今お気に入りのCD
最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。
RAVE un2 the JOY fantastic/The
Artist 4merly Known as Prince(1999:ARISTA)
元プリンスの新譜が登場。とはいえ、ここ最近はニュー・パワー・ジェネレーション名義やら、プロデュース作品やら、自身の未発表曲の編集盤やら。立て続けに公式発表されるから、久しぶり感はぜんぜんない。もっとも、やたらめったら録音してるらしい彼のこと。いまのリリースのペースですら、もどかしいのかもしれないが。いや、そうであって欲しい。レコード会社との契約関係が一段落した今、次から次へとザッパやサン・ラやPファンクやウータンのように、リリースしつづけて欲しいもの。彼のように次々に新境地を作り上げるタイプのミュージシャンの場合は特にね。
そもそもプリンスは悲劇のミュージシャンと思えて仕方ない。僕がリアルタイムで知ってるのは「パープルレイン」(1984)以降だから、その後の評判だけに限ってもいい。当時のプリンスは今から考えても絶頂期。出すアルバムがすべて革新的だった。もっともリリース直後はボロボロの評判。「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」(1985)は「古臭い」、「パレード」(1986)は「気取りすぎ」、「サイン・オブ・ザ・タイムズ」(1987)にいたっては「デモテープ集」とまでいわれた・・・はず。
当時の記事のスクラップは取ってないし、現在の定義では、この時代のプリンスは絶賛の嵐だから、「発売直後に悪評なんかなかった」と否定されてもしかたない。でも、すくなくとも僕は恥ずかしながら一聴後の印象は上記の通りだった。だからまるきり嘘の記憶じゃない。
そう、プリンスはリリースごとにぜんぜん違う音楽を提示しつづけてきた。他のミュージシャンは「いつもと同じ」音楽性のアルバムを出すことが評価され、違う音楽性に興味をしめすと非難を浴びるケースすらあるのに。
プリンスの場合、つねに前作以上の音楽性、さらに今まで誰も予想したことのない音楽の提示を求めつづけられてきた。もっとも、その期待に1988年頃までは答えつづけたところに、プリンスの圧倒的な才能がある。
ところが「バットマン」(1989)の頃(正確には「ブラックアルバム」の頃からと思うが)から、プリンスの歯車が狂い始めた。リリースされたアルバムは確かにキャッチーなメロディだった。けれどプリンス自身の音楽の再生産。そんな気がして仕方なかった。とはいえ天才はそんなことで埋もれたりはしない。
レコード会社と揉めていたせいとはいえ、1993年の頃からプリンスは地下に潜る。新曲を立て続けに並べたライブをひたすら続けたのだ。数多くの海賊盤がその当時の様子を伝えてくれる。その時期こそ、プリンズ自身が自らの音楽と、もう一度真剣に向き直った充電時期だったと僕は思っている。
そして満を持して「ゴールド・エクスペリアンス」(1995)からリリース攻勢が始まっていく。
もっともリリース量は多いが、80年代の頃と圧倒的に違うのは、耳にのこるキャッチーさ。これが絶対的に不足していた。最近のプリンスのアルバムを流していていても「あ、いいなー。これ」と聞いてる間は思うが、聞き終わった後に個々の曲の印象が残りづらい。そういう聞き方をしてる僕には、最近のプリンスは聞き手の頭へ強烈に残る曲を演奏するミュージシャンじゃなく、アルバム単位で聞く対象だった。
ところが、この「レイヴ〜」は違う。個々の曲がビンビン印象に残ってくる。
このCDは発売日にしっかり買ってたんだけど。どう評価したらいいかわからず、何度も何度も聞いている。タイトル曲のみ1988年(「ラブセクシー」の頃だ)に録音され、あとはすべてつい最近録音されたらしい。ということは、これが今のリアルタイムのプリンスなんだろう。
プリンスは、再度楽曲単位でのアルバム作り、ごった煮的な構成に魅力を感じてきたのかな。異様にポップな曲があるんで、1990年前後のチャート擦り寄り路線にまた興味を示してないかが不安だけど。リズム関係は生音と打ち込みが交錯し、シャープなギターのコードカッティングがある一方で、延々と伸びるギターソロも健在。
おまけに、録音もいい。僕は日本盤を買ったけど、3曲目のもこもこしてフレーズの読めないベース音が、ぐわっと耳に迫ってくるところなんかが最高だ。
このまま更なる高みに上がっていくのか、はたまた再度失速するのか。
評価は次のアルバムで・・・。そう。ニューアルバムが出たばっかりなのに、もう次のアルバムが僕は聞きたいんだよ。そういう意味で、気に入ったアルバムなんだけど、まだどこか物足りないところがあるのかな。
insenstive songwriter/Mark Nevin(1999:raresong)
1988年に「perfect」他でヒットを飛ばしたバンド、イギリス出身フェアグラウンド・アトラクションは、イギリス風フォークとアメリカン・ポップスの融合を巧みに成功させた。
親しみやすいメロディとエディ・リーダーのちょいとハスキーながらも曲全体をドライブさせる見事なヴォーカルで、僕の大好きなバンドだった。彼らのデビューアルバム「the
first of a million kisses」は今でも時たま聞き返したりする。
だけどフェアグラウンド自体は、アルバム一枚でおしくも解散(あと一枚編集ものがあるが)してしまった。幸いエディが定期的に活動してくれてるんで、
歌声は今でも新曲が聞けるけど。
一方フェアグラウンドでほぼすべての曲の作曲をしてたのが、このマーク・ネヴィン。グループ解散後、いろんな人に曲提供をしてたらしいけど、さすがにそこまで追っかけられていない。
マーク自身の名義としては、僕が知る限り1991年にsweetmouth名義で「goodbye
to songtown」をリリース(邦盤も出てた・・・とっくに廃盤だろうけど)以来のアルバムじゃないかな?
ギター・ベース・ドラム(ちなみにドラムは元フェアグラウンド仲間のロイ・ドッズ)の三人に、彩りとしてヴァイヴの4人組が基本セット。マーク自身の歌声はテクニックには素朴な感じで、静かにギターを爪弾きながらつぶやくように歌う。フェアグラウンド時代の強烈な躍動感は控えめで、たとえば6曲目なんかはヴォーカルの技術次第でびっくりするくらい表情が変わると思う。
だけど、飛び切りのメロディは忘れていない。大げさなアレンジ無しに、生音を中心としたシンプルな伴奏と訥々としたボーカルでも十分成立するのは、メロディが魅力的であってこそ。誠実なつくりのアルバムです。これからの季節、陽だまりをのんびり散歩しながら静かに耳に流すにはピッタリじゃないかな。
the childrens crusade/brainville(1999:simmy/ベル・アンティーク)
デイヴィッド・アレン(元ゴング:g)、ヒュー・ホッパー(元ソフト・マシーン:b)にピップ・パイル(dr)のトリオにクレイマーがプロデュースとエンジニアで加わり、テープ操作やノイズの色付けをしてるバンド。
99年夏に発売されてたんだけど、どこのレコード屋を探しても見つからず、気長に構えてたところに日本盤で入手することができた。運がいいんだか悪いんだか。
てっきりこのバンドはクレイマー主導の一時的ユニットかと思った。92年のデイヴィッドとのコラボレーションアルバム「who`s
afraid」からはじまる、クレイマーのカンタベリー・プログレ回帰。上記とあわせ、デイヴィッドと2枚、ヒューと2枚アルバムをつくってきたから、このブレインヴィルで総決算をするつもりかと。
だけど日本語のライナーをみてみると、それなりに継続的なグループとして結成されたらしい。ならば、飛び切りのバンドが生まれてこんなに嬉しいことはない。
ところが、そこはクレイマー。こういう期待は裏切りまくり。さっそくヒューとトラブルを起こしヒューから見限られ、ピップはデイヴィッドと決裂し。結局このアルバムが唯一のアルバムとなった。
さて。その貴重なアルバムの内容だけれども。即興中心に奏でられた演奏を、クレイマーがスタジオ内で構成した後に、散々好き勝手にテープ処理とオーヴァーダビングで汚しまくったって感じかな。カンタベリー系そのものは、僕はほとんど聞いてないから、そちらの文脈での的確なコメントはできないので、どうしてもクレイマーサイドからの聞き方をしてしまう。歪んだギターを弾きながら、甲高くさえずるデイヴィッドの歌声。しっかりと音楽をささえつつも、時に曲そのものを乱暴に振り回すヒューのベース。子供がおもちゃ箱をひっくり返すように、つぎからつぎへと小細工をいれて楽しませるクレイマー。
もこもこしたミックスも、幻想的な雰囲気をかもし出しててとってもよい。
だから、頼むよクレイマー。たまにはトラブル起こさずに、継続した活動をしてちょうだい。
MINIMAL STAR/TRAINS AND BOATS AND
PLANES(1993:cloudland)
このCDそのものを入手したのはかなり前。94〜5年くらいの頃だと思う。しばらく棚の奥に埋もれてたんだけど、クレイマー関係ということで聞きたくなり、引っ張り出してきた。
バンドの経歴的なことはさっぱりわからない。このCDは93年にクレイマーご用達のスタジオ、ノイズ・ニュージャージーにてクレイマー自身のプロデュースで録音された。ただそれだけの情報で手に取った一枚だった。
レコード会社はデンマークにあるらしい。もしかしたら、デンマークのバンドなのかも。バンドメンバーは5人組。ドラム・ベース・ギターにアコギとオルガンの構成。メンバーの女性一人、男性一人のツインボーカル体制で歌う。
音楽的にはいかにもクレイマー風だ。ふあふあした煙の中のようなミックスをされた音像の中で、ちゃきちゃきした高音と、マーチングバンド風の妙に礼儀正しいリズム隊が支える。歌のメロディは耳心地はいいがどこか頼りない。痙攣するような、しゃくりあげるような、不安定に甲高い声で歌う。その一方で、ぐしゃっとしたエレキギターが延々とソロを奏でる。
音を歪ませまくって混沌としてはいるけど、ポップスとノイズの境界線を、ぎりぎりでポップス側に踏みとどまってる。実にかっこいいアルバムだ。といっても、さわやかな屋外が似合う音楽じゃない。ちょいと病んだ室内音楽ってとこかな。こういう音楽を作らせたら、クレイマーの右に出るものはいない。こういうとっちらかった音が、僕のツボにはまるはまる。
REFUSAL FOSSIL/RUINS(1998:SKIN
GRAFT)
吉田達也率いるリズム・プログレユニットであるルインズ。これは1年前に出た旧譜で、95〜97年のスタジオ未発表曲と、1997/2/7に行われたライブの演奏(場所は高円寺にあるライブハウス、ショーボートから)をドッキングしたもの。このCDが発売されてたことはとっくに知ってたんだけど、マイナーレーベルからの発売でどこを探してもなく、先日ひょんな事でやっと入手した。
ルインズのメンバー構成は吉田(Dr)+ベースの双頭ユニットだ。このアルバムでは、3代目と4代目(現在)との演奏を収録している。
演奏的にはいつものルインズで最高だ。怒涛のドラムにメロディアスなベースが絡み、怪鳥ヴォーカルがつんざく。ころころリズムは自由自在に変化し、かっこいいことこの上なし。
ただ、録音が摩崖仏スタジオ(吉田氏の自宅)で取られており、曲によってはこもりまくりのちょいとしんどい音質で録音されている。クリアな音でも十分に、いや明瞭な音だから事伝わる魅力があることを「ヴレスト」(1998)で証明しただけに、音質的には少々残念。もっとも、頭を切り替えて「アヴァンギャルドはノイズと一体化してこそ華!」と考えれば、とびきりのミックスになるだろう。ようは、どこに価値観を置いて聞くかによるんだけどね。
ライブ収録の方はゲスト盛りだくさん。菊地成孔(SAX:元ティポグラフィカ)、山本精一(Gr:想いで波止場、ボアダムズ他)などが参加してルインズのストイックな演奏に華を添えている。音質的にはこっちもかなりこもったブート並みの音なのが残念。ぐしゃっとした音質の向こうに耳を傾けると、ゲストに流されることなく、けれども孤高の音楽を貫くでもなく、微妙にゲストに影響された演奏を聞かせる。
ルインズの代表作とはいえないけど、ファンなら耳にして損することはぜったいにない。・・・って、インディーズはリリースが多いからね。ファンならどんな代物でもたいがい購入しちゃうんだろうけど。
TOPANGA/COLIN HAY(1994:LEFT EYE)
80年代前半に、オーストラリアの音楽が全世界でもてはやされた時期があった。そのとき大ヒットを飛ばしたグループのひとつ、メン・アット・ワークのリーダーだったコリン・ヘイのソロアルバム。4枚目かな?いまいち情報がなく、あいまいな言い方でもうしわけない。
僕はメン・アット・ワークが当時から大好きで、かれらの2枚目のアルバム「カーゴ」(1983)は大傑作アルバムと信じてる。僕の「無人島にもってく10枚」には間違いなく入る一枚だ。
しかし流行ってのは残酷なもんで、リリースされてるのがわかってても、日本で需要がないのか、ぜんぜんコリンの輸入盤をおいていない。散々探しても見つからず、結局某ルートで手に入れた。
このアルバムのコリン自身の位置付けとしては、こんな感じかな。
メン・アット・ワーク(1981〜1986)解散後に「ルッキング・フォー・ジャック」(1987)をリリース。これは僕は未聴なんで、どんな音かはわからないけど。売上的にはたいしたことなかったらしい。
で、2作目の「ウエイファリング・サン」(1989)でヴァイオリンを導入したイギリストラッド風味のシンプルなバンドサウンドを披露するも、いまいち売れず。(でも、この2作目もいいアルバム。特に、1曲目のタイトルソングは疾走感が秀逸。軽やかなバイオリンがケルト風に曲の幕を開け、コリンが静かに歌い始める。ワンコーラス歌った後に、コリンの「oh
yeah!」の声を合図にバンドサウンドが弾けるアレンジが大好き)
ここで心機一転するつもりなのか、はたまた制作費をとことん削られたのか。次の3作目の「ピークス&ヴァリーズ」(1992)ではアコギの弾き語りメインの静かなアルバムだった。こいつは日本盤まで出た。僕はリリースされるなり購入して愛聴したけど、やっぱり売れなかった。
そして、この4枚目につながってるんじゃないかな。またもやバンドサウンドが復活してる。こんどはブルース・ヘイムズのオルガンを強調したアレンジがほとんど。今度はアメリカ南部あたりのクラブバンド風味を感じさせ、ちなみに前作「ピーク〜」から2曲を再演している。全体的な印象は、ちょっと落ち着いたって感じかな。軽やかなアレンジと低音をあんまり強調しないミックスにして、疾走感はそれほど執着してない。肩の力を抜いて、のんびりとした曲が多い。
ちょっと癖があるけれども、耳を引くメロディを持った曲がそろってる。嗄れ声で歌っていたかと思うと、突然裏声のように高く声を張り上げるコリンのヴォーカルも健在だ。コリンがいまいち売れない理由は、僕にはよくわからない。
地味で華がないのが悪いのかな?別に大観衆の前で、ストーンズみたいにギミックバリバリの計算され尽くした大きなステージが似合う音楽とも思えないけど。でも、いつでもCDが簡単に手に入るくらいには売れて欲しいもの。今でも現役で活動してるはずなのに、さっぱり店においてないもんなあ。