LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2012/5/10   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資+中西俊博

 中西はスタジオ・ミュージシャンのイメージが強かった。今回、演奏は初めて聴く。Webを見たが、ずいぶんソロ・アルバムを出してたんだ。
 アコースティック中心の静謐かストイックなライブかと予想する。ところがふたを開けると、あったかい即興が満載の、がっぷりエレクトリックなサウンドだった。

 2010年1月6日に喜多直毅とのトリオ編成をin Fで、の記録はネットで見た。でも完全デュオでは初ライブだそう。先日に下北沢でハナシガイ30回記念ライブをきっかけに、太田が中西へ声をかけたという。曰く、「ハナシガイで弾く気満々だった中西さんと、演奏がしたい」と。
 開演そうそう太田が「先日はネコが失礼しました」と詫び笑いが飛んだ。

 さて、ステージ。一言だと「総力戦」。すさまじいバラエティだった。
 太田はバイオリン四挺。中西が五挺。
 太田がエレクトリック二挺にアコースティック、さらにコルネット・バイオリン。メガホンとエフェクター類。
 中西はエレクトリック二挺にアコースティック二挺、うち一挺はオクターブ低い弦を張ってたらしい。そしてコルネット・バイオリンの構成だ。
 さらに中西はメガホンに電動ドリル、金物雑貨など各種を取りそろえ、足元はエフェクターが色々。さながら要塞。「何を演奏するかわかんないから、色々揃えた」という。
 ライブはほぼすべて、インプロだった。

 演奏は各セット50分くらい。あまり長尺は無く、各セット4曲づつぐらいだった。
 軽く太田が中西を紹介。二人は同い年、太田が音楽活動を始めたころ重実徹(と聴こえた)のアシスタントで太田がスタジオへ行ったとき、中西と初めて会ったという。
「中西さんは芸大出身のサラブレッド。ぼくはとんこつラーメンの息子ですから」
「いや、ぼくはとんこつラーメン大好きですよ」
「(太田が継がないから)一代で終わりますけどね」
 そんなにこやかな会話で幕を開けた。
 じゃんけんでどっちが先に音を出すか決めよう、と言い合うが、5回くらいアイコが続く。笑い出した中西が、最初に構えた。
 
 中西の演奏スタイルは、抜群に太田へ合った。場を持っていく場面もしばしば。太田がMCで笑いながら悔しがってみせたのは、あんがい冗談で終わらない。

 まずアコースティックを構えた中西が、ひそやかな音を出す。f穴の横にピックアップがつき、スピーカから音を出した。エフェクタを駆使して、あっというまにループを作る。バイオリンの音だけじゃない。つぶやきやバイオリンのボディを叩いたり、こすったり。弓の背で弦を叩くなど、特殊奏法も織り交ぜたリズミックなループだった。

 隣の太田もアコースティック。まずは滑らかなソロを披露した。
 綺麗な太田のアドリブの響きに、客席から拍手が飛ぶ。中西もにっこり拍手した。
 刻みに入った太田から、中西へ。メロディアスなフレーズを次々出した。
 太田は直立不動でぴんとした姿勢。中西はくるくると柔軟に重心を変える立ち位置。それでいて中西が真っ直ぐなボウイング、太田は曲線っぽい動きと対照さが面白かった。
 ふたりのソロが一通り終わったところ、10分くらいでさっくり着地した。

 最初の曲を"プロローグ"と、MCで名づける中西。では次を"へなちょこ"にしましょう、と太田が応えた。
 青のエレキを構えた太田が、ロングトーンで静かに弾く。横で中西がマイクへボイスを入れた。それが太田の芸風とよく似てて、太田自身も爆笑。さっそく太田も弾きながらマイクへ口を寄せ、二人が架空言語で言い合いし始めた。

 太田もエフェクターでループを作る。ここでも微妙に二人の個性を感じた。太田が演奏の素地を作るシンプルなループと例えたら、中西のループはアレンジに近い。リズムや響きをくっきり見せ、音がでかかったせいもあるが、分厚くバラエティに富んでいた。
 ふたりはソロ回しというより、自然発生的に役割分担や主導権が移りあうイメージ。太田が中西を立てた感あり、のびのびと中西の演奏が広がった。 

 3曲目はなんと、コルネット・バイオリンのデュオ。これやろうよ、と中西が"マイナー・スイング"のメロディを弾き始めた。
 中西のコルネット・バイオリンはラッパが真鍮製で重たいらしい。しきりに太田のコルネット・バイオリンを羨ましがっていた。中西はインドネシア(だったかな)へ特注し入手したが、1挺到着したとこで業者が連絡取れなくなったとか。

 古めかしくもノスタルジック、か細く軋む独特の切ない響き。めったに聴けないコルネット・バイオリンを、しかもデュオで。「こんなデュオの、まず他にないよね」と二人も言い合っていた。
 このときはループ、無かった気がする。一小節づつチェイス、だんだんフレーズの交換が長くなっていく。たっぷりとコルネット・バイオリンを弾きまくった。

 4曲目も即興。太田が赤のエレキで中西もエレキだったかな。途中で太田がテンポ・ダウン、ほんのりとポリリズミックな展開見せたのがここか。
 途中で太田がホーメイやアラビックな歌を挿入した。

 中西が作るループは金盥に何かを入れてガシャンと鳴らしバスドラ風、電気ドリル唸らせブラシ風、とユニークでかっちり構成された賑やかなループだった。
 中西は一旦作ったループを、一つの曲の中で流し続ける。しかし絶妙のタイミングで太田に合わせ、すぱっと切る。これらのバランス感覚が素晴らしい。
 曲の流れへ素直にのり、カットアウト気味に中西が音を止めた。その場には太田のループが鳴ってたと思う。ループ音がフェイドアウトし、きれいに終わった。
 
 休憩はさんだ後半は、中西がさっそくループを作ろうと試みた。しかしサンプラーの調子悪いのか、部分的かつかなり遅れた音のみを拾う。観客の笑い声の断片入ったループが流れる場面もあり、観客席も大うけ。太田もエフェクタをのぞきこむが、途中でちょっと直ってきた。
 太田が弾いてる最中、メガホン構える中西。コミカルな使い方で、太田の音楽へ見事に馴染む。ちなみに太田は次の曲にてメガホンで応えた。

 テクノにも通じる即興ループを使った最初の曲が終わった後、中西が周りを探し出す。
「今の曲に合うと思ったんだよね」
 途中でマネージャー呼んで楽屋まで探す中、太田がトークを始める。結局、ステージの上、中西のエフェクタの陰に探し物は置いてあった。
 これこれ、と出した箱から中西がシタールのドローンを出す。インド製だかの、ドローンを出す小箱らしい。前に灰野敬二が似たようなのを使ってた気もする。
 それに合わせた二人の演奏から、音像がどんどん中近東へ向かう。太田の見せ場がいっぱい。メガホンからアラビックな歌へ。中西が弾いてる横で、すいすいと弦をグリサンドさせる太田の奏法がきれいだった。
 
 次の曲で後半セットは最後かな。二人はエレキで弾き始め、途中でアコースティックに持ち替えた。
 まさにクライマックスにふさわしい、怒涛の展開。二人の長尺ソロもたっぷりだった。
 変幻自在の中西を、太田が存分に受け止める。太田が広げる空気を、中西は吸収してふくらます。絶妙なアンサンブルだった。

 アンコールの拍手はもちろん止まず、ふたりがステージに戻る。
 童謡か、クラシック(?)の曲をやろう、と二人が提案しあう。でも、どちらかが曲を覚えてないそぶり。「楽譜持ってる・・・でも、今見るのは悔しい」と中西がぼやく。
 結局、童謡をやることに。海がテーマの曲かな。タイトル思い出せない。

 まず「海の音出してよ」とリクエストした中西に、太田は弦をそっとこする音で波の寄せ引きを表現した。中西が柔らかく乗り、メロディからソロへ。
 途中で、太田が曲を変えた。これがその、クラシック曲らしい。メロディ聴き覚えあるが、これもタイトル思い出せず。
 早いフレーズに苦笑しながら、二人は楽しげにバイオリンを弾きあった。

 終わってみると、10時過ぎ。案外さっくりとライブの幕は下りた。
 しかしこのデュオ、すごく味わい深い。ステージ上でも「また、やろうよ」と二人は言い合っていたが、ぜひ実現してほしい。相性ぴったり、奥深いアンサンブルだ。

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