LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2013/2/13  西荻窪 音や金時

出演:太田恵資ソロ
 (太田恵資;vln,E-vln,voice,etc.)

 太田恵資は毎日のようにさまざまなミュージシャンと演奏し、どのときも独特の親和性と個性を表現する。だからこそ逆説的に、ソロで産み出す音楽が魅力だと思う。

 今夜は実質的に二部構成。構築性ある即興と、奔放に展開する即興。二種類のアプローチで彼の音楽を堪能できた。
 機材はエレクトリックが二挺、アコースティックが一挺。サンプラーを横に置き、メガホンを足元へ。サンプラーは各種のビート・ループがセットされてたようだ。
 演奏の前にMC有り。
「いろんな映画を見てきた。今夜はその影響が出る即興かもしれません」

 青のエレクトリック・バイオリンを構えた太田は、静かに弦をこする。音色でなく、ノイズを出した。弓で弦をひっかく。マイクで増幅された音は足元のエフェクターでサンプリング・ループされた。
 さらに音が重なる。つぎつぎと。途中でディレイも混ぜた。つまりループする弦の風切り音にフレーズが重なり、時に一節がループ、もしくはディレイで消えていく。密やかな緊張ときれいな旋律の断片が交錯した。
 いきなりアラビックなボイスも混ぜていく。

 太田は目をつぶったままバイオリンを弾き続けた。サンプラーへ手を伸ばす。足ペダルで音量を調節。クロスフェイドでループが消え、リズムが現れた。
 インダストリアルなビートが。
 ひとしきり弾いて、赤いエレクトリックに持ち替え。こちらはディストーションを効かせたへヴィな音色。重たくハードなメロディが、ざくざくとバラ撒かれた。

 まず、この場面が胸にガッシリ来た。いきなり圧巻。フレーズが絶え間なく変化する。 拍の頭がくるくると入れ代わり、譜割も次々変わっていく。ひとときもメロディは立ち止まらない。シンコペートするフレーズはたちまち速弾きに変わる。倍テンからスローへつぎつぎ跳躍。 
 ゆったりしたメロディはすぐさま細かなボウイングで速いフレーズへ。アクセントを変えつつ、流れるように拍の前後で旋律が流れてく。裏から素早くもぐりこむと思えば、頭拍で着実にうたう。素晴らしかった。 

 再びサンプラーへ。舞台暗転のように、スパッとリズムが切り替わる。
 この間も頻繁にフレーズがループやディレイで飛ばされた。ボリュームが小さい場面では、外のノイズがかすかに聴こえる気がする。
 幻聴だったか。フェイドアウトするループの痕跡が耳に残っていたのかも。

 なぜか微妙に右チャンネルのスピーカーから、ガリやデジタル・ノイズが混ざる。
 だがループするガリは、針音出すLPみたいに妙なノスタルジーを演出した。
 青に持ち替えた太田のバイオリンが、一瞬ハウるところも。すかさず弾きながらボリュームらしきバイオリンのつまみを操作する。
 さまざまなノイズすらも、音楽へ太田は取り入れていた。偶発性も貪欲に咀嚼し、表現に加える。途中のさりげないチューニングっぽい場面すら、音楽の一部だった。

 アコースティックに持ち替えて、世界はロマンティックへ。
 今夜はフレーズの繰り返しや、手癖っぽい場面が皆無。モチーフの変奏でなく、次々に旋律を繰り出し、すぐさまがらりと異なるメロディを産み出した。
 エレクトリックへ。オクターバーで低音を爪弾きループを作ったかと思うと、チェロの音域でしみじみと温かいアドリブを、存分に聴かせた。この場面も良かったなあ。

 サンプラーのビートは再び変わる。ぐんっと音量が上がった。太田は激しくバイオリンを弾き、絶叫をマイクへ叩き付けた。
 しかしこれだけ激しく弓を動かしても、毛が一筋たりとも切れなかった。
 再び、冒頭の風切りノイズへ。きれいに世界観が一巡した。 

 カットインで場面転換。軽快なメロディをめまぐるしく太田は奏で始めた。
 まるで映画のエンドロールのよう。スタッフ・クレジットが流れるさまを、なんとなく頭の中で思い浮かべる。

 だが、まだ即興は続く。最後はアコースティックへ持ち替え。静かに、しみじみと演奏を終えた。約1時間。すさまじく充実した、濃密な一時だった。

 太田としては、今夜のステージはやりきった印象の様子。正直、これで終わっても大満足だった。
 けれどもその場の流れで、"長いアンコール"のていで、第二部へ。

 冒頭からすぐ、サンプラーでリズムを出す。インドっぽい6拍子のフレーズ。探るようにエレクトリックを奏でた。やがてリズムは4拍子に切り替える。
 あっというまに弓の毛が数本、千切れてたのが印象に残る。
 その場のサンプリング・ループもひときわ美しかった。長い響きをまず作り、二拍目の裏で軽やかに数音鳴るカウンターが素晴らしい。

 二部でこそ、即興の醍醐味を味わえた。太田は思いつくまま弾き流してはいない。さりげなく足でエフェクタを操作し、音色やエコー操作、サンプリングやディレイを加える。
 弾きながら客観的に音楽を聴き続けている。弾きっぱなしでも一時間くらい、平気で太田はステージを成立させられる。しかし安易な道に流れない。その場で構築を繰り返し、すぐさま崩して次へ向かう。メロディを惜しまない。ともすれば一曲に仕上げても不思議ない旋律も、残さない。なんとも贅沢な一時だ。

 アコースティックに持ち替えたとき、唸りながらホーメイへ。これがまた、すさまじい長尺。息を合わせてみたが、とてもぼくは呼吸が持たない。延々と声を震わせ続ける。肺活量もすごいなあ。

 場面は強いビートに変わった。ボリュームがぐんっと上がる。
 メガホンをここで持った。絶叫のシュプレヒコールが始まる。なにを言ってるかは分からない。たぶん即興ボイスでは。
 すぱっと音像を消す。静かなループが現れて、アコースティック・バイオリンをしみじみ響かせ、幕。第二部も1時間程度ぶっつづけ。

 奇矯なパフォーマンスでもない、コンセプト偏重でもない。まして事前に準備や作りこみもない。さらに観客へ媚びない。あくまで自分の音楽を追求する。
 それがまた、素晴らしくて胸を打つ。太田恵資の才能に圧倒された。充実かつ濃密、格別の一夜だった。

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