LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/3/31  大泉学園 in-F

出演:翠川+早川
 (翠川敬基:vc,早川岳晴:b)

 しばらく前から月例で行われてる、翠川敬基が主宰な"みどりの日"の一環で開催。ノーPA、生楽器の演奏だった。 
 選曲も独特。オリジナルをほとんど演奏せず、かつクラシック曲も。クラシック化計画とも異なる、自然体の面持ち。ベテランな二人だが、さらに表現の幅を広げていくパワーを感じた選曲と、演奏アプローチだった。

 ちなみに開演は7時。最近、In-Fは土日の開演時間を色々前倒しで工夫している。意外に、この選択が嬉しい。翌日仕事の日に、早めに終わるのは有難い。

(Setlist:不完全)
1.Sing me softly of the blues
2.Little eyes
3.Sketch 3
4.Cris
5.(マルチェッロの作品)
(休憩)
6.Blue in Green
7.Bonfire
8.Tochi
9.Pithecanthropus Erectus
(アンコール)
10. ?

 (1)はカーラ・ブレイ、(2)と(3)、(7)が富樫雅彦の作品。(6)がマイルスで(9)がミンガス。(10)は詳細不明だがカバーらしい。
 オリジナルは翠川の(4)と早川(というよりHAYAKAWAのレパートリーってイメージだが)の(8)のみ。
 (5)のクラシックはバロック期の作曲家。帰って調べたらベネデットとアレッサンドロの兄弟とも作曲家だが、どっちの楽曲だろう。チェロソナタを演奏したようだ。

 翠川がボソッとタイトルを呟き、ライブの幕が開いた。
 二人ともピチカートで演奏。楽器を大きく鳴らす早川と対照的に、(1)で翠川は小粒のピチカートを多用する。ときおり開放弦で音を響かせ、チェロを前へグイッと押し出す翠川。グルーヴィなベースと硬質のチェロが対比を産む。やがてソロが早川へ。力強いシンコペーションでバッキングをしてた早川と対照的に、翠川はフリーなフレーズをつぎつぎぶつけるアプローチだった。

 (2)から曲が進むにつれ、チェロの音がふくよかさを増す。ライブ全体を通して、ゆっくりクレッシェンドするかのよう。
 しっとりとメロディをつむぐ(2)は、テーマからアドリブへ自然に流れて行った。早川tyのベースが頼もしくサウンドを引っ張り、翠川は多彩な奏法で楽曲を展開する。
 (3)以降、ところどころで翠川は弓も使用。大きく胸を張ってチェロを鳴らした。

 翌日にこの感想を書いており、楽曲の細部の記憶があやふや。だが前半セットは二人とも、きっちりとビートを意識した演奏って印象ある。

 クラシックの(5)で二人が弓を持った。早川が急に緊張の面持ち。
 のびやかなコントラバスを通奏低音にチェロがしみじみと旋律を紡いだ。ぼくは知識なく、どういう楽曲か不明。なんとなく5楽章くらいあるような感じだったが。
 3楽章あたりで一瞬やり直しの場面も。冗談めかした風にせず、一声断っただけですぐに演奏へ戻る。だがこの真剣さも、"クラシック化計画"での緊迫感と、微妙に異なる気がした。 
 なんとなく、だが。クラシックを演奏するって行為そのものに緊張ではなく、楽曲を演奏する完成度を追求というか。うまく言えないが、無用に堅苦しくはないが、真摯なスタンスは伝わる。そんな感じだった。

 短い休憩をはさんだ後半は、ぐっとフリーさが増した。
 (6)も冒頭からテンポやビート感が希薄。倍音を利用した小音フレーズでチェロが鳴ったのは、このときだったか。
 テーマとアドリブが混在し、ベースとチェロが自在に絡む。前半セットと一転して、アヴァンギャルドな展開だった。
 
 それは(7)でも変わらず。拍感覚が残っても、フレーズが自在に小節線をまたぐかのよう。チェロが左手の中指と薬指で弦を押さえつつ、人差し指で開放1弦を執拗に鳴らすバッキングが、妙に印象に残ってる。

 早川の曲(8)は轟音演奏のイメージあるだけに、今回のアコースティック・セットのアレンジは新鮮だった。チェロがおもむろにテーマを浮かび上がらせるが、基調はフリー。
 ぐいぐいベースを揺らしながら、高速フレーズを叩きこむ早川がカッコいい。弦を唸らせ、めまぐるしく弦を操った。

 最後は曲紹介せず。イントロのフリーから、うねるようにテーマのユニゾンへ。流れゆくグルーヴをチェロとベースで作った。
 アンコールに応えた曲も、淑やかで柔らかい。あっさりと曲が終わるが、主旋律とバッキングが滑らかに行き来する。

 終わってみると各セットともじっくり聴かせる、盛りだくさんのライブだった。
 月例"みどりの日"は、4月以降も続く。4月は早川岳春にゲストで一噌幸弘。少なくともクラシックを1曲やることは確実らしい。
 5月も早川に佐藤芳明(acc)が加わる。なにをやるかは未定かな。
 まだまだ前衛を追い続ける。翠川の意欲は止まらない。

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