LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2014/1/2 吉祥寺 ROCK JOINT GB
[新春ライブ初め!2014 〜世界の夜明け 其の一〜]
出演:渋さ知らズ
(片山広明:ts,立花秀輝:as,松本卓也:ss,鬼頭哲:bs,辰巳光英:tp,北陽一郎:tp,藤掛正隆:ds,ギデオン・ジュークス:eb,ファンテイル:g,
大塚寛之:g,高橋保行:tb,岩崎佐和:tb,山口コーイチ:key,関根真理:per,太田恵資:vln,横沢紅太郎:vln,松村孝之:per,山田あずさ:vib,
さやか:dance,松原東洋:舞,長谷川宝子:舞,若林淳:舞,すがこ:お銚子組合,ブラザー・イゴー:MC,反町鬼郎:vo,ボス:performer
不破大輔:ダンドリスト)
何とも壮絶なライブだった。
久しぶりに聴いた(2011/11ぶり)の渋さ知らズはこれまでの歴史と多様な渋さの側面を見せつけた。
昨年につづき吉祥寺のROCK
JOINT
GB公演が年明け初の渋さの公演だ。地底新聞ではミュージシャンが10人程度。GBのウェブでも11人の告知。中規模渋さか、と思ったら行ってみて大間違い。入り口前のボードにはずらりミュージシャンが並ぶ。
ところがボードに記載あっても出演しなかったり、ボードにすら記載の無い太田恵資が出演ありと少々情報に混乱あり。ミュージシャンが18人(かな?良く見えず)と舞いやパフォーマーが8人にダンドリストの不破大輔が加わる、総勢25人規模の大きな編成だった。
渋さ知らズは振り幅大きいバンドだ。25年の歴史をの中で、完全エンタテイメントでも、アングラでも、もちろんミュージシャンシップとしても聴きどころ満載の構造を持つ。
祝祭的に盛り上げる段取りも掴んでる一方で、混沌たるスリルを見せつけることも。
さらに渋さ知らズの演奏自体、不思議な自由と緊張がある。不破はキューを送るが厳密なものではなく、自由に演奏へ加わる奏者もいる。その一方で長尺ソロはきっちりと不破のサインによる。全く縛られないのは片山広明くらいだろう。
つまりユニゾンで個々を判別しづらい一方で、でたらめは許されない。音楽性を厳しく要求されつつ、楽園的な自由度を伺わせる。すなわちメンバーの実力が、あからさまに現れるシビアさがある。
2年ほど渋さへご無沙汰のうちに、新しい顔ぶれが幾人も参加してた。とはいえ渋さが若手教育の場であるはずもない。世代交代はせずベテランは抜群のソロを取り、ぼくが初めて聴くメンバーも、長い尺で堂々とアドリブを披露した。
もっとも15年くらい前に比べ、奔放さよりメリハリが増したとは思う。
そもそも不破自身の表現が、大きな振り幅を持つ。ショーマンシップのサービス性と、厳しさの追求と。今回のライブはステージ上で、それがめまぐるしく表出する。途中で怖くなり、最後には胸が熱くなった。そもそもかなり不破は具合悪そう。中盤では腕がしびれるようなそぶりで幾度も顔をしかめた。だが酒もたばこも無造作にたしなむ。
ステージを見てると不破の表情は厳しい視線と、暖かな笑顔までくるくる変わる。
とにかく今日のライブは壮絶だった。予定調和や祝祭にまとめず、さまざまな要素をぶちこんだ。
比較的小規模なハコのせいか、猛烈に自由な展開で、ほぼすべてがメドレー形式。セットリストはこんな感じ。抜けてたら、ごめんなさい。
<セットリスト>
?〜平和に生きる権利〜ナーダム〜股旅〜火男〜"イゴーのコーナー"
〜ひこうき〜犬姫〜?〜皇帝〜本多工務店のテーマ〜仙頭〜すてきち
開演時間を15分ほど押して、メンバーが三々五々ステージに上がる。
譜面をメンバーに見せて最初の曲を知らせる不破。覗き込むメンバーへは「Gだけだから大丈夫」と微笑む。不破のキューで勇ましくイントロのホーン隊が轟音で響いた。
さやか、顔へ隈取した男(ボス、かな?)、松原東洋や長谷川宝子、すがこや赤ジャケットの男(反町鬼郎、かな?)が現れた。
ステージ前に舞のスペースを確保する一方で、両脇に脚立を立てる。面々はその脚立も駆使して舞った。
赤ジャケット姿の男がマイクを持ち、ヴィクトル・ハラ"平和に生きる権利"を熱唱した。ボーカルがアンサンブルに埋もれて聴こえづらかったが、歌詞は日本語だった。
"ナーダム"へ。ステージが明るく照らされた。
あごひげを生やした片山が立ちあがり、野太いテナーを聴かせる。ソロの間、不破が他のメンバーへハンドキューを次々送った。ずいぶん細かい。単なるソロ回しでなく、オケとソロの抜きだしを指示してるようだ。
たっぷり片山のソロを聴かせたところで、辰巳光英にソロがつながる。強く貫くトランペットが響く横で不破のキューが組み立てられ、太田と鬼頭哲のデュオに流れた。
ボスが上手の脚立最上段へ登り、曲に合わせ体を揺らしながら観客を睥睨する。
インテンポで踊るさやか。白塗りの東洋と宝子はノービートで筋肉をぴんと張る。
いっぽうですがこはバナナを持ち、独特のビートで振り続ける。反町はステージ横で胸を張って耳を傾けていた。
舞を見ながら音楽聴いてると、ポリリズミックな展開が興味深い。さやかのインテンポさは曲を華やかに盛り上げ、白塗りは揺らぎを出す。バナナは全く別の拍子でミニマルに刻み続ける。曲が4拍子でバナナが7拍子、曲が5拍子だとバナナは9拍子・・・かな?
特にバナナの動きと音楽の重なりが絶妙で、不思議な酩酊感を演出した。
ステージでも不破のキューで緩やかに音楽が変わる。指の数でテーマの番号を指しながら、斬首のしぐさでブレイクを出す。耳の横から両指を後ろに流すサインと、拳を突き上げるサインが、今一つわからなかった。どういう意味だろう。
ちなみに足元のビール缶を取ってメンバーを見回すサインも。無造作に松本卓也が受け取っていたので、あれは単に飲み物を配布かな。
ステージ奥にサインが見えづらいのか、鬼頭がときどきサインを後ろへ送ってサブ・マスター的な役割を果たしていた。
太田は赤のエレキ・バイオリン。高橋保行がフリーキーに間を多く作る一方で、流麗に奏でる。だれかが
たしか後半だったが別の相手とデュオになった。相手がフリーに向かい、太田がきれいに流れそうな刹那、辰巳光秀がスピーカーからノイズ出してしまう。すかさず鈍い音に太田は切り替え、重たく展開したのがさすが。
前半で岩崎佐和も長いソロを取った。同じトロンボーンでも自由に鳴らす高橋と対比的に、まじめなアプローチ。ソロが終わった後は反芻するかのように真剣な面持ちだった。 松本も鬼頭とだったか、長尺で吹く。メロディと抽象を自在に行き来するバリサクに対し、食いつくように鋭いソプラノ・サックスで。
あえてフレーズを細かく区切り、鋭く鮮やかなソロを取った。成し遂げた後、不破がにこやかに拍手を送っていた。
一方で貫録魅せて吹き鳴らしが立花秀輝。長尺ソロは2回くらいかな。ハイトーンとフラジオで猛然と疾走した。ノイジーな音でもきれいに響かせるテクニックと、めまぐるしくフレーズを叩きこむ緊張感が良い。
デュオは抜き出される場面も多かったが、リズム隊が支えるときも。ギデオン・ジュークスが野太いエレべでぐいぐいグルーヴさせ、さらに重たく藤掛正隆がビートを提示する。陰になって見えなかったが、山口コーイチもいたのかな。ピアノトリオ的な場面も良かった。
ギター勢は大塚寛之が"ナーダム"で、ファンテイルは"股旅"あたりでソロを取ったと思う。
モクモクと煙を上げるワイルドな大塚と、ブライトでエッジの効いたファンテイルの対比を聴かせた。
メドレー形式、特に"ナーダム"は30分以上延々と誰かがソロを取っていた。それぞれに刺激的で面白かったが、既に記憶があいまいになっている。歳は取りたくない。
舞の面々は曲中でゆるやかに立ち位置を変えた。ずっと出ずっぱりでバナナを振るすがこ以外は。すがこはまったく腕を休めない。後半の曲で脚立から降りても、ステージ前のベンチに座って静かにバナナを振っていた。
曲は"股旅"から"火男"へ。
さやかや宝子は途中で衣装チェンジもあり。さやかはがらりと色違いで華やかに表れ、宝子は昭和な胸当てから白のシンプルなワンピースに着替えてきた。
テーマで勢いよくさやかは宙を蹴り、ボスは腕を突き上げる。
山田あずさのビブラフォンも2回ほどソロを聴かせてくれた。最初は"ナーダム"だったかな。たしかバックは薄くパーカッションやベース、太田も弾いてた気がする。
クールにフレーズが転がり、ロマンティックな世界を作った。もう一回はほとんど無伴奏。"次の男"が出てきたときか、別の時かは覚えていない。
とにかく2回目の長尺ソロはノービートで旋律を紡ぐさまがきれいだった。
そして"次の男"とは。音楽が鳴り響く中、寿司屋のはっぴ着て首から膨大な金銀モールを下げる。目には水中メガネ。ステージに上がったブラザーイゴーは独壇場を作った。
前述のビブラフォンがバックにあったか覚えてないが。いつのまにかバックは消え、アカペラで歌いまくる。股間を叩くのは何だろ、と思ったら。ぶら下げたタコのオブジェが叩くたびにぼんやり光ってた。
歌詞は書かない方がいいだろ。下ネタから政治的なものまで。客席がシンとなるパフォーマンスだった。
たっぷりイゴーが歌いまくったところで、不破が肩を叩く。同時に関根真理がマイクを持ち、高まる演奏の中"ひこーき"を歌った。演奏が大ボリュームで鳴り、歌が突き抜ける。
ソロで圧倒的なパフォーマンスをトランペット勢が魅せた。北陽一郎も既に一度、長尺ソロを取っていた。循環呼吸で延々と吹きまくるさまがすごいな、と思ったら。
北と辰巳の無伴奏デュオはそれを超える超絶技巧の連発。北は極低音からノイズ、ハイノートまで自在に吹きまくる。不破が客席に向けて「サウンド・チェックの時に何とか」と言ってたが良く聴き取れず。あげくに再び、循環呼吸のソロを吹き倒した。
呆れ顔の辰巳だが、もちろん負けていない。さまざまな特殊奏法や音域を披露する。マウスピース取ってメロディ噴き出したときは唖然とした。ギャグめかしたノリでのデュオだったが、ふたりの腕前は本当に凄かった。
オケにつながり、ぐいぐい盛り上がっていく。ソロとオケをつなぐアレンジとして、不破は指先でつまんで長く引っ張るようなサインを飛ばす。
たぶんソロやアレンジの構成はその場で考えていると思う。いわゆるジャズのソロ回しを超えたアンサンブルの構築で、不破の素晴らしさをたっぷり味わえた。
関根の歌が"犬姫"に変わる。このあたりで立花が吹いたかな。スピーディでいかしたソロだった。
不破が反町を呼んで何やら耳打ち。困惑顔の反町はマイクのコードをしごいている。
しばらくたってマイクをつかんだ不破がガナリ声で歌いだした。曲名は分からず。
ステージからくる緊張感に、なんだか怖くなってきたのはこのあたり。
演奏は"皇帝"へ。反町が歌う。朗々たる旋律と歌声が響いた。のっそりとおもむろにステージへ現れた若林淳。ぶっとい毛糸をより合わせたようなワンピースで立った。しばらくすると脱ぎすて、ステージ前で寝ころぶように舞った。存在感たっぷり。いっぽう、イゴーも淡々とステージ横に立っていた。
ステージは既にたっぷり時間が経過している。クライマックスかな、と思った。しかしこれで終わったら、妙な切ない後味を感じてたと思う。
でも、不破のキューで関根のコンガが鳴る。この辺が不破のバランス感覚の良さだ。
ギターがかき鳴らされ、ホーン隊も観客も手を宙に上げて円を描く。"本多工務店のテーマ"。不破は観客へ向き、大きく口を開いて歌った。
やがてステージを降り、客席を廻りながら不破は歌っていく。ときおり、オケへキューを飛ばしテーマを展開させながら。ステージに立ったイゴーが観客をマイクで煽る。
もうソロ回しではない。オケの面々もステージから客席に向かい、練り歩きながら吹き続けた。
舞の面々も客席のそこかしこで踊っている。すっかり明るくなったフロアで音が轟いた。
ゆっくりとステージに戻って、"仙頭"で締めた。不破がMCで真面目に語りかけ、再び胸を締め付ける。
そして"すてきち"。ステージからホーン隊が下りて、入り口から外へ出ていく。結構長くロビーで演奏してるな、と思ったら。もういちどフロアへホーン隊が戻ってきた。
不破を中央に円陣組むように演奏が続いて、ついに終わり。
ぶっつづけで2時間半にも及ぶライブだった。
今現在は1月のO-EAST大オーケストラと、新宿LOFTのみが地底新聞に載っている。今年の渋さがどんな活動するかは分からない。渋さへほとんど行けてない割に、行くと渋さの魅力にガッツリやられる。引き続き、刺激的な活動を続けて欲しい。