LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2014/2/1  西荻窪 音や金時

出演:鬼怒無月+助川太郎
 (鬼怒無月:g,助川太郎:g,口琴)

 ひさしぶりに鬼怒無月のギターをライブで聴きたくて、音金へ行った。共演の助川太郎はライブで聴くのは初めて。
 助川はブラジル音楽ユニット、メヲコラソンのメンバーで01年から現在まで6枚のアルバムをリリース。今日のMCで曰く、デビュー当時は「ピチカートの二番煎じ」をレコード会社から要請され、そのストレス解消にライブハウスで即興に励んでいたという。

 ソロアルバムはLionel Louekeと共演盤"Taro x Lionel"(2000)が初。時間軸的には本盤発表後にメヲコラソンの結成となる。
 その後ソロが"Taro Sukegawa"(2008),昨年に("Taro x Lionel"を入れない計算で)2nd"This is guitarist"をリリースに至った。

 助川と鬼怒の競演歴は12/6/4に助川の企画ライブを皮切りに、数度あるようだ。
 今夜の仕切りも助川らしく、鬼怒はMCを抑え気味。ただし鬼怒のギターはさすがの貫録だった。 

 今夜のライブは二人ともガットギターのみ。鬼怒はラインをアンプへ直接に繋ぎ、助川は間にリバーブなどエフェクターを噛ました。ピックと指弾きを使い分ける鬼怒に対し、助川はたぶん全編指弾きのみ。
 鬼怒は用意した足置きを、ほとんど使わず。自分の左足裏側面を台のように使い、右足で踏んでバランスとりつつ弾いていた。
 セットリストは基本的にブラジル音楽、間へ二人のオリジナルを挿入する構成だ。曲名はあやふやだが、ジスモンチを3曲やったと思う。

 最初の曲から、二人の整ったテクニックにグイッと惹かれた。いわゆるソロ回しでなく、もっと滑らかにギター同士が絡んでいく。テーマはフレーズ毎に奏者が交代するアレンジで、メロディとバッキングがクルクルと変わった。微妙に二人の音色が違うため、曲の色合いがさまざまに変わるのも醍醐味。音色は鬼怒が太いとすれば、助川は明るい。たとえピタリ音が揃っても、響きや音色のふくらみは倍になった。
 そういえば今夜は二人とも、カッティングより爪弾きを多用した印象あり。ストロークも指弾きゆえの柔らかさが多かった。
 
 鬼怒がすっと手を上げてソロを始める。くいくいと舞うソロの後ろで、滑らかに絶えず和音やフレーズを変えて弾き続ける助川。耳ざわりはとても良いが、複雑な響きを自然に演奏した。
 1曲目は高音弦を多用し情熱的に旋律を舞わす鬼怒と、低音弦からじわじわとソロを盛り上げるクールな助川のアプローチが対比的で興味深かった。

 2曲目が鬼怒のオリジナル"Three Colors Of The Sky"。助川が弦のボディ側にボールペンをはさむ。サワリみたいな効果をさりげなく出した。
 鬼怒はピックを時に口へ咥え、指弾きとを場面ごとに、たちまち弾き分ける。
 助川へソロが回るとリバーブをたんまり足して、小鳥のさえずりっぽい音色を出した。ここまで足元のエフェクタに気づかず。てっきりアコギと思ってたから、電子加工の響きが嬉しい踊きだった。しかも効果的。弦をはじかず、つまむように左右へ引っ張る助川の奏法が面白かった。 
 弦に挟んだボールペンで、もっと音がビビるかと思いきや。さりげないノイズを弦へ加えるくらい。

 ここで軽く助川のMC。肩の力抜いた喋りに、鬼怒が飄々と口をはさむ感じ。前回ライブと変え、今日は喋りを少なめだそう。

 続く"黒いオルフェ"はイントロがいきなり抽象的なフレーズ。プログレ的な展開から、鬼怒がぐいっとテーマを提示した瞬間がかっこよかった。
 二人のギターはよどみない。テクニカルな奏法を連発しつつ平然として、演奏が簡単そうに見えてしまうから怖い。ギター二本で素晴らしく奥行深い演奏だった。

 続く助川のオリジナルも良かった。軽やかなムードで弾む、キュートな曲。Warehouseでも似合いそう。ハーモニクスをさりげなくソロへ取り入れたのは、ここか。

 今日はソロを1曲づつ演奏するそうで、まずは助川の独奏から。曲と思うが、即興性をたっぷり投入して噛み応えある味わいだった。
 指弾きがとても丁寧なタッチ。親指が繊細に動きで、撫でるように弦をはじく。 
 即興のフレーズづかいはシンコペートを控えめで、拍頭をきっちり刻む。だが3拍子から4拍子へ、譜割がどんどん変わっていく。テンポも揺れ、安住させない。ギターをたっぷり歌わせていた。

 最後が大曲。ここがジスモンチの"パリャーソ"か。
 イントロで助川が口琴を咥えた。ビートはメカニカルな4つ打ち、口腔で響きを変化さす。ときどきパチン、と金属的な響きも出すのが新鮮だ。途端に鬼怒もサイケなフレーズで応える。
 ソロ回しが圧巻。口琴を使い分け、助川が高速フレーズをばらまくと、鬼怒もギアを一段上げたようにフレーズが燃え上がった。がぜん力のこもったソロを取る。
 ハーモニクスのフレーズ作りからタッピングまで。鬼怒はピックの速弾きに混ぜて骨太のアドリブを聴かせた。

 休憩を短め。後半は鬼怒の独奏からで、春に予定のギター・ソロのアルバムに収録曲。15曲収録のうちほとんどにダビングを施したが、5曲程度は完全ソロという。
「そのソロ曲のひとつ、常味裕司くんに教わったラーガを」と曲紹介した。
 素朴な旋律はアラビックさより、フォーク的な抒情性をまず感じた。オリエンタルなエキゾティックや新奇さは狙わず、メロディそのものを丁寧に扱うような。懐深い穏やな演奏だった。

 助川が加わってジョビンの"ジンジ"を。助川がオーソドックスなボサノヴァ風リズムを刻まないのが意外だった。もっと譜割を細かくした感じ。アクセントに違和感ないが、バッキングと言わず鬼怒の旋律へオブリガードで応える印象を受けた。

 続いてジスモンチの"ロロ"へ。MCで助川が言うには「この業界で使われるロロの譜面は鬼怒が採譜した」ものらしい。鬼怒は穏やかに首をひねって話を聞いていた。
 "ロロ"の演奏も抜群に良かった。テンポやフレーズのスピードが上がっても、二人のギターに危なっかしさなどまるで無い。心地よく疾走感に浸れた。

 セットリストのほとんどは助川が選曲と思われるが、唯一に鬼怒が選んだと思しきジャコパスの"Three Views of a Secret"が演奏された。
 鬼怒のソロが一際、冴えていた。指でテーマを訥々と響かせたあと、ピックでアドリブを弾く。鋭角なタッチに音が変わる。
 ぐいっと3弦を下へ大きくチョーキングし、めまぐるしい速弾きへ突入した。

 次は助川が好きなブラジル・ミュージシャンの曲だったと思う。綺麗な演奏だったと記憶に残る。
 後半セット最後もジスモンチ。"フレボ"だったかな。高速テーマが吸い付くように、ぴたり二人の譜割が合って痛快だ。もちろんアドリブも隙が全くない。

 拍手の中、さらにアンコールへ応えてくれた。曲の用意が無いといい、曲の譜面を視ずに演奏した。「頭に入ってるけど、譜面無いと緊迫感が違いますね」と助川。
 しかしリハ無しでも複雑なフレーズが、ユニゾンでばっちり合う。しみじみ凄い。
 助川が軽々と速いフレーズのソロを取ると、鬼怒も猛烈なピックさばきに、指板を左手が激しく上下し豪快で精妙なソロ。達人の応酬をたんまり聴けた。
 テーマに戻り、柔らかく着地。助川が糸巻側のフレット上を、ざらりと撫ぜて演奏が終わった。

 テクニックひけらかしの意味で「こんなに速いだろ、複雑だろ」と見せびらかすかっこよさも、あるにはある。だが鬼怒も助川も、そんなけれんみと無縁だ。しかしテクニックは凄まじい。超絶技巧の凄みと、テクニックを安定して使いこなす穏やかさを味わえたライブだった。 

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