LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/11/30  原宿 ギャラクシー銀河系

出演:Multipletap in Japan
(非常階段(JOJO広重,JUNKO,T.美川,白波多カミン)、ドラびでお、田中悠美子、中村としまる 、
 秋山徹次、伊東篤宏、石川高、若林美保、PAINJERK、大城真、川口貴大、毛利桂、康勝栄)

 "Multipletap"は康勝栄が主宰のイギリス・ライブのイベント。灰野敬二の出演などで馴染み場所、ロンドンのCafe OTOで14/2/22、/23に行われる。今夜は前哨戦とし、東京でほぼ全員(AMTの河端一の出演が叶わず)がステージに上がった。

 ギャラクシー銀河系は初めて行くがステージの無いフラットな場所で、六本木スーデラを連想した。キャパはもっと狭く、スタンディングで150人くらいか。今夜は100人以上がつめかけ、かなり盛況のイメージだった。

  今夜のライブは大勢出演、フェス形式と思ったら順番に出演の形だった。PAINJERK以外は競演の形。ステージ・スペースをコの字型にセッティングし、最初は右、次は左、次は中央、と言う風にステージ位置を変える形式だ。だからサクサク進行できそうな気がする。
 ところが、実際は各ユニットの演奏時間が約20〜30分で、次のセッティングに10分ほどかかる。これが進行の間延びに繋がり、惜しかった。
 あとは全員がMCなしのため、途中まで流れが良くわからず。中盤くらいにタイムテーブル掲示などはどうだろうか。

毛利桂(tt,electornics)+康勝栄(electronics,g)

 18時半の開場時間をわずかに押してライブが始まった。全く前置き無し。いきなりノイズが轟く。
仰天した。繰り出すノイズの周波数は可聴域よりずっと低い。

 空気が揺れる。重たく、押しつぶすように。壁も洋服もノイズの風に吹き荒まれる。
冗談抜きで内臓がおかしくなるかと思った。妙なボディ・ソニックが体を貫く。今夜の出演者は、ほとんどがこの低周波を使ってた。最近のノイズ系ライブはご無沙汰だったが、すごい時代になっている。
 そして特に、この二人がすさまじかった。扱うノイズの周波数帯域、の意味において。

 毛利桂はBusratchのメンバーで、女性ターンテーブリスト。ポータブル・ターンテーブルを手に持つ。主催者の康勝栄はアコギを持つが、弾いてるのかよく見えなかった。むしろテーブルの機材と足スイッチを駆使し、低周波をばら撒いた。
 二人がそれぞれどんなノイズ出してるかは、ところどころ分からず。だがおそらく、康が低周波ハーシュを担当のようだ。ギターに手を触れるのはごくわずか。足元のエフェクターを素早く切り替え、耳に聴こえぬノイズを盛大に噴出させた。
 
 ステージングの意味では毛利の方が見てて楽しい。8インチをターンテーブルに載せるが、そのシングル自身がノイズなのか、出てくる音はすべてハーシュ。小脇に抱えたポータブル・ターンテーブルを、毛利はガシガシ操作する。アームを押し付け、アナログの端を強く持ち上げ、ばいんばいん揺らす。
 そのたびに甲高いハーシュが響いた。ときどき毛利はテーブルに置いたミキサーを弄る。

 ふっと毛利はアナログを投げ捨てた。ターンテーブルそのものを小脇に抱え、小さな棒みたいなのを押し付けた。激しくノイズが轟く。カラフルな12インチを手に取った。そして再び、胸に抱えたターンテーブルを操り始めた。
 
 ある意味アクティブな毛利に比べ、康はストイックなそぶり。テーブルの横に置いたビールのプラ・コップが、低周波でぐいぐい横へ滑っていく絵面が強烈だった。
 あまりの振動のため、横にあったアンプのプラグが抜けて落ちる。その瞬間、目を見合わせて苦笑するふたり。

 ひとしきりのノイズ、うまく区切りが合致したところで、ゆるゆるとライブは終わった。
 ある意味、今夜で一番強烈に印象に残るライブだった。
 これは録音物だと味わえまい。CDだとカットされる周波数だし、アナログだと針が飛びそう。そもそも、こんな大音量で聴けるわけもない。

田中悠美子(三味線、大正琴、Vo,他)+石川高(笙)

 先ほどがステージ右壁、今度は左壁。消音系のノイズだった。石川は念入りに吹き口を電熱器で温める。田中は三味線をテーブルに横置きした。
 おごそかに笙を石川は吹き始める。息をすって、吐いて。笙はハーモニカと同じでどちらも音を出せるとは知らなかった。
 ときどき息継ぎをするが、基本的に石川は笙から口を離さない。半眼で蕭然と鳴らす。時折変化する音色と、倍音。密やかにしみじみと、笙が鳴る。

 前置き無しに始まったライブのため、最初は観客がざわめいてる。客電が落ちるわけでもなかったため。
 だが笙の音色に誘われて、しだいに観客の喋り声が密やかになった。その静まるさまそのものも、なんだか心地よいノイズの流れだった。

 田中は変則的な三味線奏法から始めた。ノイズマシンのように三味線を操る。琴のように柱を立て、指で弦をつまんだり柔らかい張りの弓でこすったり。音階はほぼ無い。響きそのものを三味線から引き出した。
 これは見てないと楽しみづらいライブだ。音だけだとミニマル・ドローン。だが視覚的にはユニークな奏法が面白いから。
 ひとしきりノイズを出した田中は、紐で弦をつまんで上下させる。きしみ音が静々鳴った。

 構えなおして三味線を弾く田中だが、やはりメロディはごくわずか。いったんトリッキーなフレーズを吹いた石川だが、すぐにロングトーンへ戻った。
 唸りから歌声に。掛け言葉が次々展開するユーモラスな詩だ。
 観客のざわめき声へぶつけるように、唐突に「そこ、うるさい!」とシャウトした瞬間、観客から笑いが飛んだ。

 田中は大正琴へ持ち替える。やはり、ノイジーな弾き方のまま。コミカルな喋り歌は続く。
 歌の途中で唐突に「もっと音が大きくならないの?」とスタッフへ呼びかける。歌詞の一部のように「石川さんの音が聞こえなくなりますから・・・」と言われ、苦笑してた。 さっくり呼吸を併せ、終演。出音とステージ風景がかなり異なる音楽だった。コミカルな風景ながら、出てくる音はけっこう厳しい。

大城真+川口貴大

 サウンド・パフォーマンス。いきなりフロア中央に脚立を立てる。一人がトランクから各種のジャンク機材を取り出し、もう一人はアルミホイルを持った。
 客電は落とされ、床に転がった蛍光灯が証明となる。
 
 まず脚立にモーターが結び付けられた。カタカタと音が鳴る。12mのアルミホイルはすべて引き出され、フロア入口の方に張り巡らされた。
 「電流流すから、気を付けてね」と言われ、どうすりゃいいんだ、と近くにいた観客がどよめく。

 アルミホイルに電流流され、わに口クリップではさまれたなにかから、小さな音が流れ出す。
 下に転がったジャンクのスピーカー・ウーハーに紐がつながれ、脚立に巻きつけられる。極低音が出てるらしく、紐が震えてノイズを出す。さらにウーハー上にピンポン玉やアルミカップが載せられ、カタカタ音を出した。

 ひとしきりノイズを出した後、えいやっと脚立を天地逆に立てた。周囲を囲んだ観客へ倒れてきそうで結構怖い。そのまま、終演。
 これこそ、ステージ見てないと何が起こってるか分からない。ミニマル・アンビエントが出音。だが演奏光景はシュールで妙にコミカル。演出や流れを意識してたと思いづらい。手持ちのジャンク機材を元に、即興であれこれ遊んでたふうにも見える。また、セッティングそのものも、試行錯誤や苦労が見受けられた。
 たとえば途中でアルミホイルがべしっと切れてたが、あれはどう考えても、計算じゃないだろう。音量そのものは、最後までとても静か。

 チャンス・オペレーション的なアプローチでも、出音はミニマル。つまりメカニカルな印象を受ける。サウンド・スケープとして聴いても、音だけだと今一つ楽しめないのは明らかだ。

PAINJERK(electronics)

 90年代から活躍のPAINJERKはソロ編成。きちんと音を聴くのは初めて。ライブも初体験だ。正直、機材トラブルで間延びした構成が惜しまれる。
 テーブルにマックのラップトップとミキサー、足元にいくつかのエフェクタ。さらにスネアの響き線を鉄板に貼ったような自作ノイズマシンを準備した。

 まずマックで重低音を出す。やはり彼も体に響く低周波を使った。
 横のアンプから音を出したいみたいだが、どうやら音が出ない。スタッフ読んで調べるも、なかなか解決せず。結局、別のアンプにつないで事なきを得た。
 したがって、それまではステージから淡々と重低音のビートが流れるのみ。時たま音色を弄ってたが、少々単調さは否めない。

 いったん出音の機材が決まると、PAINJERKは疾走を始めた。ノイズマシンを小脇に抱え、丸い鉄くずで小刻みにこする。足元のワウで強弱つけて、盛大な大音量のハーシュをばら撒いた。
 ときおりマウスで出音を変える。おそらくリアルタイムで波形編集だと思う。

 比較して申し訳ないが、メルツバウと似たアプローチながら明確に差が出てたのが印象深かった。
 ストイック一辺倒で淡々とノイズを出すメルツバウと比較して、PAINJERKはいくぶんの肉体性や感情を感じる。ノイズマシンをかきむしるさまにはロック的なダイナミズムが確かに有り、波形編集のノイズを操る途中にも感情や喜びが見受けられた。

 一気呵成にノイズが貫き、ライブが終了した。良かった。

中村としまる(No imput mixing board)、秋山徹次(eg)

 今日、一番楽しみだったのが中村としまる。ライブ見るのは初めてのはず。独特の寂寞なノイズを、どう出してるかぜひ聴きたかった。競演の多い秋山徹次とデュエットで登場。
 秋山はエレキギター一本に、足元にエフェクタがいくつか。ギターに載せた皮帽子をかぶり直し、椅子に腰かけた。

 中村はミキサー一つかと思ったら、他にもいっぱい機材がテーブルに並んでる。どれが何の機械か、よくわからず。せっかくだから手元を見たかったが、人が多くてたどり着けなかった。

 まず秋山。ギターを爪弾き足元のエフェクタで変調する。予想外に大音量だった。静かに行くかと思った。
 音色や音域はほぼ排除され、鋭いノイズに変調された出音になっている。ギターを弾いてるそぶりでも、聴こえる音はノイズ。

 やがて中村が、さらにノイズを加える。アナログ・シンセっぽい響きでのかぶりが、とてもかっこよかった。
 彼らも極低周波を使用。どちらの音か分からぬ場面もしばしばだが、おそらく中村がドローン系で秋山がスピードあるフレーズじゃなかろうか。

 秋山は途中でもろにギターの音色も使う。強靭に冷徹な電子ノイズだが、肉体性あり。いっぽうの中村も、予想以上に生々しい演奏だった。真剣な目つきで機材を眺め、ときおりすばやくツマミを操作する。ドローン中心の音ながら、ダイナミズムには気を使っていた。
 どういうしくみか、ガリ音とロングトーンがつぎつぎ引き出される。単独でもメリハリあるノイズに加え、秋山がさらに抽象的な音をぶつけて音像を混濁させた。
 大音量には少々閉口したが、非常に興味深いノイズだった。

ドラびでお(VJ)+伊東篤宏(OPTRON)+若林美保(Dance)

 ステージ中央からロープが吊るされる。一気に観客が前へ押し寄せた。
 若林美保はAV女優/ストリッパーで、なぜかノイズ系イベントにもダンサーとして出てるらしい。Web情報によるとドラびでおとは、11/8月の共演を皮切りに、ユニット"ドラ☆美保"で世界ツアーもやったとか。

 ドラびでおこと一楽儀光は腰の事情でドラマー引退と聞いており、どんなステージかと思ったら。マックにTENORI-ONみたいな機材を繋ぎ、肩から下げる。その各種ボタンを押して、リアルタイムで画像操作を施すスタイルだった。
 伊藤は大きな蛍光灯(OPTRON)を構え、足元にエフェクタがいくつか。横にAir-Synthみたいなものもセッティングしてた。OPTRONを近づけると、若干ノイズが出る方式。
 
 まずドラびでおと伊藤のデュオ。明滅する蛍光灯とノイズに、スクリーンへ肌のクローズアップっぽい画像が断続的に投射される。ドラびでおは音も出してたのかな。単調さはない音だった。
 やがて真っ赤な服を着た若林が登場、ステージ中央のロープへミラーボールを吊るす。クルクルとまわした。

 横から伊藤が音を出しつつ、緑色のレーザ・ポインターでミラーボールを狙う。めまぐるしい反射がフロアいっぱいに広がり、キラキラと緑色の線が複雑に輝いた。
 舞っていた若林はしばらくしてミラーボールを外し、ロープをかける。自らの腰にも撒き、宙吊りになるダンスを始めた。SMとポール・ダンスを複合した感じ。腹筋できれいに体を浮かせる。
 冒頭に書いたようにステージ・スペースは客席とフラットなため、後方の観客にはほとんど何をやってたか見えなかった。
 セクシャルに若林が舞う一方で、ドラびでおが映すのは爺さんの半裸やファシストっぽい白人の写真画像のカットアップ。その対比がなんともはやシュールだった。

非常階段(JOJO広重,JUNKO,T.美川,白波多カミン)

 ステージ・スペース前にコロガシが置かれ、奏者と観客の縄張りを分けた。非常階段のライブは初体験。メンバー的に大丈夫と思ったが、やはり怖くて離れて見てた。
 メンバーは3人と最少編成の非常階段。最初は不参加の告知だった白波多カミンも登場した。だが普通の洋服で初音ミク階段では無し。

 変調された音色でエレキギターの弾き語り、で白波多が歌いだす。歌詞がほとんど聴こえず、何の歌かは不明。途中からJOJO広重やJUNKOが音を加え、混沌さを増す。
 T.美川の上は機材でいっぱい。白波多の歌が一区切りついた瞬間、ハーシュをかぶせるさまが劇的に良かった。ちなみに美川も極低周波あり。どこまで行っても今夜は、内臓を揺さぶられる。

 一曲歌ったところで白波多はギター・ノイズに入る。JUNKOはサングラスにマイク片手、甲高いボイス・ノイズをまくしたてた。
 美川は黒いマスクをつけて黙然とノイズへ向かい合う。そして、JOJO広重はSGをかきむしり続けた。

 ある意味一番、ステージングに安定感ありショーとし成立したライブだった。さすがの大御所。
 メンバーのだれがどの音かは正直不明だが。JOJOはノイズ部分を美川へ委ねる。JUNKOは存在感でボイスをかぶせる。白波多は猛然とギターと格闘する。
 そしてJOJOはエレキギターで、ノイズと奏法の両方を魅せた。

 腰をぐっと落とす独特の姿勢で、JOJOはギターを奏でる。ネックのハイポジションを多用し指で弦を鳴らすが、音域や音程は全く分からない。耳に届くのは豪快な大音量ハーシュ・ノイズ。
 JOJOは時折左手を高らかに上げ、指先を細かく振ってノイズを誘うそぶりを繰り返す。
 そのギターを弾くポーズが、とにかく決まってた。さすがの貫録だ。

 中盤からJOJOはフィードバックを多用するそぶり。最後はSGを振り上げ、片手で斧のように振り下ろす。それでいて、破壊や破滅的な風景が全くないのが素晴らしい。
 ノイズ=破壊の安直なイメージに短絡せず、アクションと音楽風景はきっちりコントロールされていた。

 一方の白波多は逆に床へ転がり、混沌さを強調したギター・プレイ。だが我を失ってはおらず、JOJOが振り回す際にマイク・スタンドへ絡んだギターのシールドを、すばやくほどく冷静さもあった。

 非常階段のステージも20分弱かな。拍手が鳴る中、JUNKOがJOJOへマイクを渡した。美川を見るが「どうぞ」のジェスチャー。JOJOはマイクを持って「イギリスへ行ってくるぜ〜!」と一声叫び、きっちり締めた。

 拍手は続き、まさかのアンコール。すぐに彼らはステージへ戻ってきた。いきなりトップ・ギアのハーシュ・ノイズ。JOJOがギターを振り回す。
 数分で締め、にこやかに手を振りながら非常階段はステージを去った。

 主催の康が現れ、一言挨拶してライブがすべて終了。機材を片付けに戻った非常階段だが、美川が両手に一升瓶抱えてるのがいかにもだった。

 約3時間半の長尺イベント。単なる轟音一辺倒でなく、バラエティに富んだサウンドのライブだった。ベテランぞろいの顔ぶれだが、こういう機会はまた作ってほしい。面白かった。やはり、がっちり耳鳴りはしてる。 

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