LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/12/29  渋谷 公園通りクラシックス

出演:シニフィアン・シニフィエ
 (shezoo:p、壷井彰久:vln、大石俊太郎:ts,ss,fl、小森慶子;cl、水谷浩章;b、ユカポン:per)

 shezooが主宰する"現代音楽をカバーする"バンドの、今年6/29に次ぐ二回目のライブ。メンバーにユカポン(per)が加わった。
 ステージを上手に寄せ、扇状に座席を配置する。下手奥がピアノ、ベース、perの順。
 フロントは下手から順にVln,cl,saxと立つ。ユカポンはフロアタムとジャンベを置き、横にグロッケン。あとはゴングや小物が並んだ。メロディ打楽器より純粋パーカッションが多い。
 メンバーがステージに現れると、MCなしで密やかに音楽が始まった。

<セットリスト>
1.ジョン・ケージ"Dream"
2.バルトーク"ミクロコスモス〜第148番:ブルガリアのリズムによる6つの舞曲(1)"
3.バッハ"マタイ受難曲"より 【曲目不明】
4.リゲティ 【曲目不明】
(休憩)
5.【曲目不明】(Shezooオリジナル)
6.リゲティ"ムジカ・リチェルカータ 7番"
7.バッハの"マタイ受難曲"より 【曲目不明】
8.アルヴォ・ペルト"タブラ・ラサ:第一曲 Ludus"
(encore)
9.アルヴォ・ペルト"Spiegel im Spiegel"

 かなり不完全ですが。前回ライブのトップ、"Spiegel im Spiegel"はアンコールに回る。今回もマタイ受難曲から2曲やったが、前回と同じかは記憶があやふや。ケージの"Dream"がセットリストに加わった。リゲティのもう一曲も、前回やったリチェルカータから?
 演奏は素晴らしかった。shezooは我を控え、アンサンブルの一員として弾く。いや、むしろ黒子の印象すらも。フロント三人は幾度もソロを取ったが、ピアノが前へグッと出ず、音が聴こえぬ時すらも。なおユカポンの参加で演奏はさらに厚みを増し、より音に深みが出た。
 
 ジョン・ケージ"Dream"は、Fが特徴的に響く。全員が小音で音を出し、フレーズの断片がふうっと単音に戻る。ベースが、クラリネットが、バイオリンが、サックスが、Fをそおっと鳴らす。ピアノがかすかに旋律を奏でるうえで、レイヤーのように他のメンバーが音を出していった。
 Fの一音が収斂し、上下し、倍音となった。
 バトンをゆったり受け渡すように、音の響きを重ねるさまが美しい。 

 (2)のミクロコスモス〜第148番のオリジナルは4+2+3の9拍子。だがオリジナルを良く知らず、5拍子かと思って聴いていた。
 水谷浩章のオスティナートがサウンドを引っ張る。グルーヴィにベースを唸らせる上で壷井彰久、小森慶子、大石俊太郎とソロが回る。アドリブかな?アンサンブル志向の今日のライブで、数少ない個人を前面に出す場面だった。
 楽想にぴたり寄り添ったソロが続く。すべてが譜面でもおかしくない。

 ユカポンがジャンベを力強く鳴らしたのもここか。彼女は音数を無暗に増やさず、次々と鳴りものを持ち替えては奏でる。シンバルからレインツリー、各種の鳴り物からホースや子供用のガラガラまで。
 どの曲か忘れたが、ハンド・パーカッションに小豆みたいなの入れ、ザラザラと海を表現する音があり効果的だった。なんて楽器か知らないが、タルに長い紐が付いたパーカッションの音もきれいだったな。
 今日は全員がノーマイクだと思う。ベースのみラインがつながってたが。だがどの音もふくよかに響き、フロアに充満する。倍音が広がる。

 ほとんどMCは無く、淡々とステージは進む。(3)は小森と水谷のデュオ。(2)が終わった後でつぎつぎとメンバーが楽屋へ戻っていき、shezooも無言で続こうとする。慌てて小森が曲と編成の紹介を、shezooに促して面白かった。
 (3)は無骨なベースの上にクラリネットが情感深く乗るアレンジ。ごつっとした印象の音色で水谷がベースを操る。滑らかにクラリネットの旋律が重なり、奥行を増した。クラのメロディに一拍早くベースがかぶさり、よじれあうメロディが流れた。
 太いベースと淑やかなクラリネットの饗宴だ。シンプルな編成だが、残響を持って消えていく二人の響きにしみじみ聴き入った。

 1stセット最後はリゲティの曲(タイトルは不明)。ユカポンがビニール袋を振り回し、風切り音を入れる。いくつかの袋を次々使い分け音を変えてるように見えた。
 硬質だが滑らかな旋律を、それぞれのミュージシャンが涼やかに演奏。堅苦しさはなく、のびのびと広がる。不思議な空間だった。大石がフルートへ持ち替えはここか。最後はベースとバイオリンの音で着地した。

 後半セットはShezooのオリジナル曲。数音がミニマルに繰り返され、淡々と広がった。TRINITEで聴いたことある。ShezooがMCでタイトル紹介するも聴き洩らした。
 ストイックな楽想を豊かに解釈する。shezooは鍵盤へ指を載せるが、最初は弾いて無いくらい小さい音。やがてじわじわとピアノを鳴らす。レイヤーのごとくデュオの順番を変えつつ、旋律がフロントの間で受け渡されていった。
 クラリネットの音域がすさまじかった。壷井と小森が同時に鳴らすときはクラリネットは下。大石と小森の合奏へ変わるとクラリネットが上。体の前へ立てるように、小森はクラリネットを構えた。時折、前後にゆっくりステップを踏みながら。
 高らかに涼やかに、クラリネットが鳴る。ハイトーンが鋭く空気を刺すが、どこまでも優しさを持つ。きれいだったな。

 次はリゲティ。ここでもデュオ形式を強調した気がする。
 そういえば。この曲か、別の曲か覚えていないが。各人のビブラートも各人各様だった。壷井は強く左手を揺らしダイナミックにかけると、水谷はおもむろに鷹揚にかける。次々に大きいビブラートのバイオリンと、ときおり小刻みに揺れるベースの対比。
 ここに二人の木管が加わる。二人のビブラートとも大きく揺れる。だが大げさなそぶり無く、ビブラートがかかる。特に大石がテナーで飄々とした面持ちで繰り出す、太いビブラートのテクニックは驚異的だった。
 ShezooがPCで譜面見ながら弾いてたのはこの曲かな?クリックで画面を送りつつピアノを弾く。新鮮な光景だった。

 (7)のマタイは大石、壷井、shezooのトリオ編成。ロマンティックな壷井と大石を堪能できた。ピアノが軽やかで柔らかい世界を作る。
 そこへフロント二人の音が乗った。二人の音が溶けて、鳴っていないはずの音が聴こえる。うわんうわんと倍音が響いた。

 最後は全員で"タブラ・ラサ"。ぴいんと緊張した四分音符。クラリネットのハイトーンが高らかに鳴った。張りつめた空気から、フレーズが分裂し、したたり落ちる。
 ユカポンはゴングを鳴らした。両手を伸ばしミュートしつつ、メンバーをのぞき込むさまがキュートだ。途中で力強く、ティンパニさながらフロアタムを数打鳴らす場面もかっこいい。
 ミニマルに繰り返される旋律は、バンド全体で凛々しく演奏された。

 アンコールに応えて"Spiegel im Spiegel"。ユカポンのグロッケンがきれいにアルペジオを紡ぐ。静謐で玄妙な世界だ。アンコールと思えない。最後まで緊張を緩めず、丁寧に奥行深い音像を作った。

 個性的なメンバーを集めた美しいサウンドの構築はshezooならでは。とはいえもっと前にshezooが出て欲しい。
 特に今日はライブの間ずうっと、倍音の心地よさをひときわ感じた。実際に聴こえてたかは分からない。しかし目に見えない奥行を、高さを、深さを確かに感じた。 

目次に戻る

表紙に戻る