LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2012/8/15 西荻窪 音や金時
出演:佐藤通弘+太田惠資+芳垣安洋
(佐藤通弘:津軽三味線、太田惠資:vln、芳垣安洋:per)
佐藤通弘はよく音金で太田惠資+吉見征樹(tabla)とセッションしてる。が、タイミング合わず今回が初体験。「ましろのおと」を読み始め、よけい興味わいてたとこ。なお今回は芳垣安洋が参加の変則編成だ。お盆のせいか盛況の観客だった。
ちなみに佐藤通弘は20年以上前、沢田穣治(b)と芳垣でトリオ編成のライブを行ってたという。
太田恵資は生バイオリン1挺、佐藤は生音の津軽三味線のみ。芳垣安洋はスルドを小脇に抱え、深胴の太鼓(チンバゥかな?)とダルブッカ、こじんまりしたセット。足に鈴を巻き、同時にタンバリンをハイハット風に踏む。時折、小物の鈴も振っていた。
まず佐藤による独奏。伝統的な東北の曲らしい。三味線は過去にちゃんと聴いたことが無いが、響きやフレージングが胸にグイグイくる。アメリカ黒人にとってのブルーズってこんな感じかなあ、と埒もないことを考えていた。
無造作に椅子に腰かけた佐藤は、強い音でチューニングを始める。びしびしと響く音色で、空気が良い具合に張りつめる。そのまま、演奏へ雪崩れた。
曲ながら装飾音がふんだんに入る即興いっぱい、と思う。三味線の奏法は詳しく無く、以降は西洋音楽的な表現使うってるのはお許しを。
激しい撥のアタックは、空気を鋭く貫いた。左手のプリングやハンマリングは予想以上のボリュームで鳴る。激しいフレーズは撥だけでなく、左手の動きでも柔軟に表現していた。
それにしても撥の勢いが激しい。弦が切れんばかりに胴へ叩き付ける。バンジョーみたいだ。パーカッシブな撥の鳴りが空気を貫き、激しいフレーズが左手で勢いよく溢れる。
コード進行的な展開は無く、たおやかに旋律が展開した。美しい。情感と滴る音の流れに圧倒された。5分ほどの独奏。粘っこく味わい深かった。
2曲目から太田と芳垣が加わる。まず、東北の盆踊りの曲を2曲続けた。曲名は失念。
最初は三味線が前面に出て、バイオリンはわずかにアドリブを入れる程度。パーカッションもシンプルな動きだった。
芳垣の手わざは、ビート感を強調した。変拍子やカウンターのリズムを強調せず、さりげなくメロディに絡んでいく。とはいえ、単調ではない。また、単なる刻みに留まらない。象徴的だったのが別の曲で上物が消えてパーカッションのみの場面になったとき、旋律と微妙に浮遊するタイム感で叩いており面白かった。
次の曲、つまり3曲目は伝統音楽的にはリズムがとりづらい楽曲らしい。芳垣のばっちりハマったリズムへ、曲が終わった時に佐藤が素直に褒めていた。
とはいえ聴いてるときは、芳垣のスマートなパーカッションで自然に聴いていた。時に野性的な響きだが、妙に日本人的な琴線に触れる。繰り返すが、三味線はこれまでろくに聴いたことが無い。それでもビートやフレーズの展開はすんなりと耳に落ちた。
4曲目が佐藤のオリジナルだった。西部劇の舞台で津軽三味線、がテーマと喋った。ちなみに佐藤のMCは手慣れたもの。笑いを頻繁に呼び起こしてた。
この曲に限らず、テーマ部分はバイオリンと三味線がユニゾン、しだいに即興でアンサンブルが複層化する。
ある種、音色は一色で説得力を持たす三味線と対照的に、バイオリンは多彩なアプローチを取った。ここで長めのバイオリン・ソロ。三味線はぐっとボリュームを落し、伴奏に徹した。
5曲目が、おそらく完全即興。太田のホーメイから始まる。低音を強調したホーメイを存分に唸ったあと、複弦で玄妙にバイオリンが鳴る。パーカッションと三味線が加わった。テンションがぐいぐい上がり、しまいに佐藤は足を大きく踏み鳴らし、腕を強く振りながら三味線を弾き倒した。
前半最後も佐藤のオリジナル。トロピカル・ビーチ、ってテーマらしい。イントロの芳垣のフレーズだけでいきなり南国風味、観客が微笑んだ。
テーマの裏で太田がベンチャーズ風のトレモログリッサンドを挿入した。
アンサンブル的に、めちゃくちゃ面白かったのがこの前半最後の曲。最初は「寺内タケシが狙ったのは、こんな世界かなあ」と空想してた。
中盤からテンションがみるみる上昇し、イタリアあたりのプログレっぽく疾走する。
ワイルドに叩きのめすビートに、ふくよかなバイオリン。鋭く撥が踊る三味線。日本風味をふんぷんと漂わせつつ、無国籍な盛り上がりがすさまじかった。
休憩はさんだ2nd
setも佐藤の独奏から。ちなみに佐藤は曲ごとに丁寧なチューニングを施す。バイオリンと音を確かめ合い、滑らかに楽曲へ入る展開が興味深い。
曲のたびに調弦を変えてたかは、ぼくの耳ではわからず。
後半の独奏は、幾分やわらかいタッチだった。緊迫を漂わす1stセットのチューニングとも異なり、ふっと寛いだムード。楽曲でもしなやかな空気が中心と感じた。
撥でアクセントのように強い音を出し、プリングでフレーズを展開させる。高速な1stの独奏とは違う、穏やかさだ。
後半セットは全5曲。まず東北の伝統曲。佐藤の曲をやった後で、おそらく完全即興を1曲。最後は佐藤のオリジナルをやった。NYの日本人女性好きなジョン(・ゾーンのこと、だそう)に捧げた"ジョン・カラゲンキ"(じょんから節とダブル・ミーニングか)。
つまりステージを通して伝統曲よりも佐藤のオリジナルを前面に出した構成。これも想像と違ってた。もっと伝統寄りの即興に、太田らががっぷり入るアレンジと思い込んでいた。
ぼくが佐藤の演奏を初めて聴いたせいもあるが、勢い三味線中心に演奏を聴いていた。
アドリブやアンサンブルの妙味よりも、津軽三味線の生演奏そのものに興味がいく。撥さばきが伝統曲とオリジナルや即興で明らかに違ってた。
撥の持つ位置からして違う。伝統曲よりもオリジナルでは、大きく撥を持つ。アタックも即興では弦にこすり付けたり、軽くはじいたり。胴だけでなく、棹の中心や糸巻側まではじく場所を変え、響きや鳴りを色々と変えていた。
完全即興の曲では、ギター風にコードを意識した奏法も見せた。改めて三味線が単音で鳴ってると実感した。
だからこそ撥と胴の鳴りが産む、強い打音の強度に惹かれる。びりびりとサワリを持った弦を超えるがごとく、撥の一発で空気をきれいに切り裂いた。
左手が忙しく棹の上を動いても、フレーズの響きは一定の流れを途切れさせない。
津軽三味線のサスティンは少ない。ビブラートやグリスで音を滑らかにつないでも、バイオリンほど長い音符はない。
バイオリンの大きいビブラートと、シャープに切る三味線のハーモニーは独特できれいだった。
アドリブはソロ回しの感あり。時にぐっと体を相手の奏者へ向け、ソロを促す佐藤のしぐさが面白い。
2ndセットの即興では太田のソロから自らのソロにつなぐ。コミカルな即興だった。ぐっと寛いだところでさらに佐藤が芳垣へソロを振り、途中で芳垣がふっと叩きを収める。
ハンド・サインのように佐藤と芳垣が小さく音の交換。床を叩いたり、壁を叩いたり。なんともユーモラスなシーンも。
この即興ではクラシカルなバイオリンと、ラテン風味のパーカッション。そして日本情緒の津軽三味線。三者三様の文化混淆が味わい深かった。
アンコールの拍手がやまず、佐藤がにこやかにステージへ戻る。
「今日は元気ですね〜」と太田が苦笑した。
最後に一曲、短めに。いわゆるインプロで不透明な進行とは違う。即興でもメリハリが効き、どこか整った場面が常にあり。
この三人での顔合わせは珍しいのかもしれないが、互いに親しい演奏経験あるだけに、安定したサウンドだった。とにかく、色々と面白いライブだった。