LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/12/7  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,occarina)

 何年振りかに聴く、アケタの店深夜ソロ・ライブ。今夜は録音だけでなく、映像も押さえられていた。
 0時15分、無造作にライブが始まる。超特大の素焼きっぽいオカリーナのソロで始まった。
 ピアノの前でオカリーナを抱え込むように、明田川は静かに吹く。低音が響いた。ピアノの中に残響し、オカリーナの音色が密やかに響いた。
 
 ひとしきり吹いた後で、鍵盤の上に明田川は指を叩きつけた。しょっぱなから強打。
 ペダルをほとんど踏まず、明田川は奏でる。夾雑物を削り落とすように、原木から削り出すように。強いタッチのフレーズがとめどなく溢れる。
 曲は"ジャズ・ライフ"。左手と右手が速いスピードで動いた。テーマからすでに崩れさり、センチメンタルとアヴァンギャルドがごく自然に同居した。
 
 クラスターがすぐに飛び出す。唸りながら明田川は弾き続ける。ピアノをわしづかみに、音を絞り出すように。
 打音は激しく、鍵盤が次々に打擲される。初手からクラスターの連発、テンション高くピアノが唸りを上げた。
 テーマが崩され、フレーズを足され、次々と重ねられた。激しく左足が床を踏み鳴らす。

 ひとしきり弾いた後で、穏やかな風景に変わった。
 凛とした空気。これまでの多音が単音へと移る。しっとりとピアノを奏でた。

 一呼吸おいて、オカリーナへ持ち替える。最初は小ぶりのオカリーナ。息をそっと吹き込み、小刻みにフレーズが積まれた。
 持ち替えたのは、中ぐらいのオカリーナ。フレーズの途中でバサッと演奏を止め、すぐに小ぶりのオカリーナへ再び戻る。
 キュートな響きが、店内に充満した。

 ピアノの上へ、ことりとオカリーナを置く。再び明田川はピアノへ向かった。

 曲は"ブラックホール・ダンシング"。明田川の真骨頂が繰り広げられる。テーマがフリーなフレーズからうっすら浮かび上がり、すぐさまアドリブの海に沈んだ。
 左手が猛烈にスイングし、右手はとめどなく旋律を溢れさす。
 ここではテーマからアドリブへ、ジャズの基本路線を通らない。テーマはアドリブの一部であり、アドリブからふっとテーマの断片がリフレインで描かれる。即興と譜面が混在し、捩り巡り野太く膨らんだ。
 爽快なテンポとフレーズは、唸る明田川の声と一丸に疾走する。猛然と左手が激しく鍵盤を叩き、右手は豪快に高まった。

 明田川は立ちあがる。じゃらん、とピアノ線を指でなぞった。

 ライブのクライマックスは"アフリカン・ドリーム"。マンデーラ逝去を悼んで、演奏されたらしい。
 冒頭の高音かき鳴らしは、ひときわ涼しげに響く。ガラスを握りつぶすように。
 くっきりしたフレーズですぐにアドリブへ突入する。左足は床を蹴り飛ばし、右足はペダルを柔らかに踏んでいる。

 クラスターの轟音へ。握り拳から腕全体に。フレーズに戻り、さらにクラスターへ。
 ぴょこん、ぴょこんと明田川は時折立ちあがり、鍵盤を叩いては座ってフレーズを積む。前半から後半にかけて、どんどん一息のフレーズが長くなった。
 混沌とセンチメンタルが一つのピアノで混ざった。激しいタッチでも、個々の音に雑味は無い。
 クラスターそのものが鋭くはじけ、フレーズと鳴る。鍵盤まるごと全部を叩くクラスターだけでなく、混雑和音が駆け抜ける技が新鮮だった。

 アウトロのロマンティックな旋律が現れた。ここまでの疾走を軽やかに整理し、一転して密やかに。
 ひとしきりリフレインがフェイクされながら演奏され、着地した。

 ここで終わりかな、と思ったら。さらにもう一曲。松山千春の"夜明け"(1979)。NHK銀河テレビ小説「家族日記」のテーマ曲、だそう。

 和音が素朴に鳴り、抒情的なテーマへ。明田川のライブでは特に北海道で、良くアンコールに演奏してきたそう。なじみ深い明田川のレパートリーのようだが、たぶん未CD化じゃないかな。
 "アフリカン・ドリーム"の炸裂とパワーから、ゆるやかにテンションを収めるかのように、アドリブも含めて淑やかに演奏された。

 約1時間。みっしりと明田川は自らのジャズを披露した。
 数年ぶりに生で聴いたが、ぼくの耳のブランクを一気に詰める。親しみと味わいを実感した、良いライブだった。 

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