LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/12/29 大泉学園 in“F”

出演:翠川敬基+加藤一平
 (翠川敬基;vc、加藤一平:g)

 加藤一平の音は初めて聴く。日野皓正や鈴木勲のサイドメンをつとめてるという。
 In-Fのマスターお薦めでブッキング。これまで"即興10番勝負"みたいに次々とデュオをin-Fで披露してきた。
 加藤は坪口昌恭 trioなどでIn-Fに出演。デュオは音川英二、黒田京子、栗林すみれ、ハクエイ・キム、吉見征樹、織原良次、さがゆきと、そうそうたる顔ぶればかり。
 今回は重鎮、翠川敬基とデュオ。リハはシンプルに済ませ、本番が初共演だそう。

(セットリスト):不完全
1."即興"
2.Passing
3.Bonfire
(休憩)
4. ?
5.Voice from Yonder
6.Haze

 一曲目をのぞき、すべて富樫雅彦の曲。まずはあいさつ代わりに、と即興で幕を開けた。
 とはいえ翠川は優しくない。スペースもソロ回しも"即興の予定調和"もすべて拒否し、独自の世界で突き進む。
 加藤がどんな対応するかと思いきや。予想以上に、聴いていた。
 探り合いとも違う。そもそも翠川は探らない。加藤は無闇に我を出さず、じわじわと音を出した。だからライブ全体を通じて、尻上りに良い演奏となった。
 
 一曲目の翠川は初手から特殊奏法を連発する。テンポも拍子もキーもパターンも、すべて無し。アルコを中心にチェロを自在に操る。ダイナミクスも極小音からフォルテまで幅広い。
 弓が弦だけでなく、チェロの駒の下の弦やボディなど様々な場所をこする。時に複弦で弓を弾く一方、別の弦を左手ではじき音を増やす。無秩序なノイズだけでなく、唐突にメロディアスなフレーズが飛び出した。しかしすぐさま沈み、ハーモニクスや弓の背で弦を叩く特殊奏法に向かう。

 即興の予定調和として「最初は静かに。疾走して轟音から明確なエンディングへ」のストーリーがある。しかし翠川の即興は、まったくストーリー性が無い。弾きやめないからスペースもない。アドリブ・ソロ風に弾かないため継ぎ目もない。ないない尽くしの即興だが、相手を拒まない。共演者がどう出てきても、柔らかく受け止める。
 その翠川へ最初の即興では、加藤はためらっていたと思う。チェロの小さな音を邪魔しないように、単音やミュートのカッティングがちょっとあらわれてはすぐに消える。
 同じくテンポやリズムは出さない。翠川の即興へ絡む手法を探してるようだ。

 だが一瞬、すごくいいシーンがあった。翠川が何音かをピチカート気味に弾いてた時。音の間を縫ってギターが一音、きれいに入る。巧まざる場面だったが、あの呼吸感は良かった。
 ぼくも加藤の音楽性がさっぱりわからないため、探りながら聴いてる。でもあの瞬間、なんとなくピントが合った気がした。

 (1)の即興は明確な盛り上がりを見せず、淡々と進む。だがやたらに緊張を強いないムードが漂ったあたり、独特のインプロだ。翠川のゆえんか。厳しい音でも、どこか余裕があるため空気を凍らせることが無い。
  一曲終わったところで、翠川が加藤に向いて「よろしく」と、微笑んで改めて挨拶した。即興を通じての会話感。このあたりはさすがの貫録だ。

 (2)から次第に加藤の手数が多くなった。最初はブライトな音色だったが、エフェクターもかましてくる。ディレイで音を漂わせ、かがみこんでループを加速。時折音色も変えた。けれどもフレーズはほとんど弾かない。(2)はベースのオスティナートをチェロが弾くが、ギターはテーマからアドリブへのスムーズな道を歩まない。
 ある意味、(1)を踏襲した自由な即興を二人とも選んだ。とはいえ加藤は主導権を持たず、サイドメン的なアプローチがもどかしい。

 翠川が途中で譜面に手をあて、揺らしてしまう。そのまま翠川は譜面の端を指でつまみ、かさかさと音を出し続けた。加藤は抽象的にときおり音を出し、翠川が出すノイズは空気へそのまま残っている。

 ぐっと加藤が前に出たのが(3)。即興の途中でいきなりボリュームを上げ、ディストーション効かせ弾きまくった。さらにギターをアンプに向け、フィードバックを響かす。翠川は動じず、豊かなフレーズで応えた。
 加藤は速弾きもいけるとわかったが、そのあとの演奏で高速フレーズは一切奏でず。残念。

 休憩はさんだ後半セットは、冒頭から分かり易いインプロが提示された。前半セットはライブで楽しめてもCD音源だと何が何だか分からぬサウンドだとすれば、後半セットはCDでも楽しめる即興。
 最初にチェロが太い複弦音を弾いて、ギターがすかさず音を加えた。もっとも定型的なジャズには結局向かわない。分かり易いの意味は、多少なりとも静と動のメリハリがくっきりついたってこと。

 翠川を相手に加藤は遠慮がちは変わらないが、だんだん出音に色がついてくる。(5)でだったかな。ディレイで一音飛ばしてループさせ、さらにフレーズを弾く。チェロと重なり、奥行ある音像が産まれた。
 (6)の構成も良い。高速チェロで始まり、寛いだ世界へ。チェロがフリーに弾く横で、ギターがテーマをゆっくりと奏でる。繰り返して。フェイクはさせず、単に頭からリピートでもない。探りながら歩むかの如く、ギターのテーマとチェロのフリーが重なった。

 だんだんとエンジン暖まったところで、ライブ終わった感が否めない。
 このデュオに次回あるかは分からない。翠川も好意的に今日のライブを受け止めた様子で、次があるかも。
 終わった後にマスターが言っていた「再演はまったく違う。初演は一度しかない」って言葉が頭に残る。
 ライブを通じて、加藤の底を伺い知れなかった。そもそも音楽の志向や嗜好が分からなかった。また聴いてみたい。加藤一平の音楽は、どんな音楽だろう。

 1月に太田恵資とデュオの予定あり。翠川とタイプは異なる即興巧者と、加藤はどんな饗宴するだろう。 

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