LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/6/30   大泉学園 in-F

出演:深水郁
 (深水郁:vo,p)

 去年の2月ぶりに聴く深水のライブ。完全ソロだと、07年11月ぶりか。実際には拠点を東京に移し、あちこちでライブをやっているが。
 ピアノの前にマイクを立てて歌うが、実際はマイクなくても十分に彼女の声は響いた。
 MCをはさみつつ、短い曲も多く17曲と多いセットリスト。改めて彼女の特異性を楽しめたライブだった。日本情緒や童謡のベクトルを持つ旋律ながら、アヴァンギャルドな要素を滲ませる。それでいて作為や毒が無い。不思議な個性だ。

<セットリスト>
1.陽のあたる牛
2.水無月
3.コイゴコロ
4.雨の中で
5.レンギョウ
6.ちょっと痛い
(休憩)
7.さされんめーやのうた
8.栗饅頭の歌
9.甘酒の唄
10.初蝶の一夜寝にけり犬の椀
11.満たされてゆく
12.月の言葉
13.城ヶ島の雨
14.歌のまぼろし燃やし燃やし
15.ダンス
16.魚の話なんかやめて
(アンコール)
17.氷の魚
 
 全てオリジナル曲。(10)は小林一茶の句をモチーフのインストで、(13)は北原白秋の詩に梁田貞が作曲のカバーだそう。

 ライブはのびやかな歌が印象的な(1)から。声を頭へ響かせ、ホーメイっぽい印象すら受ける。びいんと倍音を含むかのように、店内へ彼女の声が吹き渡った。ゆったりしたピアノと、凛として穏やかな歌が厳かに馴染む。

 インストの(2)も即興は控え、丁寧にメロディを重ねた。このスタイルも、意外に個性的。安易なフェイクやアドリブに向かわず、ミニマルなほどに旋律を繰り返す。だが譜面っぽい再現性や自己没入とも違う。淡々と肩の力を抜きつつ、軽やかにメロディが漂う。

 名曲"コイゴコロ"で淑やかな歌声をたっぷり楽しむ。(4)はイントロがミニマルで意外だった。不条理ムードとセンチメンタルな歌が自然に同居するのが、彼女の個性だ。
 (5)もインスト。ふうわりと柔らかなメロディを丁寧はつむがれ、流れていった。やはり旋律の繰り返しを重ね、ロマンティックな世界を作る。最後は(6)でさらりと締めた。40分ほど、さっくり終わり。
 
 休憩をはさんだ2ndは寛いだMCを間にはさみ、短い曲をまず3曲立て続け。(7)は彼女の地元限定で販売する虫よけスプレーのタイトル。特に頼まれたわけではないが、このタイトルに触発され曲を作りたくなったそう。
 (8)も同じく彼女の地元名産の、CM曲。くっきりしたメロディが、溌剌と弾む。
 いっぽう(9)だと、もろに独自の世界。キャッチーな旋律と相反した複雑な和音の響きと、間奏でのフリーなピアノの対比が興味深い。
 彼女の魅力は例えば(3)みたいなリリカルさにまず惹かれるが、ある意味でこの曲も特徴を象徴してる。

 インストの(10)でじっくりピアノを聴かせて、のびのびと(11)で歌い上げた。 この歌声を抽出したのが、(12)と(13)。つまり完全アカペラ。
 譜割やテンポ感を自在に操り、場面ごとにじわりと曲調が変わる。特に(13)が凄かった。場面ごとに旋律が次々、飛んでいく。激しく跳躍する旋律も、アカペラゆえの自由さで、見事な説得力を魅せた。

 (14)は曲の途中で急に、濃密に鳴ったと思う。(15)はぼくとして、あまり聴き馴染みない。ドラマティックな展開な印象を受けた。 
 最後は(15)で丁寧にまとめた。中盤の手拍子部分は割愛され、幾分ドライブ感を増したアレンジ。
 後半も40分くらいかな。拍手に応え、そのままアンコールへ雪崩れた。

 個人的に大好きな(16)をやってくれて嬉しい。インスト版。最近は歌入りで演奏してないのかな。
 最後で思い切りフリーに炸裂した。クラスターを連発しつつ、優美さを失わない。ペダル踏みっぱなしで鍵盤を柔らかく叩きのめし、残響が消えゆく中で、再び旋律を奏でる瞬間が特に美しかった。

 前衛とポピュラーを自在に行き来するスタイルは、おそらく自覚的にけれんみを抜いている。頭に声を響かす歌い方は、サインホ・ナムチュラクみたいなヴォーカリーズにも行けるし、クラスターのピアノはフリージャズの文脈でも語れる。だが彼女はあざとさは狙わないようだ。
 いっぽうでそれらの尖った部分を薄め、キャッチーなメロディでポピュラーな歌のみの世界も目指す様子はない。
 この相反した要素を、たやすく彼女は咀嚼しスマートに表現する。
 おっとりとした雰囲気と親しみやすさ、その奥の多様性がいかにも深い。 

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