LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/4/25  吉祥寺 Sound Cafe dzumi

演目:デレク・ベイリーを聴く会 Vol.14(ゲスト:吉田隆一)

 特に生演奏は無く、いわゆるトーク・ショーなのだが。長文のためライブ感想っぽく書いてみよう。
 しばらく前から月例でdzumiにてベイリーを聴くイベントをやっている。ゲストを招くトークショー形式かなと思いつつ行きそびれてたが、今回は吉田隆一がゲストと知りいそいそと向かった。

 dzumiはずいぶん久しぶりに行く。テーブルをのけて窓際に椅子を並べる(限定20人、予約式)レイアウト。カウンター前に司会/ゲスト席の配置だった。
 開演時間が過ぎてから当日のLPを整理したり、照明をずらしたりとのんびりした構成だが、内容は硬派。事前に当日流す範囲のディスコグラフィー抜粋が配られ、全てLPオリジナル盤で流される。演奏中はLPのジャケットが参加者へ回覧される真面目さ。
 ベイリーを知ってることが前提のイベントだ。どんな人か、とか時代背景や音源の初歩的な解説は全く無い。数百枚ものベイリー音源を集めて、時間軸で聴いていく趣向がイベントの趣旨。たとえば過去回は、こんな感じらしい

 残念なことにLP丸ごとを次々流していく形式ではない。別に黙ってレコード・コンサートは求めてないが、喋りの時もBGMで常に流すくらいのゆとりがあっても良いのでは。
 今回も時にBGMで続きが流されることもあったが、そもそもはきっちりと構成されて、各LPから1〜2曲のみ。それが終わるとボリュームをゼロにされてしまった。
 逆に流してるときはボリュームをぐんと上げる。音楽と喋りをきっちり分けていた。後述の「ながら」は基本的に無い。

 したがって観客も僕より年配の人が、じっくり音源を聴く流れかと思ったら・・・実にバラバラ。僕はむしろ年上組っぽい客層で驚いた。みんなそんなにベイリーが好きか。
 聴いてるときもメモを取る人がほとんど。いわば勉強会な雰囲気だ。もっとも吉田のおかげで寛いだ空気でイベントは進んだ。
 
 ぼくにとってベイリーは、「教わったミュージシャン」だ。
 ルインズとの共演2枚で初めて知ったのが、きっかけ。その次に聴いたのはなんだろう・・・ジョン・ゾーンがらみで"ヤンキース"かな?
 最初は何が何だかわからなかった。調べたら凄い人だとは分かった。即興音楽論になるため詳しく触れないが、「第一世代のイデオロギーな即興」に位置づく人と考え、しばらくはあまり積極的に聴かなかった。

 たまたま大友良英のベイリー論を読み、急に興味が出た。
イディオムを注意深く外していく、って発想にやられた。そして何枚もベイリーの音楽を聴き、初めて面白さに気が付いた。
 もっとも「教わったミュージシャン」なためか、猛烈にはのめり込まず。あんまりいっぱいは聴いてない。あえて一枚選ぶなら"Ballad"か。ようするにメロディと即興の行き来をするさまに惹かれる。
 あと、どっちかと言えばソロが好きだ。せいぜいデュオ。ベイリーのスタイルは誰とでも共演できる、と書いてるのを、何かで読んだ。逆に共演だとベイリーの音楽がつかみづらく、ソロの方が楽しい。
 ちなみにこの点、今日の吉田隆一の分析が非常に興味深かった。

 ベイリーは"インプロビゼーション"の著書で日本では有名、なはず。さらに昨年、ベン・ワトソンの「デレク・ベイリー本」も工作舎から出た。
 本イベントも元はその流れか。司会はその出版社の方っぽい。ちなみに山崎春美(ex:タコ)もメイン・スタッフとし名を連ねる。ほとんどフロアの隅で聴き役に回っていたが、たまにコメントをはさんでいた。

 イベントは休憩なしでぶっ続けの二時間。しかし、あっという間だった。
 これはやはり吉田のおかげ。凄かった。
 
 吉田は博覧強記に加え、現役ミュージシャンの実力も持ち合わせる。さらに斬新な発想力と鋭い分析力が、流麗でユーモアを交える口調で滔々とあふれ出た。
 特に今夜は脱線も無く、きっちりと時間内で見事に収める構成力も兼ね備える。
 彼は教師でも素晴らしい実績を残せたはず。音楽の才能ゆえに、そんなことはありえないが。

 吉田は豪放な音を出すが、本質は繊細で緻密だと思う。知識を咀嚼し、解釈する。たんなるデータ・ベースや昔話に終わらない。同時代のポジションを現代の視点で構築し、再評価する。つまり今の耳で聴くべきポイントを新たに据え付ける。これができる人は、音楽評論家でも、なかなかいない。
 彼は実演の観点でも、以前から突き抜けていた。同世代だけでなく、一世代、二世代上のミュージシャンから信頼を集め、数限りなく共演している。これが同世代のミュージシャンの中でも、大きく違う点だ。

 吉田は、ぼくと同世代。けれども音楽の知識は全く叶わない。ミュージシャンだから、とかいう次元じゃない。根本から突き抜けている。
 ネットの書き込みや彼の原稿を読むたびに、舌を巻く。同世代ってことは、だいたい音楽に触れる機会やタイミングは似てるはず。だけど吉田は僕なんか及びもつかないほど、同時代にもっと深く聴いていた。真摯な好奇心と吸収力が無ければ、絶対無理。
 どういうスタンスで音楽に接してきたのか、中学や高校頃の話をぜひ一度伺って見たい。

 今夜のイベントはほぼ、吉田の独壇場だった。喋りっぱなし。とはいえベイリーの音源はじっくり聴けた。
 あとは司会者の巧みな進行だ。余計な口を挟まず、的確に吉田のコメントをまとめる。話を膨らませたり、流したり。スムーズな進行が良かった。

 最初に配られたディスコグラフィー抜粋には「70年代リスト6」とあった。75年から79年までが書かれている。14回を重ね、いまだに70年代半ばとは。
 LPで言うとスティーヴ・レイシー"Dreams"(1975)からトニー・コ−とのデュオ"Time"(1979)まで。
 間にCompanyが3〜7まで記載されてるの見て、すごく楽しみだった。吉田がCompanyをどう評価し、分析するのかなって。

 もちろん夢はかなわない。ちょうどそこまで、届かなかった。2時間かけて以下のLPまでで終わり。無念。

1975 Steve Lacy "Dreams" (Saravah)
1975  "Improvisation" (Cramps)
1976  "Guitar Solo 2" (Virfin/Caroline) Solo track on compilation.
1976  "Duo" (Incus) with Tristan Honsinger
1976  "For example" (FMP)  Solo track on compilation 3LP set.

 イベントは新垣隆と吉田の最新作"N/Y"(2015)で幕を開けた。選曲は6〜7曲目の予定だったようだが、その場で吉田が変えて1〜2曲目を流す。
 先に作曲された(2)、次にインプロの(1)の順番で録音だそう。新垣との演奏アプローチや「即興と作曲論」で話を始めて、ジャズで言う"テーマとアドリブ"の関係から、ビバップ論へ。話は滑らかに続き、スティーヴ・レイシー"Dreams"の話へとつながった。

 スティーヴ・レイシー"Dreams"は2サックス体制で3ギター編成。音楽としては面白いが、ベイリーの観点では詰まらない。ほとんどベイリーの音は目立たないから。
 一曲をじっくり流し、吉田の話の後でdsumiのマスターが共演ギタリストの解説や、LP発売元なサラヴァの時代背景を説明する。この辺は同時代の知識と蓄積がものを言う。

 吉田はミュージシャン寄りの解説を施した。レイシーはマウスピースとリードの間が大きく開き、柔らかいリードの構成という。ビバップ的な速いフレーズは吹けないが、一音をふくよかに鳴らすのへ適してるそう。知らなかった・・・。
 ちなみに司会者がすかさず吉田の構成を聴き(中庸、だそう)、彼の音楽論へもつなげる流れが見事。

 LPと喋り、どっちが長かったろう。喋りの方かなあ。音楽が流れる間はじっくり聴いており、過不足な印象は無い。
 吉田の分析で秀逸だと思ったのは、ベイリーの世代論と演奏論へ踏み込んだこと。「イディオムを注意深く回避するテクニック」が前述した大友の解説で骨子としたら、吉田はさらに「本質はまっとうなジャズメン」と定義した。
「リード奏者のプライドを持ち、伴奏の発想は薄い。自分の立ち位置が薄ければ弾かない」と仮説を立て、「マルチ・タスクができない人で、共演者の音を聴いてしまう」と補強する。
 だから「特にデュオだと相手に反応するか、自分を貫いてるかを聴く楽しみが強まる」と、新たな聴き手への興味を促した。

 93年来日時のジャズ・ライフ誌インタビューを引用し、"チューニングはノーマル"がベイリーのポイントである、と吉田は指摘する。変則での実験やピッチ狂いでのデタラメさは避け、すべてをコントロールした演奏がベイリーの本質である、と断言した。
 ちなみに93年来日時にベイリーが新宿ピットインで行ったライブは、共演が今堀、内橋、鬼怒だそう。なんとまあ豪華絢爛。このときかな。

 演奏面ではハーモニクスの見事さを例に挙げ、テクニシャンとしてのベイリーを強調する。今の日本人奏者を引き合いに出す分かりやすさも面白かった。
 ある奏者が「マイルスは出音の間は興味を持たない所が苦手だ」と発言した例を吉田が上げ、世代論で山崎春美がコメントを付け加えたあたりは、刺激的で面白かったな。

 最後に今夜の流れをまとめた吉田の音楽論も秀逸だった。今後、音楽はスポーツ化と奏者化が進むと分析する。
 「音楽マンガはバンド仲間やライバルに恋愛要素を置ける。スポーツマンガに無い強みだ。」って視点には爆笑した。確かに。

 デレク・ベイリーは、愚直で突き抜けたテクニックを持つ天才。
 未踏の即興論を構築した先駆ゆえの前衛にかける頑固さと、ながら族と無縁を連想さす独特の共演スタンス。よって聴覚の共演に加え、舞みたいに視覚での共演も好んだのでは、など。
 これらの視点は今まで、考えたことが無かった。改めてベイリーを聴く楽しみが増えて良かった。吉田隆一の喋りはやっぱり面白くて勉強になる。こないだのアイラー論を聴き逃しただけに、今日は聴けて良かった。

 未公表スケジュールとして、吉田や山崎の今後の予定も興味深い。
 BGMで吉田が参加の"The Silence"(2015)からCAN"Tango Whiskeyman"カバーも流した。BGMで薄く流さないあたり、ベイリー論の話と妙につながってる。

 今夜のベイリー聴く会は、次回が5/30に作家の保坂和志がゲスト。その次のゲストが吉田アミだそう。どのくらい一回で話が進み、あと何回でベイリー論が終わるんだろう。   

目次に戻る

表紙に戻る