LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/5/30  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 月例深夜ライブ。0時を10分ほど回ったところで、早々とライブの幕が開いた。今日はステージを通じてこれまでの明田川と、ちょっと違う演奏アプローチだった。
 そしてとても充実した音楽だった。CD化しないかな。

<セットリスト;不完全>
1.?
2.アケタズ・ブルーズ
3.杏林にて
4.?
5、?
6.アローン・トゥギャザー
(休憩)
7.Mr.板谷の思い出
8.?
9.アルプ
10.いかるが桜
11.?

 最初に演奏した曲はスタンダードかな。方向性を探るようにゆっくりと音が鳴り、しだいにスイングしていく。ピアノは少しホンキートンク気味。
 ぱっと思った。やたらと右手のアタックが強い。左手のベース・ラインの譜割は、あまり動かない。もともと明田川は左手のグルーヴ感が強力だ。豪快な連打とランニングやオスティナートの野太い確かさが、サウンドに凄みを与える。
 でも、今夜はちょっと抑え気味かな。そのぶん右手が剛腕だ。ダイナミック・レベルがmfからffでなく、fからfffな感じ。

 アドリブに進んでも、左手の動き方がちょっと面白い。和音を拍頭で淡々と押さえ、右手フレーズをシンコペートさせてスイングを演出した。左右どっちが拍頭かって話だが。
 ともかく鍵盤を鷲掴みするような迫力で、右手のアドリブがぐいぐい進み、左手が淡々と受けとめた。

 二曲目もアプローチは似てる。途中ですこし左手の音数も増え始めた。
 この曲は凄い名演だと感じた。改めてCDで聴き直したい。跳ねる右手のメロディを、左手が多彩に彩った。スイング、ブギ、ブルーズ、そしてクラスターが飛び出すフリーも。
 ころころと小節ごとに左手のリズム感やノリが変わり、右手フレーズの表情を多彩に演出。途中から積極的にクラスターを織り込み、テンポもずらす。時に倍テン解釈まで感じた。

 明田川のテンポってどんなにフレーズを揺らしても強靭だ。クラスターの乱打やオカリーナからの持ち替えでも、テンポの連続性を常に感じる。一方で今夜、この曲ではぐいぐいBPMを揺らした。最後はクラスターの嵐。乱打する腕から、かかと落しにつなげるが少々当たりが甘い。わずかに苦笑して、そのまま次の曲へ向かった。
 
 "杏林にて"は冒頭で、高低のCを同時に鳴らす。調律するかのように。
 そのままテーマへ向かった。おかずのクラスターは無し、スマートなテーマに専念した。
 くっきりした輪郭で曲が進む。アドリブが力強かった。リフレインがゆるりと崩され、即興に雪崩れる。

 続いて2曲の演奏は、メロディは聴き覚えあるが曲名を思い出せず。両方ともメロウなセンチメンタルさが溢れる。明田川のオリジナルか日本の曲、どちらかではなかろうか。
 右肩から突っ込むように右手は激しく鍵盤を弾ませ、強く音が店内へ鳴り渡る。これまで聴いてきた深夜ライブの記憶を探っても、ひときわボリュームが大きい。
 左手も次第に加速してきた。

 メドレー形式で今夜は曲が続く。グルーヴィな左手がポイントの"アローン・トゥギャザー"へ。ここでもやっぱり左手は音を絞る。音量も音数も。けれどもアドリブが進むにつれ、高速アルペジオも混ぜて左手が加速してきた。ブレない左手のランニングがぐいぐいと鳴る。
 ここまでオカリーナ演奏は無し。とにかくピアノが強く響いた。この曲でエンディングはひとしきりクラスター、だったかな。ここでいったん休憩、45分ほどのセットだった。

 休憩のときすぐに明田川は、ピアノの譜面台を横に立てかけて調律を始めた。短い休憩のあと、後半セットへ。

 一曲目はリクエストに応えてくれて、"Mr.板谷の思い出"。トロンボーン奏者の板谷博に捧げた曲だ。
 まずはオカリーナ。小ぶりの数本を持ち替えながら、イントロを静かに展開した。軽やかなアドリブ・フレーズが響く。すっとオクターブ上がる。一本のオカリーナで、音がきれいに上下した。小刻みなフレーズが店内に広がった。
 体を床へ曲げオカリーナを吹きながら、フレーズ終わりでそっとアタッシュケースにオカリーナを置く。余韻残したまま、テンポ感をそのままにピアノ演奏へつなげた。

 暖かな旋律が現れ、次の瞬間変奏される。場面が次々に変わった。中盤で"Over the Rainbow"の表情も見せる。唸りながら、たっぷりと明田川はこの曲を演奏してくれた。
 柔らかに曲が着地。「転調ばっかりで難しいなー」とぼやき、微笑む。

 次の曲もオカリーナのイントロから。タイトル思い出せず。聴いたことあるのに。
 床を足でリズム取りながら、やはりオカリーナを吹き分けた。こっちの曲は、少し大ぶりのオカリーナも持ち、三本ほど使ったか。
 残響たっぷりのピアノで、切ない旋律からアドリブへ向かった。

 やはり後半もメドレーでステージは進む。次の"アルプ"でも、なんかアレンジが新鮮だった。ペダルを巧みに使い分ける。思い切り踏んで残響を出した後、次のフレーズではドライに響きを切る。
 内部弦の爪弾き、低音弦の平手打ちもひっきりなしに幾度も飛び出した。
 テーマのメロディのさらに前、イントロ部分を執拗に繰り返す。クラスターを多用し、何度も強く鍵盤をはたいた。
 アドリブから再びテーマへ。イントロ部分のクラスターを、いろんなアプローチで表現した。上昇と下降を同時に一本指のグリサンドで、鍵盤撫ぜてくシーンが印象に残った。
 
 そしてクライマックス、"いかるが桜"。というより、演奏の途中からグイグイ盛り上がり、必然的に今夜のステージで最高の高まりをみせた。
 リフが強烈だ。一拍から三拍まで4分音符の連打って、余韻含めて日本情緒の琴線触れまくり。聴いてて祭囃子浴びてるようなトランス感が脳から噴出し、どんどん演奏に引き込まれた。
 どぷどぷと溢れる酩酊感がたまらない。この曲も、とびきりの演奏だった。

 この曲では明田川流の、粘っこくタイトなグルーヴ満載だ。
 終盤はクラスターの嵐。ペダルで残響を切り替えながら、上腕で連打する。がつんとひじ打ち。明田川の独特な、音程感あるクラスターが切れ間なく打ちだされた。
 このまま終わらず、もう一曲。スタンダードだろうか。洋風のメロディに、スイングする左手。前曲での高揚をゆるやかにクール・ダウン。小粋に決めた。ブルージーな雰囲気を漂わせて。

 後半セットは30分強、かな。時計はもう1時45分。切れ間なく演奏が続き、時間感覚がおかしくなる。やはりぼくは、彼の音楽が大好きだ。
 今夜はピアノのアタックやアレンジに新鮮さを感じるライブだった。たしか前のライブのとき、最近の深夜ライブでは、普段弾かない曲を選んでると聞いた気がする。明田川は変化を続ける。さらにレパートリーのアーカイビングも視野だろうか。
 それにしても今日は聴きどころが一杯だった。彼のライブは常に録音されているが、リリースに繋がるかな?   

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