今お気に入りのCD

なんとなくジャズが聞きたくて、あれこれ買ってきましたよ。

Mr.板谷の思い出/明田川庄之 ソロ(1999:メタ花巻アケタ)

 西荻窪にあるジャズライブハウス「アケタの店」で1999年6月19日に録音された、深夜の明田川ソロライブをCD化したもの。明田川はオカリナやピアノを演奏している。
 このレーベルはアケタの店が主宰しているもので、原盤はもちろんパッケージまで自分のところで版下を管理し、盤はCD-Rで、オビや解説はカラープリンタで作成するというもの。
 要は、自分の店で行われた素晴らしい演奏を、流通やレコード会社の事情にふりまわされることなくゲリラ的に発表していく、というスタンスらしい。そのいさぎよさが、とてもかっこいい。
 とりあえず今年の11月に2枚発表されている。僕はネットサーフィンで偶然このレーベルの存在を知り、そのうち買おうと思ってたが、具体的には行動を起こさずにいた。でも偶然レコード屋で見つけることができ、いそいそ購入してきた。
 とはいえ、恥ずかしながら彼の演奏を聞くのは今回が初めて。演奏者にひかれて、というよりもCD発表のコンセプトが気に入って「どんなものか」の好奇心で購入したから。でも買った価値は十二分にあった。

 CDは物悲しいオカリナで始まる。ソロライブなのに、切れ目なくピアノに移行するのがなんとなく不思議。全体的にとても落ち着ける、ゆったりとした演奏だ。聞いていて、時にせつなくなるような雰囲気もある。たまに振り回されるパーカッションや、小さな音で聞こえる明田川の唸り声も、とびきりの音楽像をつくりあげる素敵なアクセントになっている。
 とにかく、やさしくおおらかなピアノがCDすべてにわたって聞けるのがいい。早いパッセージでも、決してテクニック一辺倒ではなく、どこかに温かみが残っている。
 僕が一番気に入ったのは6曲目。明田川は演奏の興にのるまま、リズムを変幻自在に変化させ、ゆらゆらとした世界を作り出す。あるときには心細く、あるときは荒々しく。そしていつしかリズムだけでなくメロディーもフリーになり、ついに収斂していく。圧倒的な演奏だ。
 全74分のボリュームもうれしい。いいなあ、この演奏。ライブを聞きに行きたいな。

渋やん/渋谷毅(1997:AKETA`s DISK/日本コロムビア)

 上のCDと同じく、アケタの店で1982年に録音された演奏だ。もっともこちらはライブ演奏ではなく、客入れ前にこつこつレコーディングしたものをあつめたらしい。こちらも渋谷毅のソロピアノだ。
 ジャズを踏まえた渋谷の世界が、しっかりと作られている。落ち着いて弾かれる安定したリズムとフレーズがほっとする。聞いているうちに、ゆったりと演奏にのめりこんでいく。ピアノが間を取るときの、時間感覚がとてもきもちいい。
 彼のCDは過去2枚聞いたことがあるし(「TAMASA」「酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図」)、渋さ知らズのイメージも強いもので、もっとエネルギッシュな演奏を想像していただけに、新たな一面を聞くことができてうれしい。上の明田川が切なさなら、この渋谷は寂しさを感じるなあ。
 9曲中2曲がオリジナル。もっともっとオリジナルを聞きたいな。

FDS/原田依幸・鈴木勲 1999 Orch.(1999:メタ花巻アケタ)

 上で紹介した明田川と同様に、CD−Rを駆使した画期的な販売方法の、新レーベル第一弾(上の明田川と、同時発売)だ。
 お恥ずかしながら、ここで演奏しているミュージシャンは、だれもかれも僕は名前をしらない。元・山下洋輔トリオの小山彰太(dr)くらいかな。
 ライナーノーツによれば、リーダー扱いの原田依幸(p)は本職が鳶で、月に一度くらいライブをやるのが、唯一の音楽活動らしい。ううむ。そのさりげない音楽へのこだわりとスタンスが素敵だ。
 さて。演奏のほうだ。フリージャズなのだが、どうもCDで演奏だけ聞いていると、いまいち魅力がストレートに伝わってこない。ライブの現場での空気の感触や、プレイヤーのかすかなアイコンタクトなどもわからないからかも。
 だから、ここ数日なんどもなんども聞き返した。そして、やっと魅力をわかりかけてきたので、紹介させていただく次第だ。

 このアルバムは全2曲。最初の1曲目はドラム・ベース・ピアノのトリオ編成。そして2曲目でKey、tb、as、ts、g、b-tbが合流してくる。
 原田のピアノは実にやさしい。あるときは繊細に、あるときは大胆にフレーズを奏でるが、常にやさしく鍵盤を叩いているようだ。ころころと音が転がり出てくる。アルバムの初めは静かなピアノソロ、そしてベースの弓引きが合流する。CDの最後には演奏者がそろって混沌とした雰囲気を作り出すが、それでも演奏は暖かさがしっかりと残っている。人間味のある混沌。そんな感じかな。このアルバムの魅力は。
 ここに紹介済みだからといって、2度とこのアルバムを聞かないなんてことはない。とんでもない。これからなんどもなんどもこのアルバムを聞き返し、更なる魅力が引き出せそうだ。そんな奥の深さを、このCDは持っている気がする。

ritual/The Jazz Messengers Featuring Art Blakey (1957?:Blue Note/Pacific Jazz?/Capitol)

 ううむ。再発なのは間違いないけど、初リリースがよくわからないアルバムだ。ブルーノート扱いになってるけど、僕の資料では存在せず。CDのライナーノーツには、パシフィック・ジャズから2枚に分けてリリースされたものを、一枚にまとめたものらしい。ブルーノートが身売りをした時に、未発表音源を発掘した、ということなのだろうか?
 何はともあれ、問題は演奏だ。このアルバムの演奏は、1957年1月14日と2月11日に分けて録音されている。資料を調べていて気がついたのだが、「モーニン」録音前だとは。
 僕にとってアート・ブレイキーはジャズの楽しさを最初に教えてくれた人であり、その時僕が聞いたアルバムが「モーニン」だったので、「モーニン」への思い入れが非常に強い。
 でもブレイキー自身のドラムは、正直なところテクニカルだと思ったことはあまりない。ブレイキーのドラムの魅力は激しくシンバルやリムを煽り立てるように叩きつづけ、共演者を引き立てるの所だと思っている。
 それにブレイキーの音楽スタイルも好きだ。次々若い才能を拾い上げ、磨き上げて飛び切りの音楽を作り上げるところが。僕が後にザッパやマイルスの音楽スタンスに引かれたとき、ブレイキーのイメージが間違いなく自分自身の中で投影されていたっけ。
 
 さて、演奏の紹介だが。先に述べたとおり、シャカシャカ響くブレイキーのドラムが聞いていてわくわくしてくる。一曲目のドラムで、のちに「モーニン」の収録曲でも演奏するリズム・パターンがはさみこまれていたのには、思わずにやっとした。
 共演者のプレイは破綻がなくまとまっているので、小粒なイメージがしてしまう。この時代のジャズは、テーマのメロディがくきくきして、ときにすごくトリッキーに聞こえるのだが、この盤でのメロディはちょうどいいバランスでやわらかくなっており、すうっと聞ける。
 ソロ回しは、熱気がこもってるってほどじゃないかも。妙にブレイキーのドラムソロが耳につく。
 全体的に、いまにも噴火するかのようにどろどろしておらず、熱気をおびつつも静かなイメージがあるかな。

are you glad to be in america?/James Blood Ulmer(1981/1995:DIW/Disk Union)

 上のアート・ブレイキーを聞いた後にこの盤を聞くと、なんだかリズムの作り方に共通点を感じてしまう。細かく刻むハイハットと、煽り立てるリズムが似てるなってね。テーマのリフが引っかくような、くきくきするメロディなところも似てるんじゃないだろうか。
 このアルバムは一応ウルマーのソロアルバムなんだけど、ギターソロでギンギンに弾きこむジャズアルバムじゃない。メンバー一丸となって音像を作り上げようと、なだれ込んでくる。とにかく、この緊張感とスピードがたまらない。かっこいいことこのうえない。
 ウルマーのソロもメロディを奏でているというより、リズムをメロディックに分解してるように聞こえたりもする。ジャズともファンクともいえない独自の感覚がとても気持ちいい。
 演奏のテンションを上げるだけ上げていって、最後の曲でほんわかとさせる構成もすばらしい。いいアルバムだな。
 ちなみにライナーノーツによれば、初リリースのレーベル、ラフトレードの倒産騒ぎの時だかに2トラック・マルチが紛失したため、この再発はマルチ・マスターからのリミックスだそうだ。
 ギャラクシー500もラフトレードの倒産のせいでしばらく聞けなかったけど、この盤はウルマーが原盤権を所有してたおかげで、とっととリリースできてたらしい。といっても再発までに14年かかってるけど。

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