LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2012/8/21   荻窪 音や金時

出演:川下直広トリオ
(川下直広:ts,harmonica、不破大輔:b、岡村太:ds)

 09年9月以来、ひさしぶりに聴く川下トリオ。音金への出演は2度目だとか。
 岡村は1タム、シンバル2枚のシンプルなセット。不破はウッドベースをアンプに通してる。川下はテナーを、ノーマイクで演奏した。
 不破の椅子が変わっており、弾く姿勢位置がいくぶん上がってた。過去に見てた時は、ネックを額の上で木刀風に構えてるように見えていた。今回はちょっと動きが寛いだ感じ。今夜は幾度も、速弾きフレーズが聴けた。

 1曲目はテナーの独奏ブロウから。ベースがアルコで入る。
 フリーなフレーズからテーマが浮かび上がり、"ウメロッコ"に流れた。しょっぱなからアップテンポで突き進んだ。
 テナーがあちこちを軋ませる音を含みつつ、がしがしとソロを取る。ウッドベースは埋もれ気味。しばらくしてドラム・ソロになった瞬間、ほとんどベースが聴こえなくなった。
 音金の部屋鳴りでどんなふうに川下トリオが聴こえるかも興味あったが、とにかくドラムの音がでかい。ハイハットはほとんど叩かず、レギュラー・グリップでタムとシンバルを猛烈に叩きまくる。
 しかし改めて、ドラム・ソロの歌心に惹かれた。

 頭の中でテーマを4小節くらい回しながらドラム・ソロ聴いてると、ばっちりハマる。
 打ち鳴らす音の流れは、きれいにメロディを連想させた。さらにそれを細分化し、アクセントをずらす。テーマを解体し、刻みを連打。奔放にリズムが宙を舞う。
 テクニックひけらかしのロールを続けるソロとは大違い。かなり長尺のドラム・ソロだが、まったくダレ無い。こういうドラム、大好き。
 メロディを意識させるドラミングだけに、テナーにソロがつながるところもスパッとグルーヴがつながった。
 
 2曲目は"ヨーロピアンズ"だっけ?聴き覚えあるメロディ。
 まず、無伴奏のハーモニカ・ソロを。川下がふかふかとやわらかく吹き、しだいにテーマへつながる。ひとしきり鳴らしたところで、ふわりとリズム隊が加わった。
 岡村はマレット。ベースの音は、ここからグンッと聴きやすくなった。

 テナーへ持ち替えた川下は、循環呼吸を盛り込みながら切ない旋律を吹き鳴らす。ベースが柔らかく支える。聴いてて、温かくなった。
 改めて、アンサンブルの良さを実感。ソロ回しでテクニックひけらかしや、フロントを立てて伴奏するようなスタイルとは、まったく違う。三人がそれぞれ奏でつつ、互いの音を邪魔しない。それでいて、個々のフレーズはフリーだ。

 ドラム・ソロのあたりで岡村はマレットを持ち替え、木の部分で賑やかに叩き始める。腰かけた川下はウッド・ブロックを鳴らした。とはいえリズムをドラムに重ねるというより、軽く個人的に叩いてる感あり。
 ここでも岡村のソロは多彩。時折額に流れる汗を指で拭い、そのままスネアの打面をスライドさせる奏法も出していた。

 1stセット最後は曲名わからず。しなやかなメロディがきれいだった。寛いだテナーのソロを存分に振りまいた。ドラムはブラシ。途中のソロあたりでスティックに変わった。
 今夜初めて、ベースのソロ。不破のアドリブは、ごつっと骨太だった。譜割を自由に展開させ、断片から次第にフレーズへ進化する。丸太をこそぎ取るような力強さと、空気をうねらす流れが同居していた。

 短めの休憩をはさんだ2ndセットは、アンサンブルを堪能できた。特に2曲目と3曲目が圧巻だった。曲はその場で川下が譜面を不破に見せて、決めてるそぶり。

 1曲目はタイトル失念。比較的アップテンポだった。ベトナムでのエピソードを軽く話した後、川下が無造作にマウスピースを加えてインプロを始めた。
 かっこよかった。ドラム・ソロが派手だったな。
 やはりメロディ4小節を意識させるアプローチだが、どんどんどしゃめしゃに盛り上がる。連打はリム・ショットも多用。シンバルも盛大に鳴らす。轟く太鼓は手数が増え、加速した。しまいにはハイハットをはずし、上部シンバルをスネアにあてて叩きのめしてた。

 2曲目のメロディは聴き覚えあるが、タイトルが頭に浮かばず。ベースのイントロから始まったっけな。
 ミドル・テンポで川下と不破のアプローチが抜群だった。テナーは循環呼吸を多用する、長いフレーズ。音を軋ませつつ、ピッチも繊細に変わる。かすれる音は時にノイジーなトーンだが、そのニュアンスが良い。

 ベースはメロディアスな弾きっぷり。互いがそれぞれ旋律を重ねあう。そして、混ざりながらお互いを押しのけない。調和しつつ、互いの存在感を魅せる。
 テナーがボリュームを絞りロングトーン気味に下がったとき、ベースが滑らかにメロディを弾いた瞬間、ゾクッときた。

 3曲目はタイトル頭に浮かばず。聴き覚えある、テナーがハイトーン連発で疾走するアップ・テンポの曲。
 岡村が演奏前、ライド・シンバルに鉄のスプーンみたいなのを載せていた。あれは何だろう。シンバル叩くと反動でもう一鳴り、とか効果あるのかな。ソロで注意しようと思ったが・・・実際は途中ですっかり忘れてた。

 テナーのソロが切々と続く。性急に雪崩れる川下を、不破がランニング・フレーズで支えた。このベースが、とても歌いまくり。左手が指板を大きく上下して、リズミカルながら旋律を常に意識させる演奏だった。
 この曲も、すごく良かった。

 2ndセット最後の曲は、タイトルを言わない。テナーが無伴奏フリー。しばらく聴いていた不破が、ふっとフレーズを重ねた。
 日本のフォークみたいな曲だな、と思ってた。・・・これ、尾崎豊の"I love you"じゃなかろうか。もしそうなら、えらく意外な選曲だった。
 アドリブがどんなか期待したが、そちらには行かず。メロディをなぞる形で、ソロは無く終わった。
 演奏は、川下節。軋ませ、崩し、ずらし、つなげる。常に曲を意識しつつ、譜割だけなぞると、めちゃくちゃジャズだった。

 アンコールの拍手が飛び、もう一曲"New Generation"を。派手なアップ・テンポ。
 しょっぱなからフルスロットル、ドラムとテナーのチェイスも猛然な勢いだった。
 コーダを派手に決めて、ライブが終わり。
 
 充実したアンサンブルに想いきり酔えた。なお、手売りのみで渋さチビズの自主制作盤の販売有り。なんと、LPのみ。
 スタジオ音源で、本盤でしか聴けないそう。5曲入り。何枚プレスか不明だが、そのうち強烈なコレクターズ・アイテムになるだろうなぁ。

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