LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/11/03   秩父 柞学園ホール

出演:秩父4D

 地方都市でのノイズイベント"4D"第一回が、秩父の商店街4会場で一日限りで行われた。主催は一楽儀光(ドラびでお)と康勝栄の共同キュレーション。Webはこちら
 康は昨年より日本のノイズ音楽シーンを海外に発信する団体"MultipleTap "を主宰してる。今回の出演者も"MultipleTap"がらみを軸に、一楽の人脈、そして若手らが集まったようだ。

 イベントの目玉は日没に合わせてのI.S.O.屋上ライブや、灰野敬二/河端一/JOJO広重の共演など。だが無料会場のほうでも興味深い顔ぶれがラインナップされ、今回はそちらをいくつか見てきた。当日のタイムテーブルはこちら

 無料ステージは二つ。柞学園ホールと、併設された妙見の杜。ホールというから椅子有りスペースを想像したが、フラットな多目的スペース。その半分を仕切って、ライブ会場にしていた。
 正直、動線の配慮が残念。入り口入って左側をステージスペース、反対側を客席にする。仕切った奥の部屋が物販スペースと楽屋。しかし観客は奥ゆかしくミュージシャンから若干引いて、遠巻きにミュージシャンを眺める。

 するとどういうことになるか。通路がステージと観客の間に成立する動線となり、ライブ中に観客やスタッフが目の前をひっきりなしにウロウロする形となる。落ち着かないことおびただしい。
 ならばかぶりつきでミュージシャン見ればいいじゃん、と言えばその通り。でもどうしても遠慮がちになっちゃって・・・ぼくもまあ、遠巻きに見てたひとり。エラそうなことは言えない。とはいえ次回あるなら、通路の動線は工夫してほしい。

 今日はイベントの頭から見ず、途中から行っていくつかのライブを見た格好。

美川俊治(非常階段、incapacitants)

 若干時間押して始まった。今日の目当てな二つのうちの一つ。こんな早い時間に、しかも無料で美川のライブが聴けるなんて。なんという贅沢。
 さすがの人気で、50人以上が集まった。ぼくが見た中で唯一、ステージかぶりつきに観客が押し寄せた。もっとも前数列は床へ座り、暴れる客は無し。さすがに遠いためか、観客は日本人ばかりだった。

 テーブルの上に載った機材が十数個。いきなり耳をつんざく鋭いノイズで幕を開け、30分弱のノイズをばら撒いた。「私はノイズ」ロゴ入りの自らのTシャツにキャップ姿の美川は、うつむき加減で機材を操る。

 冒頭はコンタクトマイクを握り、横のアンプへ近づけフィードバック。さらに次々と機材を弄ってさまざまなノイズを出した。
 しきりに操作したのが、手元に置いた箱。どういう仕組か、押す力によって金属ノイズが変化しながらまき散らされる。最後に見たら木組みのボディに基盤仕込んであるように見えたが。

 シャウトは無し、あくまで機材と美川は対峙する。ある程度一つの機材を操作したら、次に移るような感じ。継ぎ目なしで変化するノイズだが、一定のスピード感やグルーヴを産み出してるのが、さすがのセンスだ。
 ストーリー性は感じにくいが、自己満足に陥らず音楽として成立していた。

 CD-Jみたいな装置に手をやり、円盤を操作すると鈍い音がミシッ、ミシッと鳴る。高音ハーシュを裏に、重厚に何度も手を滑らしインダストリアルなノイズを出すさまがかっこいい。
 他にもAir Synthで甲高いノイズも巧みに操っていた。

 間延びせずノイズをばら撒き続け、すうっと音を絞る。
 拍手の中、にやりと笑みを浮かべ「御清聴ありがとうございました」と一言。
 思ったより大人しいステージングだったが、聴き応えあるノイズだった。

french man flat+沼田順+臼井康浩
 
 セットチェンジのため妙見の杜を見に行くと、田中悠美子のステージ。三味線から大正琴へ移り、ノイジーな音をばら撒きながら演奏してた。タイミング悪く彼女のステージも、すぐに終わってしまう。
 もいちど柞学園ホールに戻ると、ちょうどこのセッションが演奏していた。

 沼田順が中央に立ち、エレキギターをかきむしりながら、せわしなくテーブル上の機材を操作する。
 french man flatは初めて見たが、たぶん後ろの男二人組。一人はミキシングボードのようなもの、もう一人はパワーブック中心に操る。さほど音量は大きくないが、誰がどの音を出してるか、今一つ理解できない。
 沼田の動きを見てても、ギターと出音のノイズがリンクしづらい。たぶんfrench man flatの二人が低音ドローンや静かなハーシュを出し、鋭い単発的なノイズが沼田と思う。

 勢い、臼井康浩の鮮烈さに惹かれた。フレーズやメロディは全く弾かない。
 エレキギターをノイズマシンと位置付け、足元に置いた二つのエフェクタもほとんど操作せず、ひたすらハードなノイズをばら撒いていた。
 
 臼井はストラトをかきむしるが、ピックは口にくわえたまま。ネックの上を両手が激しく動くたびに、軋み音が馬鹿でかく噴出する。
 ギターを裏返し、トレモロのスプリングに叫び声を当ててノイズを出すのが新鮮だった。
 さらにアームも使い、変則的なギター奏法を延々繰り出す。

 臼井のギターだけ、全体の音像からグンッと力強く浮き上がっていた。リズムもフレーズも皆無だが、不思議とドライブ感が強靭に存在する。
 他の三人がドローン的なハーシュに留まる中、臼井のパワフルさに引き込まれた。

大島輝之+竹下勇馬+中田粥
 
 セットチェンジの合間に妙見の杜へ行くと、ちょうど石川高のライブが終わったところ。タイミング悪いな・・・もういいや。
 ホールへ戻ると、このセッションが始まるところだった。

 この三人は"相殺iewiesトtrioナリ"名義で過去にもライブを行っている。サンクラに音源もあり
 竹下勇馬と中田粥は初めて聴いた。竹下勇馬の5弦フレットレス・ベースには、えらくごつい電気的なアタッチメントがいくつも装着、まるで武装みたいだ。どんな音が出るか、ワクワクしていた。中田粥はテーブルに生基盤が無造作に何枚もばら撒かれるセッティング。
こちらも出音が興味深い。
 大島輝之はエレキギター構えて椅子に座る。その前にもう一個椅子を置き、いくつかのエフェクタを置いた。

 だが。結論は、ちょっと拍子抜け。セッションで無く、同時進行の3人ソロを聴いてる気分だった。
 竹下は何の音を出してるか、今一つわからず。アタッチメントの役割も聴き取れなかった。20分ほどのセッションで竹下の目立つ場面はほとんど無し。低音部分が竹下かな。中盤でフレットの上を指が素早く動く場面もあったが、出音に反映しなかった。

 中田は鍵盤に基盤を接続し、プローブ当ててさまざまな音程を出す仕組みらしい。見栄えはコミカルだし、発信音風の鋭い電子音は目立つが、あまり他の二人と絡むふしが無い。複数の基盤を使い分けて当てる位置で音が変わるのは面白かったが。
 もっともこの三人の中で、一番流れに気を使ってるようすが中田だった。奔放な大島と物静かな竹下の間で、音の流れを作ろうとしてる様子がうかがえた。

 大島は音的に一番、存在感有り。やはりフレーズは皆無、エレクトロノイズ中心で、ひっきりなしに機材を操作してハードにノイズをばら撒いた。三人とも立ち位置がストイックすぎ、セッションである意味合いを感じられない。比較的、大島のみが前面に出た風になってしまった。
 
 音だけ聴いたら無秩序な電子音楽で、音色的には心地よい。中田の鋭い電子音が良いアクセントに鳴ってる。だがセッションの風合いまでは掴みとれず。ぼくの修行が足りん。

中村としまる+康勝栄

 今日の目当ての二つ目。"no-imput mixingboard"、すなわちボードそのもののつまみ操作で、ハム音やガリを音楽とし操る中村としまると、電気機材でノイズを出す康勝栄のセッション。
 唐突に思いつきでフロアの電気を消して演奏となった。ある意味これは効果的で、音楽に集中しやすい環境になった。冒頭に書いた通り、ひんぱんに無関係な観客やスタッフが、ミュージシャンと観客の間を歩いてくのまでは防げなかったが。

 この二人こそデュオで無くソロの平行線かと思ったが、意外に噛みあうセッションになった。
 冒頭で康が鋭い大ボリュームを出したが、控えめな音量の中村に合わせ、音量やタイミングを康は慎重に伺う。そのおかげで、じわじわと盛り上がるムードが醸成された。

 もっとも中村も小音だけじゃない。しだいにノイジーにボリュームは上がり、軋み音から鋭いスパイク、連続する振動音など様々な音色をボードから引き出した。
 だんだんと康のノリも上がっていく。明確な応答やドラマ性が二人のノイズ間で発生はしないが、なんとなく二人のノイズ全体で、一つの大きなうねりを感じる。

 無秩序で、本来の意味でのノイズが空中を舞う。20分のステージがあっという間に終わった。

 この後の出演者もちょっと興味あったが、ぼくはここで撤収。秩父はさすがに遠く、明るいうちに出たのに、最寄駅に着いたらもう真っ暗。
 比較的行きやすい(移動時間はかかるが)場所だったため、思い切って足を延ばしたが。この手のノイズが全く聴け無さそうな場所で、抽象的なハーシュノイズが轟く光景ってのも異形感が興味深い。次があるなら、腰を据えて見に行くのも面白そうだ。
 

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