LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2013/10/14 下北沢 アレイホール
出演:Alexei Aigui+太田恵資
(Alexei
Aigui:vln,太田恵資:vln)
ロシアのバイオリニスト/作曲家のアレクセイ・アイギの来日東京ツアー。数公演でヒカシューと競演のほかは今回、太田恵資が全面バックアップ。5公演を行う。今日は3公演目、昼間に御茶ノ水のクロサワバイオリンのインストア・ライブに続くライブとなった。
今回、太田との初デュオにして新譜"Caprice
Portament
Island"の先行レコ発も兼ねている。
Youtubeでちょっとアレクセイのユニット4'33"を見ただけ、まったく予備知識無しに聴きに行った。
アレイホールはキャパ100人ほどのスペース、ステージは客席とフラットな位置にある。向かって左に太田が立ち、エレキ2挺とアコースティック1挺のセッティングでエフェクタもずらりのフルセット。もっとも、うち1挺の赤エレキや足元のメガホンは使わず。
いっぽうのアレクセイはエレキ1挺でエフェクタ類は無し。アコースティック1挺のシンプルさ。アコースティックも小さなマイクをボディにつけ、スピーカーから音を出していた。
アコースティックもコード・プラグは腰に下げた小さな機材で繋ぐ。素朴なスタイルだった。
太田とは日露の双方で共演を重ね、露録音の新譜も吹き込んだ仲。だが予想以上に探り合いの立ち位置で、尻上りに盛り上がる。即興の醍醐味を味わえるライブだった。
丁寧な太田のMCのあと、アコースティック・バイオリンを構えた。一節、フレーズを紡ぐ。なぞるようにアレクセイが応える。さらに太田が重ね、アレクセイがかぶせる。
抒情的な旋律の変奏から、ライブが始まった。
完全な即興。だが冒頭はアレクセイがかなり太田の様子を伺ってるふうだった。
促すように幾度か太田がフレーズを流し、やがてじわじわとアレクセイのアクセルが入っていく。
後から考えると、アレクセイは場の雰囲気を探ってたのかも、と思う。ある意味、飛び道具無し、真っ向勝負のストイックな弾きっぷりだった。
アレクセイはほとんどビブラートをかけない。確実なテクニックを漂わすも、むやみな変則奏法や速弾きのあおりが皆無。ノイジーなフレーズもほぼ無い。いわゆる手癖や手馴れのパフォーマンスを感じさせない。
そして太田の音楽をガップリ呑み込み、リリカルで情感あふれるフレーズを惜しみなく披露した。
前半は3曲。すべてアコースティックだった。冒頭の曲は次第に二人の距離感が縮まっていく。変奏から短いソロ回し、やがて力強くアレクセイのバイオリンが響き、太田は煌めく旋律を連発した。
2曲目からはアレクセイもぐいぐいと主導権を取っていく。太田がバイオリンを下げ、アジア風の歌を響かせる。アレクセイは滔々と弓を動かしていた。
太田がリズムや譜割をしばしば変えて一つ所に留まらないとすれば、アレクセイは野太い勢いで剛腕を決める。
二人は互いの音を聴きあっている。お互いのフレーズに反応し、場面が切り替わる。しかしむやみなコール&レスポンスに陥らない。
アレクセイは時折、目を開けて太田をちらりと見る。だが弓の動きは別だ。瞬間的に流れを見極め、寄り添うか展開するかを切り分けていた。
即興巧手の太田に全く引けを取らない。素晴らしいバランスのインプロだった。
二人のボウイングが揃って、疾走するさまが圧巻だった。たゆみない旋律がふんだんに放出され、一時も立ち止まらずに華麗に変容する。
呼吸が合い、見事に同じタイミングで上下する弓。アレクセイは激しいボウイングでもそれと思わせず、悠々とバイオリンを操っていた。
短い休憩のあと、後半セットは自由自在。まずアレクセイがエレクトリックを手に取った。胴なしのシンプルなタイプ。ボディの横にツマミがいくつかついてたが、まったくいじらない。
いわゆるエフェクタ効果はエレクトリック・バイオリンに求めてないか、メンテの軽量化狙いでエフェクタ関係を使わないか、ではなかろうか。
太田はワウやループを使って低音ドローンを響かせる。オクターバーでベース音も微かに爪弾いた。
眺めてたアレクセイはバイオリンを構え、おもむろにメロディを産み出した。今夜のライブを通じ、ノイジーなアプローチは皆無だ。きれいで雄大な旋律が次々と溢れた。
アレクセイの演奏は、我を感じさせない。場を生かし、自らを惹き立てる。フリージャズにありがちな自己アピールや独断的な暴走が全くない。
その柔軟なアプローチが、太田の音楽性にピタリとハマっていた。
前半は太田が場のムード構築に軸足を置き、アレクセイが弾きまくる。やがてエレクトリックを置いて、アコースティック・バイオリンにアレクセイが持ち替えた。
太田はボディを指で叩いたり、ループに行きかけたが。すっとアコースティックに持ち替えた。
ニコニコと目を閉じて弾く太田と、ときおりちらりと太田を見ながら弾くアレクセイ。
どっしり構えた太田と、上体を前へ大きくのめらせて、じわじわと立ち位置を変えるアレクセイの姿勢も対照的で面白かった。
後半は2曲。2曲目は双方がアコースティックだった。ごくたまに、アレクセイが大きく指をふってビブラートを効かせる。だがすぐさま細かく繊細なメロディに向かった。
太田のバイオリンも止まらない。二人の音が一つに溶け、すぐさまソロとバッキングに変わる。だが攻守は間をおかず交代し、やがて旋律の応答につながる。
後半でちょっとホーメイを聴かせるが、太田も真正面からバイオリンを奏でた。弾きまくる太田の横で、アレクセイは懐深くバイオリンを響かせる。
激しい太田のソロとメロディアスなアレクセイのアドリブが、多層的につながる瞬間が圧巻だった。
最後は小さい音に収斂し、静かに終わる。
大きな拍手に応え、さらにアンコールもあった。冒頭のフレーズ応酬はまるで曲のよう。
二人のアコースティック・バイオリンが短い旋律を出し合い、隙間を縫って変奏が展開していく。
アップテンポの流れで、初めてアレクセイが速弾きを前面に出すプレイを見せた。めまぐるしく指板を踊る左手は、穏やかで安定してる。
ほんのりコミカルさを漂わせ、あっというまにエンディングへ。短めだが味わい深い即興だった。
二人のインプロはクラシカルなメロディや大陸的に大らかな旋律をふんだんにばらまきつつ、調和と対話が見事に続く。
ソロとアンサンブルの配分が絶妙で、即興のスリルと構築の見事さを存分に味わえる。寄せ手と攻め手の妙味を堪能できた。とんでもなく美味しく、すごいライブだ。