LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/3/21   大泉学園 in-F

出演:翠川敬基+早川岳晴
 (翠川敬基:vc、早川岳晴;b)

 翠川敬基と早川岳晴のin-Fにて月例ライブ"みどりの日"は、クラシック演奏を課題曲としてる。今回はゲストを招かず、課題曲はテレマンと告知あった。
 ステージにはチェロとウッドベースのみ、PAを通さない。生音が店内に響く。
 楽器がピアニシシモになると、耳を澄ます。すると店外を走る車の音の方が目立つくらい。そのくらい、生の響きを味わえるライブだ。
 今夜も特にチェロが音量幅が広い。小音量からフォルテまで、繊細で幅広いダイナミズムを味わえた。

<セットリスト>
1.Tochi
2.West Gate
3.Altered
4.タコヴィッチ
5.ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタ:イ短調
(休憩)
6.Tango
7.メノウ
8.Drum Motion
9.Fly
10.マザー・ボル

 (1)と(6)が早川、(3)(8)(9)が富樫雅彦の曲。(5)が"課題曲"であるテレマンの作品で、あとは全て翠川の作曲となる。

 いきなり(1)から、二人の自在で自由な演奏が炸裂した。1/2緑化計画とも言えるデュオは、ビートもテンポも構造からも、すべて解き放たれている。穏やかで自由なフリー・ジャズ。

 (1)はHAYAKAWAの轟音アレンジで最初に知ったため、アコースティック演奏だと、なんか新鮮。
 まずチェロが極小音からフリーをはじめた。やがて太いウッドベースが音を重ねる。
 しばらくの即興から、緩やかにテーマがチェロから浮かび上がった。流れるように再び、インプロに進む。早川は力強く弦を叩き、一弦が指板に当たる音が賑やかに幾度も響いた。

 一定のテンポはあるが、小節感は希薄だ。無造作なフレーズが次々に溢れる。翠川がふっと体で合図を送ると、そのまま早川のソロに移った。翠川もテンポ・キープのランニング・フレーズは全く弾かず、静かにカウンターのメロディを重ねる。
 しかしデュエットは見事に成立し続ける。
 ともすれば空中分解しそうな二人の演奏は強固に、そして滑らかに融合した。

 (2)の冒頭はピアニシシモ。翠川は左指を弦の上にそっと載せ、ハーモニクスだけでフレーズを作ってるかのよう。自由なアレンジは(2)以降も変わらない。
 ぼくは聴いてて拍頭をしょっちゅう見失う。変拍子っっぽい場面もしばしば。しかしたぶん、二人ともテクニカルなアプローチは意識していない。興の趣くままに音楽と対峙し、相方と音を交わしているだけだと思う。
 アドリブ交換でも、決った小節数の約束が無さそう。サウンドの変化にしたがっていつしか主導権が移り替わっていく。
 翠川と早川にとっては自然な演奏。しかし最近、この手のライブを聴いてなかったため、改めて新鮮なフリーさだった。
 
 今夜の翠川は最後の(10)まで、ほとんど特殊奏法を使わない。アルコを中心に幅広い音量を武器に、存分にチェロを歌わせる。比較的、1stセットのほうが音量小さめだった。なぜだろ。ともあれ軋む音とハーモニクスという、弦の振動をしみじみ美しく感じた。
 早川は剛腕と繊細が入り混じる印象だ。生木を削るような迫力と、穏やかな包容力が溶ける、懐深い演奏を披露した。
 
 (3)はテーマでユニゾンっぽく二人のフレーズが合った。
 それが逆に新鮮なほど。それくらい、二人は自由だった。だが演奏は常に成立し続けている。拍もテンポも異なる場面ですら、バラバラに崩壊はしなかった。驚異的なアンサンブルだ。

 アグレッシブな(4)でいったんのクライマックス。(3)だったかな、(4)だったかな。つるべ落としにいきなり終わる場面も面白かった。
 そこまでがお互いの呼吸を合わせ、すっと静かに綺麗なコーダの余韻を決めていただけに。

 テレマンの(5)は"音楽の練習帳"(1739〜49年)からの1曲。第一楽章のラルゴは、翠川の趣向で「ひときわゆっくり演奏」だそう。
 しっかりと早川がアルコで低音を支え、翠川のチェロが響いていく。音量は凄く小さい。ダイナミズムを強調か。緩やかな旋律が、繊細に鳴った。

 全四楽章、楽章ごとに冒頭で翠川が、テンポのカウントを飛ばして演奏した。第三楽章が短ったため、第四楽章をたっぷりと聴いた印象だ。
 旋律は荘厳だが親しみやすい。なぜか翠川は、全般的に音量を抑える。もっとボリュームあげて弾いて欲しいところも、せいぜいメゾフォルテ。丁寧で柔らかな解釈だった。

 休憩はさんだ後半セットは、寛ぎと力強さが増す。「作曲者不明ですが・・・」と翠川が曲紹介する(6)。観客は皆、早川の作品と知ってるため笑いが飛んだ。
 イントロはベース・ソロ。翠川がおもむろにチェロを重ね、テーマが浮かび上がる。
 やがて翠川のソロでも無伴奏に。再びの早川ソロも、一部は無伴奏。この曲では無伴奏の交換が行われた。
 テーマ部分はきっちりビート感あったが、アドリブ部分ではふわりとノービートに変わる。ポリリズムさは希薄だが。二人の旋律が自在に、自由に絡み合った。

 (7)は静かなメロディが美しく響く。すごく緩やかで寛いだ空気。しっとりとメロディが店内に広がった。
 確かこの曲で翠川が、弓による重音ソロを効果的に取る。二本の指を離して弦を抑え、オクターブ、もしくは特徴的な和音を響かせた。そのまま和音でフレーズを作り、幻想的な雰囲気を作る。

 一方で二人とも、全編スイングして盛り上がったのが(8)。拍頭でフレーズ切れる所を、翠川は肩を突っ込ますように体でテンポを作って弾く。
 早川がパワフルに低音を唸らせ、翠川もひときわフォルテでチェロを鳴らした。今夜、もっとも前のめりでアップテンポの盛り上がる演奏。
 (9)は早川のベースが曲を引っ張る印象を受けた。音量を上下さすチェロと対照的に、どっしりとベースは弦を唸らせる。

 最後の(10)はチェロのイントロに合わせ、早川がベースのボディを叩き始めた。リズミカルだが、ビートの維持ではない。メロディの代わりに、打音で合いの手を入れる感じ。
 ベースにフレーズ役が映ると、今度はチェロがボディを叩きはじめる。そんなボディ叩きのやりとりが数度繰り返されたあと、二人は即興に雪崩れた。
 翠川はハーモニクスを多用し、ちょっと弓で変則奏法も混ぜる。力強くチェロを鳴らす場面もあった。

 二人きり。楽器の響きのみ。シンプルな編成だが、雄大な世界観を味わえる充実のライブだった。

 次回の"みどりの日"は向島ゆり子をゲストに招き、課題曲はヘンデル。
 なおこの日最後にマスターから、「5月は"翠川の生誕スペシャル"で黒田京子に加え、太田惠資のゲストが決定!」と発表あった。課題曲は、あるのかな?色んな意味で楽しみなライブが続く。
 

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