LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/11/23  明治神宮前 NHKホール

  〜PERFORMANCE 2013〜
出演:山下達郎
 (小笠原拓海:ds,伊藤広規:b,難波弘之,柴田俊文:key,佐橋佳幸:g,宮里陽太:ss,as、
  国分友里恵,佐々木久美.三谷泰弘:cho、
  山下達郎:g,key,vo)

 11〜12年にまたがる前回ツアーの次に開催の、"PERFORMANCE 2013"ツアーは全49公演。"Melodies(30th)"と"Season greetings(20th)"リイシューに合わせ、千秋楽が12/24中野サンプラザに設定された。
 千秋楽はチケット争奪が激烈とすぐさま日和り、東京公演で申し込んだところNHKホール2階席が当たった。

 バンド・メンバーは前ツアーと同じ。ステージ上の楽器配置も同じ。
 ステージ・セットは一見して簡素な印象だった。しかし大きな間違いと、ライブ始まって痛感することになる。
 テーマは公園を模したもの。ジェットコースターのレールみたいな鉄骨が、でかくステージ左から流れる。その横に巨大なシーソー。ステージ左右に白い車止めが数本、植木っぽいオブジェが並ぶ。ピースサインやエレキギターをかたどったもの。ステージ下手には巨大な植木のゴジラ・オブジェもあった。ステージ後方にはビルの風景が描かれる。それが書割りみたいな質感で、ホリゾントは白い。
 ステージ後方に配置された植木オブジェは、かなり巨大なもの。それでスケール感が狂い、箱庭と広々さの双方を感じさせる舞台装置だった。

 とりあえず先に書くと、今回のステージは前みたいな可動部分は無し。だが、ライティングと演出の妙味で、素晴らしくダイナミックな風景を演出した。
 ホリゾントはしばしば、色味が変わる。月もサイズを変えて何曲かで映された。

 ライトはスポット中心、目つぶしなどの特殊効果は無し。だが、きれいに整ったスポットと暗転を駆使した照明プランは、ものすごく綺麗だ。
 達郎ファンクラブの会報で「演劇畑の人へ照明をお願いしてる」と読み、強く頷いた。そうか、演劇的手法なんだ。
 各セットにもLEDが仕込まれ、楽曲ごとに鮮やかなムードの転換を図る。
 今まで見た達郎ライブでも、屈指で最高のライティングだった。

 セットリストや内容は、いちおうツアー終了まで読者へネタバレ配慮、の注意MCあり。
「興ざめブログやヤフオクヘリンク飛ばす奴までいる。ぶっ飛ばしてやりたい」と毒づいていたが、申し入れそのものは前より軟化。前は「書かないでください」と言ってた気がする。
 
【Set list】
01. 新東京ラプソディー
02. Sparkle
03. Love Space
04. ずっと一緒さ
05. あしおと
06. ひととき
07. スプリンクラー
08. Paper Doll
09. FUTARI
10. God Only Knows
11. Groovin'
12. 光と君へのレクイエム
13. My Gift To You
14. Bella Notte
15. Have Your Self A Merry Little Christmas
16. Dancer
17. 希望という名の光 (incl;?,蒼茫)
18. メリー・ゴー・ラウンド
19. Let's Dance Baby(incl;硝子の少年,Mean Woman Blues)
20. アトムの子 (incl;アンパンマンのマーチ)
21. Loveland, Island
- encore -
22. クリスマス・イブ
23. Ride On Time
24. 愛を描いて〜Let's Kiss The Sun
25. Your Eyes
*26. That's My Desire (客出し)

 今回は演奏中にメモ取りを最小限で聴いており、かなり記憶があやふやです。
 "Melodies"と"Seasons Greetings"中心のセットに加え、かなり定番曲を変えてきた。達郎曰く「前回ツアーより曲が増えた」という。メドレーのカウントにも寄るが、上記カウントで前回の23曲から2曲増。
 ネットのレポだと、23曲目に"恋のブギウギ・トレイン"なパターンもあったようだが、今夜は削られた。

 前売りチケットはフルハウスのはずだが二階席はいくつか空席有り。招待客かな。
 始まる前にスタッフがステージへ登場し、音出し確認してるのが新鮮だった。さすがにサックスまでチェックは無いが。

 1ベルで拍手始まるのもお約束。客電ついたまま達郎のアカペラが響き、暗いステージの上をメンバーが現れる。溶転で客電とステージの明るい場所が入れ代わった。
 達朗も登場。観客が座ったままなのも、お約束。
 肩の力を抜いた雰囲気で、"新東京ラプソディー"が始まった。
 (ぼくは行ってないが)2013年5月の大阪フェスティバルホール改装、こけら落とし公演と同じ展開だ。

 今夜は通して、PA小さめ。ベースの音が最初は目立ち、コーラスが埋もれる。だが進行につれ音のバランスは良くなった。
 過去のライブは低音強調やキンキン響かせたりと、パンチのある音を志向な印象もあったが、今回はどこまで行っても耳に優しい。ふっくらと柔らかなサウンドだった。
 耳を惹いたのはベース。迫力あるチョッパーから滑らかなフレージングまで、がっちりサウンドを支えてた。むしろ達郎ギターのほうが音量控えめ。 

 "新東京ラプソディー"のキーボード・パターンは手弾きっぽい柔らかな鳴り。弾くとしたら柴田俊文のほうだが、手弾きかチェックを忘れてしまいました。
 達朗をずっと見てた。青いシャツにジーンズの定番服、ニット帽でがっちり頭を守ってる。
 しょっぱなから飛ばさず、じわじわ喉を暖める印象だ。だがフェイクやハイトーンへ延びる場面は、きっちりアルバムに準ずる。コーラスとの掛け合いが聴こえづらく残念。
 間奏は宮里陽太が短くアルト・サックスで。コーダのボーカルと掛け合いで盛り上げず、そのまま"Sparkle"につなげた。この点が2013年5月フェスティバルホールの時と違う。
 
 "Sparkle"もショート・バージョン。アウトロをしごくあっさりで、平歌からすぐに"Wondering♪"って達郎のキューが入った。
 はるか昔のラジオで達郎は「ライブってのはフェイド・アウトの先を聴かせるもの」と言い切り、実際にアウトロの回しやフレーズ伸ばしが聴きものだった。
 だがさすがに演奏曲が増えすぎ、メリハリに踏み切った。そう、メリハリ。これもライブ中盤で実感する。

 間をおかず"Love Space"。タムのフレーズはそのままに、幾分タイトな感じ。この曲、エンディングが新鮮なフレーズ入ったと思う。
 ここまでにもライティングがきれいに変わってく。派手なコケオドシは皆無だが、視覚的楽しさもいっぱい。細かくメモ取っておけばよかったな。

 アコギに交換する達郎。今回は頻繁にエレキとアコースティックを交換していた。
 ここで初のMC。いつになくMCが多かった気がする。今回から台本無しらしいが、ほぼどの会場でも同じことを言ってたっぽい。
「還暦になりました。都から国民年金の前倒し申請書類来ましたが、まだツアーをやれています。キャリアが長くなるとセットリストに困ります。
 選曲であちらを立てれば、こちらがたたず。好きな曲をやることにしました。
 今夜も、長いです」

 心なしかテンポ速い"ずっと一緒さ"をしっとり歌ったあと、"Melodies"のコーナーへ。リアルタイムで聴き、めちゃくちゃ思い入れある盤なだけに、猛烈に嬉しい。とにかくサクサク、曲が進んだ。
 サックスのソロも短い。アンサンブルはどこか、まったりイメージ。

 "Melodies"コーナーは"スプリンクラー"に続く。ずっとアルバム未収録でライブでリスト落ちでだったため、今回の演奏は嬉しかった。
 ライトがシアトリカルに変化した。暗い風景から鮮やかな世界へ。せっかくのNHKホールだから"発想した歌詞の舞台は表参道"って一言あるかと思いきや、触れずにさらっと次の曲へ。

 前述した演奏メリハリ、の場面が続く"Paper Doll"にて。まず達郎がエレキギターで短くソロを取る。さっとピックを投げ捨て、指弾きが今回の定番らしい。
 いったん歌へ戻り、そこから難波弘之→柴田俊文→佐橋佳幸の8バーズ・チェンジ。実に5回もまわした。
 長尺ソロでなく短いフレーズ回しで実質の充実感を増す、にくい演出。特に柴田がオルガン音色で熱っぽく弾き倒してた。

 続く"FUTARI"は難波のピアノ・イントロから。達郎はギターをおろし、ピアノへ寄り添うように耳を傾ける。絵面はきれいだが。
 そのまま達郎は中央横に置かれたRhodesの前に座り、歌い始めた。あまり粘っこく無く、さらりと。怒涛のエンディングもカットされ、ほんの少し物足りない。
 ホリゾントの上に、小さく月が映される。書割と思ってたステージ奥のマンション風景も、窓だけきっちり明かりが浮かぶ。細かくお金をかけた装置演出だ。 

 さて、カバーのコーナー。事前にセットリスト見てたため、このまま弾き語りかなと思い込んでただけに度肝抜かれた。
 BB4の"God Only Knows"は達郎がステージ中央に立ち、スレイベルを持つ。左手には手袋。
 「格調さがるから、説明は曲の後で」

 演奏の"God Only Knows"は、がっちりバンド・アレンジ。オリジナルを再現してた。中盤ハーモニーは、達郎もきっちり加わりハモる所が楽しい。
 ステージが明るく照らされた。
 演奏後のMCによれば、左手の手袋はサッカーのゴールキーパー用だそう。スレイベルは下や横から叩くより、胴を手刀で叩くのが、最も響きにパンチ力あるらしい。
 「素手だと痛くて、この後のギター演奏に支障あるため手袋しました・・・バッチコイ!」
 と、ゴールキーバーのふり。まあ似合わない。
 それはともかく。このグローブ以外に、ファースト・ミットやキャッチャー・グローブでも音を試したってくだりが、いかにも達郎らしかった。ちなみに軍手は格調下がるため、除外したという。

 カバーはラスカルズの"Groovin'"。なぜかコーラス隊が袖へ消える。あれ?と思ったら。がっつりファンク・スタイルのアレンジで粘っこくやってくれた。
 この曲も演奏をがっちり強調した長尺。
「Give me one times!」と幾度もJB風にあおる達郎。そして、一拍のバンドメンバーによるブレイク。さらに二拍、三拍、四拍と続く。02年"RCA/AIR"ツアーの"Touch Me Lightly"アレンジを連想した。

 この拍のたびに、ステージが鮮やかに白く照らされるのがきれいだ。
 「還暦記念と言うことで、60連発を」
 ひとしきりあおった後で、バンドメンバーの連打が始まった。
 達朗が煽るくだり、達郎ライブは観客が静かに聴いてるため、ちょっともったいない。観客と盛り立てあっても良いだろな。

 一息ついた達郎はRhodesへ向かった。達郎にスポットが当たり、メンバーがハケる。
 まず、新曲の"光と君へのレクイエム"をリズム・ボックス付きで。単なるシーケンサーでなく、きっちりとコーダでフレーズが変わるカラオケ式だ。手間かけてるなあ。
 そのままアカペラ・コーナーが始まった。

 まず"My Gift To You"。大好きなカバー。
「難しい曲。プロンプターやクチパクは嫌だから、頑張って歌詞を覚えてきた」
 と胸を張って笑いを取った。
 どっかのブログで突っ込まれてたが、この曲は1993年12月11日、TBSホール <赤坂ライブ>で演奏したことある。なのに達郎は「初めて」と強調する。覚えてないはずはない。スタッフもいるわけだし。あのライブはラジオ放送用の観客抽選な単発企画だから、勘定外ってことだろう。
 ちなみに赤坂ライブでサックスは、オリジナル・カラオケだったと思う。
 今回はさりげなく宮里が登場し、ソプラノを吹いた。エンディングでのボーカルと掛け合いは控えめ。

 "Bella Notte"から力技のクロスフェイド・メドレーで"Have Your Self A Merry Little Christmas"。ハンドマイクを持ち、ステージ前でしみじみと歌いかけた。

 バンド・メンバーが戻ってきた。演奏前に、達郎のちょっとまじめなMC。
 曲は"Dancer"。これもがっつり演奏を強調した。平歌で達郎の歌にエコーが入るとこもきっちり再現してる。ライブで聴いたの、何年ぶりだろ。
 シリアスなコーナーは"希望という名の光"につながる。コーラスのリフレインも高らかに、朗々と歌われた。背後のライティングがたしかオレンジっぽい感じ。荘厳できれいな雰囲気だな、と思ったのを記憶してる。

 サビで別の曲に。大阪フォークのカバーっぽかったが、曲名不明。岡林信康の"今日をこえて"とネットで見かけたが、こんな歌詞だったかな?
 さらに"蒼茫"も。メドレーにせず、そのまま"希望という名の光"に挿入の形をとった。観客へコーラスは求めず、切々と達郎は歌った。

 ホリゾントの前にもう一幕、下りてきた。曲は"メリー・ゴー・ラウンド"。ライブで聴きたかったんだ、これ。ライティングがカラフルにステージを彩る。
 ベースの野太い響きが轟き、思いっきりグルーヴィに盛り上がった。
 降りてきたもう一幕も加わり、ホリゾントに複雑な影絵を描いた。

 すでにステージは終盤。"Let's Dance Baby"で、ステージ前では観客が立ち始めた。
 クラッカーはちょっとばらけ気味。火薬のにおいがぷうんと漂う。
「ボーナス・トラック」
 気の抜けた達郎の一声で、"硝子の少年"に。今まで、弾き語りで冗談っぽくやってたが、今回はきっちりバンド・アレンジされた。めまぐるしくステージの色味が変わる。
 再び"Let's Dance Baby"に戻り、定番の"Mean Woman Blues"へ。うがいは無かったか。

 テンション高く"アトムの子"に向かう。ドラム・パターンは小笠原の手打ち?
 ステージ横のゴジラから、白い息が噴き出した。たまらず宮里が身をかわす。噴き出したのは2回くらい。このためだけに仕込んだか。
 きらびやかなライトがステージを彩った。曲の途中で、子供っぽい節回しな"アンパンマンのマーチ"も挿入した。妙に甲高い声で達郎がコミカルに歌う。

 間をおかず、"Loveland, Island"。これが本編のクライマックス。間奏は達郎のギター・カッティングから始まった。ステージ中央を離れ、客席前まで出てくる達郎。すかさずスタッフが袖から飛び出し、長いコードを綺麗にさばいた。達郎の邪魔をせず、なおかつ絡まらないように。
 ぐるりとステージ前を廻り、マイク前に戻る達郎。それを滑らかにサポートしたスタッフ・ワークもかっこよかった。

 最後はひとしきり唸った後、アンプの後ろへ手を突っ込みトラメガを持つ。なんでも音が良いため、NHKホール備品を借りたそうだ。ここまで音にこだわるか。
 トラメガごしに一声、歌った。
 本編だけで18時過ぎに始まり、9時前の約3時間ノンストップの長尺だ。

 アンコールに応えた達郎は、真っ赤なシャツに着替えてた。そして"クリスマス・イブ"。ここに持ってくるか。
 コーラス隊はステージに上らず、ハーモニーはすべてテープ処理。中盤の"パッフェルベルのカノン"部分は、すぱっとステージが暗くなる。ホリゾントが満面の星で埋め尽くされ、一筋の流れ星の演出。
 固まったしぐさの奏者たち。が、ドラムに誘われ再びグルーヴを作り出す。

 続けて"Ride On Time"。今回のアンコールは本編の見せ場をそのまま、はみ出させた感じ。
 ひとしきり唸った達郎。最後に頬に指を入れ、ぽこんと鳴らす瞬間に佐橋がカウベルを叩く。ぴったり合ったタイミングに、伊藤と佐橋が顔を見合わせ笑ってた。

 達朗自身はさまざまなフェイクで喉を高らかに震わせる。スタッフがステージ奥に立つ、階段を素早く用意した。
「ここは広いんだよな〜」
 ぼやきながら、お約束を披露のためにステージ奥に立つ。
「三階席の人、聴こえてますか?」
 もちろん、三階席から大歓声が降った。そして、高らかに達郎が喉を震わせる。ノーマイクで、声がNHKホール内に轟いた。

 ステージ前にメンバーが集まり一列に並ぶ。手を取り合って、大きく挨拶。
 そのまま、楽器に戻っていった。いったん袖へ消える時間も省略か。
 "愛を描いて〜Let's Kiss The Sun"でコーラスがハーモニーをかぶせる中、達郎が合いの手で掛け声をぶつける。それがすさまじくパワフル。

 もういちどステージ前で一列の挨拶。メンバーは袖に消え、達郎はハンドマイクを持った。
 性急にイントロのフレーズを無伴奏で歌う。ブレスの音がスピーカーから聴こえ、達郎の多重ハーモニーがかぶさった。そう、"Your Eyes"。
 密やかに宮里が現れ、間奏のソロを取った。一礼して袖へ消えていく。

 達郎は"That's My Desire"が流れ始めても、そのままステージを見つめてた。タンバリンを客席へ投げ込み、素早く袖へ消える。アンコールは約20分くらい。
 
 先日のポール・マッカートニーと違うベクトルでの、現役性アピールを感じた。達郎より約10歳上のポールは、往年の曲にパワーを付与した上で新曲を混ぜた表現。大波小波の活動歴を潜り抜けた、したたかさがある。

 一方の達郎は過去のレパートリーのアレンジを保ちつつも、古びさせずのスタンス。つまりMCで言う「かっこよく、歳をとっていきましょう」だ。
 何年ぶりに演奏でも、当時と同じ色合いが蘇る。がむしゃらさは洗練され、より成熟して。そもそも達郎は80年代中ごろから、アルバムのクオリティを一切落したことが無い。
 ショービズの成功方程式を丸ごと無視しつつ、独特の確固たるキャリアを築いた達郎は、これからも妥協せずに突き進む。そんなパワーをぐいぐい感じた、充実のライブだった。 

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