今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

ON THE STREET CORNER 3/山下達郎(1999:MOON/WARNER)

 山下達郎の新譜は得意のアカペラ集。つまり自分自身の歌声にとことんこだわって作った企画アルバム。タイトルが示すとおり、これが三作目になる(1993年の「シーズンズ・グリーティングス」もこれと同様のコンセプトを持った姉妹アルバムだけど)。前作の「2」のリリースは13年前にもさかのぼる。まさに待ちに待ったアルバムだといえる。

 もともと僕がアメリカンポップスに興味を持って、ずぶずぶはまっていった原因の一つは、間違いなく山下達郎のラジオ番組「サウンド・ストリート」を聞いてたおかげ。特に僕が高校1年の頃にやった、フォーシーズンズや、ジェイムズ・ブラウンの特集は今でも強烈に印象に残ってる。
 そしてなんといっても黒人音楽。ソウルにファンクにもちろんドゥ・ワップ。
 当時、ラジオから聞こえる、ぼそぼそ声の達郎のDJは僕の記憶にくっきり刻まれてる。「この曲は78年にアメリカのブラック・チャートで128位までしかあがらなかったけど、僕の大好きな曲です」ってな感じで紹介した曲が、どんなに魅力的に聞こえたことか。毎週、誰も知らない宝の山を探検してるような気分でラジオにかじりついてたっけ。
 さて、この通称「オンスト3」の感想だけど。ご本人もライナーノーツで書いてるとおり「有名無名を問わず、好きな曲・歌いたい曲を選んで」いるアルバムだ。「オンスト1」の頃は、アカペラ(ア・カペラとか表記されてたような気もするな)自体ほとんど知られていなかったから、無伴奏コーラス形式にとことんこだわっていたように思える。

 僕が「オンスト1」聞いたのは、多分86~7年くらい。もちろん、アカペラって言葉はこのアルバムで教わった。当時のライナーに「若干のパーカッションと手拍子、足踏みなどの他は、すべて私の声だけで創られています」と書いてあるのを読んで、達郎のアカペラに対する思い入れと、この形式を選択するにあたっての、強烈な意思表示を感じた記憶がある。
 でも「オンスト3」では、パーカッションはもちろんドラムループを使った曲まである。アカペラはあくまですばらしい音楽を作るための手段のひとつ。大切なのはいかに今の時代にマッチしてとびきり素敵に聞こえるか。だけど一番重要なのは、この歌を歌いたいから、って気持ちかなって、想像しながら僕はこのアルバムを聞いた。
 ちなみに先にも述べたとおり、僕にとって山下達郎は僕の知らないオールディーズを次々紹介してくれる人だった。ラジオでしゃべる話題(とくに大瀧詠一と正月に対談してる時なんか)は、さっぱり内容がわからず、すこしでもついていこうと色んな音楽を聞きあさってみた。その甲斐あってか、高校の時に比べりゃ今の僕は多少は音楽の知識がついてきたかと思う。
 んで、何をいいたいかというと。このアルバムは12曲中11曲がアメリカのドゥワップやロックンロールやソウルやジャズのカバー。そのうち何曲僕がすでに知ってたか。このアルバムが出る時、せめて8割くらいは僕が知ってる曲を達郎が選曲してて「ふうん。この曲選んだのか。なるほど、いいセンスしてるなぁ」なんて、えらそうに気取ってみたいなって考えてた。
 さて、結果は。僕が知ってたのが11曲中6曲。まだまだ世の中には僕が聞いたことない、いい音楽が山ほどあることが、あらためて再認識できた。音楽を聴くのがますます楽しみになってきた。
 おっと、肝心の歌声の感想を書くのを忘れてた。
 でも、僕は達郎の大ファンだからな。トリッキーなアレンジ無しで、真正面からのハミングとドゥワップスタイル。バックコーラスはハーモニーにこだわって
シンプルそのもの。ブレスの位置も、音程も、そしてもちろんタイミングも。かっちりと自分自身の声をコントロールできるだけのテクニックを前提条件として、バックコーラスを固めた上でリードボーカルで歌い上げる。悪いわけがない。すばらしいアルバムです。

MIDNIGHT VOLTURES/BECK(1999:GEFFEN)

 去年に肩の力を抜いたふりをしたアルバム「ミューテイションズ」がでてるけど、あれは番外編扱いになるらしい、本人的には。あくまでこのアルバムの位置付けは「オーディレイ」(1996)の次にお披露目するものだそうだ。
 「オーディレイ」は僕の中では1990年代、いや20世紀を代表する傑作アルバムの一枚、といっても過言でないほど大好きなアルバム。アメリカ音楽を基調にさまざまな要素をぐちゃっと混ぜ合わせていて、なおかつノイズとポップの微妙なバランスのハードルをも、軽く飛び越えて見せたていた。
 だからこそ、僕はこのアルバムのリリースを心待ちにしてた。
 ところが、なんか勝手が違う。もっとヘビーに、もっと極端に、もっとめちゃくちゃな世界にいくかと想像してただけに、肩透かしを食らった感じ。
 前にこのアルバムからのシングル「セックス・ロウズ」を紹介したが、あの曲のようなポップ大会ってわけでもない。印象に残るのはシンセサイザーのピコピコ音と、しゃくりあげるベックの甲高いヴォーカルだ。
 音的には「オーディレイ」を発展させた、さまざまな音楽の要素をサンプリングして混ぜ合わせ、別の形を提示したフランケンシュタイン・サウンド。「オーディレイ」ではブラジル音楽に興味を示してたけど、今回は7曲目なんかでガムランっぽいところを感じた。ますますベックの音楽的興味が広がっているのかな。
 つぎはぎして崩れそうなところを、しっかりベックの才能ががっちり糊付けしてるところは期待を裏切らない。最初に「ルーザー」でベックを聞いたときは、ヒップホップとブルースを結い上げてたけど、その音楽編物の腕は間違いなく上達してる。
 でも、この違和感はなんなんだろう。単純に考えれば、僕の耳がまだこのアルバムを理解できてないだけだ。どの雑誌をみても、絶賛の嵐だからね。
 マスタリングが、僕のステレオにあってないんだろか。なんか低音が軽くてうすっぺらいアルバムに聞こえちゃう。
 ここで紹介したくて、何度も聞き返してるけど。まだ僕にはこのアルバムを的確に捉えるキーワードを見つけ出していない。まあ、2~3回聞いただけで僕なんぞがスッと理解できるようなアルバムじゃ新鮮味がないとも言えるけど。
 いまのところ、僕の第一印象は「小粒な迷いのあるアルバム」ってとこかな。1、3、10、11曲目あたりに代表される耳障りのいいポップさをとことん追求するか、2、6、8曲目あたりのリズムやアレンジが、あっというまにころころかわっていく、意外性を追求した音楽を推し進めるか。どっちにころんでも、とびきりの音楽が生まれるのは、ベックの才能からいって間違いない。ぼくとしては後者のほうが面白そうだけど。

PORNO AND CANDY/BAZOOKA JOE(1995:まぼろしの世界)

 ルインズ同様のドラム+ベースのデュオユニットのデビューアルバム。4年前にリリースされてたんだけど、当時入手しそびれて最近やっと入手した。プロデュュースはもちろんレーベル主催者の勝井祐二。一曲でバイオリンを弾いている。その他ゲストはラピス(フリクション)や高円寺百景。
 もっともサウンド的にはルインズほど複合リズムに拘泥せず、ロック的爽快感を志向している。ドタバタしつつも迫力あるドラムが激しいリズムをたたき出し、ひずみまくったベースがうなりをあげる。アバンギャルドなリズムはあまりなく、ハードロック風のリズムを選んだ曲がほとんどだ。ヴォーカルも歌詞は特になく、かけ声的なもの。ベースが歪みまくって、時にギター的なフレーズを聞かせるのも面白い。
 もこもこの録音がちょっと残念。確かに、くっきりシャープな音だと勢いがなくなるのは事実だけど、僕なんかは個々の音の流れを楽しみたいので、もどかしい面もある。 
 一番好きな曲は「DUMB-DUMB」。めちゃくちゃ勢いのあるポップな曲だ。しかし、これが特にもこもこ録音。ちょいとクリアなミックスを聞きたい人は「MAGAIBUTSU SAMPLER VOL.1」(1996:摩崖仏)をどうぞ。
 いまでも都内ライブハウス中心に活動してるはずなんだけど、次のリリースはないものかなあ。生演奏の楽しさは十分知りつつも、時間的にライブはなかなかいけないもんで。ついCDでリリースされたものを都合のいい時間に聞きたくなるから。

IMMOBILARITY/RAEKWON(1999:LOUD)
MANCHILD/SHYHEIM(1999:WU-TANG/PRIORITY)
THE LAST SHALL BE FIRST/SUNZ OF MAN(1998:RED ANT)

ニューヨークを拠点にするラップグループ、ウー・タンー・クラン関連のつるべ打ちアルバム攻撃は手を休める隙を見せない。以前この欄でインスペクター・デックを紹介したけど、その後も上の三枚がリリースされた。
 しかもこれ以外にメソッドマンとレッドマンのコラボアルバムやら、メソッドマンのリミックスアルバムやらもある。さらにさらに、U-ゴッドのソロアルバムとウー・シンジケートとゴーストフェイス・キラーの新譜が控えてるし。当分楽しめそうな雰囲気だ。
 まずレイクォンから。1995年以来になる二枚目のソロのはず。前作はウータン総帥RZAの全面バックアップのもと、ゴーストフェイスLラーをゲストに迎えてかっちりしたアルバムを聞かせてくれた。
 一方、今回のアルバムは独自路線。複数のプロデューサーを立てているが、ウー一派かどうかはよくわからない。ウータン一軍からは、メソッドマンとマスタ・キラが参加している。とっつきやすいメロディをそのまま持ってきたサンプリングでバックトラックを構成してるから、耳になじみやすいアルバムだ。

 シャイヒームは、僕が持ってるのは1994年の「THE RAGGD CHILD」。目ばっかりぎらぎらしてるけど、あどけない子供が精一杯気取ってラップをしてるアルバムだった。かっちりしたリズムトラックに甲高い声で一本調子でリズミカルなラップを披露している。ウータンがらみの5曲目では、重たく引きずったラップに挑戦してるけどね。
さて、今回のアルバムは総合プロデュースにRZAが就任。完全ウータン印でリリースされた。シャイヒームのラップはずっとドスがきいてきてる。バックトラックもそれほど重たくなく、派手なサンプリングがいっぱいできらびやかな印象あり。誰の声かよくわからないけど、複数のラッパーが大勢参加してる。シャイヒームの多重録音もあるみたいだけど。時に掛け合い、時にいっせいに喋りたてるのが、にぎやかでかっこいい。ただ、完全に計算やコントロールした上での掛け合いじゃないんで、微妙にリズムが狂う。そこが生々しい迫力を生み出してる。

 そしてサンズ・オブ・マン。アルバムがリリースされてたのは雑誌で見た記憶があるけど、これも当時手に入らず。先日たまたまCD屋で入手した。4人組でキラー・プリースト(ソロアルバム1枚あり)他が構成員。4thディサイプルやトゥルー・マスター、RZAらがプロデューサーで参加、ラッパー側ではウータンの一軍からメソッドマン、レイクォン、オル・ダーティ・バスタードらが参加して、みんなして盛り立てている。バックトラックは鉄製の毛布を引きずるような、けだるさが基調トーンだが、その上を緊張感がはりつめてる。
 会社に行くときにウォークマンで聞くと、元気が出てくる。歩きつかれて立ち止まりそうなとき、背中を軽く蹴っ飛ばしてくるアルバム。

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