LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2015/2/27   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之トリオ
 (明田川荘之:p,オカリーナ、畠山芳幸:eb、楠本卓司:ds)

 明田川のライブは何十回も見ているが、コンボ編成はそうとうに久しぶりだ。理由は特にない。たまたま。ピアノ・ソロは深夜ライブなので、行きやすいってくらいかな。ぼくは歳取ってきて、夜更かし辛くなってきたのが玉にきず。

 自らの店で月例ライブを明田川は行っているが、ぼくが聴きはじめた15年くらい前からの印象は、バンドで無くセッションだった。たぶん毎回、明田川は共演者の顔ぶれを変えていた。ゆるやかに常連的なミュージシャンはいるが。音楽の幅を広げるためかな、と当時から漠然と想像していた。

 だが2011年頃から月例ライブのメンバーが、何となく固まる。それが昔からの共演者である楠本卓司に、あまり明田川との共演歴が無かったイメージのある畠山芳幸。
 このピアノ・トリオ編成は、CDでは明田川のリーダー作、"My One and Only Love"(2011),"いそしぎ"(2013)などで聴ける。
 とはいえやはり、明田川の"バンド"サウンドを、ライブで聴いてみたかった。
 ようやく今夜、タイミングが合う。

 楠本は1タム1スネアにシンバル2枚のシンプルなドラム・セット。畠山はサイレント・コントラバスだ。
 明田川のライブの常として録音はされてたが、畠山のベースは店置きのアンプにつながる、PA無しの生バランスだった。

<セットリスト>
1.テツ
2.(スタンダード)
3.Strange Wood Blues
4.Cruel Days Of Life
 〜White Kick Blues
(休憩)
5.(スタンダード)
6.St. Thomas
7.メニーナ・モッサ
8. ?
9.室蘭・アサイ・センチメンタル
 〜?

 たぶん、こんな感じ。曲目書いてあるものは、(6)以外は明田川のオリジナル曲だ。
 スタンダードは聴き覚えあるメロディだが、タイトルがわからない。(8)と(9)の後半曲は、明田川のオリジナルかな?

 チューニングから滑らかに演奏へ入った(1)は、最初は訥々とした印象。
 楠本のドラムはライド・シンバルを強打し、賑やかにリズムを刻む。ハットを踏んでテンポをキープし、するっと静かにフィルを入れるかたち。
 生バランスゆえにシンバルの音量が厳しかったが、いつの間にかドラムのボリュームは下がって、ごく自然なアンサンブル・バランスで鳴っていた。

 トリオはしだいにテンションを上げ、グルーヴ大会に雪崩れる。明田川だけでなく、楠本も時に唸りながら演奏してた。
 (1)のソロはベースのアドリブを全面に出した。ベース・ソロでは音数をグッと減らし、数音を小さな音で滑り込ませるピアノもきれいだ。

 (1)からメドレーでつながった(2)は、穏やかなムードでしっとりと紡がれる。
 ここで初めてドラムのソロ。ブラシを使ってたかな。あまり叩きのめさず、静かに鳴らす。今夜のドラム・ソロは歌心があった。聴いてて、メロディが何となく宙に浮かぶ。
 
 無伴奏のドラム・ソロはときに、一人コール&レスポンスみたいで面白かった。つまり伴奏として主旋律のアクセントを叩く一方で、オブリを同時に入れる感じ。
 メロディを頭の中で回して聴いてると、そこかしこでメロディ伴奏とフィルを打つ手数の必然性が、頭に浮かんできた。

 楠本のドラムは今回、リズム解釈が興味深かった。フレーズは決して手数多く無い。さりげなくアンサンブルを支える格好だ。それでいて拍の表と裏が、ちょっとしたフィルでくるくると回っていく。
 あまりバスドラを大きく踏まない。ソロでは少し強調したが、基本はハットとスネア、ライドのパターンが耳に届く。
 明田川との楠本の共演は何度も聴いてるけれど。なんだか今日の楠本は、ちょっと違う感じ。これがバンド・サウンドというものか。

 曲によって楠本はブラシからスティック、マレットと頻繁に使い分けた。ビートで無くグルーヴを作る。
 さりげないリム・ショット、ぱあんと一発決めるフロアタム、後半セットの(8)だかの冒頭で、すっとスネアの響き線をセットする。そんな仕草も含めて、かっこいいフィルやシーンがいくつもあった。

 畠山のプレイも、とても気持ち良かった。CDではちゃんと聴けて無かったな、と反省。
 フレーズが頼もしいメロディアスさだ。(1)では四分音符を基調に奏でるフレーズは、まったく止まらない。ランニングではなく、カウンター・メロディ。もちろんピアノを邪魔しない。むしろ、ふくらませる。
 明田川の奔放なピアノとガップリ組んだうえで、自らの存在感を強烈に出す。心地よくいかしたベースだった。

 派手にベースは自己主張しない。けれども単なる伴奏なんてしない。実直で優雅。ソロでも技をひけらかさず、素直で芯の太い豊かなフレーズを次々繰り出し、芳醇に膨らませた。
 明田川との呼吸もばっちり。ソロの交換が滑らかに続く。

 そして石渡治"B・B"のTシャツ姿な明田川の演奏は、今夜も快調だった。
「演奏中、扇風機止めると暑い・・・」とMCでぼやきながら、熱のこもった鍵盤さばき。今夜はクラスターを控えめ、メロディアスな演奏が主軸だった。
 テーマが変奏されてアドリブへ繋がるが、途中で幾度もテーマが再提示される。心地よい酩酊感を覚える、独自の世界をたっぷり味わえた。

 確かに今夜の演奏は、過去に聴いてきた明田川セッションの耳ざわりと微妙に違う。探り合ったり、定型やキメで固めるようなシーンが無い。
 これがバンド・サウンドというものか。

 (3)の冒頭で明田川のオカリーナ・ソロ。ふたつのオカリーナを吹き分けながら、しだいにテンションを上げていく。一小節の中でめまぐるしく持ち替えの技を見せたのは、この曲か。
 オカリーナを置き、すぐにピアノを弾きはじめる明田川。くきくきと揺れながら進む、独特なムードのオリジナル曲、"Strange Wood Blues"に進んだ。

 情感炸裂の"Cruel Days Of Life"も緊張感ある切ない、良い演奏だった。高らかに弧を描く3連の旋律をテーマを一度だけピアノで弾き、そのままソロへ雪崩れる展開にゾクッときた。
 ベースが次々にフレーズを繰り出し、ピアノのアドリブが高まる。ドラムはある意味、リズム・キープではない。自由に拍の強調を変え、軽やかにおかずを混ぜた。

 たっぷりと聴けたあと、お茶目な旋律の展開に。いわゆる"終わり"のフレーズが幾度か繰り返される。明田川が時々やるお遊びかと思ったら、そういう曲だった。
 素朴なスイング感が堪らない。さらにアドリブではグッと黒さを増しビバップに変わる。

 ちなみにこの曲は"White Kick Blues"、明田川のデビューLP"THIS HERE IS AKETA VOL.1"(1975)に収録。
「そうとう久しぶりにやったな。CDに入ってるけど」
 と、演奏後に明田川が曲紹介してたが。CD化されてませんよ・・・。機会あるなら、ぜひCD化して欲しい。

 後半セットは美しいメロディの曲から。タイトルが思い出せない。ころころとスイングするピアノが爽快だ。粘りを持ちつつ、ゆったりとグルーヴする。
 ロリンズの"St. Thomas"は、明田川のレパートリーでも定番の部類に入る。最初はオカリーナ。やはり数本を使い分ける。途中で「わああ〜!」とコミカルに叫ぶ瞬間も。
 楠本がフレーズの節目で、軽く音を併せて彩りを付けた。

 どっぷり疾走する(7)からは、最後までテンションが途切れず聴き応え満載だ。ソロをはさみながら、怒涛に進む。
 ベースやドラムのソロでは、無伴奏だったり音数をかなり少なめにして、アンサンブルにメリハリがつく。
 ドラムとの4バーズ・チェンジで、ピアノが4小節3〜4拍目から食い気味にフレーズかぶせてくる展開が、ぐいぐい熱っぽくて良かった。

 明田川による金属製のベルやタンバリンは控えめ。(7)のドラムと掛け合いの時に、ちょっと強めにタンバリン叩いたくらい。
 ベルは後半セットで時々手に持ってたが、ごく小さな音で軽く振るていど。むしろピアノで他の2人とがっつり絡んでいた。

 たっぷりと三人のアンサンブルが繰り出すグルーヴに呑まれた。
 最後の曲からメドレー形式で、コミカルな曲に変わる。メンバー紹介も兼ね、ソロ回しを混ぜた。

 終わってみたら22時45分くらい。後半セットが長めだったせいか。
 素晴らしく充実したライブを聴けた夜だった。またこのトリオを聴いて見たい。
 といいつつ次の明田川月例コンボは楠本卓司と本田珠也の、2ドラムにピアノの変則アンサンブルだったりするのだが。
 

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