバウの音を聴いていると、埋め尽くされるノイズの壁に安心感を覚えてしまい、静寂にはものすごい違和感があるから。
 
 もう一つの聴き所はエンディング。
 だんだん音を絞っていって、きれいな終わり方を聴かせる。

 ふっと気がつくと変化している音像から、ドラマを読み取る切り口はいくらでもある。
 このノイズから、どんなストーリーを見つけ出そうかな。
 まだ僕は、ぴったりとしたイメージを、はっきり捕まえていやしない。

(00/11/5記)

Let`s go to the Cruel World