Guided
by Voices
"Brown Submarine" Boston Spaceships (2008:Guided By Voices
Inc.)
Bass,Bowed
Instruments,Guitar,Keyboards - Chris Slusarenko
Drums And Percussion - John
Moen
Vocals - Robert
Pollard
ツアーも行う継続性バンドとして、ボブがGbVのあとでついに立ち上げたのがBoston Spaceships。同月に開始した16公演の米ツアーに合わせ、発売された。
新バンドBoston
Spaceshipsにボブが組んだ相手はクリス・サルサレンコとジョン・モーエン。
クリスは03-04年と第一期GbV解散時のメンバー。GbVとゆかりの男だ。
本盤ではベースを軸に鍵盤やチェロなど多彩な楽器を弾いている。ボブとはユニットTakeoversも結成。本盤発売の08年時点で既にアルバム2枚をリリースしていた。トッドと別の人脈ルートとして、ボブが親しく音楽してたひとり。
本盤出る約半年前、さらにTakeoversのEP盤"Little
Green Onion
Man"も発表してる。ボブ的にはこのレコーディングが、バンド結成できるかの最終判断だったのかも。
いっぽうのジョンは、ボブと音盤的な交流ってBostonのみ。元はアメリカのインディバンドDecemberistsのドラマーだった。このバンドは日本語のWikiページすら2014時点で存在しない。日本盤も一応あるが、さほど日本で評価は無い。
しかし11年にはグラミー賞ノミネートされるほど、らしい。実はまだDecemberistsを聴いたことが無い。
ボブとの接点はTakeoversの2nd"Bad
Football"(2007)に参加から。
つまりTakeoversの2ndは実質的にBoston前夜となったのか。
なおBoston解散後にクリスもジョンも、ボブと接点は無いようだ。解散、ゆえか。
トリオで小回り効く編成を選んだボブだが、上記クレジットのようにライブ完全再現バンドで無く、多彩なクリスの才能を生かしたスタジオ重視の側面もある。
といいつつも本盤収録曲は全曲、初ツアーでライブ演奏された。5公演しかセットリスト記録が残ってないけれど、ボブにしては珍しくほぼ固定の曲順を基本にしてたようす。 なおBoston結成の顔見世ツアーではサポート・メンバーにTommy
Keene(g)とJason
Narducy(b)が加わり、クリスはギターに専念した。
話が飛び過ぎた。まず本盤。Bostonのデビュー盤だ。まずは明るく一曲づつ改めて聴いていく。
実を言うとぼくはリアルタイムだとBoston
SpaceshipsってGbVほどピンとこなかった。ボブの才能が今一つはじけない気がして。いかん、どうもBostonの話は盛り上げにくい。全てボブの曲なのに。
改めて聴き直すと、かなりポップな盤だと思う。1〜2分のエッセンス作曲手法で17曲を詰め込んだ。
<全曲感想>
1. Winston's Atomic Bird
シンプルなギターリフに歌い上げる高らかな歌声、GbVからボブの真骨頂。歌が入ると盛り立てるように鮮やかなギターのストロークが増し、さらに高めていく。
すかっと軽やかな音像は決してリバーブ強く無いのに、透明な空気を演出した。
途中で5拍子をはさみ、つんのめるノリで引っかけつつも前進するベクトルだ。
2.
Brown
Submarine
一転し穏やかなバラード。歌声のピッチがほんのりずれてるような印象を与える。
シンプルな3音のフレーズで重ねていく風を装い、最後に同じフレーズの連続で係留感を出した。
コーラスが入るところで、わずかなテンポ・アップを見せる。そしてチェロのゆったりしたオブリ。バンド・サウンド一辺倒で押さず、スタジオのつくりこみも本バンドの特徴だと、既に二曲目で予兆を伺わせる。
3. You Satisfy Me
シングルが切れそうな単純にしてキャッチーなリフのイントロ。甘酸っぱいサビのメロディでボブ節が炸裂する。ミドルテンポのロックンロール。バンドで映えそうだ。
3ピース・バンドのアレンジながら終盤でエコーをドップリまぶし、スタジオ的な小技の付与も見逃さない。
4. Ate It Twice
エレキとアコースティック気味のアレンジを交互に並べる。スキッフル風の古めかしいギター・リフはエレアコか。ギター数本に素直なベースとドラム。シンプルに突き進みそうに思わせて、終盤にエレキギターのオブリが加わり、演奏は厚みを増していく。
これもまた、一ひねりしたバンド・サウンド。
5. Two Girl Area
鮮やかなギターのリフと対照的にドライな響きのボーカルだ。ボブ風の一筆書きメロディだが、次々にポップな旋律をつなげることで多彩さを出した。
ギター・ソロ前に一瞬、編集点っぽい躓きを出し目先を変える。
エレキギターの炸裂するバンド・サウンドだが力押しではない。小さくミックスされた手拍子っぽいパーカッションの味付けも含めて、丁寧なアレンジが施されている。
6. North 11 AM
さて今度はバラードの盤。アルペジオとストロークのシンプル二本重ねでじわじわと盛り上げた。
ライブではツアー前半のみ演奏された。記録に残ってる限りだと、二回だけ。
大サビの甘やかな瞬間が好きだ。しかしそのまま続けず、するっと手の先から消えてしまう。贅沢な作りの曲だな。
7.
Zero Fix
がっつり力押しのパワー・ロック。歌声に覆いかぶさる歪んだギターの大群に負けず、ボーカルはしっかり分離したミックスになっている。
メロディ的にはけっこう単純ながら、中盤の絞り出す奇妙なシャウトも含めて歌声のアプローチを色々と盛り込んだ。
終盤の同じフレーズが転調しながら力強く舞い上がるところが、特に聴きもの。
8. Psych Threat
この曲はキャッチーで発売当時から好き。B面1曲めに当たるため、CDだとアップが2曲続く構成になる。うねうねとまとわりつくメロディを紡ぐのがボブな一方で、ごく短いフレーズで耳をわしづかみにする点も、ボブのもう一つの魅力。その典型が、この曲。
二周目に入りフランジャー効かせたシュワシュワっぷりからストリングスをブレイクに、がらがらと曲は多彩な表情を魅せた。
2分前後の短い曲が詰まった本盤で、唯一4分近い(ボブにしては)長尺の曲。数音のみのギター・ソロは思い切り歪んだ音色で鳴り、じわじわと音数を増やしてく。
9. Andy
Playboy
これも耳に残った曲。バスドラの乾いた響きが心地良い。残響の少なめなシンバルと素敵な対比を聴かせる。
ポップなメロディが堂々と正面を張り、クールで軽やかなバンド・サウンドだ。
最後のリフだけで一曲持たせられたろうに、3小節で終わってしまう。贅沢なボブ。
10. Rat Trap
B面はアップテンポで次々と押した。ほんのりローファイな歌声にエレアコのストロークは、(4)に対応するかのよう。ただしムードはがっつりロックンロール。
平歌が所々、コードにハマらない浮遊感を出した。
スキャットはツェッペリンを連想した。アレンジはハードロックでもブルーズでもないけれど。
ひそかに鍵盤が厚みを施した。
11. Soggy Beavers
3ピースなアレンジだけど、印象は弾き語り。こうして聴き進めると、本盤のドラムは曲によって音色をガラガラ変えてると思う。
ベースが野太く芯のしっかりした味わいで押してるのと対照的だ。
メロディは一筆書きっぽく、最後もあっけない終わり方。
12. Ready To Pop
サビで優雅に上下するメロディが印象的な曲。しゃっきりしたリフに高音ボーカル。(1)と似たアプローチだが、本盤は強烈にドライでハイ強調だ。
ベースとスネアが打点一緒なリフは、サビで優雅に分かれてグルーヴを出した。サビ後のメロディアスなベースのオブリから、キャッチーなコーラス加わり切なく盛り上がる名曲。
トランペット風シンセの追加でわくわくする高まりを出した。そしてベースは駈けていく。
13. Still In Rome
せっかく盛り上がったとこで、エレキギターの弾き語り風なイントロ。ボブの趣味か、本盤はくるくると表情変える曲順で、アルバムに雑多さを出した。
ちなみに場面ごとにギターが次々足される。フォークからサイケに、落ち着きなく楽曲イメージを変えるアレンジだ。中盤でストリングスまで。
記録に残ってるだけで5回、つまり全ての記録ありセットリストで本曲は演奏されている。つまり本バンドの重要曲の一つとボブが位置づけたと思わせる。
14. Go For The Exit
"Suitcase 1"(2000)で発掘の"Go For
The
Answers"が元、と言われている。というか、メロディがそっくり。ボブは曲を作りっぱなしと思ってたが、時にこのような丁寧なデモ音源の玉成を行う。
ギターの弾き語りでシンプルなアレンジがもどかしい。それこそこの曲こそ、賑やかな3ピース・アレンジでハマったろうに。
・・・で、しっかり中盤で夢がかなう。2コーラス目からバンドが加わる。一瞬のマッチポンプ。