6/LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/6/18  六本木 Superdelux
  
   〜3.11後の世界,音楽の虹の橋「天竺箔」〜
出演:灰野敬二+太田惠資+U-zhaan
 (灰野敬二:g,vo,per,etc.、太田惠資:Vln,vo、U-zhaan:tabla,per)

 「即興で併せず、その先へ」
 インプロのライブでも屈指の組合せな灰野敬二と太田惠資のデュオは、in-Fの発案がきっかけ。03/4/16のこと。その後同年7/5、06年9/20のライブをin-Fで僕は聴けた。
 このデュオは場所を変えて数度ライブあったがタイミング合わず、8年ぶりだ。
 充実した内容のわりに、共演頻度は少ない気がする。今回はたぶん12年2/12のLady Jane以来か。
 さらに共演者として今夜はU-zhaanも加わった。意外なことに灰野も太田も初共演だそう。
19時半の開演を10分ほど押して、まずU-zhaanと太田が現れた。第一部が順列組合せ、第二部がトリオ編成だ。
 
<第一部> 太田+U-zhaan 〜 U-zhaan 〜 灰野+U-zhaan

 鋭く太田を見つめるU-zhaanが指先で、鋭くタブラを鳴らす。いきなり始まった。
 ぼくはU-zhaanを聴くのは初めて。過去に聴いたタブラ奏者と全く違うスタイルで新鮮だった。
 6台のタブラをずらり並べ、それぞれ音程変えている。だがメロディ狙いでもなさそう。さらにビートをほとんど刻まぬアプローチが新鮮だった。リズムでなくパーカッションの立ち位置で挑む。えらく右ひざ立てる極端な姿勢にびっくりしたが、エフェクタを踏んでるのかも。いくつかの場面でその場でパターンをサンプリング・ループさせ、音を重ねた。

 奏法も独特だ。左手の腹で打面コスりはほとんど出ず。指先で叩くのを多用する。6台並べたタブラのうち、最も左に置いた低音タブラ(いわゆるバーヤ、か)をもっぱら左手は叩き、右手で残り五つを打ち分ける。もちろん、例外も出たが。
 右手も指先の強い撃ちが目立った。たあん、と鋭い音色がきれいだったな。
 激しい連打はほとんど無し。そのため、特に第一セットでは印象薄さは否めない。

 太田はエレキ二棹とアコースティック一棹。1stセットではもっぱら青いバイオリンのみを使った。
 U-zhaanが控えめな一方で、太田はしょっぱなから弾き倒す。激しく燃え上がるフレーズを存分にばら撒いた。
 10分ほどデュオのあと、太田が一礼してステージを去る。チューニングするU-zhaanだが、灰野が現れないため、そのまま静かにソロとなった。二つのタブラを同時に鳴らし、パワーコードを作る。ゆったりテンポで繰り返すうちにサンプリングされ、音が足された。

 おもむろに灰野が現れる。持ち込んだ楽器は多彩だが、まず床へ小さなカーペットを敷き、靴を脱いで地面へ腰かけた。
 操る楽器はアタッシュケース式蛇腹ドローン装置。印のハルモニウムの一種でシュルティボックスというそう。木製アタッシュケースのふたを開けると蛇腹が広がり、ふいごで音を出す。
 床に置かれたのは二つ。最初は一つを執拗に開け閉めしつつ、灰野は高らかに歌い始めた。強烈なロングトーンをはさむ。U-zhaanがあくまでも密やかに対して、音像は静かだ。フロアにミラーボールが回り、妙な絵ヅラだったな。
 
 灰野は立ち上がり、ダラブッカを持つ。タブラとダラブッカとパーカッション同士。ここで灰野が、独自奏法で存在感を噴出させた。U-zhaanを音で圧倒してたと思う。
 指先や手の形を次々に変えつつ、打面をずらす。リズムを刻む気はハナから無い。同じ音を繰り返さず、ダラブッカから様々な音色が現れる。さらに灰野は肘や肩の関節を前後に変え、打つパワーも変化をつけた。したがって音は実に多様なバラエティを持つ。すごい表現力だった。
 つとU-zhaanが立ちあがる。ジャラジャラと木製パーカッションを鳴らしながらステージから降り、替わって太田が現れた。後半セットは別の充実度合い。ぼくはここからの20分ほどが、至高のひと時だった。

 太田は青バイオリンで灰野に向かう。太田は楽曲的な即興を始めた。数音のリフレインが現れては、消える。即興フレーズの合間に、リフレインの影が浮かんだ。
 その間に灰野は靴を履く。鋭い叫びを混ぜながら。
 灰野はエレキギターに持ち替えた。アンプを確認したあと、いきなり轟音。太田を音量で覆う。だが太田は悠々と弾き続ける。太田も灰野も、一人だけ音を抜き出しても即興が成立する。それでいて、互いの音はきっちり聴いていた。
 灰野の轟音が幾分止み、太田のバイオリンが現れた。弓を見てるとわかるが、たとえ灰野が爆音でも、決して太田は音量や飛び道具で対抗しない。
 
 すっと灰野の音量が下がり、クロスフェイドのようにバイオリンが現れる瞬間が素敵だった。またしても冒頭リフレインの変奏も使って。太田はメロディだけでなく、どんどん漆黒のインプロへ、も。バイオリンの音は歪み、重たく響く。頻繁にフレーズはサンプリングされ、深いリバーブとともに新たな音が重なる。歌声も挿入。
 寄り添いつつも互いにブレない、強靭な即興デュオだった。第一部は50分くらいか。

<第二部>灰野敬二+太田惠資+U-zhaan

 休憩はさんだ後半は、トリオ編成。80分ほどの長尺で存分に聴かせた。U-zhaanも今度は様子見をやめて、積極的に叩く。タブラだけでなく南インドのタンバリンの一種カンジーラを打ったり、低音タブラの表面をなぞって深い低音を響かせる。変則奏法や別楽器でアプローチの幅を広げる。
 それでも、いわゆるビートは刻まない。猛烈な疾走も、ほとんど無し。あのストイックさが特徴か。

 ステージ全体として、灰野が軸は否めない。ある意味中央で、奔放なために。特に灰野が歌い始めると太田が伴奏的な立ち位置を取ってしまう。派手なバトル期待じゃないが、いわゆる暗黒インプロとはちょっと違う、抜けの良い場面がしばしば見られた。
 やはり後半セットでも灰野がエレキギターを豪快に響かせたあと、アンサンブルのバランスとれる、ほどほどの音量へ下げるのが面白かった。轟音がまるで、儀式のようだ。

 後半セットは最初、太田が軸を取る。赤やアコースティックを持ち替えつつ、エフェクタ処理とメロディの場面を次々入れ替える。灰野は丸い鉄板を持ち、金づちで叩いては宙を舞わせる。残響と反響がうねり、空気をかきまわす。
 太田のバイオリンとU-zhaanの音数少ないタブラの間で、灰野は背を向けてテーブルに載せた縦笛を鋭く鳴らした。オフマイクな縦笛の乾いた響きと、重厚なエレクトリック・バイオリンの厚みある音楽が産む、違和感がたまらなく良い。

 灰野はオンマイクで、持ち替えた別の縦笛を鳴らした。その次に持ったのが、サズの一種な7弦のリュート。マイクを付けボリュームの上下も激しい。時に速いフレーズを混ぜつつも、基本は強いストローク。時に肘を使って荒々しく鳴らした。
 太田は淡々と即興を続けた。音を出し続けず、時に惹きやめU-zhaanにもスペースを出す。だがU-zhaanは易々と応えない。様子見な印象の第一部とは明らかに異なり、堂々とU-zhaanも自分の世界を作った。
 あくまで灰野は独自を貫く。太田がメガホンの呟きやホーメイの歌声を入れようと、U-zhaanがループさせたタブラを広げても、決して寄り添わない。しかし、しっかりと聴いている。トリオ演奏の中で音が無闇にぶつかる混乱は皆無だった。ただただ、混沌が描かれた。

 灰野は横に譜面台を置きリュートをかき鳴らしつつ、歌う。英語と日本語の曲を交互に。メロディは解体され、言葉が今一つ聴き取れず、何の曲かは分からない。しかし灰野の声は本当にきれいだ。高らかなシャウトが、涼やかにフロアに響いた。
 譜面台を動かすとき、床に引っかかって軋み音が出る。すかさず灰野はそれも音楽へ取り込み、しばらくキシキシと譜面台を床にこすり合わせていた。ばさり、と譜面が床へ落ちても構わずに。
 灰野は座り、楽器を構えるたびに髪の毛を後ろへ押しやる。だがサラサラの髪がすぐに垂れ下がり、ストロークする右手にかぶさる。そのたび煩わしげにかき上げるが、うつむき加減の姿勢なため、間をおかず髪の毛が自らに降りかかっていた。

 太田はアコースティックに持ち替えて旋律を次々に溢れさす。U-zhaanはカンジーラの連打でアンサンブルに緊迫さを色づけた。
 持ち替えで灰野は小さなハープを持つ。ざらざらと無造作にしばらくかき鳴らし、やがて、歌へ。別のシーンでは太田も朗々とアラビックな唄を披露した。

 これらの即興は全てひとつながり。互いの様子伺いも、段取りも無い。自然に音が絡み、変化した。灰野の奔放な音の浮かび沈みに、太田のバイオリンは別の流れを描く。それぞれの音がうねり、強靭なダイナミズムを作った。
 最後の音が出て静寂の中、ハープを抱え込む灰野。太田とU-zhaanが灰野を見つめる。そして、終演。「え、もう?」と物足りなげな灰野だった。
 
 アンコールに応えた三人は、短い即興を披露する。灰野はツィター系の弦楽器、フィンランドのカンテレを構えた。混沌の中、太田がメロディをたっぷり弾きまくった。いったん終わりっぽい音像ができても、構わず太田が弾き続ける。
 すかさず灰野とU-zhaanが再開したとき、にんまりと太田が微笑んだ。

 正直、U-zhaan無しの灰野+太田デュオをどっぷり聴きたかった気もする。トリオ編成では、明らかに音が変わるため。特に後半セットではU-zhaanが加わったことで、アンサンブルの積層構造に厚みが出た。
 とにかく灰野と太田が共演ならではの、骨太で闇と混沌に満ちたインプロの味わいは格別だ。音盤を残してくれないかな、本当に。空気へ即興を溶かして終わらせるには、あまりに勿体ない。一期一会の贅沢さを、またしても痛感した。
 

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