LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/12/12 渋谷 公園通りクラシックス

出演:山口不破磯部
 (山口コーイチ:p、不破大輔;b、磯辺潤:ds)

 公園通りクラシックス昼の部にしては珍しい顔ぶれだ、不破大輔のベースも久しぶりに聴きたいし、と気楽に行った。そしたら色々と貴重なライブだった。

 馴染のセッションかと誤解してたが、バンドとして初ライブ。山口コーイチ・トリオと勘違いしてた。あのドラムは、つのだ健だったか。
 ちなみに不破のツイートによると、彼はこのハコに出演は初めてらしい。ジァンジァン時代に美輪明宏のショーを見に来て以来とか。何年前の話だろう。70年代の話かな。

 渋さ知らズがらみで何度も共演の顔ぶれだし、山口と磯部潤はAASでも馴染み。だがこのトリオ編成では2回目の演奏。山口と磯部潤のデュオ"シワブキ"に、ゲストで不破大輔が入ったのがきっかけと言う。
 バンド化ってことすら、どこまで伝わってたのやら。演奏前のMCで「バンド名も付けました」と山口が言うと、不破と磯部がいぶかしむ。
「ああ、"山口不破磯部"って」の説明に、二人は笑い出す。
 
 演奏は凄まじいインプロの嵐だった。圧倒されるかっこよさ。前半は1曲で約50分、後半は2曲で同じくらいの時間かな。
 不破はウッドベースをアンプに通し、磯部は小口径のキックに1タム1フロア1スネア、シンバル2枚としごくシンプルなセット。山口はグランド・ピアノを演奏した。
 
 無造作でフリーなフレーズから演奏が始まる。これが刺激的だった。三人とも、明確なリフやリズムを提示しない。ピアノも訥々と暖かいメロディを断片的に溢れさす。だが何となく、テンポ感は共通する。
 つまり不明確なビートの周辺へ、三者三様にまとわりつくようなイメージ。リズムが見えないのに、猛烈なグルーヴがある。そんなスリルが面白かった。

 磯部も断続的な乱打をドラムセットに施し、明確なパターンが無い。むしろ時々、あえてビートを切るような休符すらも挿入した。
 だが不破のベースが唸りを上げ、山口のピアノが響くことでノリは切れない。タフにしたたかにフリージャズが生まれた。
 次第に不破のテンションが上がる。久しぶりに彼の高速痙攣ベースを堪能した。15年前に観たフェダインを思い出した。

 ウッドベースを高く掲げる不破は左手も激しく動くが、なにより右手が猛烈だ。指二本で32拍子くらいの勢いで、次々にフレーズをまくしたてる。弦が激しく震え、超高速な低音がばら撒かれた。ちょっとアンプの音量が低めで、聴こえづらかったのが残念。
 磯部と山口の手数も多くなる。山口は左手でクラスターを取り混ぜながら、奔放にピアノを奏でた。
 ときおりテンポ感が穏やかになったり、一転疾走したり。若干の曲の進行は存在する。けれども根本はひとつながり。特にソロ回しも無い。三人の誰かが、ちょっと手を休めるくらい。
 
 山口が頬を膨らませ、大きく呼吸しながらピアノを弾き続ける。演奏しながらシャツを脱ぎすて、Tシャツ一枚に。続いて不破もシャツを脱ぎ、Tシャツで顔を拭いながら激しい演奏を続ける。
 磯部のみ、とても涼しい顔で膨大な手数で、ドラムを叩きまくってた。

 不破のベースがどんどん高まっていく。左手ポジションを固定させ、激しく右手が弦をはじき倒す。すべて開放弦で右手が四本の弦を全部使ってハイスピードのフレーズを組み立てた。
 三人の途切れないグルーヴの応酬に、次第に酩酊気分に。どっぷり音楽に浸り、ときどきうつらうつらしてたかも。
 とことん盛り上がったところで、すっと三人の気持ちが揃って着地する。ぽおんと静かな音でコーダへ。完全即興だが、見事な呼吸の合いっぷりだった。

 休憩はさんだ後半セットも、特に決め事は無さそう。ライブとしてのメリハリをつけるためか、山口はいろんなアプローチを取り入れる。逆に不破がアンサンブルを引っ張る格好となった。

 後半セットも三人の音楽性は大きく方向転換しない。ぐいぐいとテンションあがる速度は、1stセットよりも早い。いきなりトップ・スピードだ。
 「Yeah!」
 ベースを激しく唸らせながら、不破が高く吼えた。
 
 磯部は山口と長い付き合いゆえか、ものすごくスムーズな呼吸の合いっぷり。緩急もするすると寄り添い、敢えてピアノとドラムの対比や切り合いはない。
 磯部の後半は幾分、リズム・キープな場面もあり。どこだったか、いきなり4ビートを刻む場面が決まってた。
 それまでのフリーなドラミングから一転、右手はライドを刻み、左足はハイハットを踏み鳴らす。自由なリズムから定型ビートへ。左手がスネアを次々鳴らす。急転のオーソドックスへ転換も良かった。
 
 たぶん山口は後半セットに短い曲を何曲かやってみたかったんだろう。全てフリーだと思うが。いったん山口が弾きやめ、すっと磯部も手を下げる。
 だが不破は弾きやまない。ウッドベースのボディを叩く場面に切り替え、音を出し続けてた。ボディを手のひらでこする不破。磯部がスティックでバスドラのリムを擦って合わせる。
 しばらく聴きに入った山口も、再び演奏に加わった。

 とはいえ不破も音を出しっぱなしじゃない。たまたまふっと手を止めた刹那、偶然ピアノとドラムも休符に入った。つながるかな、とも思ったが、観客の拍手も入りいったん締め。

 二曲目はパーカッシブ要素が強く鳴った。山口はピアノの上に置いてたスマホか手帳みたいなものを、ピアノ線の上に載せてプリペアード的な沈んだ音を出す。さらに手をピアノの中へ突っ込み、ミュート。ピアノ線を手ではじいてハープ風に。内部奏法を繰り出した。
 特に手のひらでミュートする音は気に入ったらしく、場面を変えて幾度も。一瞬に消える短い硬質な音がピアノから響いた。

 なお山口はほとんどペダルを踏まない。後半セットも鍵盤の上をめまぐるしく指が動き、ときおりクラスターを混ぜる。左足がひっきりなしにリズムを刻み、右足は時たまサスティンペダルを短く踏んだ。

 不破も弾きながら右足が激しくリズムを取る。ものすごく頼もしい姿勢で、恐ろしい速度の低音を放出した。パーカッシブな内部奏法のピアノに合わせ、ばちんと強烈なピチカートを噛ませた呼吸もバッチリだった。
 後半セットも、ほぼノンストップ。ごくたまにピアノやドラムへ空気の咆哮を委ねるが、基本は止むことなく弦を猛然とはじいた。

 2ndセットもテンションが高い位置で保持される。2曲目はパーカッシブさを増して、トリオがそれぞれフレーズを畳み掛ける。
 そして見事な呼吸で着地。がつんとピアノのクラスター一発、で終わり。
 変にエンディングを引っ張ること無く、急転直下なクライマックスだった。

 息が合いつつ、馴れあわない。緊張と寛ぎが同居する即興だ。メロディとリズムを行き来する、自由な立ち位置を保つ。継続して活動し、どんどんと新しい音楽を深めて欲しい。

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