LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/7/19  大泉学園 in“F”

出演:黒田京子+ユカポン
 (黒田京子:p、ユカポン:marimba,per)

 店に入ったら、どでかいマリンバが・・・ずどーん。インパクトあるステージの絵面だった。
 月一回の"くろの日"、今夜の初共演はユカポン。今夜は巨大なマリンバ(ヤマハのYM-6100?)を持ち込んだ。幅が3m近くの巨大さで5オクターブの音域。MCでもコメントあったが、シロホンと違いマリンバはごく最近の楽器という。Wikiによるとグァテマラで19世紀後半に誕生。今夜の5オクターブはヤマハが1980年代に開発したそうだ。もっと歴史ある楽器かと思ってた。

 今夜はユカポンにとって「初のピアノ競演」「初の即興」と初物が色々。かなり緊張した面持ちだった。
 一曲目は"Rain Dance"。マリンバのソロではエチュードにも使われる曲という。Alice GomezとMarilyn Rifeの曲、かな。端正なムードでテクニカルに叩かれるマリンバを、ピアノがカッチリと支えた。
 鳴り始めた瞬間、マリンバから倍音がブワッと響く。ピアノと混ざり合い、独特の厚みある音像を産んだ。

 間近でマリンバの4本マレットさばきを見るの初めて。マレットは人差し指と中指の間から一本、親指の下に一本持つ。肘や手首の他に細かく指先でマレットを操った。片手の音域は親指と人差し指の腱を使う。すごく筋肉を酷使しそう。
 綺麗な曲。軽快にめまぐるしく鳴るさまはクラシックというよりプログレを連想。ピアノもここでは譜割をあまり揺らさず、パーカッシブに弾かれていた。
 
 二曲目がマリンバとピアノの即興。
 インプロは初めて、とユカポンは緊張した面持ちだった。最初の流れは黒田のピアノに誘われ、マリンバが展開する形。だがどんどん音が寛いでくる。軽やかに弾むピアノに乗って、緩やかにグリサンドをマリンバが決めたあたりから、ぐっとサウンドが幅広く鳴った。
 途中で黒田がクラシックのフレーズを奏でる。モーツァルトだっけ?にっこり微笑んだユカポンは、ぽおんと鍵盤を叩いた。
 
 一転してジャズ。三曲目がカーラ・ブレイ(タイトル不明)、四曲目が「みなさん良く知ってる曲」と黒田が紹介した。たしかに四曲目はメロディ聴き覚えあったけど、タイトルが思い出せない・・・なんだっけ?オリジナルは歌モノだった気が。 
 ユカポンはステージ横のパーカッション・セットに座った。ブルージーなピアノをタイトなビートで支える。とにかくユカポンのリズム感がかっこいい。ジャストのリズムで、かつパターン刻みがほとんど無い。カホンと各種シンバルの変則セットを、プラスティックのブラシでビシバシ叩く。
 バックビートを強烈に効かせ、強固なリズム感と唄わせる変則パターンを自在に叩いた。黒田のピアノも力強く、しゃっきりと鳴る。歯切れ良いメロディ感が心地よい。

 ピアノの味わいは、四曲目でさらに増した。テーマがキーを変えながら僅かな変奏で幾度も繰り返される。涼やかなビートでピアノのグルーヴ感が加速した。
 ソロは黒田の独壇場。奔放なアドリブを堪能できた。だが、ここでのバランス感がいかにも黒田らしい。そのまま疾走せず、無伴奏のパーカッション・ソロのスペースを作る。
 ロマンティックに揺れるピアノと対照的に、クールに、しゃっきりとジャンベで空気を引き締めた。だがリズムは歌うように鳴る。タイトゆえのスマートさ。途中のウィンドチャイムはグリサンドでなく高音や低音の数本だけを別々に鳴らす奏法で、ちょっと新鮮だった。

 前半最後の曲はユカポンの竹取物語がテーマのマリンバ・ソロ曲。この演奏はマリンバのさまざまな方向性を堪能できた。
 鋭い音色は豊かな倍音でびりびりと響きmたちまち減衰する。アジアン・テイストなメロディと相まって、ふっとガムランが頭に浮かんだ。さらに特殊奏法もいっぱい。鍵盤のエッジを叩いたり、マレットの腹を使ったりも。
 小柄な身体にジャンベのペンダントを揺らしつつ、鍵盤の上から下まで使ってユカポンは軽やかにマリンバを奏でる。素敵なひとときだった。

 ここで休憩。後半セットは黒田のピアノ・ソロ。ひさしぶりにライブで"二十億光年の孤独"を聴いた。
 イントロが長め。抽象的なフレーズがゆったりと踊る。ソロゆえにテンポがぐいぐい揺れ、リリカルさを強調した。厳かに鳴るテーマ。アドリブの断片が混ざり、溶けてゆく。中盤のフリーが短めで残念。浸ってると、あっという間に終わり。もっと長尺で聴きたかったな。

 ユカポンが加わりサティを三曲。最初に二曲メドレーで、続いて一曲、の構成。前半は"犬のためのぶよぶよとした本当の前奏曲"とタイトル失念の曲を繋げた。ぼくが原曲を良く知らず、今回の即興要素は不明。
 グロッケンシュピールをマリンバの上においてまず、ひとしきり演奏。ピアノのソロにつなげ、すかさずマリンバに変える。逆さマレットの棒の部分で鍵盤叩いたのも、ここか。中間部分はアドリブっぽい。フリーなビートに移行せず、どんな風に行ってもきっちりとビート感が残ってた。
 ユカポンもすっかりリラックスし、端正で自由な音像が繰り広げられた。
 途中で黒田がサティのセリフを語る。すかさず一声、応えるユカポン。譜面見ながらも余裕たっぷり。完全即興は初めてだったとしても、ここではインプロの瞬発力ばっちり。

 いったん区切ったもう一曲のサティは"あらゆる意味にでっちあげられた数章"から"おしゃべりな女"。タイトルを黒田が継げた瞬間、きゅっと指で自分を指さしポーズを決めたユカポンのキュートにほほ笑んだ姿が、印象に焼き付いてる。
 この曲は、さらにコミカルなフリーっぷり。中盤ではマリンバを演奏しつつ、ぷーぷー言う玩具を片っ端から鳴らしてく。すっかりリラックスしてユーモアあふれるサウンドを作り上げた。
 黒田はユカポンをフィーチャーしつつ、柔らかなタッチでピアノを鳴らす。特にダイナミズムが良かった。マリンバ以上にピアノからフォルテまで幅広いボリュームを操った。

 ピアノの見せ場は、続く"ゼフィルス"で堪能。ユカポンはパーカッション・セットに座る。ここでは横にぶら下げた各種の木製パーカッションやベルを多用する。さらに弦楽器の弓でシンバルやグロッケンのリムをこすって倍音を鳴らした。
 つまり複数の小物をまとめて鳴らす偶発性多い打楽器の多用は、いくぶんユカポンの強靭なタイム感がばらける。ゆえにピアノの歌いっぷりが、なおさら味わい深く響いた。

 2セット目最後の曲はガーナがテーマな、マリンバの曲らしい。委細は不明。
 ユカポンはジャンベをハードに叩く。ずぅんずん轟く低音。さらに伸びやかな歌声も披露した。一節毎に、歌は黒田と歌い継ぐ。アフリカと言いつつ、なんとなく沖縄あたりのムードも頭に浮かんだ。ピアノはマリンバの譜面を見てたのかな。やたら長い楽譜が譜面台の上を占領してた。
 和音が最高に心地よい。弾む響きはどこまでも明るく、軽やかだった。二人の歌が交錯し、ジャンベとピアノが対話を続ける。もっともっと、聴いていたい。

 拍手は止まない。アンコールを考えてなかったらしく、二人は一瞬迷い顔。インプロをもう一曲かな、と思ったら。マリンバのソロを黒田が提案する。
「うーん・・・では、嫌いなバッハの曲を」と、ユカポンが前置き。弾きはじめたのは、"無伴奏チェロ組曲"の1番だった。厳かなメロディを、低音部から紡いでいく。残響はドライで、トレモロは使わない。一音一音、置くようにマレットが鍵盤の上に落ちる。淡々と、しかし味わいは深い。クールながらざっくりと空気をつかむ、底力ある演奏だった。

 初競演と思えぬ相性の良さだった。レパートリーや音楽的な可能性も多々秘めている。このデュオはまたぜひ、聴いてみたい。
 一番の問題は、マリンバ搬入の手間かもしれないが。 

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