LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2013/11/18 水道橋 東京ドーム
出演:Paul McCartney
(Rusty
Anderson:g、Paul Wickens:key、Brian Ray:b,g、Abe Laboriel, Jr.:ds、
Paul
McCartney:vo,b,g,key)
御年71歳。ところが"現役"っぷりを魅せたステージだった。
今回は"Out there!"ツアーの一環。毎年のようにツアーするポールだが、来日は02年の"Driving Japan
Tour"ぶりとなる。高価なチケット設定に負けず、どこもかしこもソールド・アウトだ。
ぼくはポールのファンだが、ライブ見るのは初めて。今回が最後かなーと、チケット取れたため見に行くことにした。
東京ドームでのライブすら、20年ぶりくらいじゃなかろうか。
道々の海賊業者が売る生写真見ても、ポールの顔はカエルみたいに垂れ下がってる。
Youtubeで見た今回のライブ音源も、いまいち声が出ていない。正直、「見れればいいや」と気楽なもんだった。
席は一塁側スタンドのA24番くらいのブロック。ステージのちょうど対面にあたる。
もちろん、ポールは米ツブ状態。ステージ左右に大きなモニターが設置されており、それをけっこう眺めてた。
この日はサウンドチェックもあり。曲は、こんなあたりだったそう。レアなのやってるなあ。
Gibson Les
Paul
1.Matchbox
2.Blue Suede Shoes
Hofner Bass
3.Coming Up
Piano
4.C Moon
5.Celebration
Martin D12 Acoustic Guitar
6.Things We Said Today
7.On My
Way To Work
Gibson 12 Strings
8.San Francisco Bay Blues
Ukulele
9.Ram On
Epiphone Texan Acoustic Guitar
10.Bluebird
Magic Piano
11.Lady Madonna (short version)
まず、セトリ。 ポールのライブはさすがの人気、英Wikiに詳細の記事と見比べても楽しい。
(Set list)
01.Eight Days a Week
02.Save us
03.All My
Loving
04.Listen to What the Man Said
05.Let Me Roll It
06.Paperback
Writer
07.My Valentine
08.Nineteen Hundred and Eighty-Five 1985
09.Long
and Winding Road
10.Maybe I’m Amazed
11.I've Just Seen a Face
12.We Can
Work It Out
13.Another Day
14.And I Love Her
15.Blackbird
16.Here
Today
17.NEW
18.QUEENIE EYE
19.Lady Madonna
20.All Together
Now
21.Lovely Rita
22.everybody out there
23.Eleanor Rigby
24.Being
for the Benefit of Mr. Kite!
25.Something
26.Ob-La-Di,
Ob-La-Da
27.Band on the Run
28.Back in the U.S.S.R.
29.Let It
Be
30.Live and Let Die
31.Hey Jude
(Uncore 1)
32.Day
Tripper
33.Hi, Hi, Hi
34.Get Back
(Uncore
2)
35.Yesterday
36.Helter Skelter
37.Golden Slumbers/Carry That Weight
/ The End
04年くらいからの基本路線を踏襲しつつ、今回も珍しい曲がリストに上がってる。(1)、(20)、(21)が初、もしくはビートルズを含めて初のライブ演奏。
ウィングス76年ぶりが(4)、(33)。他に"Your
Mother Should Know"も初ライブ演奏だったが、逆に日本公演では新譜"New"収録曲の演奏に差し替わった。新譜演奏は日本公演からのため、"Out
there!"ツアーとしては日本が逆にレア演奏を楽しめるしくみだ。
観客席がしだいに埋まる中、18時を回ったころにDJショーが始まった。
ダブやビートを足したビートルズ音源のぐしゃめしゃDJmix。踊らせるでもなく、いまいち目的が分からない。フルコーラスかけるでもなく、淡々と流れる。
曲は流れた順に(完璧ではないが)"Hey
Jude","I've Got a Feeling"、"come together"、"Get Back"、"Hey Bulldog"、"say say
say"、"Getting
better"など。
テンポがいじられたり、別の曲がかぶったり。選曲もいまいちポリシーが分からない。ドンスカ鳴る、テクノビートが邪魔くさい。しかも音が凄い団子・・・。
女性カバーの"Hey
Bulldog"で締め、30分くらいでDJが下がってしまった。なんだあれは。
18時45分頃から客電はそのままにステージ左右のモニターにスライドが映された。がぜん、盛り上がる。
子供の頃の写真からビートルズへ。上から下にどんどん画像が流れ、ときおり映像も差し込まれた。ずいぶん凝ってる。BGMは"べサメ・ムーチョ"から、さまざまなオールディーズが流れた。
といってもBGMもオリジナル音源とは限らない。"Let
it be"セッションの映像にかぶって、テクノ四つ打ち"twist and shout"。 さらに"Let'Em In"から"No more lonely
night"に。"Silly love song"へ変わり、最後のリフがひたすらループ処理される。
これが"Temporary
Secretary"へつながる。19時10分、客電が落ちた。
登場したポールはぐっと若々しい。あのカエルみたいな生写真は何なんだ。
ベースを持ち、いきなり演奏が始まった。始まりはやはり、"Eight
Days a Week"。
なんだなんだ。You tubeで見たより、声がずっと出てるぞ。
間奏ではラスティがダック・ウォークを決める。
やはりドームだと音質はキツイ。ボーカルはクリアだが、ドラムは団子。ベースとギターはほぼ、聴き分けられない。ドーム・クラスのAudブートって、隠し録りのせいじゃないんだな。
グラウンド中央に4本の塔が建ち、スピーカーが接続されている。その分、音のまわりは少なめで、配慮はだいぶ有り。
だが逆に、モニターとのラグが気になる。演奏からコンマ数秒遅れて音が届く感じ。クチパク見てるようで、変な気分だった。
とはいえ米ツブ見てるより、ほとんど視線はモニターへ向かったが。
新譜から"Save
On"を演奏、バリライトがきれいだ。大きな舞台だけあるな。
「タダイマ!」とポールが挨拶する。今回、モニターには日本語訳が出ていた。"Thank
you!"ってポールの掛け声を、律儀に「ありがとう」ってモニター表示には、苦笑だが。
続けて"All My
Loving"。大好きな曲。背後にはビートルズ時代の映像。ぐー、目が熱くなった。
「日本語ヲ頑張リマス。デモ英語ノホウガ、トクイ」とジョーク飛ばす。
"Listen to What the Man
Said"が終わると「唯一の衣装チェンジだよ」と、上着をポールは脱いだ。
楽器もベースから派手なペイントのエレキギターに持ち替え。ちなみにポールは持ち替えのたびに、片手で高々と楽器を掲げてた。現役性のアピールかな。
"Let Me Roll
It"は、長いアウトロへ。
「このギターで、録音した曲だ。君らが産まれる前だと思うけどさ」
と前置きして、"Paperback
Writer"。ハーモニーもばっちり。ドラムがリンゴと違い、しなやかなフュージョン寄りのタッチなため、サウンドのノリがずいぶん違う。
着実なバッキングで、カッチリと決めた。
聴きながらのメモによると、ここでポールはステージ奥のアンプにギターを押し付け、フィードバックを誘った。流れ的に変だが、記憶違いかな。
いずれにせよ残念なことに、音がいまいち聞きわけられない。この辺がドームの難点だ。MCで曰く「ジミヘンに捧げた」そう。
ポールはステージ奥のピアノへ向かった。「ナンシーに捧げる」と、曲は"My Valentine"。ステージ背後にもモニターがあり、モノクロ映像が流れた。手話で歌詞を表現する。 ギターソロは、たしかブライアン。映像の中でもギター・ソロが同じように演奏された。
大画面モニターでの映像は、ポールだけでなくミュージシャンたちも時々映す。さらにクレーン・カメラでアングルも頻繁に変わった。つまり、肉眼では見られない映像もしばしば。大画面モニターで聴くライブってピンとこなかったが、こういう発想もあるのか。
「ウィングスのファンに」と"Nineteen
Hundred and Eighty-Five
1985"。ポールのピアノが軽快に鳴るが、やはり映像と音のラグがもどかしくもくすぐったい。鍵盤グリスがヘンテコに見えてしまう。
ポールはピアノに座ったまま。"Long
and Winding
Road"が奏でられると、ぐっと観客のノリが高まった。
ウィッケンズのキーボードがシンセでオーケストラな響きを重ねてる。やっぱ、こういうアレンジなんだ。
今度は「リンダに捧げる」と"Maybe I'm Amazed"。いいなあ。どれもこれも、たぶんポールはオリジナルのキーで歌ってる。たしかに高音の伸びは減じてるが、ロートル感はカケラもなかった。
ステージ中央に戻ったポールはアコギを持った。曲は"I've Just Seen a
Face"。英Wikiによるとこのあたりがレア曲登場のチャンスだが、日本公演はオーソドックスに行った。
楽しげに"We Can Work It
Out"へ。こっちはちょっと、声が衰えあり・・・かな。
別のアコギに持ち替えたポールは、"Another
Day"を歌った。甘く柔らかな響き。ちょっとテンポを上げてた感じ。
しっとりと"And I Love
Her"。ぐっとシンプルなアレンジで、ポールの声がドーム内に響く。もわんと揺れるエコーのまわりっぷりが逆に、ポールの歌声の生々しさを強調した。ほんとだよ。天井のドームまでまとわりつくような、歌声が愛おしかった。
「公民権運動を見ながら、作った歌だ」と紹介するポール。
ギター弾き語りで"Blackbird"。ステージ中央がせり上がる。LEDが煌めき、高く上がる台の中央に青いバラが映った。背後のステージも濃い青に塗りつぶされ、滴るようなムードが作られる。
左右のモニターにはポールの背中が映る。こういう視点こそ、モニターの醍醐味か。
「ジョンに捧げる」
ポールが告げた。もちろん、ファミリー・ネームを言う必要はない。曲は"Here
Today"。せり上がりが下がったの、この曲だったかな。
切々と響くアコギと歌声。この楽曲そのものにはあまり思い入れないが、とても切なく、素敵な一時だった。
ステージ中央に置かれたサイケなペイントのキーボードへ座るポール。ノスタルジーとセンチメンタルはここまで。いきなりぐっと、現役感を振りまいた。
新曲の2連発。ある意味、この瞬間がベスト。今の喉を意識して作った曲だから、まったく無理が無い。
PVで繰り返し見た曲、"QUEENIE
EYE"のカッコよさったら。中盤の密やかなムードから、一気にリフレインが炸裂する。
このサビの転がるようなフレーズを、いつまでも繰り返してほしかった。
ちなみに新曲だからって客席は特に静まらず。まあ、たしかにビートルズの曲のほうが盛り上がりは良かったが。
だがポールはさらにステージのムードを変える。"Lady
Madonna"で畳み掛け、アコギに持ち替えた。
「イエロー・サブマリンから」と、"All Together
Now"。背後のスクリーンでは、CGのキュートなモンスター勢が躍る。
12弦ギターを持って"Lovely
Rita"。このあたりでPAもずいぶんヌケが良くなった。
さらに新譜から"everybody out
there"。スクリーンには地球の映像が映される。シビアに歌詞考えるべきかもしれないが、ステージのムードそのものは明るい。コール&レスポンスを観客に求め、普通にノリノリのロック・ショーを演出した。
バンド・アレンジでふくよかな"Eleanor
Rigby"、ベースに持ち替え"Being for the Benefit of Mr.
Kite!"に。ステージからレーザー光が飛び、ドームの天井へ鮮やかに線画を描いた。
「ジョージに」と"Something"はウクレレ弾き語りで演奏された。Youtube見たが少なくとも08年のツアーでも同じアレンジみたいだ。
途中でバンドが加わり、ポールはアコギに持ち替える。
再びベースを持つポール。ほんと、頻繁に楽器を持ち替え、そのたびに片手で高々と楽器を抱えてた。
それぞれの楽曲はいたずらにエンディングを長くしない。サクサクと曲が進む。とはいえポールは休憩やMCを伸ばしムードを弛緩させることも、ない。
曲は"Ob-La-Di,
Ob-La-Da"。観客へコーラスを求める。「オトコダケ、オンナダケ」と、けっこう長めに観客の歌声をドームに響かせた。
いよいよステージも終盤へ。"Band on the
Run"の背後はジャケ写真の撮影映像。メンバーのポーズがぴくぴく動くさまが愉快だ。あんな映像、あったんだ。
しっかりシャウトするポール。凄いなあ。71歳とは思えない。
"Back
in the U.S.S.R."が疾走する。背後はロシアの風景がカットバックした。
このまま雪崩れて欲しいが、本ツアーで唯一不満がこの場面。次にポールはピアノへ向かい、"Let It
Be"が始まる。声を休めるためか。確かに喉は少々、掠れてた。いったん、休憩入れてもいいのに。
それともクライマックスの曲へつなげる関係か。ピアノのイントロにポールの歌。
一呼吸おいて、火柱が飛ぶ。
"Live
and Let Die"。
曲中もたびたび炸裂する特効の火柱を受けてラスティは床に転がり、やられた仕草を見せる。
ドラマティックな雰囲気に合わせ、ライトも激しくステージで煌めいた。
曲が終わるとポールはステージ中央のキーボードへ向かった。途中で耳をやられた素振り。観客の声が聴こえぬふりをして、なんども拍手をあおった。このへん、お約束。
最後はここ何年もツアーで定番の"Hey
Jude"。滑らかにタム回しのドラムが湿っぽさを減じた。
リフレインを観客に任せる。ステージ背後や横のモニターには観客の様子が幾度も抜かれた。微笑む人、カメラへアピールする人、照れる人。構わず歌い続ける人。誰もが楽しい顔をしていた。
ここでメイン・ステージは終わる。驚いたことに、たしかにポールは一度も、一滴も水を飲まなかった。既に2時間が経過している。
アンコールは"Day Tripper"から。ポールはベースを弾く。"Hi, Hi, Hi"から"Get
Back"まで。ハッピーに最初のアンコールを締めた。
観客で帰る人もちらほら。もう一回、アンコールあるって知らんのかな。
しばらく間を置き、現れたポールはアコギを持っていた。「福島に」と、"Yesterday"を切々と奏でた。
ベースに持ち替え"Helter
Skelter"。背後のスクリーンに派手でスピーディなCGが乱舞する。最後まで演出を施してる。
最終曲はピアノに座って、ポールはアビー・ロード・メドレーを始めた。前回ツアーからの贈り物。
(97年チャリティ・ライブでは同様の演奏あったが、ポールのツアーだと"The
End"だけだったらしい)
"Golden Slumbers"から"Carry That
Weight"へ。ポールは途中でエレキギターに持ち替えて、メンバーとギター・バトルを繰り広げる。短いフレーズの交換をたっぷり聴かせた。
そして、高らかに歌われた"The
End"。
ステージ前でメンバーと手を繋ぎ、観客へ応えるポール。四股を踏んでおどける。
しめて二時間半にわたる長尺ライブだった。
改めて、ポールの枯れなさっぷりが分かる。さらに"奏者"とし、アンサンブルに加わり続けるミュージシャンシップも健在。彼のキャリアならバックを任せてハンドマイクで懐メロ1時間ショーでも、十分に客を呼べるのに。
だからこそ、ドーム規模の演奏は辛い。音が、演奏がとても聴こえづらい。ポールは選ばれた少数より多数観客との交歓を選んだ。でもポールの演奏を聴きたいがゆえに、別のスタイルでのライブをもっとやって欲しい。
チケット代は今の5倍、そのかわりキャパは半分、いや1/4。有料のインターネット生中継か、後付け映像ソフトでも良い。
そんな規模でレアな曲、思いつきでセッションやカバー。そんな寛いだライブも、考えて欲しい。
ポールは驚くことに、いまだに現役だ。観客を気にせぬミュージシャンとしてのポールを、もっと聴きたい。