LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/10/18   大泉学園 In-F

         〜月刊『みどりの日』〜
出演:翠川敬基+早川岳晴+shezoo
 (翠川敬基:vc,早川岳晴;b,shezoo:p)

 翠川と早川のインエフで月例デュオ、"みどりの日"にShezooが加わる不定期ユニット。ネットで調べると、たぶん今回が5回目。2012/11/22に幕を開け、13/7/18と11/25、14年は6/24。およそ半年くらいのスパンで演奏されている。
 クラシックを演奏がコンセプトの一つらしく、今回も2曲の演奏が予告されていた。

(セットリスト)
1.ミクロコスモスSz. 107:No.65 Dialog [対話](バルトーク)
2.ヴァレンシア
3.チェロソナタ第1番 ホ短調 作品38(ブラームス)
(休憩)
4.3つの古いウィーンの舞曲:愛の悲しみ(クライスラー)
5.ワンダーバード
6.ウィッシュ
7.アルタード
8.ワルツ・ステップ

 クラシック3曲の他は全て、富樫雅彦の作品を演奏。
 まず(1)はもともと30秒ほどの曲。ジャズ風にテーマ演奏に譜面を使い、三人のフリーへつながった。テーマ部分ではアルコ弾きのチェロに対し、指弾きのコントラバス。アンサンブルの響きが新鮮だった。
 フリー部分へ入ると、何か違和感を感じる。最初はなぜか分からず、実は後半の(6)あたりまで、聴きながら首をひねっていた。

 違和感とは何か。だれもリズムを刻まないんだ。
 ベースのランニングも、ピアノのビートもない。小節感はほぼ明確に存在するが、フレーズを互いに音を重ねつつ、ソロ回しも無し。つまりジャズ的なお約束が皆無。 しかし流れは常にあった。てんでに弾き倒すフリーで無く、アンサンブルの強度はしっかりしてる。自由に流れつつ、破綻は無い。

 だが音だけ聴いたら、そうとうに硬質なインプロだろう。甘やかな旋律や派手なキメ、丁々発止のインタープレイとは逆ベクトル。静かに密やかに紡がれるサウンドは、ストイックに響く。
 とはいえライブで聴いてると、奏者の雰囲気が漂って穏やかに聴ける。特殊奏法を時に決める翠川、クラスター気味に音を一瞬ばら撒く次の瞬間に凛々しく響くshezoo、そして早川。
 早川のベースは今夜、芳醇に響いた。強く弦をはじくと余韻と残響が空気を震わせる。ライブで早川を聴くのは久しぶりのため、以前との比較はできない。とにかくコントラバスの響きが心地良かった。

 早川はランニングやいわゆるベース音でなく断片的だが力強い低音をはじき出す。拍とも微妙にずらしても、不思議とノリは継続した。
 演奏力の底力をびんびんに明示する、ベースだった。(1)の後半部分でアルコを早川は持つ。
 クライマックスでもう一度"ミクロコスモス"に戻り、こんどは翠川と併せて二人のアルコで曲を締めた。

 (2)はこれまで聴いた翠川の演奏と、まったく違うアプローチが興味深い。まずチェロの独奏から。音量は小さめ。ハーモニクスを混ぜ、硬い響きだ。
 インプロがそのまま間をおかずテーマに行く。ピアノが音数を少なめに載った。翠川はテーマを奏でる。透徹な、小さな音で。メロディを歌わせず、譜割をリジッドに。
 ロマンティックに展開しうる旋律を、あえてクールな印象に留めた。
 3人の即興も同じムードが持続する。三人三様に音を出す。shezooがふっと弾きやめ、弦二本へ。そこに改めてピアノが滑り込むスリルが良かった。

 (3)が今夜のメインの一つ。最後まで引っ張らず、1stセット最後に持ってきた。早川は自分が演奏しないため「録音しよっと」とレコーダー片手にニヤリ微笑み、客席に座った。
 翠川は気負わず、譜面台を準備する。譜面は数十年経過して、あちこちがぼろぼろ。譜めくりの都合か、横に張り付けられた小さい譜面の白さが目立つほど、本体は黄ばんでいる。それほど、弾きこんだ譜面なのかもしれない。
 入念にチューニングする、翠川。

 ブラームスのチェロソナタ1番は全3楽章、30分弱の演奏時間と言うが。聴いてるときは、あまり時間の長さを感じなかった。
 力強くチェロが歌った第一楽章、あっという間な気がした第二楽章、そしてピアノが唸りを挙げチェロを煽った第三楽章。

 第一楽章はshezooがピアノをひときわ丁寧に奏でた。静かな音が粒良く鳴り、フォルテは軽やかに弾む。翠川は流麗に旋律を描いた。この曲は良く知らないが、第一楽章はさほど高速旋律が無い。緩やかにテーマが変奏され、じわじわ盛り上がって高らかに歌う。
 翠川の左手が優雅にビブラートを、強く表現する。柔らかい弓が、チェロから暖かさを誘った。

 第二楽章は幾分、ノリが早まる。ここは「どんどんと展開していくなあ」と思ってるうちに終わってしまった感あり。
 圧巻が第三楽章。時間たっぷり、のめり込めた。初手からピアノが強く響く。チェロが埋もれるほどに。やがてチェロがむっくりと存在感を増していく。
 第一楽章より旋律は複雑さを増した。速度も前のめりに、美しい場面が次々に押し寄せてくる。
 今夜のライブ1stセットのロマンティック成分を一手に引き受けたような、怒涛の存在感だった。
 
 短い休憩をはさみ、早川とshezooのデュオへ。曲はクライスラー作の"ヴァイオリン"とピアノのための楽曲だ。"コントラバス"を構えた早川から、硬い雰囲気が滲む。
 「数日前に太田恵資(vn)向島ゆり子(va)とライブの時、この曲やるって言ったら『無茶だ』と言われたんですけどね〜」と前説で翠川は、"にこやかに"喋ってた。

 実際の演奏はもちろん、素晴らしい。センチメンタルなメロディは、どこかで聴いたことがある。前述のとおり、今夜のコントラバスは響きが心地良い。それが旋律の抒情感に足され、すごく芳醇な一時だった。

 ノルマは終わった、と早川は飄々とした表情に戻る。ここからは富樫雅彦の曲が続いた。ジャズ的にテーマがあり即興へ、の流れ。だがやはりソロ回しが無く、集団即興のアレンジだ。
 (5)は富樫トリオのアルバム"モーション"(1977年)に収録。翠川は本盤にベースで参加した。
 (4)と一転して硬質な演奏。不揃いに凸凹するフレーズが、途切れなく続いた。あまり翠川はライブで演奏していない曲、だそう。

 ある意味分かりやすい名演が、続く(6)だった。アレンジのアプローチは他の曲と変わらないが、メロディアスな場面が多発したため。穏やかなムードで優しく響いた。
 (7)は再び凛とした空気に。ピアノがソロを取る中、コントラバスとチェロがフレーズで対話する。
 数音ほどの音列が、いったりきたり。やがて重なり雪崩れ、ピアノと合わさり別の世界へ展開していった。

 最終曲の(8)もわかりやすい演奏だった。ゆるやかにテンションを挙げていき、テーマはゆったりと歌う。この後半で、珍しくソロ回しがあった。早川からshezooへ。野太い低音をぶいぶいと早川が唸らせれば、上品で温かいフレーズをshezooが紡ぐ。

 後半セットはボリュームたっぷりだが、なんだかあっという間に過ぎた感じ。即興のアイディアいっぱいな場面と、クラシックと真正面に向き合う瞬間と。双方、ベクトルの異なる緊張や真摯さを味わえるユニットだ。
 とても楽しかった。次回は2月くらいにラフマニノフらしい。攻め続けるなあ。  

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