LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2012/8/19   渋谷 公園通りクラシックス
  
出演:Trinite
(shezoo:p,壷井彰久:vln,小森慶子:cl,b-cl,岡部洋一:perc)

 shezooがユニット"Trinite"名でリリースする、この8/19に発売の1stアルバム"prayer"、レコ発ライブ。「MCに替わる映像としてのcaptionとのコラボレーションをご用意しています」の告知あり。ギッシリ満員だった。

 今回"prayer"はQuipu名義の"天上の夢"(2002)から"砂漠の狐"を割愛し、同一曲順で改めてTriniteのメンバーで録音した作品。
 Quipuは林栄一をゲストに招き、前田祐希/岡部洋一/青木タイセイがメンバーだった。
 Triniteは岡部洋一がそのままに、小森慶子、さらに壷井彰久が加わった編成となる。Quipu版と同じフロント2人ながら、楽器編成が異なる。
 これまでTriniteライブを体験し、素晴らしいアンサンブルだっただけにアルバム発売が楽しみだった。

 ステージ右奥にパーカッション・セットが組まれる。カホンに座りアフリカン・ドラムや各種ラテン的なパーカッションなど、いわゆるドラムセットとは異なる配置。
 その前に小森慶子が立つ。曲により、クラとバスクラを持ち替えていた。
 ほぼステージ中央に壷井彰久が立つ。アコースティック・バイオリンのみ、エフェクタは一切ない。
 そして向かって左にグランドピアノ。

 今夜は前列数列目、ピアノの背後で聴いていた。だからピアノに置かれた譜面が、大まかな譜割くらいだが、うっすら見えた。
 これが非常に興味深かった。shezooの作品はアンサンブルの調和度が構築性高いため、どこまでが譜面の指定か、とても知りたかったから。

(もっともあくまで、遠目での推測。以下の譜面に関するコメントは、話半分・・・いや、たんなる当てずっぽうとしてください)

 なお今夜の演奏は全編通じてピアノの、いわゆるアドリブ・ソロは皆無。フロント二人とたまにパーカッションがソロを取るくらい。けれども、shezooの音楽性が存分にあふれたライブだった。

 1stセットで6曲を演奏、2ndで"prayer"全曲をキャプション映写とコラボの形式で披露する構成だ。おそらく全曲がshezooのオリジナル。
 まず1stセット。いきなり、調和度に引き込まれた。

 最初の曲では小森も壷井も、アドリブの譜割はテーマを踏まえた変奏を重視した。聴いてて、どこが譜面でどこか即興かわからない。岡部は刻みよりもアクセントやバリエーションを加える位置づけの叩き方だった。
 とにかく和音が気持ちいい。複雑な響きがくるくると飾り、展開する。

 ピアノはリフっぽいテーマを柔らかく鳴らす。が、遠目の譜面ではいわゆるテーマのみっぽく見えた。中間部分はコード進行のみ、白紙の譜面。そのアドリブ部分のサイズは、譜面どおりなのか、奏者に任されていたかはよくわからない。ちらり見えた壷井の譜面も、shezooと同じ物っぽかった。

 とにかく、shezooが弾く音そのものが譜面化されて無さそうに見えたのが、印象に残った。つまり楽想は共有化しつつ、自らが弾く音は自由。他の奏者はテーマのフレーズを踏まえつつ、アドリブは自由。岡部はたぶん、完全に自由。
 楽曲そのものを大切にしつつ、自由度を高めた構成ではなかろうか。

 2曲目はフロントのフレーズはテーマの譜割からちょっと加速した感じ。よりくだけて柔軟な展開だった。ここでもshezoo自身の譜面はテーマのみっぽかった。
 ピアノは繊細にリフを連ねる。でも、展開は譜面化無し。凄いなあ。

 shezooのMCは曲紹介程度。「次の曲は・・・どうしようかな」とshezooが言った途端、壷井と小森が目をむいて、ほんのり慌ててたのが面白かった。

 3曲目はぐっとフリー寄り。ピアノも和音より単音を多用し、パーカッシブに叩いてた。岡部が単なる刻みに留まらぬため、アンサンブルの複層化が楽しい。
 そしてshezoo独特の、深みある浮遊する和音の世界観が美しい。
 たしかこの曲と次の曲で、小森はバスクラを演奏した。

 4曲目がなんとか・ダンスって曲(タイトル失念)。リズミカルで強いリフだが、聴いてて妙に割り切れない。6/8と5/8の交互かな?ピアノとパーカッションが空気をグイグイ揺らし、エレガントと緊迫感を交互に行き来する世界をバイオリンとクラリネットが奏でた。
 コーダはそろった譜割で、がっつり着地した。

 5曲目はほぼ、バイオリンとクラリネットのデュオ。ピアノは音を出さず。岡部がカウベルを扇状につなげた楽器を叩いてたの、この曲だったろうか。
 譜面は6/8拍子か。1、2拍と4、5拍が八分音符でつながり、間に休符が挟まる。バイオリンがゆったり1拍めを鳴らす。

 たぶん、この曲は全て譜面。遠目では同じ譜割が延々続く、ミニマルな展開。あっという間に落ちそう。
 だが聴こえる音は、素晴らしくロマンティック。淡々とバイオリンとクラリネットが描く世界は、ふわふわと和音が玄妙に響いた。

 1stセット最後は、二部構成のような楽曲だ。前半は早いテンポで描かれ、後半はバイオリンがひたすら八分音符が四つ並んだフレーズをゆったりと弾き続ける。
 クラリネットのまとわりつく音色が、愛おしい。
 岡部が大きなハンド・パーカッションを構えて、折々の二拍めに「たうぅん」と鳴らす音も、抜群に効果的だった。

 後半はステージの明りも暗くして"prayer"の世界へ。
 コラボ相手のキャプションは、楽曲毎に編集されたムービーかな。冒頭の"Baraccone 1"は文字のほかに簡単な背景もあったが、あとはすべて文字だけだった。
 丸っこい独特のフォントは、演奏中に次々と言葉が表示される。演劇っぽい世界観を狙ったか。ごくたまに、フォントは大きさが変わったり微妙に動いたりしてた。
 ぼくの席からはちょっと見えづらい箇所もあり、細かいところは不明。

 基本、まずタイトルが映され曲世界の文字化が映写される。曲はMCをはさまず、次々に演奏された。
 譜面は楽曲によって、ずいぶん構成が違いそう。テーマとコードのみ書かれた譜面がある一方で、あれは"Mondissimo2"だったかな。ピアノのフレーズのみっぽい譜面もあった。

 少しさみしく、ロマンティック。危うくて美しい。独特の世界が、しっとりと描かれる。
 楽曲と同時に映写されるキャプションだったが、中盤で一曲だけ、演出が変わってた。
 あれは"天上の夢"の冒頭だったろうか。まず、キャプションが映される。静寂の中、うつむいた奏者の後ろで言葉が次々変わっていく。
 つと立った壷井の姿が、演劇的にハマっていた。

 "Mondissimo2"の終わりだったかな。フロント二人にパーカッションとピアノが加わり、ドラム・セット風にパーカッションが強打。エンディングへ雪崩れるさまがかっこよかった。

 楽曲は次々進む。"怒りの日"はバイオリンとクラリネットのみ。ピアノは弾かず。
 背後で静かにパーカッションが鳴る。
 この曲、クラリネットの譜面はどんなだろ。ピアノ台の譜面は単音フレーズのみっぽい。コードに合わせ即興で小森が吹いてたのか、それともクラ用に譜面があったのか。
 本来の音楽の良さとは全く別次元に、ふと頭に浮かんでた。

 曲の終わりで、岡部のソロ。まずビリンバウを唸らせる。ビート刻みとは異なり、歌わせるように。
 しまいにトーキング・ドラムを小脇に抱え、怒涛の疾走を魅せた。

 最後の曲が終わった瞬間、客席から大きな拍手が飛ぶ。アンコールにはすぐ応えてくれた。曲は"Mother"。
  
  一夜を通して、寛ぎと緊迫、温かさと切なさが交錯する味わい深い素敵な演奏だった。

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