LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/4/24   大泉学園 in-F

出演:翠川敬基+早川岳晴+太田惠資 
  (翠川敬基:vc、早川岳晴:b、太田惠資:vln)

 このトリオを聴くのは06年11月の初演ぶりかな。
 インエフで翠川敬基は今、「みどりの日」と銘打って、月例で早川岳晴とバルトークを演奏している。今夜は太田惠資を招き、バッハを選んだようだ。
 店に入ると太田が譜面を前に小さな音で譜面をさらっていた。店内のBGMはマイルスかな?リハの最後のほうで、軽く弾くバイオリンが妙にBGMと合ってて面白かった。

<setlist>
1.TAO
2.(富樫雅彦の曲)
3.ヒンデヒンデ
4.(バッハの曲)
(休憩)
5.アグリの風
6.ビスク
7.パラ・クルーシス
8.フリー〜スケッチV

 ライブはまず、翠川が選曲と思しき曲から。どれも短めに終わる。
 "TAO"では三人のフリーなピチカートをイントロに、テーマへ向かった。ベースが力強く鳴り、チェロは柔らかく空気をかき混ぜる。バイオリンはすっと音を通した。
 太田のソロは微妙に拍頭を外す趣き。ぐいぐいビートを重ねる早川と、ポリリズミックにフレーズが絡まった。
 バイオリンからチェロにソロがつながると、ぐっとメロディアスに。さらにソロを早川や太田へ受け渡すと、また小さな音にチェロは戻る。ピアニッシモを強調する、翠川ならではのプレイ。
 テーマ付近で太田がオンビートにフレーズ頭を重ね、チェロと揃ってコーダへ向かった。

 2曲目は富樫雅彦の曲。イッシーだかミッシーだかと聴こえたが、曲名は不明。一転して3人のアルコ弾き。曲が始まると太田は、すっとミュートを駒に載せた。
 強い和音からフリーへ。三者三様の音色が、互いの個性を尊重しつつ溶ける。太いベース、ふくよかなチェロ、伸びやかなバイオリン。

 サクサク終わる2曲のあと、ヒンデミットを編曲した"ヒンデ・ヒンデ"。チェロとバイオリンのテーマから、滑らかにフリーへつながった。
 間奏もさることながら、テーマに戻ったときが新鮮だった。比較的速いテンポで弾いてたソロから一転、太田がテンポを半分に落として重厚に響かせる。翠川がチェロをかぶせた。
 金属的なフレーズが一転してクラシカルに。鈍く美しくテーマをじっくり聴かせ、再び短いソロへ。ばっとテンポを戻してコーダへ向かう。余韻を残すかのように、チェロが軽やかに一音伸ばして終えた。

 いよいよ、バッハ。バイオリン2挺とビオラ・ダ・ガンバのアレンジな譜面を使ったが、原曲がどれか特定できなかったそう。
「一回で終わると思うなよ」
「良かったな、何回もバッハが聴けるぞ」
 翠川と早川が演奏前にギャグを飛ばした。
 
 翠川がテンポを提示、まずバイオリンとベースから。数小節弾いたところで、「違う違う」と翠川が止めた。さらにゆったりなテンポで弾きたいらしい。
「さっそく、もう一度ですね」と太田が笑う。

 改めて弾き直す。伸びやかに旋律が広がった。結論から言うと、ばっちり。妙にテクニカルな所は無いようで、美しい旋律の対位を存分に楽しめた。
 本当に隙が無い曲だ。三本のメロディが常に絡み合い、ときに連なる。和音が清らかに、切なく奏でられる。フレーズの間がときどきクキッとねじれ、すぐに淑やかに変わった。

 上手い言葉が思いつかないが・・・独特な個々の音色とビブラートのかけ方が産み出す、音の混ざり具合が個性的で興味深かった。
 太田は波打つ大きく、翠川は比較的小刻み。ベースはたまにかけるが、比較的ビブラートを強調しない。たぶんクラシックだとビブラートやボウイングまで合せてくる。
 どちらが曲に合ってるか、の観点じゃない。
 バッハの解釈という意味で、この三人ならではの演奏という意味で、今回の演奏は凄く楽しめた。
 
 終わった瞬間、三人とも満足げ。太田が「大汗かいた〜」と言いつつ、さっそく二人とがっちり握手を交わしてた。
 そうそう、今夜の並びは向かって左からチェロ、バイオリン、ベースの順。In-Fならではの並びではある。たまたま店内中央で聴いてたが、バイオリンを包むような独特の鳴りだった。
 
 休憩はさんで後半は再び翠川の曲を中心に。心なしか三人ともリラックス。早川は演奏前は水、第一部が終わると水割りに飲み物を変えてたような。
 翠川がメンバー紹介、最後に太田が「敬愛してやまない、翠川敬基さん!」と、黒田京子トリオ時代のフレーズを言う。「ひさしぶりだなー、これ言うの」と笑いつつ。

 "アグリの風"では翠川が、特殊奏法を混ぜつつ、小音でリフを紡ぐ。フリーながらもリフの片鱗を常に残すチェロのアプローチだった。
 太田がたっぷりとソロを取り、翠川にソロが回る。いったんテーマに戻りかけたが、すっと翠川が指で合図し、ベース・ソロにつながった。こういう仕草を楽しめるのもライブならでは。久しぶりに聴くライブだと、細かな点まで面白く聴けた。

 前回のトリオ初演で「弦楽三重奏をイメージして作曲した」と翠川が紹介した、"ビスク"。すさまじかった。
 冒頭は三人が弓でじっくりと緩やかにテーマを弾く。どこまでも美しく。
 フリーに向かうと、絶妙の空気感でアンサンブルが構築された。抜群の存在感を決めたのが早川。ベースを抱えるような立ち位置で、ぶいぶい弦を唸らせる。存分にソロを取り、力強さに魅了された。

 翠川はぐっと音量を落す。弦を撫ぜるようにハーモニクス中心にフレーズを重ねた。ふと太田を見ると、弓を置いて爪弾くように倍音を響かせる。
 この曲で、だったかな。チェロとベースが同時進行でソロを取るとき、太田が弦を軋ませながらゆっくりと単音を出した。複数メロディをドローンが強調し、さらに奥行を作る。すごいなあ。
 ミニマルなフレーズが高まり、ふっと旋律を誰かが出す。それが連続して再びミニマルへ。くるくると楽想が変化した。

 続く"パラ・クルーシス"は黒田京子トリオのライブで何度も聴いた。太田はひさしぶりに演奏するのか、テーマ直後のアプローチが異なる。当時はテーマの終わり気味から高らかに疾走するイメージだったが、今夜は静かに。チェロのアドリブと絡むように、緩やかにアラビックなフレーズを提示した。

 中盤も多層的なアレンジを見せる。ベースが途中で聴きに入り、音を止める。
 翠川と太田のバトルだが、ノービートなフレーズでもビート感が止まない。ベースの提示するテンポが消えても、グルーヴは続く。
 もしかしたら二人はフリーテンポで演奏かもしれない。だが間違いなく、テンポは生きていた。
 ベースが加わりテーマへ。ちょっとテンポを落して曲を終わらせた。
 
 最後はその場で翠川が選曲する。「フリーね」と言いながら、譜面を二人へ渡すさまが面白かった。曲は富樫雅彦の"スケッチV"。

 三人の弓が躍る。重厚に音がうねり、テンポ感をあいまいにして三人が旋律を重ねていく。
 どの辺から曲になったか、良くわからなかった。自由に、伸びやかに。濃密な空気がうねり、演奏が終わった。

 聴き応えあるライブ。奏者も手ごたえあったか、また近いうちに、みたいな雰囲気だった。実現するといいな。弦楽三重奏の美しさと、この三人ならではの頼もしさ溢れるアンサンブルを、また聴きたい。  

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