LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/12/30   西荻窪 アケタの店

出演:アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ
 (明田川荘之:p,オカリーナ、渡辺隆雄:tp、宮野裕司:as、松本健一:ts
  榎本秀一:ts、吉野弘志:b、楠本卓司:ds、明田川歩:vo)

 毎年12/30の恒例な明田川荘之のオケ・ライブ。この編成でライブは年1〜2回程度、年末と*周年記念くらいか。ぼくは9年ぶりに聴いた。
 オケのメンバーはほぼ恒例だが、毎年微妙に変わっている。今年は津村和彦が不参加。

<セットリスト>
1.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
2.ブラックホール・ダンシング
3.オーヨー百沢
4.スモール・パピヨン
(休憩)
5.亀山ブルーズ
6.テイク・パスタン
7.アルプ
8.エアジン・ラプソディ
(アンコール)
9.オール・オブ・ミー

 アンコールを除き、全て明田川のオリジナル。(5)と(6)のVo入りは初めて聴いたかも。
 フロントに4管とボーカルが並ぶ光景は壮観だ。始まっていきなり右チャンネルからPA通したピアノの音が聴こえビックリ。しかし4管体制で埋もれるため、適切な対応だったと思う。ウッドベースはアンプ通してたが、ホーン全員が吹き始めると少々聴こえづらかった。

 まず(1)はピアノ・トリオ編成でボーカルを聴かせる。おもむろに切ない音色のホーン隊が入ってきて、ぐっと盛り上がった。
 メロディユニゾンで無く、渡辺隆雄がトップのメロディを吹きテナー勢は対旋律を吹く。

 最初のソロは榎本秀一。ぴきぴきと右手で半音キーを叩き、金属質なノイズを吹く。やがてじわじわとメロディアスに膨らんでいく。明田川がぐいぐいとソロを取り、どんどん盛り上がった。
 終盤ではてんでにホーン隊が吹く中、リズム隊もテンションが上がっていく。吉野弘志はさっそく、最低音のつまみを外し弾きまくった。
 楠本卓司のタメるビートも熱を帯びる。パターン打ちよりもフィルをガンガン入れていた。

 (2)でいったんボーカルが袖に下がり、インスト編成。テーマで榎本と松本健一が4分音符を表裏の拍で、交互に吹くアレンジが新鮮だった。
 ソロは渡辺と松本。小刻みに旋律を切りカットアップみたいなペットのソロを、フリーキーな松本のソロが広げる。先ほどの勇壮な榎本に比べ、松本は豪放に吹いていた。

 再びボーカルが加わり(3)へ。イントロでオカリーナのソロを明田川が短くとる。
 切なくホーン隊がテーマを盛り上げて、宮野裕司がはじめてソロを取った。
 アタックが柔らかい独特の音色は、情感あふれるこの曲にぴたりとハマっていた。旋律が次々現れる美しいソロ。
 再び松本がソロを取る。宮野のアドリブを受けたか、先ほどと一転してメロディ寄りのソロだった。

 なおこのオーケストラ、演奏が始まると明田川はほぼ指揮をとらない。それなのに明田川一色に染まる辺りが、強固な音楽性だ。
 そして実際のホーン隊へ指示は、ほぼ榎本が努めていた。ソロを聴きながらテーマやリフのキューを管のメンバーへ送る。
 フリークトーンを混ぜた松本のソロから、ピアノ・ソロへ。しばらくして榎本が人差し指を鍵に曲げる仕草。セーニョかな。
 
 ところがピアノ・ソロが止まらない。管のメンバーは苦笑しながら明田川の様子へ視線を投げる。がんがんと鍵盤を叩く明田川。おもむろに榎本が、ふたたび指で鍵のサインをメンバーに送った。
 そしてベース・ソロへ。無伴奏になり、じっくりとテンポを落して吉野はロマンチックに低音を紡いだ。
 
 前半最後は定番の(4)。ソロも山盛り、渡辺から宮野、榎本へ繋げる。
 高らかなトランペットから、決して熱くもフリーキーにも行かないアルト・サックス。テナーはここぞとグイグイ吹き鳴らす。ホーン隊のリフに負けじと、榎本が吹きまくった。テナーが軋み、吼える。

 さらにドラム・ソロも。楠本は猛然と叩きのめす。節目ごとに半瞬、自分のフィルを確認するかの間を取る。グルーヴはくきくきと断線しつつ、力強くタム回しが響き渡った。
 終盤はホーン隊が吹きまくる横で、明田川のクラスターが炸裂を続けた。鍵盤へ腕を叩きつける明田川がたっぷり。

 後半セットは無伴奏で明田川歩と明田川の掛け合いから。涼やかに高い音程を当てていく歩のカウンターで、明田川が嗄れ声で下ネタ満載の落しを入れていく。最後一フレーズ飛ばしたのか、ちょっとぐだぐだで演奏に雪崩れた。
 ソロは渡辺から松本に。後半セットでトランペットはぐんと滑らかさを増した。松本はソロのたびに音楽的な表情を変える。ここではワイルドな吹きっぷり。
 終盤で4管全員が吹き始めると、やはり厚みが凄い。歩も歌ってたがホーン隊に埋もれてしまってた。

 そして次の(6)。宮野のソロが光った。歌の都合か、ちょっといつもとキーが違う気がした。でも、緩やかなタンギングと落ち着いたセンチメンタルさが、この曲にぴたりと合う。
 宮野のアドリブを受けて再びソロを取った渡辺も、滑らかにトランペットを鳴らした。

 盛り上がったのが(7)。オカリーナのイントロから歩の歌へ。再び宮野と松本がソロを取った。
 ピアノのソロはクラスターが頻出し、猛然と疾走。止まらない。
 ここでベースのソロも。また無伴奏で、今度はアルコ弾き。

 曲がようやく着地して、間をおかず(8)に繋がった。渡辺から松本。二人のソロの合間に榎本が、ハンドキューで数パターンのバックリフをホーン隊にかぶせていく。
 榎本自身もかっこいいソロを取った。フレーズがしだいに展開する。いったん吹いたアドリブを確認するかのように、少しづつ変奏しながら展開していく。ドラマティックなソロだった。
 そしてもう一度、ドラム・ソロ。曲テンポをわずかに落し、やがてフリーに。シンバルはあまり叩かず、タムを中心のソロ構成だ。
 ピアノが続けてソロ。ホーン隊も盛り立てて、賑やかに2セット目が終わった。

 いったんステージから降りず、そのままアンコールに。
 最後の曲で横に座ってた歩をフィーチャーする形で、スタンダードの"All of me"。
 ワンコーラス歌った後で、ホーン隊が集団ソロに入る。所々でテーマの断片が漏れるが、平行即興で4管がてんでにアドリブを吹き鳴らす音像が刺激的だった。

 ソロ回しは松本から宮野、渡辺へ。決して熱くならず、冷静な宮野のソロが独特だ。そして華やかにスイングするトランペットのアドリブが気持ちよかった。
 コーダは再びホーン隊が吹き鳴らす展開。23時近くまで、ボリュームいっぱいのライブだった。
 
 つくづく個性的だ。コード進行のオーソドックスなジャズだが、フリーさも貪欲に吸収する。スイングしても明田川流のセンチメンタルさが充満する。
 特に指揮をとらなくともメロディの力で、明田川の色にサウンドを染める。ベテランならではの、したたかなアケタ・サウンドを堪能できた。
 

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