LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/5/30  六本木 SuperDeluxe

出演:RICHARD PINHAS+灰野敬二+メルツバウ+吉田達也
 (RICHARD PINHAS:g、灰野敬二:g,vo,electronics、メルツバウ:electronics,吉田達也:ds)

  2011年4月4日に演奏予定するも震災影響により中止という、リシャール・ピナス (エルドン)の来日ツアー。といってもプログレは詳しく無く、彼の名前はメルツバウとの共演盤で知った。
 今夜も正直、共演者目当て。独特な我の強い共演者たち、とくにメルツバウと吉田達也がどう噛みあうか興味あり。
 今回のピナス・ツアーはディスクユニオンが招聘元かな?全7公演中、名阪は吉田が帯同、東京公演はメルツバウや吉田がさまざまな形でサポートする。今夜はツアー初日、灰野敬二も参加した。なお本ツアーで灰野の参加は今夜だけ。
 
 予めTwitterで組合せ予告もあり。会場は立ち見も出る盛況。10分ほど押して客電が落ち、無造作にまずサポートのセッションが始まった。
 立ち位置は向かって左からメルツバウ→吉田→ピナス、吉田の前に灰野が陣取る。ピナスが主役なのに、ステージ右側へ立つんだ。

1.灰野+メルツバウ+吉田

 一番の目当てだったが、正直拍子抜け。途中でうとうとしながら聴いていた。吉田はタム二つにシンバル4枚ほど。ボーカルは無し。
 灰野はギター中心のプレイで、途中に歌を加えた。メルツバウはギター風の自作ノイズマシンを弾き続けた。
 とにかくメルツバウが独自の世界を作り出す。灰野と吉田だけなら押し引きあるセッションになったろうが、今夜は3人がひたすら平行に疾走した。

 当然ながら灰野とメルツバウの轟音がフロアに充満する。ちなみに音量はめちゃくちゃ大きすぎるわけじゃない。ロック系のハコじゃないせいか。だが耳鳴りするには十分な大音量。

 吉田は乱打中心。だが小節感を出したりリズム・チェンジを施すが、いかんせん二人の轟音に埋もれて、ドラムがいくら変化しても全く音像が変わらない。ある意味、新鮮だった。
 メルツバウのノイズマシンは、磁石風の丸い物を右手に持って弦っぽい部分をかき鳴らす。そのたび、ハーシュ・ノイズがガシガシ唸った。彼のテーブルにはエフェクターがずらり。ミキサーもあったのかな?ライブ冒頭はそのつまみや、背後のギター・アンプを細かく調整し、音像を弄っていく。
 だがあくまで独自の世界。ライブ全体を通じて、共演者と視線を合わせることが無かった。

 灰野は激しくギターをかき鳴らす。が、あまり音に変化が無い。耳鳴りのせいかな。もわっとしている。どれが灰野の音か、今一つわからぬのも聴いててのめり込めない要因の一つ。
 またメルツバウの音がハーシュ一辺倒なのももどかしかった。なお数年ぶりにメルツバウのライブを見たが、ラップトップは一切なし。完全アナログ・ノイズに機材が移行していた。

 中盤に灰野がシャウトして、ちょっと世界が切り替わる。だがあえて誰もがメリハリをつけない。吉田が割を食った格好か。30分ほどの即興。

2.ピナス+灰野

 今夜、一番面白かった。
 まずピナスが音を出す。ギター・ドローンだ。エレキギターを構え、ちょっと弾いては目の前の機材のつまみを弄る。ループが重なり濃密な音の壁が作られる。十分に音が大きく、細かな部分は聞き取れない。

 灰野はまずボーカルのみ。リバーブを深くかけ、ときどきディレイも施してたか。穏やかなノイズの波へふくよかに乗り、ファルセットをきれいに響かせた。ほんのりケルトあたりの世界観が見える。
 
 ピナスのギターにビート性は薄い。もんわりと音が広がる。演奏テクニック云々とは違う次元。ときどきネックを左手が細かく押さえたりピックでストロークを繰り返すが、聴いてる音がどう変わるか良くわからず。流れを上手く聞き取れなかった。

 とはいえ音像は心地よい。灰野の歌声は時にシャウトへ変わり、激しく空気を揺さぶる。さらにハイトーンの叫びへ。バラエティ豊かな灰野のアプローチを、ピナスのサウンドがどっしり支える極上のひと時だった。

 中盤で灰野はコンタクト・マイクっぽいものをつかみ、エフェクタで細かく加工する。ここから世界はさらに混沌へ向かった。
 しばらく灰野がそれで叫んだあと、横に2台並べたエア・シンセへ。左手を深くシンセへ押し付け、右手を激しく動かし空気を揺さぶる。
 灰野の出音は冒頭からハーシュ。右手を上下左右へダイナミックに動かす。舞うかのように。明りは薄暗いがはっきり灰野の動きが見えた。

 20分ほどであっさり終了。このセットをもっと長尺で見てみたい。

3.ピナス+メルツバウ+吉田

 ピナスがギターを爪弾いたがすぐにノイジーな音へ。さらにメルツバウもいきなりかぶせた。メルツバウは椅子に座ったまま、さまざまなエフェクタのつまみを神経質に操作する。
 これはきっちりミックスされた録音物を聴きたい。たぶんピナス、メルツバウともに複数の出音を操ってたと思うが、耳がぼやけて聴き分けできず。
 
 最初はやはり三者三様の独自路線だったが、まず吉田が一歩抜けた。最初のセッションとはアプローチを変え、さらに大胆にテンポ・チェンジを施す。
 あえて他のふたりに合わせない。フロアのノイズを突き破るドラム・ソロが轟く印象だ。シンバルの連打からスネアの高速打音へ。猛烈なスティックさばきと、ぐっと音を抜く場面と叩き分けた。ここまで振れると、さすがに音の印象も変わる。

 だが他のふたりも負けていない。だがぼくがピナスを聴きなれてないだけに、彼の演奏は細かくわからない。ツマミを弄ったり、立ってギターを弾いてみたり。
 ピナスは単なるドローンに留まらず、ひっきりなしに音色を変えていた。

 メルツバウは中盤から主導権を握る。冒頭のエフェクタ・ハーシュに続き、EMSシンセへ。Synthi Aかな。野太い電子音がフロアに響き渡った。
 ざわめくピナスのノイズと吉田のドラムを押し分けて、ぐいっと存在感を出した。
 この変化でピナスがいきなりアグレッシブに鳴る。だがメルツバウはびくともしない。 ピナスが引くと吉田ががっちりメルツバウと噛みあった。

 エンディング間際にピナスが二人へ視線を投げる。とはいえ吉田は気づかず、メルツバウは見もしない。
 ドラムがパターンから決めに入り、ピナスと視線が合う。立ちあがったピナスがリフを重ねるように、ドラムとタイミングを合わせる。
 メルツバウは泰然とシンセを奏でた。ピナスがもう終ろう、とギターを置く。ドラムも叩きやめ、急速にメルツバウが音を絞る。なし崩しのように演奏が終わった。30分位かな。

 3人の飄々とした空気感が不思議なムードを醸し出した。
 ちなみにこの3人は6/6に秋葉原グッドマンでフルセットのライブも予定あり。6/7に新ピで是巨人+ピナスの共演も予定。後者ではエルドンのカバー予定を吉田が告知し、一部の観客がどよめいていた。

4.アンコール(全員)
 
 間をおかず全員が登場し、セッション。灰野はエア・シンセに専念し、メルツバウがEMSをしばらく操ったあと、ギター風ノイズマシンに切り替えた。
 今度はメルツバウのノイズマシンが今一つ派手に目立たない。ピナスも初手から全開ノイズで、吉田もハイペースで叩きのめす。
 痛快疾走のひと時。20分くらいやってたろうか。アンコールとはいえ、それなりの時間をかけたノイズだ。
 やはりピナスがエンディングのそぶりを最初に出し、吉田から灰野、メルツバウの順に音を閉じる格好だった。

 総括すると、日本人勢は一歩も引かず。ピナスがむしろ併せてる印象だった。とはいえピナスが音の中心だったのも確か。コール&レスポンスでなく、参加者が平行移動する醍醐味に軸足置いた感じの即興は聴き応えあり。
 しかしノイズのライブは久しぶりなせいか、音を聞分けられてる自信が全く無い。3セット目あたりの、腹に来る低音なんかは気持ちよかったが。

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