LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/11/27  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之+後藤篤+畠山芳幸+楠本卓司
 (明田川荘之:p,オカリーナ、後藤篤:tb、畠山芳幸:b、楠本卓司:ds)

 今の明田川トリオにゲストで後藤篤が加わるセッション。後藤と明田川の共演歴はよく知らない。あまり無いんじゃないかな。後藤の生演奏はBlacksheepで聴いて以来かも。

 いつものように万全の録音体制で、ドラムはキックと上から二本のマイク。ベースはアンプと生音拾いの二本。ピアノは中に二本とオカリーナとMC用に一本。トロンボーンに一本。計九本体制。ステージにびっしりケーブルが這った。
 ぼくが座った位置はトロンボーンのド真ん前。スライドが顔の近くにまで押し寄せてくるし、ベルが目の前すぐ先にある。こんな近くでトロンボーン聴くのは、高校時代のブラバンぶりだ。
 
 ただしステージの出音は基本、生音。PA経由はオカリーナ用のマイクのみっぽい。僕が座った位置でボーンが目立つせいもあり、音量的にはやはりベースが埋もれてしまう。もっとベースのボリュームをあげて欲しかった。
 畠山はウッドベースを演奏。自分の体側にふかふかの布を貼る、独特の養生をしてるやつ。今夜みたいな音量展開ならば、前にライブで見たサイレント・エレべでも良かったかも。
 
<セットリスト> 
1.オカリナ・ブルーノート・ブルース
2.テイク・パスタン
3.アルプ
4.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
(休憩)
5.アフリカン・ドリーム
6.インバ
7.南部牛追い歌
8.エアジン・ラプソディ
  〜ヘルニア・ブルース〜Blue Monk

 "Blue Monk"以外は明田川のオリジナル。メロウなメロディの曲を並べ、アップで押さぬセットリストだ。アグレッシブにぐいぐい押す曲は控えめ。結果論だが、とても良かった。もっとブリブリとグルーヴィに行くかと思ったら、トロンボーンのメロディアスなソロも含め、このセンチメンタルな世界が見事に盛り上がった。特に2ndセットがよかったな。

 (1)は明田川がオカリーナ教室の課題曲にしてるらしい。シンプルなメロディだが、楽器を置いてしまい、けっこう難しいのだとか。
 明田川は数本のオカリーナをピアノの上に置いて立ち上がり、ひょいひょいオカリーナを持ち替えながら滑らかに吹く。イントロは彼のオカリーナ・ソロより。
 後藤にアドリブがつながり、明田川は腰下ろしてピアノを弾き始めた。

 前半セット全般に言えたが、律儀にソロ回しのオーソドックスな展開だった。後藤がまず、力強くソロを取る。バックビートを効かせ、しっかり骨太に。つぎつぎにあふれ出るメロディがきれいだった。
 途中でゴムの吸盤をミュート代わりに、柔らかく吹いたのもここだったか。スライドを細かく前後させ、ビブラートを頻繁にかけた。

 ソロはベースに繋がる。畠山のプレイはひとときも休まぬメロディアスなバッキングが持ち味。ソロだとなおさら、奔放にきれいに飛ぶ旋律が良かった。
 音量が聴こえづらかったけれど、バッキングでの旋律使いも気持ちいい。ピアノと吸い付くようにグルーヴを作った。

 そしてドラムへ。この日は歯切れよく前のめりなビートだったが、ビート感は凄まじく揺れた。がっつり腰を据えたいなたいリズム。独自のテンポ感で跳ねる。
 この曲では真っ黒のプラスティックっぽい太いスティックを使い、突っつくようにドラムを叩いた。ハイハットは踏みっぱなしで、右の刻みはライドにて。無造作にスネアやタムを左手で叩く。つまり、すごい賑やかだ。ばっしゃんばっしゃんシンバルが響いた。

 一通りメンバーにソロが回ると、明田川はオカリーナへ。4バーズ・チェンジが始まる。明田川は二つのオカリーナを器用に持ち替え、2小節ごとに吹き分ける。シンプルだがすごい。もしかしてこの持ち替えも含めて、オカリーナ教室で練習させてるの?

 (2)は即興でイントロを付けたピアノ・ソロから。若干テンポは速めで、アクセントも溜めずにシンプルなアプローチだった。ふっかりとトロンボーンがテーマを吹く。この曲に限らず、若干探るような柔らかい音色でテーマを吹き、アドリブになると後藤の音が力強さを増す。
 この曲もソロ回し。後半は2バーズ・チェンジの短いペースで次々とソロが回ってく。軸はドラムで、滑らかにつながった。最初はがっちりアレンジ決めたかと思ったが、即興かもしれないな。明田川を見てると、ピアノ・ソロからソロ回しのタイミングでふっと視線がメンバーに飛ぶ。しかし後藤は特にそれへ気を回してる様子も無く、スムーズに吹き始めてた。
 
 (3)もやたら速いテンポ。特に冒頭のピアノ・イントロは性急に飛ばしてく。この調子でいくかと思ったら。トロンボーンが加わる場面で少しテンポはゆったりめに変わった。
 この曲は中盤からフリーな展開に。後藤が吹き続ける。ピアノが淡々と曲を弾いていくが、ピアノもトロンボーンも特に寄り添わず、別々にラインを弾いていく。
 畠山はアルコでゆっくり弦をこすり、ドラムもビートを刻まず、無造作にタムやスネアを連打した。つまりピアノの拍子感とは別に、全員が拍頭をずらしながらポリリズミックに弾いてるかのよう。揺らぐさまが気持ち良くも面白かった。

 終盤は明田川が歯を食いしばりながらクラスターを連発。派手に盛り上がる。後藤は太いミュートを填めて柔らかく吹いたのも、ここだったか。情感漂うムードはそのままに、混沌な風景が柔らかく広がった。

 前半セットは探り合いというか、暖機運転みたいな印象だった。曲を重ねるごとにじわじわテンションが上がっていくような。ただし曲はどれもじっくりと前後半セットとも1時間以上弾いていた。
 1stセット最後の(4)も、若干テンポが硬い。ピアノのイントロで重厚にアケタ流のセンチメンタルさを、太く滲ませる。この曲では中盤で、トロンボーンとピアノの掛け合いが良かった。
 リフレインをトロンボーンが繰り返し、ピアノが奔放にソロ。しだいにトロンボーンも音符を崩してゆき、ピアノがフリーなフレーズから曲に戻っていった。
 エンディングは妙に唐突。あっけなく終わり、休憩を告げた明田川はピアノの前で、そのまま調律を始めた。

 短い休憩の後、後半セットはぐっと脂の載った美味しい演奏が並んだ。
 まず(5)。ゆったりと明田川はピアノを奏で、内部奏法のピアノ線爪弾きや平手打ち、高音部をちゃらちゃらと鳴らす。一通りピアノがテーマを提示した。ドラムは突っつくようにリズムを取る。まろやかなベースが音を支えた。
 おもむろにトロンボーンが加わり、もう一度テーマに。冒頭の数音だけちょっと音程が揺れたのがごくわずかな瑕疵。あとはバッチリの柔らかな音色だった。

 至高の響きをピアノが魅せたのはその直後。この曲のリフは、1、2、3拍頭をピアノが同じ音を叩く。その弾み具合が、素晴らしく肩の力抜けた柔らかな弾みだった。あの数音で、一気に演奏へ引き込まれた。
 明田川のソロは続く。後藤はトロンボーンをスタンドに刺し、ステージ脇へ。ピアノ・トリオ体制をじっくりと提示した。

 ドラムのビートははっきり言ってずれている。小節の、1コーラスの中できれいにつじつまは合うけれど、拍頭も小節線も微妙に揺らぐ。ベースはのびのびと弦を響かせ、ピアノを盛り立てる。
 しかし明田川は、周りをほとんど意識して無さそう。自らの世界にどっぷりはまり、ゆうゆうとピアノを鳴らす。揺らぐビートと頼もしいベース。そして雄大に膨らむピアノ。
 (3)とは違ったポリリズムな世界観が、まさに幻想のアフリカ草原。最高だった。
 
 やがて後藤がアドリブで力強く加わる。明田川はリフを繰り返した。拍頭を強調する大らかなピアノに対して、トロンボーンは拍裏を細かくシンコペートしながら、小刻みに旋律をまくしたてた。
 トロンボーンも、これまたパワフル。ぐいぐいとフレーズが付点で揺れ、奇数連符や拍跨ぎ連符も飛び出して、ノリが複雑に盛り上がった。
 ベース・ソロを促す明田川と、構わずテーマへ戻れと畠山。そんな感じのアイ・コンタクトが交わされたのもここか。
 
 次の(6)はたぶん、いまだ未CD化な明田川の馴染なレパートリー、"インバ"。この曲もテーマの寂しげな響きと黒いグルーヴが良い曲だ。
 前半セットと一転して、たっぷり溜めたノリでピアノがテーマを提示する。リズム隊はさほど派手に前へ出ず、ピアノを主役に据えた。
 ゆるやかにトロンボーンが、カウンター・メロディでテーマに加わる。
 この曲でも、後藤や明田川のロマンティックで綺麗なアドリブがたっぷり楽しめた。

 (7)は実質、フリーだったらしい。休憩時間に明田川が後藤へ二言三言、曲順を説明する合間に告げていた。後藤の前に置かれた譜面台へ譜面は開演前に既に並んでおり、曲は初見じゃなさそうだ。しかしほとんどリハも無しで、こんな演奏が生まれるとは。
 まずは明田川のオカリーナ・ソロ。"南部牛追い歌"のリフを、幾本ものオカリーナを吹き分けながら、執拗に明田川が奏でる。いったん吹くとすかさず持ち替え、転調して同じフレーズ。これを延々繰り替えす。

 最初は見に回ったリズム隊だが、ようやく楠本が手のひらでスネアを叩きはじめた。畠山も静かにベースを弾く。明田川はオカリーナの一つをピアノの中へ放り込んだ。ピアノに向かう。ピアノを弾くと、オカリーナがプリペアード・ピアノになり、へんに歪んだ響きを一部の音で鳴らす。構わず、弾き続けた。
 後藤も最初は見、やがてトロンボーンを抽象的に鳴らす。マウスピース外した状態で、息音を聴かせた。演奏が盛り上がると、小さなミュートをマウスピースに見立て、口に当てて鳴らしたりも。

 アドリブへ雪崩れる。オカリーナを抜き出したピアノが、いちおう曲構造を残したフリー、後の三人は混沌のフリー。ベースはアルコで小節感が無く、ドラムも乱打体制。トロンボーンもミュートを填め、混沌なフレーズの印象だった。
 このインプロをたっぷり聴かせたあと、再び明田川はオカリーナを持つ。もういちど、"南部牛追い歌"を奏でた。

 ピアノに向かいセンチメンタルなソロをひとしきり。そのまま(8)へ向かった。
 ときおり後藤へ視線を投げて、テーマを吹かす促しの視線。後藤は気づかず、明田川が数度目に送った時、ようやく呼吸が合った。
 高らかにテーマを吹く、トロンボーン。音色がぴたりと曲調に合った。

 このアドリブ部分も盛り上がった。ドラムが途中で8ビートに鳴りメンバーを煽る。ピアノが猛然と疾走した。ドラム・ソロもすごかったな。ここぞとドラムは大音量で好き放題に叩きのめした。
 終盤もかっこいい。いきなりトロンボーンがテーマを吹き、ピアノがアドリブに。
 後藤が旋律をフェイクさせたら、すっと役割は交換して明田川がテーマを弾く。

 ちょうどいい感じで高らかにトロンボーンがフレーズを歌い上げ、ばしっと着地。
 ・・・の瞬間があったけれど、他の三人は止まらない。止まり切れず演奏が続いた。
 CDだと、ここに残響入れて終わらせるのも面白いな、と思って聴いていた。

 もういちどトロンボーンが加わって、今度こそコーダへ。と思いきや、明田川流にアンコールのごとく曲がつながる。リズム隊は焦らずそのままついていく。ディキシー・ランド風のブルーズに。後藤も加わって一通り吹いた。
 明田川がマイクに向かって歌い始める。"ヘルニア・ブルーズ"だ。
 「バカーん」と歌い終わり、余韻持ってピアノに向かう明田川の様子が、妙に記憶へ残ってる。
 
 曲は後藤のアドリブへ。オーソドックスなジャズが展開した。
 これでも終わらず。さらにモンクの"ブルー・モンク"に。これはソロ回しせず、あっさりと。しかも唐突に。盛り上がった2ndセットは、いたずらっぽく急転直下した。

 何とも聴き応えたっぷりのライブだった。録音もしてたことだし、CD化して欲しい。特に2ndセットを中心に。そして多くの人に、この音楽を広げて欲しい。

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